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夏フェスに行こう!

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夏フェスに行こう!

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 両手に屋台のグッズ。
 口には屋台の食べ物。
 後ろには荷物もちのモヒカンを引き連れて。
 そんなデメテールを見て、奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)雲入 弥狐(くもいり・みこ)は会話を交わしていた。
「あれは何かの出し物?」
「いや、祭りを十分に満喫している姿だと思うよ」
「十分……なのかな?」
「確かに、十二分、いや二十分でもおかしくないね」
 おかしな言葉だが、言いたいことはよくわかる。
「それにしても……お祭りは賑やかね……でも、人が多くて辛いわ」
「人がいなくちゃお祭りにならないからねー」
 歩き回るにしても、人ごみと浴衣で少し困難な状況。弥弧は沙夢がはぐれないように腕を掴む。
「ありがとう……でも、のんびりとするのは退屈でしょう、たまには一人で楽しんでもいいのよ?」
「一人で楽しむなんてもったいないよ。楽しむなら一緒のほうがいいもん。あっ、あそこ!」
 空いている手で示した先は本堂。
「どうやら喫茶店をやってるみたいだよ」
「名曲喫茶……JAZZ喫茶みたいなものかしら?」
「丁度いいし、入ってみようよ。何か面白い出し物があるかもしれないよ?」
 沙夢を引きつれ、弥弧は人ごみを掻き分ける。
「さ、はりきって行ってみよー!」
「私はただ静かに……珈琲が飲みたいだけなの……」
 両極端なテンションで名曲喫茶『BON−DANCEの夕べ』の暖簾を潜った。


「姐さん、先ずはあそこからですぜ!」
 付き従うモヒカンに指差されたのは、リースの出店する輪投げ屋。
「景品を全部取ってくだせぇ」
「ゲームなら任せてよ!」
「あ、あの、これ、輪っかです」
 リースから輪を受け取るデメテール。
「狙うはもちろん一等からだよね」
 アガレスに向かい輪を投げるのだが、
「無駄じゃ」
 簡単に避けられてしまう。
「おい店主! これはいんちきじゃないのか!」
 騒ぎ出すモヒカンたち。
「え……って、お師匠様!?」
「リースよ、やっと気付いたか」
「そんなところで何をやっているんですか!?」
「我輩に輪を掛ければ一等、所謂ボスキャラじゃ」
「ふ、普通の輪投げ屋にしてください……」
「大丈夫じゃ。客を見てみるのじゃ」
 言われて目を向けると、いつの間にか人だかりができていた。
「ど、どうしましょう!?」
「心配いらん。皆、このゲームを楽しみにしておる。題して『輪投げバトル屋』じゃ!」
 決め顔で言い放つ。
「次は俺の番だ!」
「早くしてくれ!」
「は、はわわ……」
 アガレスを止めようとするが、たくさんの客に目を回すリース。それを静めたのはモヒカンの一喝だ。
「まだ姐さんの番だ! 静かにしろ!」
 怒号を響かせると一転、敬語に戻してデメテールへ向く。
「姐さん、お願いします。やってくだせぇ!」
「任されよう!」
 請け負ったデメテールはスキル使用を選択した。
 死角からの攻撃【ブラインドナイブス】。それを【殺気看破】で避けようとしたアガレス。
「ぐ、ぐふっ!」
 あろうことか、輪をまともに喰らった。
「お、お師匠様!?」
「あ、慌てるでない……まだ我輩に輪は掛かっておらん……」よろよろとふら付くものの、「まだだ、まだ終わらんのじゃ!」
 翼を広げ、立ち上がるアガレス。その姿に見物客は「おおーっ!」と歓声を上げた。
「こんなもの無理だろ! 無効だ、無効!」
 喚くモヒカンたちに、
「ゲームは難しいから楽しいんだろ?」
 そうだそうだと、周りにいた客の大合唱。
「姐さんも、何とか言ってやってください!」
「わかった! 明日から本気出すっ!」
 既に働きたくない病が出てきたニート悪魔。
 怒りの収まらないモヒカンたちは顔を真っ赤にし、
「こうなったら、俺がメインステージに乱入してやる!」
 BON−DNCEへの侵攻を決意する。


「今頃騒ぎを起こしているころだな。さて、俺たちも仕事をするぞ」
 アニキと呼ばれていたモヒカン。彼が呟きながらたこ焼き屋の前を通り過ぎるの見て、
「さて、そろそろ動くでありますか……」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は出店から姿を現した。
 そもそもこのたこ焼き屋、吹雪がカムフラージュとして出店したものである。その目的は和尚さんの宝。しかし、得られた情報は少なく、同じ思惑を持つモヒカンたちを泳がせる必要があった。そのリーダーが動き出したとなれば、これは後をつけるしかない。
 だが、カムフラージュとはいえども、店はぼちぼちお客が入っている。吹雪も利益は惜しい。
「というわけで、任せたであります」
「ちょっ、またですか!?」
 店番を押し付けられるコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)。いつも通りの迷惑、厄介事担当。
「毎度毎度、勝手にどこか行かないでくださいよ。たこ焼き作るの結構大変なんですよ?」
 生地を流し込み、具を乗せ、キリでたこ焼きを返し、焼きあがったものを舟に乗せる。
 接客も行わなければならず、熟練者でもないコルセアが一人で切り盛りするには厳しいものがあった。
「さっきから全然手伝ってくれないし、たまにはワタシに楽させてくれてもいいじゃないですか」
「コルセア、これは仕方の無いことなのだよ」
 口を尖らせるコルセアに、ぽんっと肩に置かれたイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)の触手。
「そこに宝がある。それならば我らは手に入れなければならないのだよ」
 虚空を見つめ、秘宝へと思いを馳せる。
「だからコルセア、後は頼んだのだよ」
「吹雪たちは行くのであります!」
「だから、待ちなさいって!」
 コルセアは二人の背に手を伸ばすが、空をつかむだけだった。