天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

学生たちの休日9

リアクション公開中!

学生たちの休日9
学生たちの休日9 学生たちの休日9

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「わーい、面白いね」
 不知火のサブパイロット席に座った彩音・サテライト(あやね・さてらいと)が、逐一送られてくる機体状況のデータを眺めながら楽しそうに言った。
少し動かしてみるか?
「いいの?」
 綺雲 菜織(あやくも・なおり)に訊ねられて、彩音・サテライトが聞き返した。
「やってみたいのであれば」
「うん。やるやるー!」
「ユーハブコントロール」
「いきまーす」
 パイロット然とした綺雲菜織とは違って、彩音・サテライトの方は玩具かゲーム感覚だ。逆に言えば、自然と機械を操っている。
 元々が、古代イコンにおいてリーフェルハルニッシュのサブコントロールシステムとしての機能も有してはいるはずなので、抵抗はないのだろう。むしろ、変なデータが残っていないので、不知火に適合しやすかったと言えるのかもしれない。
「わーい、くーるくーる」
 海面近くを機体を起こしたまま低速で飛びながら、彩音・サテライトが海面で水切りをして遊ぶ。
「えいっ」
 爪先で軽く水飛沫を蹴りあげてから、クルンと機体を回して、水塊を回し蹴りで粉砕する。ほとんど人のような動きだが、簡単そうに見えて結構難しい起動だ。白兵戦としては、槍や棍などを使ったトリッキーな動きに相当するのだろうか。
「なかなかやるな。もっとも、癖がありすぎるが」
 どちらかというと、地上での近接戦闘むきかとも綺雲菜織が思う。
 そのとき、不知火の機体をソニックウエーブが叩いた。
「高高度に、別の訓練機か。速いな」
 レーダーを確認して綺雲菜織がつぶやいた。その動きは、不知火とは違って、航空機の機動を元にしてイコン特有の動きにもっていっているようだ。人のなめらかで柔軟な動きを模している今の不知火とは、ある意味対照的である。
「不知火も高速機だと思っていたが、あれは異常であるな」
 取り扱えないほど速いのでは本末転倒になりかねないと、レーダーの輝点の動きを確認しながら綺雲菜織が言った。
「わーい、凄いね。あたしも一緒に遊ぶー」
「そうか、そうか。それも面白いかもしれんな」
 はしゃぐ彩音・サテライトを見て、綺雲菜織がアイオーンに天御柱学院の通常チャンネルで模擬戦申し込みの通信を入れた。
『――どうする?』
『――願ってもないです。やはり、ドローンなんかよりも、本物のイコンを相手にしなくては』
 ミネシア・スィンセラフィからの申し出に、シフ・リンクスクロウが悪くない申し出だと即答する。
「よし、OKがでた。好きに遊んでいいぞ。サポートは私がするのだ」
「わーい」
 許可をもらって、彩音・サテライトがバンザーイをして喜んだ。どちらかといって遊ぶ前に遊ばれてしまいそうだが、それもまた経験だ。
『――敵イコン補足したよ。うーん、海面ぎりぎりだね。嫌な位置にいるよね。あのままの位置に居座るつもりなのかなあ』
 不知火の位置を確認して、ミネシア・スィンセラフィが言った。
 ほとんど海面に足先が着くくらいの高度しかとっていないため、非常にレーダーに映りにくい。戦闘は、熱センサーか目視が中心となるだろう。だが、それ以前にその位置では高速戦闘が非常にしにくかった。音速で海面に接触すれば、機体にどんな負荷がかかるか分かったものではない。上空から急降下攻撃するにしても、一瞬の判断の遅れで海面に突っ込まないとはいえなかった。
『――Y軸の移動が限られるのであれば、地上機と見なせばいいんですよ』
 一気に高度を落とすと、シフ・リンクスクロウは海面すれすれで水平飛行に移った。アイオーンの起こすショックウエーブで、海面がまさに二つに割られる勢いで背後に水柱を立てる。
「来るぞ」
「わーい」
 綺雲菜織に言われて、彩音・サテライトがあわてて横滑りしながら回避した。その横を、アイオーンが通過していく。跳ね上げられた水柱の水が、容赦なく不知火の上に降りかかってきた。
「やったなー」
 旋回して戻ってくるアイオーンに対して、彩音・サテライトが不知火にビームサーベルを抜かせて身構えた。
『――交差後、急反転、ビームライフルの一撃でブースターを撃ち抜いて沈める』
『――りょーかい。ロックオン状態維持してるよ』
 先ほどの機動と同じと見せかけて、その隙を突こうとシフ・リンクスクロウが作戦を立てた。
 一気にアイオーンが音速で接近する。
「えーい」
 不知火が、機体をかたむけつつ、ビームサーベルを海中に突き込んだ。
 水蒸気爆発が起こり、大きな水柱が立つ。
 そのまま側転するようにして、不知火が機体を移動させた。
『――回避!』
 ミネシア・スィンセラフィに言われるまでもなく、シフ・リンクスクロウが回避運動をとろうとした。だが、間にあわず、水柱の一部が機体に接触する。激しいショックと共に、機体がバランスを失った。相対速度差が、ただの水柱を兵器に変えている。
『――上昇!』
 機体が回転して背面飛行になる瞬間、シフ・リンクスクロウがイコンホースを全開にした。メテオスウォームが直撃したかのように、海面に巨大なウォータークラウンが誕生する。その中央から、アイオーンが垂直上昇していった。
『相手をなめるからよ』
 無理な機動の衝撃からシフ・リンクスクロウの身体を守りながら四瑞霊亀が言った。
『――作戦考えすぎだよー』
「分かりましたわよ、二人とも。一気に決めます!」
 アイオーンにバスターライフルを構えさせると、シフ・リンクスクロウは高速移動を生かして、海上を薙ぎ払った。模擬戦用に低出力レーザーポインターに切り替えられたバスターライフルの光が、海上にいる不知火をなめて通りすぎる。高出力ビーム兵器での範囲攻撃の基本パターンだ。
「あっ、これは直撃であるな」
 機体表面を通りすぎたレーザー光を検出して綺雲菜織が言った。
「どうですか?」
 やりましたよと、シフ・リンクスクロウがドヤ顔でパートナーたちに聞く。
『うーん、これが市街地だったら、町一つ消し飛んだわね。被害大きすぎだわ』
 それってどうなのって、四瑞霊亀が言った。
『――味方がそばにいたら巻き添えかなあ。壊しすぎ?』
「これぐらいやった方が、ちょうどいいんです!」
 シフ・リンクスクロウは、そうパートナーたちに言い返した。
 
