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【2022修学旅行】0208赤壁の戦い

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【2022修学旅行】0208赤壁の戦い

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【一章】長坂の戦い 前



 逃走する劉備一行に曹操軍の騎兵が迫る。

「やらせるかよっ!」

 劉備の護衛についていた猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は両軍の間に割り込むと、光条兵器『イプシロン零型』を振るい敵の足を止める。

「ここは俺が引き受ける!」
 そう言って敵兵の只中へと突撃する勇平。頼む、という劉備の声が聞こえた気がした。
 光の刀身が騎兵の一人を切り伏せ、地に落とす。
 
「はあっ!」
 その隣でウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)も別の騎兵と戦っていた。
 横をすり抜けざま機工剣『ソードオブオーダー』を一閃、騎馬が崩れ落ち、乗っていた兵は宙へ投げ出される。

 劉備を追おうとしていた数人が追跡を諦め、勇平達へと武器の矛先を向ける。

 勇平は光条兵器を構えなおし、先程ウルスラグナに言われたことを思い出していた。


「恐怖に負ければ、敵の槍は喉を貫き、矢は心臓を突き破る。ジンクスのようなものだが、存外バカにはできん」


 自分に言い聞かせるように呟き、恐怖に落ちそうになる心を必死に繋ぎとめる。そして剣の柄を強く握り締め、襲い来る敵兵を迎え撃った。

「そうだ、それで良い」
 ウルスラグナは敵兵に果敢に立ち向かう勇平を見て、満足げに呟いた。
 彼は剣を振るい敵兵の一人を倒すと、大きな声を張り上げた。
 元軍人である彼は強きものとの戦いを望む。故に狙うは雑兵ではなく指揮官、武将である。

「我が名はウルスラグナ! 全ての障害を挫く者なり!! 我こそはと思うものはかかってくるが良い!!」

 既に数人の仲間を倒されている騎兵らは怖気づいたのか、何も答えない。
 そこに駆けつけた者がいた。

「名のある武士とお見受けする! 我が名は夏侯惇!! 汝の相手は我が致そう!!」

 現れたのは隻眼の将、夏侯惇元譲である。
 夏侯惇は馬から飛び降りると、剣を構えウルスラグナと対峙する。

「過去の英雄と剣を交える事になるとは……やはり、この戦いに参加したのは正解だったな」
 そう言って夏侯惇を油断なく見据える。

 二人が同時に地を蹴り、直後剣同士が激突し甲高い音が響いた。

「はは、すげえや。俺も負けてられないなっ!」
 ウルスラグナ達の激闘を見て勇気付けられた勇平が、騎兵達へと再び突撃する。

 その時、敵兵の一人が悲鳴のような声を上げた。

「ひっ! 何だあのバケモノはっ!?」

 彼の視線の先には、腐臭を纏って歩く巨体が。
 巨体―キングゾンビの足元には、幽霊船に乗った不動 煙(ふどう・けむい)の姿があった。

「けむぅぅ」
 煙が威嚇(?)の声を上げる。
 
 両軍の兵士達はあまりの異臭に口や鼻を押さえる。中には臭いに耐え切れず気絶する者もいた。
 更に煙のアンデッドペット達が追い討ちをかける。怨念を纏った首無しの鎧たちが曹操軍へと襲い掛かった。
 錆びた剣が振り下ろされ、何人もの兵士を斬り捨てて行く。

「お命、頂戴ッス!」
「ひぃぃっ!」
 首無しの鎧がどこからともなく声を発し、それを聞いた兵士は背中を向けて一目散に逃げ出した。

 キングゾンビも、敵兵を潰さんと腕を振り上げる。
 巨大な腕が振り下ろされ、数人の兵が下敷きになった。更に、衝撃でゾンビの腐った肉片が飛び散り、苛烈さを増した腐臭にまたも倒れる兵士達。

 唯一、キングゾンビの隣に居る煙だけは、平気そうな顔をしていた。

 キングゾンビは現れてから丁度10分経過すると、忽然と姿を消した。召喚のタイムリミットが来たのである。
 ゾンビが消えると徐々に腐臭は収まり、両軍とも戦意を取り戻す。
 
 そしてその10分の間に、劉備は曹操軍からかなり離れた所まで逃げ果せていた。




「やれやれ……面倒な物を持ち込んでくれたもんだ」

 佐野 和輝(さの・かずき)が呟いた。彼は曹操の護衛兵と併走しながら、遠くにそびえ立つキングゾンビを睨みつけていた。
 護衛兵は彼をそれ以上曹操に近づかせようとはしなかった。どうやら、曹操と余程親しい者や、信頼を置かれているもの以外は近づくことも許されていないらしい。
 和輝の視界からキングゾンビの姿が消えると、騒然としていた周囲も徐々に落ち着きを取り戻し始めた。

