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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

リアクション

「階下が騒がしいと思ったら、どうやら鼠が入り込んできたようだな」
 信長の本陣。
 バグのコアである第六天魔王・織田信長は、杯を傾けながら機嫌よさそうに言った。
 ハイナ・ウィルソンを討ちにほとんどの武将たちが出払い、広間には小姓たちを除いて誰も残っていない。
 先ほどから聞こえてくる戦いの音を楽しみながら、信長は敵がやってくるのを待っていた。
 戦国の申し子だけあって、やはり戦いは心踊るものがあるらしい。今回の戦いは、優秀な武将たちに恵まれたため、自ら出陣することはなかったが、本心は戦場で暴れまわりたかったのだ。
「うむ……」
 全身に気力と体力が満ち溢れているのを確認して、信長は頷く。絶好調だ。どんな強敵が現れても良い戦いが出来るだろう。
(来たか……)
 部屋の向こうから足音と強力な闘気が近付いてくるのに気付いて、彼は口元に笑みを浮かべた。
「ごきげんよう。パーティー会場はここでよかった?」
 まず向こうからやってきたのは、先ほどパートナーたちと別れ、少数部隊と共にこの城に侵入したセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)だった。
【雅刀】を手に、遠慮なくずかずかと大広間に入ってきた彼女は、真っ直ぐに信長に近付いてくる。
「あんた達の雑魚兵はあたしの仲間がみんな噛み殺しちゃたわよ。歯応え無さ過ぎでがっかりだわ。さてと、あんたは特別にあたしが噛み殺してあげるんだから覚悟しなさい」
「……よくきたな。一杯どうだ?」
 信長は、セフィーに向かって酒を勧める。
「せっかくだけど、あたしには酒より好きなものがあってね。……それは、あんたの血さ!」
 難なく信長の傍まで来たセフィーは、思い切り刀を振り下ろす。
 ガッ!
「……なっ!?」
 信長は、手にしていた杯でいとも簡単にセフィーの攻撃を受け止めていた。すぐに気を取り直したセフィーはさらに攻撃を加える。再び彼女の攻撃は受け止められる。
 今度は信長は、どこから取り出してきたのか、かんざしを手にしていた。
「元気がいい娘は好きだぞ。このかんざしをやろう。持って帰るがいい」
 ピン、と弾いて寄越す信長。かんざしは矢のようにセフィーの頬のあたりをかすめ後ろの壁に刺さった。
「なるほどね……。そこいらの雑魚とは違うってか。わくわくしてきたぜ」
 セフィーは構えたまま後ろに下がると、笑みを浮かべたまま信長の獰猛な光を秘めた目を睨み返す。
「うむ……。その目つき、ますます気に入った。酒の余興に遊んでやろう。……蘭丸」
 信長は傍に控えていた小姓の森蘭丸を呼ぶと、セフィーに視線をやる。
「なんだか知らんが、軽く相手してあげなさい」
「はっ、殿」
 森蘭丸は、返事を終えるなり刀を抜いてセフィーに斬りかかる。
「はっ、雑魚が! 逆にあたしが遊んでやるよ」
 余裕の笑みを浮かべながら応戦するセフィー。だが、雑魚ではなかった。森蘭丸の刀は的確に人体の急所を狙ってくる。太刀筋鋭く、かわすのも一苦労だ。
「……へぇ……、少しはやるのもいるってわけか」
 セフィーは森蘭丸楽しそうに斬りあいする。
 と……。
「ごめん……。すこし身体の位置を変えてくれるかな? 巻き込まれると困るから」
 不意に、彼女の背後から人の気配が現れる。
「【自在】!」
 ゴォォォ! と強烈な衝撃波が信長のいる大広間を走った。
 いきなり正面から秘奥義スキルをぶちかましたのは、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)だった。
 前置きも対峙もいらない。この世界を支配するバグ信長には最初から全力で当たる。そう決めていた彼は、部屋に入るなり秘奥義スキルを発動させていたのだ。
 超巨大槍を作り出し、【ゴッドスピード】で加速した【ライトニングランス】を放つ強烈な攻撃に、さすがのバグ信長も後ろの壁を突き破って奥の部屋まで吹っ飛んでいた。衝撃だけで畳がえぐれ、大きな溝になって向こうまで続いている。
「コハク、かっこいー」
 一緒についてきていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、コハクの腕にしがみついて来る。【一騎当千】スキルでここまで道を切り開いてきてくれたのはいいが、そのまま一緒にやってきたのだ。
「ちょ、ちょっと……、やめようよ。僕たちバカップルみたいだよ」
