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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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第11章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story9

 被害者の治療が終わると、甚五郎は彼に“海で何か見かけていないか”と聞く。
「なんだか奇妙な女が、海に入るでもなくただずっと…海を眺めてしました。浮かない顔をしていたので、どうしたのか聞くと…。女は、海なんてキライ…入れないから…と言いました」
「ふむ、入れないような事情でもあったのだろうか」
「私もそれが気になったのですが、体質的なことなんだろうかと思いました。ですが彼女は、私が入れないこんな海で楽しそうにするやつを、皆不幸にしてやるんだと言ったのです」
 体質の問題やかなづちだったとしても、“自分が入れないから、海で楽しむ者を全て不幸にする”という発言は、誰が聞いても異常だ。
「(その者は人ではないな…)」
 おそらくそれがもう1種類の魔性だと甚五郎が推測した。
 一応、視覚認識が可能なようだが、常に姿を見せるようなものではない可能性もある。
「私がそんなことを言っていけない、と注意しますと女は私を睨み、“あんた海で遊んだことがある?”と聞いてきました。別に隠す必要もないのに、それくらいはあると答えました。女は“あんたなんか、不幸になってしまえ”と告げて消えてしまったのです」
「どのように消えたのだ?」
「それが、突然水のようになって、跡形もなく消えてしまったんです」
「ほう…。して、不幸な出来事が起こったと?」
「えぇ、急に取引先との仕事がなくなってしまって、私に何か落ち度でもあったのか考えてみましたが…心辺りもなく…。悩んでいてもお腹は減るもんでしてね、昼食を作ろうとした時から記憶がないんです」
「それから今までの間のことを覚えいてないと?」
「あ、いえ。海にいるところから、途切れ途切れですが覚えてることもあります」
 器としてグラッジに支配されていた男は、海へ到着した際に開放されたのだった。
 その後、毒による人格変化によって酷くネガティブになり、海で自殺しようとしていたようだ。
「甚五郎、何やら気配の数が多い。不可視の者が近くにいるようじゃ。しかも複数おるな」
 アークソウルで魔性の気配を探知した草薙羽純が小声で言う。
「ふむ。…ルカルカ、この者が狙われぬように守ってやってくれないか」
「任せて♪」
「気配が俺のほうに…」
「主!」
「どこにいようとも、祓魔の護符で…」
 距離を取りながら護符を投げ、起爆させるが…。
「―…ぅ…ぁあっ」
 何体もの魔性を対処しきれず、憑依されてしまった。
「ククク……。ははははっ!貴様らリア充どもを、全員地獄に落としてやるっ」
「な、なんと。口調まで変わってしまうとは!」
「オラァアーッ、凍えシネッ」
 魔性はグラキエスの意思を支配し、パートナーであるはずのアウレウスにブリザードを放った。
「あ……主ーーっ」
 アウレウスは猛吹雪のよって岩場へ飛ばされ激突してしまう。
「なんと痛ましい変わり様。そのような品のない言葉を吐かせるなど、許せません」
「ま、待てエルデネスト。主を傷つけてはならん」
「くっ、なんて卑怯な…っ」
 彼らにとって人質を取られているのも同然。
 憑依されているとはいえ、グラキエスを傷つけることは出来ない。
「甚五郎、おぬしの傍にもおるぞ」
「なぜこのような時に、何体も寄ってくるんだ」
「おぬしまで憑依されるではないぞ」
 アークソウルで気配を探知しながら甚五郎に位置を教え、彼の祓魔の護符で退かせる。