 和輝は事前に接触しておいた曹操軍所属の契約者にテレパシーを送り、前線の状況を確認する。

「……やはり、殿は張飛か」

 そう呟くと、曹操へと叫ぶ。

「曹操。どうやら敵は、厄介な奴を殿としたようだ!」
 それを聞いて曹操は驚いた顔をした。
「ほう。何故それが分かる?」
「妖術を嗜んでいましてな。前線で戦っている味方から、そういった情報を聞くことができる。どうやら、劉備軍の殿を務めているのは張飛という将軍らしい」
「先程の異形については分かるか?」
「あれも妖術の一種だろう。だが限られた時間のみ使える術だったようだ。もう現れることはあるまい」

 その時、彼らの横手から箒に跨った少女が現れた。

「も〜臭い! 臭すぎるっ!! う〜服に臭い染み付いてないよね〜!?」
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)が心底嫌そうな顔をして和輝の隣につく。

「まさかゾンビを召喚するとはな。おかげで大分時間を稼がれた」
「ホントだよ〜臭いし汚いし! おかげで前線の兵士さん達、何人か倒れちゃってるしっ」

 それを聞いて、和輝に併走していた松永 久秀(まつなが・ひさひで)が曹操に声を掛ける
「それでは兵士達の士気が下がったでしょうね。曹操、これをどう対処します?」

 曹操は薄く笑みを浮かべると、大したことではない、と言った。
「此度の部隊は我が直々に選んだ精鋭。どのような事が起きようとも怯んだり怖気づいたりはすまい。もしその様な輩が居るのならば、それは我が兵にあらず」
「つまり敵、と?」
「そのような不届き者は晒し首にでもするのが良かろう」
 
 曹操はそう言って、笑みを深くした。

 その時、前方の茂みから二つの人影が飛び出した。

「うおぉぉっ!」
 叫びながら槍を振りかぶる男達は、鎧も兜も着けていない。恐らく劉備を慕い付き従っていた人民であろう。

 事前に気配を察知していたアニスが稲妻の札を投げつける。札が張り付いた男は突如降り注いだ稲妻に打たれ、その場に倒れ伏す。
 もう一人の男は久秀の命を受けた兵が斬り捨てた。

「民にここまで慕われるとは、劉備の人望もかなりのものだな。まあ政治や軍略に関しては曹操に敵わないか」
「でももし機会があれば、人心について少し話してみたいものね」
 和輝と久秀の会話は騎馬が駆ける音にかき消され、他の者に聞こえることは無かった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 
「いた、張飛だ!」

 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は前方を駆ける張飛の後姿を視界に捉えた。
 忍は速度を上げると、張飛へと接近する。

「三国時代の英雄、この手で倒してくれようぞ!」
 織田 信長(おだ・のぶなが)も嬉々としてその後を追う。

 張飛に追いついた忍が馬上から海神の刀を振り下ろす。
「勝負だ、張飛!」

 対する張飛は蛇矛で刃を受け止めるとそれを弾き返し、忍から距離を取る。
「小僧の相手をしている時間など無いわ! 命が惜しくば去れい!」
「なら小娘ならどうじゃっ!」
 側面へ回りこんだ信長が張飛へと切りかかった。先程と同じく、蛇矛で弾き返す張飛。

 張飛から離れた信長は、左手に持つ魔銃ケルベロスを撃つ。危険を感じ咄嗟に首を逸らした張飛の頭の横を、三つの銃弾が掠めていった。
 バランスを崩した張飛は馬から飛び降り、蛇矛を高々と掲げる。

「珍妙な物を使いおって。そんなに死にたければ今ここで引導を渡してやろうぞ!」
 張飛が蛇矛を構え、忍達へ向け突進する。

 馬から下りた忍は張飛の攻撃を避け、海神の刀を振るう。だが張飛は蛇矛を大きく振り回すと、忍の刀を弾き飛ばした。

「まだまだぁっ!」
 武器を失くした忍は蛇矛の柄を掴むと、驚異的な握力でそれを捻じ曲げた。
「ぬおっ!」
 驚いた張飛が蛇矛を振るい、忍の手を振りほどく。蛇矛はその中ほどからぐにゃりと曲がり、変形していた。

 信長が追撃を入れようと銃を構える。
 その耳が、聞き覚えのある叫び声を捕らえた。

「この声、魏延かっ!」
 信長は馬に跨ると、すぐさま駆け出した。

「ちょ、信長!?」
 驚く忍を余所に、信長は声のしたほうへと一目散に駆けて行ってしまう。
 更に張飛へと視線を戻すと、こちらも馬に跨り劉備の元へと駆け出した所だった。