「いいじゃない。コハクといるの楽しいし」
「……あう」
 からかうようなそれでいて愛情のこもった美羽の表情に、コハクは真っ赤になったまま硬直する。
「ほらほら、コハク。早く次の攻撃しないと、信長が起き上がってこっちに来ちゃうよ」
「その、二人で遊園地に遊びに行くときみたいな幸せそうな顔をやめてくれないと、力も入らないんだけど……」
 コハクは美羽の頬を軽くつまむ。その顔が面白かったのか、コハクはくすくす笑った。
「なによ」
 美羽がふくれたように可愛く睨んでくる。
「……こんな時、どんな顔をすればいいんだろうな」
 いつの間にやら、物陰に潜んでいた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が姿を現す。仲睦まじいコハクと美羽から視線をそらせながら咳払いする。
「笑えばいいと思うぞ。それは自嘲の笑いかも知れぬがのう」
 唯斗の背後から肩にぽんと手を乗せたのは織田 信長(おだ・のぶなが)だった。パラミタの英霊、太字信長である。彼女も、あの後二人とは別れすぐさまここへ駆けつけてきたのだ。
「おまえら、勝手に始めるでないわ。バグ信長退治は私の自身の出来事。私の仕事じゃ。少し下がっていてもらおうか」
「……なあ、ああ言う使命感と正義感をたてに独り占めしようとする奴って、どう思う?」
 唯斗がコハクに耳打ちする。美羽も含めて三人で頷き、信長をじと目で見た。
「あの忍者、カップル味方につけおった!」
 ガーン! と仲間はずれ感を味わう信長
「いてて、めちゃくちゃする連中だな」
 自在に巻き込まれたセフィーが起き上がってくる。蘭丸は倒れたままだ。
「……ほら、言っている間に、信長起き上がってこっちにやってくるぞ。真面目にやろうぜ」
「言われなくともわかっておるわい」
 信長は【神降ろし】を使って、バグ信長に向き直った。敵を畏怖させる強烈なオーラが彼女を包み込む。
「私こそは、第六天魔王・織田信長。お前、誰の断りを得て、その名騙るか! 身の程知らずが」
「うぬ……、信長だと……? それは、この俺だ……!」
 バグ信長は、先ほどセフィーと会話していたときのような遊びの表情はなかった。敵意をむき出しにして威圧感を与えてくる。
「俺も、ちょっといいところ見せておこうかな」
 唯斗がすかさず【魔槍スカーレットディアブロ】をバグ信長に叩き込む。
「ぐああああああっっ!」
 炎に包まれ激怒した信長が、襲い掛かってきた。
「はい、アウト」
 唯斗が親指を下向けて立てると同時に、バグ信長に衝撃が走る。予め唯斗が仕掛けてあった【インビジブルトラップ】の一つを食らったのだ。
 それでもバグ信長は体勢を立て直し反撃してくる。火は辺りに燃え移り、本陣全体にまで燃え広がりつつある。
「コハクのちょっといいとこ見てみたい」
「それじゃ、僕が普段ダメみたいじゃないか!」
 美羽の台詞にコハクは突っ込みつつももう一度、秘奥義スキルを放つ。
「【自在】!」
 ドォォォォォ! と再び巨大槍がバグ信長に命中する。それでも体勢を立て直し、自らの口からも激しい炎を吹き散らした。さらには謎の全体攻撃まで仕掛けてくる。
「……さすがに自在を二発食らえばなりふり構わなくなるか。すでに人間の仮面かなぐり捨てて、怪物じゃねえか」
 しみじみ呟く唯斗。
「いや、冷静に語っているときじゃねえから。畳や障子に火がつき始めたぞ。すごく燃え広がっているぞ!」
 どうして自分が突っ込み役をやっているんだ? と納得のいかない表情のセフィー。
 バグ信長と契約者たちの、激しい攻撃の応酬はしばらく続いた。熟練の契約者たちの猛攻撃で、本陣が大きく揺れる。
 バグ信長は、変身を後三回残していた。すでに合戦ゲームではなくRPGのラスボス戦であった。強いが、勝てないというほどでもない。
 契約者たちは、バグ信長にダメージを与え続けついには追い詰めた。
「ぐおおおおおっっ!」と雄たけびをあげる。
「哀れじゃのう、バグ長。自分を見失ったか。この私が、楽にしてやろう……」
 信長は、【ジョワユーズ】を手に、バグ信長に攻撃を仕掛ける。
「さらばじゃ。もう二度と出てくる出ないぞ……!」
 信長が、バグ信長に最期の止めを刺す。
「人間五十年、下天のうちを比ぶれば……か。……ぐはぁっ!」
 無念の言葉を残して、バグ信長は燃え広がる炎の中に消えていった……。
 パリン、と何かが割れる音がした。
 同時に、ぐにゃりと光景がゆがみ始める。
 完全に火の燃え広がった本陣が崩れ落ちてきた。
「さて、帰ろうか。みなのもの、大儀であった。礼を言うぞ」
 信長は、第六天魔王・織田信長として悠然と微笑んだのだった。