「皆、マグヌスを使うわよ。淵、へこんでないで詠唱して!」
「了解だ…ルカ」
 ショックから立ち直れきれていないが、スペルブックを開き裁きの章と唱える。
 綾瀬はリトルフロイラインを一旦帰還させ、章の力を吸収させる。
「(次は哀切の章よ)」
 互いにアイコンタクトで伝え合い、祓魔の魔力をリトルフロイラインに与える。
「祓いなさい」
 リトルフロイラインを再召喚させた綾瀬は、憑依された者へ植物で作った銃を向けさせる。
「了解です綾瀬様!ガンガン撃っちゃいますよーっ」
「へたっぴ、外れだ」
 ネロアンジェロの翼で空を舞い、祓魔の力が込められた銃弾をかわす。
「むぅ〜、なんかイラッときますね」
「怒ってはいけません、リトルフロイライン。続けなさい」
「はいっ!絶対、撃ち落してやりますよ!」
「あの辺が目障りそうだな。シネ、消えろ」
 魔性は彼の身体を操り、光術でルカルカたちを排除しようとする。
「(ゴッドスピードの速度についてこれるなんて、あの翼が加速させているのかしら…)」
「いっきにシナセない。貴様らをいたぶりコロシてやるよ」
 わざと急所を外し、光術を光の礫状化させルカルカの足をじわじわと痛めつける。
「…ぅあっ!」
「ルカ!!」
「来ないでっ。淵は被害者の人を…、ダリルとカルキは甚五郎たちの周りにいる魔性を祓って!」
「くぅっ…いたしかたない。やられるなよ」
「分かってる」
 少し厳しいかな、とは思いつつも口にも表情にすら出さなかった。
「絶対祓ってやるんだからっ」
 グラキエスに憑依したグラッジを祓おうと哀切の章を唱える。
「その足で、どれくらい持つだろうなぁ?」
「フンッ、勝手に言ってなさいよ」
 憑依する力を削ごうとルカルカは光の嵐を放つ。
「あたんねーな」
「(ちぇ、ミスッちゃったわ…)」
「綾瀬様、相手が早すぎてなかなか命中しませんっ」
「あまり無駄撃ちするわけにはいきませんね。ここは攻撃の機会を狙うとしましょう」
 ルカルカにとっては酷なことだが、確実に祓うために綾瀬はリトルフロイラインの攻撃を中断させた。
「石にして破壊してやろうか」
「いけない…、ルカルカさんがっ」
 集中的に足を狙われ、満足に動けない彼女の前にレイカが立つ。
「もう…やめてください。人の体を勝手に操って…こんな酷い仕打ちをっ」
 アンバー色のバリアーに、灰色の泥化した石化魔法がべったりとへばりつく。
「もっと、もっと集中しなくては…っ」
 染み込むようにじわりと入り込もうとする泥を、精神力を元に作り出した光の層を重ねて進入を阻む。
「(この足を回復する時間さえあれば…)」
 ずっと痛みに耐えていたが、かわしているうちに傷へ負荷がかってしまい、回復しなければ歩くことさえ厳しくなりそうだ。
「―……ルカ!」
「淵、離れるでない。不可視の者が接近してくるぞ」
「新手か…っ」
 何体祓っても新手の魔性が襲ってくるせいで、助けにいこうにも行けずギリギリと歯噛みをする。
「(なんで命中しないの…。まさか、ルカの行動が読まれているってわけ?)」
 相手から接近してきているのにも関わらず、ルカルカの術を全てかわされてしまう。
「クククッ、終わったな」
「……っ!?」
 行動予測されてしまい、奈良の鉄鎖が足に巻き絞めつける。
「ぁが!」
 肩、腕、腹、足を憑依によって破壊力が増した拳で殴られる。
「今です、リトルフロイライン」
「撃ちまくりますよ。えぇええいっ」
 リトルフロイラインは照準を器へ合わせトリガーを引く。
「な…ぁっ!」
 もっと痛めつけて遊んでやろうとしたのが敗因だった。
 僅かな隙を狙われ、祓魔の力が込められた銃弾がグラッジの本体に侵食する。
「気配を感じる。離れたようじゃ」
「よくもやってくれたわね、お仕置きよ」
 悔悟の章を唱え、逃走しようとするグラッジを捕らえ体力を削ぐ。
「二度とこの町に現れないで!」
