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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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9ターン目:信なgの野望・Offline

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 平原の戦場は死屍累々だった。
 両軍ともが全力で激突し、最期まで戦った。長く激しい消耗戦の末ほとんどが帰ってこない状態になっている。
 シャンバラ軍の被害も甚大だった。出陣していた武将や兵士たちは力尽き倒れていた。彼らが無力だったわけでも作戦行動に失敗したわけでもない。敵の数が多すぎたのだ。
 それでも、生き残った信長軍は休むことなく進軍してくる。
 さて、ここはハイナ本陣。
「ひどい有様でありんす……。もう、言葉もないでありんすよ」
 戦況を見守り続けていたハイナが沈痛な面持ちで言う。
「信長の居城、正面の門が開いたわね。無事に信長の居城へと侵攻が成功したみたい。兵を進めるなら今だと思うんだけど」
 双眼鏡を使って信長陣営の様子を見ていたルカルカが、ハイナに伝えた。
「最後くらいは、私たちの部隊も突入していいんじゃないかな? 平原での戦いを避けて信長の本陣に迫れそうだし」
「奇襲が成功したということでありんすか?」
「多分ね」
「……でも……なんだか、いやな予感がするでありんす」
 ハイナはじっと考えながら言った。
「大変でやんす! 本陣の背後から敵軍が迫ってきているでやんすよ!」
「……?」
 不意に、変な五人組が現れてハイナは目を丸くする。
 彼らは、本陣防衛に当たっている舞花が伝令として送ってきた【特戦隊】の愉快な面々であった。すでに正面から押し寄せてきていた信長軍の大軍を迎え撃っていた舞花は、【行動予測】や【防衛計画】で敵の動きも掴むことが出来ていたのだが、手が離せなかったのだ。
「平原にあの【シェーンハウゼン】の姿がないので不審に思った姐さんに言われて探していたら、彼らは陣形を立て直して復活していたでやんすよ!」
「……」
 大急ぎで反対側の天守閣から外を見たハイナは絶句する。
 信長軍の残っていた軍勢が、新たな鶴翼の陣を形成してこの本陣を取り囲みつつあった。まもなく彼らは、この本陣に総攻撃を仕掛けてくるだろう。
 平原での戦いはまだ続いている。そちらばかりを注目していたので危うく気づかなかったところだ。いやむしろ、平原に出張ってきていた軍団は、むしろ囮だったのかも知れなかった。
「いよいよ、最後の勝負でありんすな」
 ハイナは刀に手をかけ静かに言う。
 この本陣が落とされるのが先か、信長を倒すのが先か。
 騒然となる中、全員が戦闘配置につく。
「……お疲れ様です。本当は私が行くべきだったのでしょうけど、何しろこの数ですからね」
 舞花は、少し冷や汗をかきながら【特戦隊】を出迎える。本陣の壁際いっぱいのところに和装の部隊を布陣していた舞花は、次々迫ってくる信長軍を、中に入ってこないように押し返すので精一杯だったのだ。キリのない作業だ。壁をぶち破って入ってこようとする敵もいるため、土木作業員として派遣されて着ていた笠置 生駒(かさぎ・いこま)ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)も修繕作業を急いでいる。
 斥候から伝令、囮や最悪自爆要員まで、【特戦隊】だろうが【アマゾネス】だろうが、何でも使うつもりであった。
 背後から味方の弓隊などが援護射撃をしてくれているが、敵軍は一向に減る気配はなかった。兵士たちもかなり疲れの色が見え始めてきている。
「あっ、また来ましたね……。勝手に壁を壊して入ってこないで下さいって言っているでしょう!」