 一人取り残される忍。

「……やれやれ」
 忍は肩を竦めると、自分の馬に乗ろうとし、そして足元に咲く小さな花を見つける。
「丁度いいや。お土産に持って帰ろう」

 そっとその花を摘み、懐へとしまう。

 そして一人で走り去ってしまったパートナーを追い、馬を走らせるのだった。






「さあ来いや曹操軍。全部防いたるで!」

 魏延 文長(ぎえん・ぶんちょう)の威勢の良い声が戦場に響き渡る。
 その隣に立つ夜月 鴉(やづき・からす)はやれやれといった表情だ。

「魏延のやつ、さっきとはえらい違いだな」
 呟く鴉。

 彼らは先程、劉備と顔を合わせていた。
 嫌がる魏延を鴉が理矢理引き摺って、だが。

 適当にいつも通りやろうぜ、という鴉の言葉に後押しされ、魏延はかつての主である劉備へと高らかに宣言した。

「曹操が攻め寄せて来たならば大王の為にこれを防ぎ、曹操配下の将軍が十万の兵で来るならば、これを併呑する所存。我が忠義は永劫に」
 そして劉備らを先に逃がし、追手の曹操軍迎え撃っていたのだった。
 迫り来る曹操軍の兵士達を、来るもの拒まずといった様子で次々となぎ倒していく魏延。そして、叫ぶ。

「わてを倒せる者は居るか!」
(あ、死亡フラグ。何か起こる気がするなー)

 鴉の予感は的中する。

「ここにいるぞーっ!」

 曹操軍の中から進み出てきたのは、馬 岱(ば・たい)だった。後ろには柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の姿もある。

「げぇ、馬岱!?」
 魏延が露骨に嫌そうな顔をした。

「行って来い馬岱!」
「おうっ!」

 恭也の言葉に威勢のよい返事を返し、一直線に魏延の元へと向かう馬岱。馬岱は立ち竦む魏延に肉薄すると、トライデントを大きく振りかぶった。
 
「うぉあ!?」
 寸での所でかわす魏延。

「ちょ、待て待て待て! 今は味方なんやから戦う必要無いやろ!?」
「問答無用。ちょっとばかし史実より早いけど、息の根止めてあげるよ」
「何でそうなるんやー!?」

 魏延と馬岱の微笑ましい(?)やり取りを、鴉は楽しそうに見物していた。
「まさか魏延殺した奴が出てくるなんてなー。しかも同じ契約者だし」
「俺達はどうすんだ? 一応、敵対してる軍に所属してんだが」

 そう言って傀儡を操る恭也。

「んーこのまま見てるのも面白そうだが、あいつらが戦ってるのにただ見てるだけってのもな」
 鴉も柳葉刀を構え、恭也と対峙する。

 恭也の傀儡が鴉へ殴りかかる。鴉は歴戦の防御術でそれを避け、柳葉刀で傀儡に切りかかった。
 鴉のカウンターを避けた傀儡を一旦戻し、体勢を立て直す恭也。

 その間にも、魏延と馬岱は激しい攻防を繰り広げていた。

「ええいちょこまかと。さっさと倒されなよ」
「冗談やないわ! 二度もあんたに殺されるんはごめんやで! というか、ここで死んだら歴史的にもあかん!」
「いいじゃんどうせもうすぐ死ぬんだし」
「良くないわーっ!!」

 口での応酬と武器での応酬を同時に繰り広げる二人。

 馬岱はトライデントを掲げると、神妙な顔つきで言葉を紡ぐ。

「我は馬氏最後の生き残り。今ここにその名に恥じぬ戦いを誓う」
 馬岱のヒロイックアサルト『馬氏の誇り』が発動。馬岱の体に力が満ちる。魏延は先程までの威勢はどこへやら、情けない声で悲鳴を上げていた。
 馬岱のトライデントが先程よりも速度を上げて魏延を襲う。続けざまに繰り出される連撃を、魏延は避けるのがやっとであった。

 更に、その場に第三者の声が割り込む。

「ここにもいるぞー!」
 魏延の声を聞きつけた信長だった。信長は刀を振り上げ魏延へと飛びかかる。

「ひいぃぃっ!」
 魏延は堪らずその場から逃げ出した。
 奴を討つのは自分の役目とばかりに、信長と競り合うように魏延へ攻撃を仕掛ける馬岱。

 それを見た恭也が呟いた。

「あー……こういうの何て言うんだったか?」
「『やめて! 私のために争わないで!』状態?」

 鴉の返答に苦笑する恭也。二人とも、既に戦闘する気は完全に失せていた。

 恭也は周りに居た曹操軍の兵士たちに、ここは自分達に任せて先へ進むよう促す。魏延と馬岱のやり取りに呆気にとられていた兵士達は我に返ると、劉備を追うべく駆け出した。
 その場に残されたのは、未だ悲鳴を上げて逃げ惑う魏延と、それを追いかける馬岱と信長、そして彼女らを見守る恭也と鴉の五人だけであった。