 光の嵐を命中させ、厳しい仕置きする。
「―…シャイセッ!(畜生ーっ!)」
 憑依する力も抵抗力も失い、悔しげに叫び逃走した。



「リトルフロイライン。魂に入り込んだ毒の度合いはどうか?」
「まだ腐敗毒までには至らないようです」
 憑依時間が短かったため、酷く進行することはなかったようだ。
「目を覚ましてしまう前に、毒を取り除きましょう。カメリアさん、さきほどの解毒剤を作ってください」
「人にとってこの気候は、まだ日が高くって暑いでしょうから、冷えたものにするわね」
 ピンク色の花びらが、葉のグラスの中へ舞い落ちる。
「花の蜜の香りもしますね?」
「えぇ、その部分も薬になるのよ。飲みやすい甘みを足すことも出来るし」
「良薬口に苦しではないんですね」
 ロザリンドはグラキエスの傍で屈み、解毒剤を飲ませる。
「なんと痛ましい…」
「後はお願いしますね」
 憑依による精神ダメージの治癒術を、行使出来るエルデネストに任せようと離れた。
「グラキエス様、すぐ治療してさしあげます」
 精神を蝕む邪気を祓うべく、エルデネストは彼の傍に跪く。
 穢れた気は黒い霧となり、浄化の光の中へ消え去る。
「―……ぅ」
「ようやくお目覚めになられましたね、グラキエス様」
「俺は……。確か…憑依されてしまったような…」
「もう祓われましたから心配いりません。精神の邪気は、私が取り除いておきました」
「エルデネストがか?そうか、ありがとう」
「もったいなきお言葉、ちょうだいいたします」
 砂浜から起き上がった彼に、恭しくお辞儀をする。
「グラッジの気配が離れてゆくぞ」
 何を思ったのか魔性たちは海辺へ向かう。
「人に憑く気だわ」
「ルカ、もう立っても平気なのか?」
「えぇ。魔法で治したから動けるわ、淵」
 ルカルカたちは草薙羽純とグラキエスの探知能力を頼りにグラッジを追う。
 魔性はメロン割りしている人々をターゲットにし憑依する。
「その人たちから離れなさい」
「うるさい、オマエのメロンから割ってやろうか」
「ル、ルカの!?」
 器が鉄の棒を振り回す姿に、慌てて本で胸を隠す。
「胸のことじゃない、頭のことだ」
「自慢してるわけじゃねぇし、幸せの元でもねぇし。豊かな胸爆裂しろとかないだろう」
「あ、そういうことか」
 ダリルとカルキノスの突っ込みにほっとする。
「まぁ、グラッジの中に平ら胸がいるかどうかは知らねぇけど」
「アホな雑談していないで、さっさと祓え」
「ほ〜い」
「綾瀬、一箇所に集めてほしいの。祓えそうなものは祓って」
「分かりましたわ。…リトルフロイライン」
「どんどん撃っちゃいますよ!」
 植物で作ったゴーグルを装着し、二丁の祓魔銃で撃つ。
「逃がしませんっ」
 器を持ち去られないよう、逃走者の背を狙い、本体に弾丸を命中させる。
「1体も逃すな、カルキ」
「おうよ。なんか漁業みてぇだな、獲るのは魚じゃねーけど」
 哀切の章の力を網状に変化させ、外さぬよう淵とカルキノスが円を描くように回転させ、徐々に範囲を狭めていく。
「まったく次から次へと…懲りない連中だ」
 ダリルは本物の海へ哀切の章の光の波を放ち、水色に輝く海でカモフラージュしながら漣が浜辺へ押し寄せるのと同時に、憑依体へ侵食させる。
 器から祓われたグラッジたちは…。
「オマエラ、…イツカ、コロ…スッ」
 憑依する力を回復するために逃走し、再び襲ってやろうと目論む。
「ホント、悪い子ね」
 ルカルカたちは逃走を許さず、悔悟の章による術の重力場で逃走体力を削ぐ。
「さぁてと、どうしようかな♪死に至らしめようなんて、度が過ぎてるわ。菩薩の顔も三度までよ」
「ちなみに、ダリルのほうはコンピュータ夜叉な、おっかねぇーぞ。夜叉になるまで仏のツラだとかの間はナシでな。つーか、ダリルの仏系の優しいツラって想像つかねぇや」
「変なあだなつけるのはやめろ、カルキ」
