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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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第3章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story1

「やつらは精神や魂だけではなく、対象の者の身体自体を痛めつけることもあるのだな」
 不幸の素である物質的なもので苦しめることもあるのか、と鉄骨から視線を外し、リオンはアニスが見つめる先を睨む。
「むむ〜っ。大変だよ、リオンッ。何体か接近してる!」
「ほう、近辺にいる…ということか」
「はわわ、和輝に近づいてるよ。あの人を狙っていた魔性もそっちにいっちゃったみたい」
「俺のほうにだと?」
 不可視化した悪霊たちは和輝に狙いを定め、“ジー フォン メッチェン ウムゲーベン、ジー ラディエイト アオス〜…(少女に囲まれやがって、消してやる〜…)”と憎しみを込めて言葉を吐き捨てた。
「いつまでもここに留まっているわけにもいかないか」
 騒ぎを気にしつつも店舗の工事を続けている者まで、再び標的にされかねない。
「街道へ移動するぞ。女の恋人、彼女を運んでついてこい」
 樹はぶっきらぼうに指示し、大通りへ駆けていく。
「アニス、俺があいつらの囮になる。その間に、治療してやるんだ。また何か、“不幸”が襲ってくるかもしれないからな」
 狙われている自分は最後尾の守り役をしたほうがよさそうかと思い、和輝はアニスに呪いの解除を行ってくれと告げた。
「―…う、うん」
「私はやつらの相手をせねばな」
 リオンは箒の上に立ち、哀切の章のページを開く。
「樹、グラッジの位置を教えろ」
「ターゲットにした者を囲もうとしているのだろうが、気配の位置が所々変化している。彼の本体がどれか分からず、狙いが定まらないのかもな」
「ほぅ……。そのまま戯れているがいい」
 和輝の姿と樹の探知で的を絞り、光の波で飲み込むかのように左右から包囲する。
「気配が動かなくなったな」
「術が命中したということだな。アニス、止まれ」
「うん、分かった!」
 ふよふよと箒で飛びながら止まり、和輝の方へくるりと回る。
「治療は終わったか?」
「ばっちり終わったよ。でも、まだ眠ってるみたい」
「ふむ…。では、次は向こうだな。危険だと判断したら、すぐに離れるのだぞ」
「そ、そうだね」
 アニスはグラッジを説得しようと、パートナーのほうへ寄っていく。
「むぅ、相手を羨ましがってばっかりじゃ意味がないよ?アニスは和輝の役に立ちたいから、頑張ってるだし、グラッジも頑張らないとだよ?」
「―…ガンバ…ル?」
 聞き慣れない単語に反応したのか、たどたどしい口調で言う。
「んっと、頑張るっているのはね。つらいこととかあったりしても、へこまないで最後まで、やり遂げることとかだよ。幸せになりたいなら、頑張ってみないとってこと!」
「ソレ、…デ…ホントニ、シアワセ…ニ…ナレル…?」
「グラッジが諦めなきゃきっとね」
 少女は頷きながら姿の見えない相手の問いかけに答え、アークソウルで感じる気配のほうへ微笑みかける。
「シアワ……セ、…ガンバ…ッテ…ミル」
 グラッジは幸福の道を探してみるべく、アニスたちから離れていった。
 その後、憑依されていた女が目を覚ます。
「気分はどうだ、女。この男が、お前の恋人だということが分かるか?」
 どこまで意識が戻ったか確認しようと、起きたばかりの女に樹が声をかける。
「は、はぁ!?どーして私が、こんなヘッポコと!ていうか、あんたら誰よっ。あー、分かった!このストーカーの手先でしょ!?あっち行け!!」
「(この者がウソをついていたと…?いや、様子が妙だな)」
 憑依されいていた記憶を失ったとしても、他人に対していきなり暴言を吐く女が、幸福を嫉まれていたような者に見えない。
「違う、私たちは…っ」
「樹ちゃん。ここに来る前に、グラッジについて情報をもらったよね。この人の魂が、毒に侵食されているせいで、人格が変わっちゃっているのかもしれないよ」
「―…そうだったな。おい、薔薇学の黒犬少年たちにテレパシーを送って、居場所を聞いてくれ」
「毒の治療に関しては、使い魔を扱う者たちでないとな。(こちら和輝。魂を毒に汚された者を救助した。そちらの居場所を教えてもらえるか?)」
