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第二章 一体何がどうしてこうなった

「……何がどうしてこうなったんだろう」
 頭を抱えつつアゾートがぼやく。本当、どうしてこうなった。一体誰のせいだ、責任者出てこい。
「なあ、さっきからなんか騒がしいんだが何かあったのか?」
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が頭を抱えるアゾートに話しかける。
「えーと……色々あり過ぎて何から説明したもんだか……」
 困っていると、どうやら退場させられたのかなななが戻ってきた。
「簡単にまとめるとカクカクシカジカ」
「……悪い、さっぱりわからん」
「……あれー? 普通ならこれで通じるのに」
「そ、そうなのか……悪い」
 首を傾げるなななにセリスが申し訳なさそうに言う。
「いや、『カクカクシカジカ』で通じるわけないから。実は――」
 アゾートが状況を説明するが、
「すまん、詳しく説明されてもよくわからないんだが」
セリスは困ったような表情を浮かべてしまう。
「だよねー……」
「ですよねー……」
 そのリアクションにアゾートとボニーが苦笑を浮かべる。これが普通である。
「まぁよくわからないんだが……その状況に心当たりがあるっちゃある……」
「心当たり?」
「何ですか心当たりって?」
 そう言われてセリスが「あれだ」と指さす。その方向には、
「む、我に何か用か?」
マネキ・ング(まねき・んぐ)が何やら変な物を抱えていた。
「マネキ、さっき発明した装置とやらの説明をしてくれ」
 セリスはマネキが抱えている『装置』を指さした。
「ふむ、我の発明品に興味があるか……ならば聞かせてやろうぞ!」
 マネキがドヤ顔で『装置』を見せつけるようにする。
「この一見何の変哲もないこれは『場の空気を変える』という代物よ!」
「場の空気を……変える?」
 ボニーの言葉にマネキはドヤ顔のまま胸を張る。
「そう! この装置にかかればエアコンで空気を変える様に、場の空気を変えてしまう! ちなみにこいつは『推理ドラマ的な空気』に変える様に設定してある!
「いや、何で推理ドラマ的な空気に……」
「昨日コイツ、探偵モノの推理ドラマ観てたんだよ……」
 アゾートの呟きにセリスが困ったような顔で答えた。
「この空気に触れた者は探偵的行動を行ってしまうのだよ、無意識の内にな。それが被害者か加害者か、将又探偵役かは我の知らぬところではあるがな」
「なあ、俺は何も起きていないんだが?」
「お前が空気読めないだけだろう。そういう者にとっては唯の空気であるからな」
「なん……だ……と……?」
 マネキの言葉に愕然とし、「俺は空気が読めなかったのか……」とセリスが呟く。
「まあ何が起きたのかはわからんが、それはこの装置の空気を吸って場の空気を読んだ者が起こした結果でしかない。我には全く関係のない事よ」
「つまり、キミにもどうしようもないってこと?」
「その通り!」
「胸を張って言う事じゃないよ――って逃げるなぁッ!」
「ふはははははは! 我には全く関係ないからなぁッ!」
 アゾートの静止を聞かず、『装置』を抱えてマネキは走り出していた。人、それを責任転嫁と言う。
 咄嗟の事に加えて研究ばかりで引きこもりで普通の契約者より体力が乏しい(んじゃないかなぁ、駄目?)アゾート、契約者でもなんでもない一般人のボニーが追いつけるわけも無い。後に残ったのは愕然としたセリスのみ。いやコイツも連れて行けよ。
「ど、どうしましょう! あの『装置』が原因だというなら……」
「とりあえず追いかけて捕まえないと!」
「あ、その必要はないよー? あの『装置』とか今回関係ないし」
 あっけらかんと言うなななに、思わず「え」とアゾートとボニーが足を止める。
「何でそんなことわかるの?」
「だってマネキさん、だっけ? このリアクションだとクラスが『ケンセイ(拳聖)』だもん。そういう装置とか作るならアーティフィサー系のクラスじゃないと駄目だってエロ――偉い人が
「ああうんその辺りの事情は解らないけどよく解ったからこれ以上言わないでいいよ。何か大変な事になりそうな気がするから」