「む…、そなたのPCに何かいるようだが…」
「―……ほぅ、いい度胸だ」
「それ砂の上に置いて、ダリル。…うんそうそう。で、メロン割りっ!」
 若者たちが使っていた鉄の棒を拾い、PCを破壊した。
「こうなっちゃうから、ね?」
 力いっぱい破壊の限りを尽くされたノートパソコンは、あちこちへこんでしまっている。
「あーあー、こりゃひでぇな」
「よいのか?」
 ズタボロにされたPCへ、淵が視線を落とす。
「大切な物は海には持ってきてない。精密機械に潮風は辛いからな…」
「機械には思いやりがあるのだな」
 廃棄しても構わないものとはいえ、相当使い込まれ天寿を全うしたようだ。
「体力もほとんどないのに、起動させられるかしら」
「一緒に遊んでやったら妬むのヤメテくれるってんなら、遊ぶぜ?」
「……ジャ、…メロンワリ」
「頭割るのはナシだって」
「んー、割らなければいいんじゃ?ここに穴を掘ってっと…。カルキ、どうぞ」
「ぇ、何が?」
 いやな予感がし、思わず後退りする。
「大丈夫、割らないから」
「そういう問題かよ」
「ルカのメロンはイヤ。か弱い乙女だもの」
「どこが…ぉわっ」
 問答無用で穴に落とされ、頭以外の部分を全て砂に埋められてしまう。
「それでは俺が…」
「淵がやるのかよ!」
「グラッジがカタクリズムで行うことになれば、とんでもない目に遭うぞ?弓矢で射抜くようにやれば問題ない」
「メカクシ…」
「む、そうだったな」
 淵はタオルで目隠しをする。
「この場合、言いだしっぺが妥当だろう?」
「危ねぇーって、それぜってぇ危ねぇーから。ぎゃぁああっ」
 人を襲うことをやめることを条件に、“遊んでやる”のセリフが引き金になり、割ってはいけないメロン割りが始まった。



 綾瀬たちのほうは遊びの光景を気にせず、憑依されていた者の治療に専念する。
 リトルフロイラインを再召喚し、解毒薬を生成させる。
「お薬がたくさん必要みたいですね」
 必要な人数分を数え、足元から伸ばした蔓で薬草を出現させ、実と葉を丸薬として合成する。
「目を覚まさないうちに、飲ませてしまいましょう」
 被害者たちが目を覚まして暴れださないうちに、丸薬を1粒ずつ飲ませていく。
 エルデネストのほうは症状の重い者から順に、精神の邪気を祓う。
「(逃走したグラッジが憑依しに向かう前に、すでに憑依されていた者もいたようですね…)」
 正体を隠し憑依体とその友達を、殺す隙を狙っていた者がいたようだ。
「(なるほど、嫉妬に狂い殺そうとするだけの者だけあって執念深い…)」
 精神の深いところまで邪気が進入しているため、除去に時間がかかってしまう。
「(―…1人に5分もかけてしまいましたね。ですが、焦りは禁物です。集中力を削がれてしまいますからね)」
 速やかに術を行使しつつも、焦りの感情を抑え、2人目の治療にとりかかる。
「使うがよい」
「ありがとうございます」
 綾瀬は淵からもらったSPタブレットを口に入れた。
「遊びはもうよいのですか?」
「いや、まだだ」
「そうですか、いってらっしゃい」
 簡単に言葉をかわし、腐敗毒にかかった者の治療に戻る。
 日が傾きかけた頃。
 ようやく被害者の治療を完了させた。
「今のところ…発見した者の救助は、全て終わりましたわ」
 綾瀬の精神力はつきかけていた。
「ご苦労様、リトルフロイライン」
 これ以上とどめておくのも厳しく、一旦帰還させた。
「よく頑張ったな、エルデネスト。10人以上も治療を行ったのか…ご苦労様」
 グラキエスはエルデネストの成果を喜び微笑する。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
 1人の死者も出さず、成果を喜んでもらうという見返りをもらう。
「皆、一旦宿へ集合しているはずだ。戻ろう」
 情報交換を行っているだろうと思い、グラキエスたちは集合場所へ向かった。