 いつ暴れ出すか分からない被害者から視線を外さず、清泉 北都(いずみ・ほくと)にテレパシーを送る。
「(それってかなり酷い感じ?)」
「(こちらでは判断出来ない)」
「(とりあえず、クリストファーさんたちのところへ連れていってみよう。僕たちが町に入った場所で合流しよう)」
 目印になりそうなものを探すより、入り口に向かった方が早いだろうと、合流ポイントを告げた。
「北都、急に立ち止まってどうしたんですか?」
「今、和輝さんが被害者を発見したって、テレパシーを送ってきたんだ。クリストファーさんたちが待機している場所に案内してあげなきゃ」
「合流場所はどこです?」
「町の入り口だよ、リオン。そのほうが分かりやすいかなってね。コレットさんたちも、それでいい?」
「うん。発見したんだったら、まず迎えにいってあげなきゃね。それにしても、あまり人を見かけないね」
 コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は合流ポイントを目指しつつ、人々の様子を見ながら進む。
「この騒ぎだからな。さすがに勇気のある一般の買い物客は少ないんじゃないか?」
 のんびり出歩ける状況じゃないんだろうと、天城 一輝(あまぎ・いっき)が言う。
 見かける者といえば露天の店主や、そこで日々の食材を購入している者くらいだ。
「オヤブン。あっちの家、なんだか騒がしいよ。どうしたのかな?」
「怒鳴り声が聞こえるな。―…何か飛んできた!?」
「お酒の瓶ね」
 コレットは一輝の肩を掠めたそれに目を落とす。
「あの家から飛んできたっぽいよ。ほら、窓ガラスが壊れちゃってるわ」
「ケンカでもしてるのか?」
「女の人が泣きながら出てきたわ」
「やっぱりケンカか」
 コレットの視線の先を見ると、民家から泣きながら出てきた女に、男が酒を飲みながら怒鳴っている。
「(ひょっとしたら魔性の仕業かも…)」
 何があったのか聞こうと、北都が駆け寄る。
「ねぇ、あの人とケンカしちゃったの?」
「そ、その…一歩的に夫が…っ。私の料理を食べたら急に怒り出したの…。いつもは美味しいって食べてくれるのに!」
「普段は温厚な人なのかな?」
「えぇ…」
「リオン、被害者リストをメモしてたっけ」
「ノートに書いておきましたよ」
 エースがエリザベートに見せてもらったリストを見て、しっかり書き込んだノートを北都に渡す。
「(この人かな…)」
 何が気にいらないのか、暴れている男の外見とノートに書かれた特徴を照合してみる。
「この人も連れて行かなきゃね」
「そ…そうですね、北都。……えっと…ある治療が必要なだけなんで、安心してくださいね。彼をいったん、こちらでお預かりします」
 彼に合わせてリオンも小さな声で言い、暴れている男の妻を泣き止まさせようと告げた。
「治療が終わりましたら、ご自宅まで連れていきますね」
「え!?夫は…何かの病気なんですか!!?」
「ぁー…えーっと…。とにかく、不治の病とかじゃないんで、大丈夫ですから!北都、連れて行きましょう」
 おそらく魔性の存在を知らないであろう女に、“あなたの夫は魔性の悪霊によって、性格が変わってしまったんです”と教えても、信じるか信じないか分からない。
 後者のほうなら無駄に怒らせるだけだし、前者だとしても不安な思いをさせてしまう。
 リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)は北都と一緒に、魂を毒に侵食された男を確保する。
「私も一緒に行きます!」
「いえ、奥さんは家の中で待っていてください。北都、早く行きましょう!」
 妻のほうを家の中へ押し込めて扉を閉めると、“やっぱり心配だからついて行きたい”言い出される前に、さっさとその場から離れた。



 リオンたちが町の入り口へ到着すると、すでに和輝たちが待っていた。
「お待たせしました。クリストファーさんたちは町の湧き水場にいるので、そこまで案内しますね」
「中心部辺りか?」
「いいえ、まだ日差しが強い時期ですし…、湧き水の周りにいくつか木があって、陰が多いところにしたんですよ」
「(アニス、彼らの周囲に目に見えない者の気配はないか?それと、凶暴化させられている者の気配が、それで探知出来るかも教えてくれ)」
 こっそりつけてきたりしていないか、精神感応でアニスに離しかけて調べさせる。
「(グラッジはいないみたい、和輝。連れて来てる人の気配は、ちゃんと感じられるよ)」
「(ありがとう、アニス。引き続き、探知を頼む)」
「(おっけー♪)」
