リアクション
キマクの夏休み 「お腹が空きましたわ。これ、プリンを用意しなさい」 「ありません」 お嬢様のわがままに、古風な自動車型の飛空艇を運転していた執事君が、きっぱりと言い返した。 「ないとは、どういうことですの?」 「お金がないんです。もう、少しは自重してください」 「こ、このわたくしに、我慢をしろと……。ええい、執事失格ですわ!」 なんとも不毛な言い合いではあるが、ヴァイシャリーを飛び出して幾星霜、放浪の資金も尽きたというのは事実である。 「なんとかして、生活費を稼ぎませんと……」 「そのくらい、お前がお考えなさい!」 あくまでも、お嬢様はお嬢様だ。 「あそこに……」 メイドちゃんが、前方に何かを見つけて指さした。見れば、何やらにぎやかなオアシスがある。 「競竜場のようですね」 「それはいいですわ。あそこで儲けなさい」 「そんな確定的に言わないでください。ギャンブルなんて、当たる方がまれなんですよ」 「つべこべ言わずに儲けなさい。命令です」 確かに、儲けないと今後の御飯さえ怪しくなる。 「仕方ありませんねえ」 執事君は、競竜場へと急いだ。 ★ ★ ★ 「さあ、次のレースの本命は、サンサンシスターズだ。だが、単勝はそれでも、連勝は難しい。二位に何が入るか。さあ、聞きたい奴はこっちへ来な!」 何やら、神戸紗千が予想屋をしている。もちろん、お嬢様たちはあっけなくそちらへ吸い寄せられていった。 「ああいう予想屋は、あまり当てにはなりませんね。エリシア様も気をつけてくださいね」 そう言いながら、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に追加資金を手渡した。 「えっ、ああ。もちろんですわ」 ちょっと予想を聞きに行きかけていたエリシア・ボックが、あわてて答えた。 この前来たときに、ギャンブラーセンスに目覚めたと思ったのだが、どうにも今回はそれが働かない。 「……なので、おねーちゃんは、また舞花ちゃんにお金を借りて……」 「ストーップ! ストップですわ。そんなメールを送ってはいけません!」 いつも通り御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に報告メールを打とうとするノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)を、エリシア・ボックがあわててとめた。 「えー、どーして?」 屋台で買ったポップコーンのバケツをかかえながら、ノーン・クリスタリアが聞き返す。 「それは、たくさん買ってからでも遅くはありませんもの。さあ、次のレースにかけますわよ!」 「うん、わたしも買うよ」 パドックでは、いろいろなタイプの恐竜がゆっくりと歩いていた。 「あー、あの恐竜さん、強そうで格好いいね!」 ヤッターキマクという恐竜を見て、ノーン・クリスタリアはさっさとその恐竜券を買ったようだ。 「ここは、以前一等をとった……、ああ、いない……。仕方ありませんわ。ここは、固く本命ですわ」 負けが込んでいたエリシア・ボックは、固く行くようだ。 わいわいとそれでも楽しく恐竜券を買う二人とは対照的に、御神楽舞花の方は連勝複式の券を買っていた。 『さあ、本日のメインレース。間もなく開始されます』 仕事で実況を担当しているシャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)の声が会場に響いた。 『各竜一斉にスタートです。トップは、本命のサンサンシスターズ、続くのはムーンゲート、やや遅れてディスカバリースター、タイムラビット、オハナバタケ、ヤッターキマクと続いています。第一コーナーを回り、順位に変動はありません』 「ほうら、やっぱり、見た目で選んではダメなのですわ」 「まだ分かんないよ。頑張れー、ポリポリ」 このまま、ぶっちぎりと安心するエリシア・ボックに、ノーン・クリスタリアがポップコーンを頬ばりながら答えた。 『さあ、最終コーナーにさしかかった。ムーンゲート、追い上げてきた。これはさすか!? ああっと、ムーンゲート急ぎすぎたか、大きく外にふくらみました。サンサンシスターズと接触。アクシデントです、両竜、落竜です。レースが大きく乱れます。その間を縫って出てきたのは、なんとヤッターキマクだ。他の竜の落竜にも動じず、一気に突っ走っていきます。ゴール! ゴールです。ヤッターキマク、奇跡の一位です!』 「わーい、おねーちゃん、あたったよー。あれ、おねえちゃん、どーしたの?」 万恐竜券を手にしたノーン・クリスタリアが必死に声をかけたが、ハズレ恐竜券を握りしめたエリシア・ボックは呆然としたまま微動だにしなかった。 「予想外のレース展開というのも興味深いですね」 連勝複式の万恐竜券を換金しながら、御神楽舞花がつぶやいた。 「間違って買った竜券が当たりましたね」 「お嬢様には内緒にした方がいいよ。これは貯金しておこう」 何やら、執事君とメイドちゃんたちも当たったようだ。 「とりあえず、お菊さんの食堂で、久しぶりにまともな物を食べましょう」 ちょっとほっとしたように、執事君が言った。 |
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