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【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

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【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

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第三章 研究所の最奥にて

「ふむ……どうじゃ、甚五郎?」

 一際大きな扉の前でうずくまる夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)に、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が声をかける。

「ああ……中々に手ごわいな」

 甚五郎だけではない。扉の前には蕪之進やレイカといった面々も一緒になって扉に仕掛けられた罠の解除に取り組んでいる。

「こいつぁ厳しいですぜ……お嬢の壁抜けもできないたぁ、並みの厚さじゃないですぜ」
「警報の類は解除できたはずですが……」

 蕪之進の言葉に優梨子は扉にもう一度触れ、レイカは扉を入念に調べなおす。
 広間に設置された大きな扉。
 無数の罠が仕掛けられたソレは、まるで壁であるかのように契約者たちの侵入を拒んでいる。

「これ程の扉……中にどれ程のお宝が眠っているのでありましょうね」
「お宝ならいいけどね。最悪な敵かもしれないよ」

 吹雪の言葉に、レキはそう言って返す。

「ありえない事ではありませんね。ですが、何か思うところがあるのですか?」

 自信満々なレキの口調に興味をもったのか、真人はピッキングを試していた手を止めてレキに語りかける。
 そんな真人にレキは指を振ると、ドヤ顔で宣言する。

「勿論、女の勘ってやつだよ!」
「当てずっぽうか……」

 溜息をつく羽純と、ドヤ顔を崩さないレキ。
 その間にも、甚五郎達は扉の解析を進めていく。

「おかしいな。ほとんどの仕掛けは解除したはずだが……」
「何か、見落としがあるはずですわ。例えば……この紋様。これが何かしらの鍵である可能性も……」

 甚五郎とアデリーヌの言葉に、司はふと後ろに下がって扉を眺めてみる。

「……ああ、成程な」
「え? お分かりになったんですか?」

 近寄ってくる優梨子から少し視線を逸らしながらも、司は一枚の羊皮紙を差し出す。
 それは探索の途中で見つけたものの模写だが……この研究所の見取り図ともいえるものだった。
 水晶骨格に目標を絞らなかった司達だからこそ見つけられたものだが……その研究所の内部図を紋様化すると、丁度この扉に書いてある紋様になるように見えた。

「しかし、そうだとすると……この扉の紋様には足りないものがあるね」
「ああ、あのへこんでるとこか」

 北都に頷くように答えるシリウス。
 そう。そういう視点で扉を見てみると、不自然なへこみが扉にはあった。

「なるほど……この紋様が魔力の流れる場所。このヘコミ部分でそれが寸断されている、ということですね」
「なら、そこに何かをはめれば扉が開くということですのね?」

 朱鷺に、麗が納得したように頷く。

「だが、その何かはどこにある?」

 甚五郎の言葉に、全員が沈黙する。
 この研究所のどこかにはあるのかもしれないが……あるいは、無いかもしれない。
 そんなものを探し出せるかどうか。

「ふ、ふはははは!」

 だが、その沈黙を突然の笑い声が破壊する。

「ああっ、この笑い声は!」

 沈黙に耐えきれなくなってきていたシェヘラザードが、笑い声のする方向へと振り向く。
 そこには、スポットライトを浴びる白衣の男の姿。

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」
「性懲りもなく出たわね、お笑い博士!」

 シェヘラザードにお笑い博士呼ばわりされたドクター・ハデス(どくたー・はです)は少し間をおいて気を取り直すと、再び高笑いを始める。

「伝説の女王器・水晶骨格……ククク、人の罪の姿と呼ばれるソレが目覚めるところを、見てみたいとは思わんかね!?」
「何よ。アンタ、水晶骨格について何か知ってるの?」

 アーシアの問いかけに、ハデスはたっぷりと間をとった後に叫ぶ。

「全く知らん!」
「よし、ほっとくわよ」

 各々がハデスに背を向け始めると、ハデスは慌てて一枚の石片を取り出す。

「待て待て、これが欲しくはないのか!」

 それを見て、アグラヴェインが正体に気づく。

「なるほど、あれが鍵ですか」

「その通り! 水晶骨格の目覚めを妨げようとする契約者たちよ、お前たちを通すわけにはいかん! ここで消えてもらおうか!」

 石片を白衣のポケットに仕舞うと、ハデスはスポットライトの下でポーズをとる。

「……特にシェヘラザードよ、お前にはたっぷりと前回の礼をするとしよう!」

 暗い部屋の中はよく見ると、ハデス好みの秘密結社のアジト風になっているのが分かる。
 どうやら、準備は万端ということなのだろう。

「ククク、今回は迎撃準備万端! さあ、行くのだ、我が部下改造人間サクヤよ!」
「うう……、こうなったら仕方ありません! シェヘラザードさん、覚悟してくださいっ!」

 そう言って、戦闘態勢をとる高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)

「貴方もお願いしますね、用心棒さん!」

 咲耶に用心棒、と呼ばれスポットライトが当たった姿に、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が驚きの声をあげる。

「おまえ……ウルスラグナ!?」

 そう、スポットライトの下にいたのは勇平と契約関係にあるウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)だった。
 ウルスラグナは苦悩の表情を浮かべると、勇平へと視線を向ける。

「幾星霜、悪を倒しても滅ぼすことができなかった。それは我々が悪に対する理解が無かったからではないのかと」
「悪に対する……理解?」
「ちょっと、何が始まったのよもが」
「邪魔しちゃダメだろ」

 シェヘラザードの口をシリウスが塞いでいる間に、ウルスラグナの演説は続いていく。

「すまぬな、勇平よ。籍を置くものとして協力せざるをえんのだ。……これも修行と思って全力で来るがいい!」
「そうか、これも修行ってことなんだな……」

 バタバタ暴れてシリウスから逃れようとするシェヘラザードを視界から外した勇平は、ウルスラグナへと向き直る。

「いいぜ、ウルスラグナ。じゃあ俺は持てる全ての力でお前を打倒する!」
「ぶはぁ! ちょっと、何するのよシリウス!」

 一通りのドラマが済んでウルスラグナと勇平の戦いが始まったところで、シェヘラザードはようやく拘束から逃れてハデスをにらみつける。

「これも全部お前のせいよ! 正義の名の元に、ボコって呪って踏んで、そのあとでもう一回呪ってやるわ!」
「では、わたくしもお手伝いしますわ!」
「当然よ、麗! 前回のあたしは甘かったわ! 今回は眼鏡も含めて余すところなくボコってやるわ!」

 修羅のごとき空気を纏う百合園女学院の生徒達に、咲耶は思わず一歩後ろに下がってしまう。
 そう、咲耶は思うのだ。
 ああ、嫌な予感。爆弾も仕掛けてはあるものの、嫌な予感がします……と。
 
 その予感は、数分後に全て的中する事になる。