 少女はぴったり和輝に寄り添うように箒で飛ぶ。
 彼らに案内された先は、木々の傍にパピルス草も生え茂っている。
 そこの木陰に、交代で聞き込みを行おうと待機しているフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)たちの姿もある。
「お帰り、ヴォルカンくん。毒の治療はその2人だけかな?」
「えぇ、はい。お願いします」
「ちょ…ちょっと、暴れないで!」
 2人で両サイドから腕を掴んで逃がさないようにしているが、男は酒瓶を手にしたまま暴れる。
「離しやがれ。あいつのツラを、この瓶でぶっ叩かなきゃ気が済ねぇんだっ」
「そんなのあなたの本心じゃないんだから…させないよ、そんなこと」
「クローリスさん、解毒用の花を咲かせてもらえる?」
 魂を汚す毒から開放してあげようと、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は予め召喚されていた花の使い魔に頼む。
 白いミニのワンピースを着た少女は祈るように両手を握り、それを開くと手の平には白薔薇のつぼみが咲いている。
 少女は咲かせた薔薇を葉で作ったグラスに入れると、それはすぐさま白い砂粒のような姿へと変えた。
 花の蜜のジュースのような甘い香りを漂わせ、グラスの中で揺れている。
「クリスティーくん、これを飲ませるといいのらぁ〜!」
「ありがとう。…2人とも、その人を絶対に離さないでね」
「は…はいっ」
「お願いだから動かないで。リオン、口を開けさせて」
「分かりました。ほら、甘いお薬だと思って、いっきに飲んじゃってください」
「誰が飲むもんかーーー。ぅぐ…っ、んん〜〜っ」
 リオンに口を開けさせられて解毒ドリンクを飲まされ、吐き出さないように今度は口を閉じさせられる。
 男が暴れるのを止めたかと思うと、糸が切れた人形のようにがっくりと膝をつき、倒れてしまった。
「気絶しちゃったのかな?」
「ふはいどくかしそうなほど、あぶなかったりぃ。そこまでしんこーしちゃうとボクたちクローリスじゃ、なおしてあげられないのらぁ〜」
「そうなんだ?」
「どくはじきにぜーんぶ消えるよぉ。その人、ねむってるだけだから〜。そのうち目をさますはずりぃ♪」
 クローリスは白薔薇で作ったソファーに座り、魂を侵食した毒は消えていくと、北都たちに告げた。
「祓った直後だと、また取り憑かれ易い状態になったりはしないかな」
「それは関係ないんじゃないの?ただ、私たちみたいに対抗する力を持たないと、簡単に憑かれてしまうでしょうね」
 クリスティーの疑問に美羽が答える。
「―…なるほどだね。そういえば、綾瀬さんたちはどのエリアを担当しているのかな?」
「俺がテレパシーで聞いてみよう。…海辺にいるらしい。他にクローリスを使える2人は屋外、後1人は屋内にいるようだ」
「一塊で行動してるんじゃないんだね」
「有事の際は、俺が相手側へ伝える。エリアの境目付近まで、来てもらえばよいだろう」
「私たちもいつ憑依されて、毒に侵食されるか分からないのだからな。エリアごとに使い魔を使役する者がいたほうがよい」
「うーん…そういうことだったんだね」
 いざという時のために、一箇所に集まらなかったのか…と頷いた。
「こっちの治療も急いでくれ」
「樹ちゃん!暴れっぱなしで全然、大人しくならないよ」
「お袋〜、もう…手に力がーっ」
 章と太壱は被害者の女に手を振りほどかれてしまった。
「てめぇのキモイ顔を洗浄してやるわ。しっかり洗えよっ。まぁー、洗ったところで、たいしたツラにならないでしょーけど〜。キャハハハッ!」
 自由になった女は恋人である彼氏の頭を掴み、湧き水の中に顔を突っ込ませる。
「ハニー、それがキミの本心…!?がぼぼぼっ」
「ちょーきもぉーい、なにその呼び方。最悪〜」
「おい、やめろ!それ以上やったら、死んじまうじゃねぇかよ」
「うっさい。てめぇも沈めてやる」
 止めようとする太壱を殴り、湧き水の中へ落とす。
「ぶわっ、冷てぇえ」
「なにあがってこようとしてんの?沈んどけよ」
 青々とした草の上にあがれないように、足で水を蹴って邪魔をする。
「お袋、親父〜助けてくれぇえ〜」
「それくらい自力で戻れ、バカ息子」
「うんうん、これも修行のうちかもね」
「げっ、ひでぇ〜…」
「タイチ、さっさとあがってきなさいよ。水浴びしてる暇なんてないんだからね」
「これが水浴びしてるように見えんのか、ツェツェ」
「例えよ、例え!」
 セシリアまで助けようとせず、彼に対して厳しい言葉のエールを送るだけだった。