 横合いの壁がゴリリと破壊されたのを見て、舞花はそちらに走る。
「ああ、お勤めご苦労様。ハイナどこ? いたぶりにきたんだけど」
 壁を壊して本陣に侵入してきたのは、信長軍に属している蘇妲己だった。連れて、どやどやと兵士たちも中に入ってこようとする。
 すっかり戦場色に染まっていた舞花は、警告すら発さずに【失われし文明の機晶銃】を放つ。当然のごとく、妲己が反撃してきた。
【特戦隊】と【アマゾネス】も兵士たちと戦い始める。
 妲己はシャンバラ軍を蹂躙する予定だったのに、突如現れた闖入者に不機嫌そうな顔になった。
「うるさい娘ね。ここは私ターンで無双するところなんだから、邪魔するんじゃないわよ。イジメちゃうわよ?」
「言っている意味がわかりません。……とりあえず、渡し賃持ってますよね。三途の川渡ってもらいますので」
「そんなこと言っていられるのも今の内だけよ。私の妖艶な淫術に耐えられるかしら? 房術もあるのよ」
 色っぽい仕草で何かやら聖なる、もとい……性なる攻撃をやらかしてこようとする妲己を、舞花は半眼でかわす。
「私、おかしな趣味持っていませんので、全然効きません」
「そんなこと言っている子に限って、一度目覚めると凄いのよね。可愛がってあげるわよ」
「あなた、一度頭の中検査してもらったほうがいいです。脳みそくりぬいてあげますね」
 舞花と妲己は予想外の一騎打ち体勢になった。バリバリと戦い始める。
「はい、ここまでですね。降伏したら、全身の骨折るのだけはやめてあげますけど」
 LVの差というか、戦闘経験の差で舞花は妲己を圧倒し、押さえ込んだ。なんだか妙に心がささくれ立つ戦いに、口から発せられる単語も物騒になっている。
 妲己はニヤリと笑った。首をもたげ、ふぅっ、と舞花の首筋に息を吹きかける。
「……」
 ゴキリ! 舞花は無表情で妲己の関節を外した。そのまま、ボコボコにしばき倒してしまった。無表情で。
 妲己の夜伽の夢が潰えた瞬間であった。妲己が率いていた忍者(歩兵)軍団も散り散りになって逃げていく。
「地獄を見れば心が乾くって、本当だったんですね。もう、戦いは飽きました……」
 早く帰りたいな、と舞花は思った。
 そんな彼女をよそに、壁の向こうからはまだ敵が押し寄せてきている……。

▼蘇妲己、戦闘不能。



(シャンバラ軍は打って出てくるだろうか?)
【シェーンハウゼン】第五軍団長のガイウス・フラミニウスは、ハイナの本陣を目前にして、再び馬防柵や逆茂木などの障害物を設置し始めていた。
 先ほどの戦いでは、こういった細工を警戒されてか、シャンバラ軍は第五軍団には攻撃を仕掛けてきていなかった。おかげで見せ場がなかったわけだが、当初の作戦はここでも役に立ちそうだった。
(古人曰く、『ローマ軍はつるはしで勝つ』……ローマの軍団兵は、一人一人が優秀な戦士であると共に、腕の良い工兵でもあった。現在も各地に残るローマ街道も水道橋も、殆どは軍団兵たちの手で建設されたのだ。我々も、彼らにならって立派な防御陣地を作り、勝利を目指したいところだ)
 着々と作業を続ける軍団の兵士を、ガイウス・フラミニウスは見守る。
 あの時は、側面に回りこまれるのを警戒してのことだった。今回は、敵が起死回生とばかりに突撃してきても食い止める野が狙いである。
 それを指揮するガイウス・フラミニウスは、平民出身ながら、2度にわたり執政官を務め、ローマ社会における平民階級の権利向上に努めた人物であった。
 アルプスを越えてイタリアに侵入したハンニバル軍の迎撃に向かう途中、トランジメーノ湖畔で待ち伏せ攻撃を受け、戦死を遂げたという。
 そんな人物解説がヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)によって語られる。
「十中八九、篭城でございましょうね。参謀本部の意向は殲滅戦ですから、消耗戦になりそうでございますね」