かくして、天下は統一さr

 ……プツン。
 画面が暗転する。
 エンディングはつくられていなかった……。



「どうやら終わったようですね」
 藤原頼長は、変色し崩れ始める光景を眺めながら、微笑んでいた。
 作戦は失敗したわけではなかった。シャンバラ軍の背後を突いて攻撃し、ハイナ本陣を陥とし、もう少しでハイナを討ち取ることが出来たのだ。
 もうキリがないので描写はされていないが、【シェーンハウゼン】と信長軍の攻撃により、今ちょうどハイナの本陣が壊滅したところであった。
 討ち死にを選ぼうとしたハイナは、取り巻きに強引に連れ去られ地下通路を逃げている。
 どちらの陣営が負けたわけでもない。バグ信長の死がわずかに早かっただけ。本当に、両軍いい勝負だったのだ。
「アウグスタ陛下……。いずれまたどこかで……」
 そう言うと、藤原頼長は扇で顔を半分隠したまま、この世界から姿を消した。

 かくして、バグの本体である信長は死に、世界は崩壊を始めた。
 やってきていた契約者たちは、一人、また一人とこの世界から姿を消していく。
 美しいビジュアルに彩られていた光景は、無機質なものとなり、やがてコンピューターの数字の塊へと収束して行った。
 真っ黒な渦が巻き、それもほどなく薄くなって見えなくなってしまった。
 ピシャリ、と世界が消滅するのがわかった。
 
『NO FILE』の文字が画面上に浮かび上がる……。

 こうして、バグ事件は収束し、取り込まれた契約者たちは、全員戻ってくることができたのであった。



(いやあ、よかったよかった。みんな無事で何より)
 無事に戻ってきた契約者たちを、校長のコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)が出迎えてくれる。
「……」
 戦国の世を駆け抜けた英雄たちは、天御柱学院のコントロールルームで目を覚まし始める。
(みんなの活躍、この目でしっかりと見せてもらった。本当にご苦労だった。そして、その勇気と素晴らしい戦いぶりに賞賛を送ろうと思う)
「……戻ってきた!」
「私も、生きてる……?」
 戦場で死んだことになっていた者たちも、傷一つなく起き上がり、無事に帰還できたことを喜び合う。
 その光景を見ながら、コリマは安堵に頷いた。
(お帰り……。これ以上は何も言わないよ)
「何か言えよ!」
 全員の総突っ込みが、コントロールルームに響き渡った。

 
 それでは、今回のお話はここまでにしましょう。
 みなさま、お疲れ様でした。

担当マスターより

▼担当マスター

車 修理

▼マスターコメント

はじめましての方もお久しぶりの方もこんにちは、車 修理です。いつもお世話になっております。
今回も大変長い間お待たせして申し訳ありませんでした。

ゆうに単行本小説一冊分くらいの分量書きましたよ。途中でくたばりかけました。

アクションもアイデア豊富、熱の入ったものばかりで、どう登場してもらって活躍してもらうかにも心砕きました。
途中、何人か戦死しているキャラクターがいますが、アクションが悪かったわけでも選択が間違えていたわけでもありません。
あくまでシーン上の演出でありまして、強いて言えばダイスの目が悪かったと考えていただきたいです。

また、本作は戦術面等で非常に甘い部分があります。強引にこじつけたり、場合によってはご都合主義な部分が多く見受けられます。表示されている兵士数なども計算に基づいてではなく、なんとなくです。深く考えてはいけません。
例によって「ああ、やっちまったな」と笑い飛ばしてくれるのが一番ストレスのたまらない読み方ですので、よろしくお願いいたします。

いずれにしましても、このリアクションが皆様と一時を過ごせるよう祈っております。
またどこかでお会いできる時を楽しみにしております。