「やめなさい!」
「離せー、バカァアアッ」
 美羽に取り押さえられた女は、地面に突っ伏しながらじたばたと暴れる。
「マジ、俺ばっかり酷い目に遭いすぎじゃねぇ?」
 水の中から生還した太壱は全身ずぶ濡れ状態になってしまった。
「無事だったか」
「お…お袋。俺のこと…そんなにっ」
「うむ、スペルブックは無事のようだな。どこも濡れていない」
「俺の心配はーー!?」
 本体のほうの心配をしてくれたのかと思いきや、その喜びは鉄拳で殴られるのと同じくらいキツイ樹の言葉の一撃によって、あっさり砕かれた。
「もう暴れないで、じっとしていて!」
「んのぉお、離せってばぁああ」
「次は俺が治してあげる番だね。クローリスくん、こっちにおいで」
 互いに疲労を蓄積しないよう、ローテーションで治療を行おうとクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、召喚しておいたクローリスを呼ぶ。
 退屈紛れに水辺で足をばしゃばしゃさせ、遊んでいたクローリスが彼の傍へ寄る。
「何よ、なんか用なわけ?」
「解毒出来る花を出してほしいんだ」
「ふんっ、しかたないわねぇ。ヒマだからあげるだけなんだからね!」
 クローリスはツンとそっぽを向く。
 手の甲に現れたピンク色の花のつぼみに口付けると、つぼみはトゲのない美しい薔薇として咲く。
「非物質ぶぶんの内部しんしょくがただから、飲み薬でいいわね」
 白薔薇のようなクローリスと同様に、薔薇の葉でグラスを作って花を入れる。
 花はピンク色の砂粒状に見えるが、グラスの中では液状のドリンクとして、そよ風にゆらゆらと揺れる。
「―…はいっ。作ったんだから、さっさと受け取りなさいよ」
「フフッ、ありがとう」
 クリストファーは地面に屈み、小さな少女から解毒ドリンクをもらう。
「これで元の人格に戻れるはずだよ」
 グラスを傾け、美羽に取り押さえられている女に飲ませる。
「んぐ〜…っ!?」
「ちゃんと全部飲まないと、よくならないよ?」
 抵抗する女の口を手で押さえ、飲み干させた。
 彼女は抵抗を止め、地面の上で眠ってしまった。
 ―…数分後。
「わ…私、なんでこんなところで?」
 魂からすっかり毒が消え、正気に戻った女が飛び起きる。
「ハニー!目を覚ましたんだね」
「―……ダーリン!ぇっと、私…よく覚えていないんだけど。なんだかダーリンに酷いことをしてたかも…」
「そうだね、いろいろとキミの本心を知った気がするよ」
「ぇ、ええっ?何それ」
「へぇー…あれだけ言っておいて、とぼけるんだ?」
「怒らないであげて。さっきまでの彼女の言葉は、本心ではないんだ。態度が急変してしまったのは、彼女だけじゃなくって…。今、この町でいろんな人に起こっている現象なんだよ」
 事情を知らない彼が、散々罵声を浴びせられて怒らないわけがない。
 クリストファーは彼の怒りを静めようと、町で起こっている状況を簡単に説明する。
「彼女を愛しているのなら、信じてあげるべきだと…俺は思うけどな」
「いきなり人格が変わってしまったとでも?」
「うん、そういうことだね。すぐには信じられないかもしれないけど、彼女の気持ちは疑わないでほしいな」
「分かりました…。でも、彼女とは距離を置こうかと思います。…ハニー、互いにしばらく会わないでおこう」
「そんなぁ〜、ダーリン!やだ、行かないで…うわぁあん」
「今はそっとしておいてあげようよ。騒ぎに巻き込まれちゃうと危ないから、なるべく外に出ないようにね。あたしたちが家までついていってあげるから…」
 泣き喚く女の背をコレットが撫でてやり、彼女を自宅へ送ろうと救護場から離れる。
「僕たちも行くよ。この人を家に帰さなきゃいけないし」
「こんどは私たちが聞き込みにいく番ね。和輝さん、エリシアさんたちと合流したいの。コンタクトをとってもらえる?」
「了解した。(こちら和輝。フレデリカたちに、そちらとの合流ポイントを伝えたい)」
 エリシアにテレパシーを送ると、“町の中心部にある、露天で待っていますわ”と返事が返ってきた。
「町の中心部に、露天があるんだが。そこで待つそうだ」
「ありがとう。…ルイ姉、レスリー。行くわよ」
 軽く礼を言い、フレデリカはパートナーを連れて露天を目指す。
「皆、離れてしまうと守り手がいなくなってしまうか。私とアキラ、バカ息子…それと小娘もここで待機だな」
「情報をつかめなかったけど仕方ないですね。タイチのお母さん」
 憔悴モードに入っている太壱を連れて、捜査を行うのも厳しいか…とセシリアも樹たちと待機する。