天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

リアクション公開中!

【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

リアクション

「……手強い罠ですね。物理的なアラームは魔操兵を呼ぶ為でしょうけど……こっちの魔法的なアラームには何の意味があるのか……」

 レイカ・スオウ(れいか・すおう)は言いながら、閉ざされた扉の罠の解除に挑んでいた。
 この扉に限らず全ての扉がそうだが、閉ざされた全ての扉には何らかの罠が仕掛けられていた。
 先程まで朱鷺が調べていた部屋にも同じ罠が仕掛けられており、これに関しては効果の調査の為に、わざと解除をしていなかった。
 その結果、現れたのが優奈の叩き壊した魔操兵と……続々と集まってくる怪物達、というわけだ。
  
「あいつ等呼ぶ為なんとちゃう?」

 茜と樹彦の攻撃を受けて足止めされている怪物を見ながら、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)はそう口にする。
 確かにその通りなのだが、レイカが悩んでいるのはそういうことではなかった。

「あれやろ? 気にしとんのは」

 そこにやってきたのは、魔操兵の頭部を抱えた優奈と朱鷺だった。
 その指の先にあるのは、一撃で斬り倒された一体の怪物の姿。
 それは、今戦っている姫月のグレートソードによるものではない。
 魔操兵の剣によって、斬り裂かれた跡だ。

「あー……なるほどなあ」

 如何にも暇そうにしながらも、裕輝は優奈の魔操兵の頭部を突く。

「アレが防衛機構なら、斬られる理由は無いわなぁ」

 つまり、怪物は防衛機構以外の何かであり、この魔法的なアラームには本来、何か別の意味があったのだろうか?

「そっち……一匹行ったわ!」
「お」

 腕の四本ある怪物がレイカに向かってきているのを見て、裕輝は笑みを浮かべる。

「やーっとオレの出番かいな。暇過ぎて死にそうやったで? ほんじゃま、行くとしますかぁ」

 そういうと気だるそうに、しかし一切の無駄のない動きで裕輝は身体を起こす。
 それは、人から見れば何のこともない普通の動作。
 攻撃動作というよりは、普段通りの散歩のような動き。
 鼻歌でも歌いそうな調子で歩く裕輝と、雄叫びをあげながら突っ込んでくる怪物。
 まるで挨拶でもするかのようにあげた裕輝の腕は、そのまま怪物の顎を砕くかのように打ち上げられる。

「おう、派手なリアクションやなあ」

 あくまで、友達との会話を楽しむかのように不自然さのない裕輝の動き。
 圧倒的な実力の差か、裕輝の鍛錬故の賜物か。
 その光景を見ながら、加勢はいらないとレイカは判断する。

「……不思議な人なんですよね、瀬山くん。掴み所が無いと言うか……」

 でも腕は確かな人で、信用はできる……と思います、と。その言葉は、レイカは心の中で呟く。
 その信用に答えるには、この扉を開けなければならない。
 慎重に物理的アラームを解除し、他のトラップがないか確かめる。
 魔法的なアラームについては、この際は仕方がない。元より、あらゆるリスクをゼロに出来るなどというのは無理な話だ。

「……出来ました! 魔法的なアラームは鳴ってしまいますから気を付けて……!」

 そして、レイカによって開け放たれた扉。
 その中にあった絵図を一目見て、レイカは目を見開く。

「……人間の……改造設計図……?」

 人間の改造。人間を超えた生命体の創造。
 古代呪術研究所で行われていた禁断の研究の一部が、そこにはあった。
 人間の改造案、買った人間のリスト。
 ここは事務室か、あるいは会議室だったのかもしれない。

「……滅びて当然ですね、こんな研究所」

 他人の幸せを願いながらも自身を蔑ろにしがちなレイカ。
 そんなレイカにとってみれば、こんな邪悪な研究は理解しがたいものがあるのだろう。
 それでも、ここで何が行われていたのかは報告せねばならない。

「……あんまり、毒されないようにね。ここは過去の遺物に過ぎないんだから」

 そこにやってきたのはアーシアと……真剣な顔で部屋の中を見回しているシェヘラザード。

「おう、先生。魔法学校なのに体育系教師とかなかなか良いキャラしてるやないか」
「君もね。さっきの見てたよ。昼行灯ってやつ?」

 軽いノリで裕輝とタッチを交わすアーシア。

「ここで研究していた古代呪術とは……?」
「最初はまともだったらしいよ」

 朱鷺の問いに、アーシアは淡々と答える。

「古代呪術より読み解いた古の知識を現代呪術へと活かしていく。あるいは、当時の文化風俗を読み解く。それが此処の成り立ちだったって言われてる」

 しかし、それがいつからか狂ったのだという。
 人を超える。
 そんな愚かしい願いに身を染めた結果、此処は邪悪の住処と化した。

「そんな事、出来るわけないのに……」
「出来た実例があったらしいんだよ」

 茜の呟きに、アーシアはそう呟く。

「呪術の盛んなシボラで、人を超えた人が現れた実例があったらしいの。魔導生命体……今じゃほとんどが否定的だけど、ね」

 この場に司達が居れば、気が付いたかもしれない。
 大英雄シャフラザードの伝説。
 もしかすると、それこそがそうなのかもしれない……と。