 浮かない様子で進軍してきたのは、サオリ・ナガオ(さおり・ながお)の扮するグネウス・コルネリウス・スキピオだ。
 この第二十二軍団は、先ほどの戦いではひどい目にあった。特殊任務の伏兵であったために、完全に忘れ去られていたのだ。壊滅するより残念な仕打ちである。結局何もせずに退却してしまったのだが、今度ばかりはそうは行かない。
 ましてやグネウス・コルネリウス・スキピオは、第十二軍団長のプブリウス・コルネリウス・スキピオの兄で、スキピオ・アフリカヌスの伯父にあたる人物だった。第二次ポエニ戦争(ハンニバル戦争)の初期、プブリウスと共に派遣されたスペインで、ハンニバルの弟たちと戦い、敗れて戦死した。弟が登場していたのに兄が何もないでは、一族に顔向けができない。総司令官からの攻撃命令があれば、ハイナを本陣ごと叩き潰す所存である。
「本来でしたら、しっかりと本陣を取り囲んだ後、内部工作による崩壊を狙うのがよろしいのでしょうけれども……。総司令官も開き直ったかのようですし……」
「そうはさせぬ。これより少しでも前進すると、とても痛くて切ない目にあうこと請け合いであろう」
 さっそくハイナの本陣の反対側に出陣してきた部隊があった。
 砲撃巫女、可憐な砲撃手エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が率いる、本陣部隊である。兵力1000の歩兵部隊であるが、本陣の遮蔽物などを利用し、他の部隊と連携するとかなり戦えるのではなかろうか。一歩も通さない気合は十分だった。
「計画に支障はございません。ハイナの本陣ごと包み込んで殲滅するのみです」
 グネウス・コルネリウス・スキピオはガイウス・フラミニウスと共に攻撃を開始する。
 陣を敷いていた【シェーンハウゼン】の他軍団も動き始めた。最後の戦いだ。
「あわわわわ……。敵さん、すごいいっぱい来ましたよ……。兄さん、急いでください早く……。私たち、もうダメかも……」
 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は、別任務でここにはいないマスターに祈った。
「戦う前から諦めていてどうするのだ。一人百殺、敵をなるべく多く道連れにしてやろう」
 エクスは覚悟を決めて敵を迎え撃つ。
 睡蓮もすぐに頷いた。死なばもろとも。もうやるしかない!
「魔人さん! お願いします! 私を乗せて出来るだけ高く跳躍して下さい!」
 睡蓮は【魔人のランプ】で魔人を呼び出した。魔人の力を借りて、高く跳び上がると(あくまで歩兵ユニット)、渾身のスキルを連発する。
 圧倒的多数でハイナ本陣を取り囲もうとしていた【シェーンハウゼン】はシャンバラ軍の捨て身の攻撃に一瞬たじろいだ。その隙を狙って……。
「【我は示す冥府の理】!」
 四本の矢が【シェーンハウゼン】の第五軍団のガイウス・フラミニウスに正面から突き刺さる。
「な……しまっ……!」
 前進しながら兵士たちを鼓舞しようとしていた軍団長は、率先して先陣に立っていたことが災いした。急いで護衛兵が軍団長の盾になって守りに入る。
 さらに睡蓮は、直後に【神威の矢】を一瞬の溜めの後強射し、【サイコキネシス】による加速と軌道修正も掛け正真正銘の全力攻撃。【ハイパーガントレット】の効果も含め神速の五射、必殺の一撃が、ガイウス・フラミニウスを貫いていた。
「そんな、ばかな……。こんなところで……」
 ぐふっ! とガイウス・フラミニウスはその場に倒れた。
「慌てる必要はございませんわ。粛々と計画を実行させるまでです」
 グネウス・コルネリウス・スキピオは、ざわめく自軍の兵士たちを落ち着かせてハイナ本人に迫る。
 エクス率いる部隊とはすでに混戦になっていた。少ない兵を上手く動かし、敵軍にコツコツダメージを与えていく。グネウス・コルネリウス・スキピオは慎重に戦いを繰り広げる。そんな二人をあざ笑うかのごとく、【シェーンハウゼン】の大部隊は、ハイナの本陣を取り囲みつつあった。