    ★    ★    ★
 
「メインジェネレータ起動」
『うむ、確認したぞ。ほれ、次じゃ』
 ゼノガイストに乗ったパイロットスーツ姿柊 真司(ひいらぎ・しんじ)に、官制室にいたアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が答えた。同時に送られてきたモニタデータの数値をチェックして、逐次フィードバックしている。
「オートバランサー、異常なしです」
 コパイ席のパイロットスーツ姿ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が、水平センサーで機体の傾きを確認しながら言った。
『よし、固定アーム完全解除を許可する。ハンガーから歩行でデッキ中央へ移動するのじゃ』
「了解。歩行開始。……停止」
 イコン用整備デッキの中央に移動して、柊真司がゼノガイストを停止させた。
「各部チェックします。関節部、可動チェック。メインブースター、エナジーウイング偏向装置チェック。問題ありません。機体各スラスター、ベクターノズルチェック。問題ありません。姿勢制御用バーニア、可動チェック。全てオッケーです」
 素早くチェックプログラムを走らせて、ヴェルリア・アルカトルが確認した。
『よし、カタパルトに移動じゃ』
 アレーティア・クレイスの指示で、柊真司がゼノガイストを電磁カタパルトに移動させた。両足をシャトルに乗せて射出に備える。
「サブジェネレータ起動。続いて、フロータージェネレータ起動。どうだ、ヴェルリア?」
「出力安定。エネルギーバイパス正常。サイクル、同期します」
 各ジェネレータの状態をモニタしながら、ヴェルリア・アルカトルが言った。ジェファルコンをベースとしたゼノガイストのトリニティシステムが、正常にシンクロする。このタイミングはジェファルコンでも機体ごとに微妙に違い、コンピュータの処理能力のかなりの部分をその同期に割いている。そのため、未だにジェファルコン以外でトリニティシステムは実現されていないくらいだ。
「よし、エナジーウイング展開」
『進路クリア……まあ、よいか』
「ちょっと待て、アレーティア。何かあったのか?」
『問題ない。ちょっと揉まれてくるのじゃ』
「カタパルト、射出電圧に達しました」
「出る」
 なんだか嫌な予感がしつつ、柊真司はゼノガイストを発進させた。
 天沼矛のイコンベースから、ゼノガイストが高速で空中に射出される。
「ちょっと待て!!」
 いきなり眼前で高速戦闘しているイコンを発見して、柊真司があわてて回避運動に入った。
「戦闘訓練なんて聞いていないぞ!」
 中空に移動して衝突を避けたが、今度は上空からビームが海上を薙いでいくのが確認できる。上空でバスターライフルを構えるイコンの挙動が、コンピュータのパターンマッチングで攻撃モードだと分析される。模擬戦用のレーザーポインターだとは知らない柊真司が、スラスターを総動員して射線から離れる。
『おお、いいデータがとれるとれる』
 官制室のアレーティア・クレイスは、ほくほく顔であった。