 アゾートがこめかみを押さえつつなななの言葉を遮った。
「あー……そうだね、結構ビクビクしながらやってるからこの辺りにしようか。下手にリテイクとかなっても困るし」
「誰がビクビクしているのさ――ああやっぱ言わなくていいや、うん」
 アゾートが賢明な選択をした所で話を戻そうか。こういうシステム面に触れるネタってリテイクかかりそうで本当に怖いんで。
「それにしても、何でこんな状況になったんでしょうかね……?」
 ボニーが困ったように呟く。
「……彼女のせいかな?」
 そう言ってちらりとアゾートが見る先には、「ほえ?」と首を傾げるなななが居た。まるでアホの子だ。
「その通りッ!」
 何者かの声が響く。「また何か来た」とうんざりしたようにアゾートが振り返ると、そこにはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が腕を組み立っていた。
「今貴方が言った通り、今回の事は全てななな君が関わっているのよ!」
「……ふぇ? なななが?」
 ななながまたも首を傾げる。完全アホの子である。
「そう……ななな君がこの約1年半、受信し続けてきた宇宙電波がボケ心を増幅する恐ろしいフィールドを生み出してしまったの! 今この周囲は特異点となってしまっているのよ……『なななフィールド』という名の!」
「な、なんだってぇー!?」
 リカインの言葉になななが驚き声を上げる。
「あーそうなんだねー」
「あーそうなんですねー」
 一方、最早突っ込む事も諦めたのかアゾートとボニーが乾いた笑みを浮かべる。
「現にあの災害体質の雅羅君が絡んでいないのにも関わらず、あの秀幸君が普段なら考えられない体を張った笑いに走ったのがその証拠!」
「いや別に彼は笑いに走ってないからね!?」
「最早事故だったって事完全に忘れ去られていますね」
「……ななな君、ヒーローは時としてその強大過ぎる力、影響力ゆえに留まることを許されないことがある。残念だけどこの事件でこの世界にいられる限界が近いことがはっきりしたわ」
「聞いちゃいないね」
「聞いちゃいませんね」
 アゾート達の声に全く耳を貸さず、リカインはなななの両肩にそっと手を置き諭すように話しかける。最早他人の声なぞ全く耳に入っちゃいないのだろう、自分の世界に入り込んでいる。
 ちなみになななは「はえ?」と最早アホの子になっていた。まぁアホな子って可愛いよね、うん。
「これ以上秀幸君のような犠牲を増やさないためにも新たな段階へ進まなきゃならないの……さぁ、行くわよ!」
 そう言うとリカインはアホの子、ではなくなななの手を引いて駆け出す。先にあるのはスライダー。
 一気に最上部まで駆け上がる。そこにあるのは小暮が壊した柵。そこから下にあるプールを見下ろすとなななの手を強く握った。
「新しい段階に進むには苦しみは避けては通れない……でも大丈夫、苦しいのはあっという間だし、私も一緒だから」
「え? 何? 何をどうするの?」
「それはね……こうするのよッ!」
 そして、リカインは壊れた柵から宙に舞った――なななと一緒に。
「……はれ? ななな飛んでる?」
 空中で、スローモーションに風景が流れる。ゆっくりと、まるで空を飛んでいるような光景であった。
「えっと、こういう時って確か言うセリフがあったよね……確かあーいきゃーんふら――」
 どっぱーん、となななが言い終わる前に大きな水しぶきが上がった。まぁ勿論飛んでいるわけがないので、重力法則に従いなななとリカインはプールへと落下したのであった。
 水しぶきが無くなり、そこには新しくリカインの足が水面からまるで生えているように浮かび上がる。
「し、死んだぁッ!?」
「どどどどどどうしましょうアゾートさん!?」
「どうしようってとにかく助け――」

「よいしょっと。あー怖かった」

 慌てふためくアゾートとボニーの横で、何事も無かったかのようにななながプールサイドから上がってきた。
「「こっちは生きてるし!」」
「さーてこっちでいい具合に尺取れたから次行こうかー」
「いや尺ってなにさ!?」
「何で無事なんですか!?」
「細かい事は気にしない気にしない。それより小暮君の推理続けるよー」
「「細かくないから!」」

――デッドリスト入り、現在1名。