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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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第三章 狩りと消火


「お父様、契約書を破棄すればグィネヴィアさんを救う事が出来るのですよね」
 ミリィが涼介にもう一度イングリットから聞いた内容を確認した。
「もちろんだよ、ミリィ。この生命力略奪系統の呪いは媒体を破壊すればいい。出来るだけ早く。時間が経てば経つほど生命力は犯人の下へいってしまうから」
 涼介は契約破棄に出る前に他の仲間と共にグィネヴィアと林檎を診断したのだ。それにより原因は契約書にある事を暴いた。
「偽装の呪いを解呪してからですね」
 ミリィはダリルが言っていた事を口にした。
「契約書がいくつに分割されたのか不明だし何か仕込まれている可能性があるからね。何事も確実に」
 と涼介。用心の他に契約書が小鳥に偽装している事は確かだが、何羽いるのか分からないためだ。契約書に戻せば文章で枚数が分かる。
「そうですわね。皆さん、犯人さんを捕まえてくれるでしょうか。人を助ける力である魔法を人を苦しめる為に使う事は許せません」
 とミリィ。本当は犯人を捕まえに行きたかったのだが、グィネヴィアの事も放っておけず、人助けを優先した。
「心配無いよ。頼りになる人達ばかりだから」
 涼介はそう言ってミリィを励ました。犯人捕獲に奔走する仲間達をしっかり信頼していた。

 その時、
「……あら、お父様あの小鳥さん。魔力の残滓を感じますわ」
 ミリィが近くの花壇で一休みをしている小鳥に注目した。少しだが魔力を感じる。
「間違い無いね。捕まえるよ、ミリィ」
 『召喚者の知識』を持つ涼介はすぐに看破し、ミリィに合図を出してから捕獲へ急ぐ。
 何とか捕まえる事が出来て
「……この子をどのように紙に戻しますか」
 小鳥はミリィの腕の中。
「こうするよ。自分の魔力を送り込んで相手の魔力を打ち消す」
 涼介はそっと小鳥に触れた途端、偽装が解けてただの紙片に戻った。
「分かりましたわ」
 ミリィはしっかり見てやり方を覚えた。
「……仕掛けは、小鳥偽装だけみたいだね。しかし、これが契約書」
 涼介は文章を確認し、他の仲間へ連絡した。
「では、お父様。この契約書、わたくしが破棄しますわ」
 ミリィは、涼介が連絡を終えたところで契約破棄を申し出た。
「分かった、頼むよ」
 涼介はミリィに紙片を渡した。ミリィは受け取るなり、『火術』で灰にして処分した。
「これで大丈夫ですわね。小鳥の偽装だけで何も仕掛けが無くて良かったです」
 ミリィは契約書が小鳥偽装だけだった事に少しだけ拍子抜け。他にも何か仕込まれていると考えていたから。
「そうだね。小鳥偽装で十分と思っていたのかもしれない。一見すれば他の小鳥と見分けが付かないし、なかなか手を出せないだけでなく、間違えて本当の小鳥が傷付けられる恐れなど考えていなかったと思うよ」
 涼介は犯人の考えを推理し、犯人は心根の悪い人だと答えを出す。
「そうですわね、もしそのような事を考える方でしたらこんな事件を起こすはずありませんもの」
 ミリィはきっぱり言い切った。
「そうだね、ミリィ。とにかく一刻も早く眠り姫の活力を取り戻すべく頑張ろう」
「当然ですわ」
 涼介とミリィは小鳥を探して駆け回った。

「……小鳥に偽装するなんて」
 オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)はイングリットからの救援を受け、事情を聞くなり小鳥に偽装した契約書を探すためオデットはワイバーンウイングで街を一望できる高度まで羽ばたいていた。

 上空。

「……火事だらけね。きっとたくさんの怪我人が出ているはず」
 オデットは視界の隅々まで見渡すも目に付くのはあちこちの火事。不安と犯人への憤りを抱いていた。
「……でもきっと大丈夫よね。みんながいるから。今は契約書」
 オデットは解決のために尽力している仲間達の事を思い出し、不安を引っ込め自分のやるべき事に集中した。
「……今の私なら契約書に姿を変えた小鳥が見つけられるはず。一刻も早く……」
 オデットは小鳥の群れらしきものを発見し、視認できる距離まで静かに移動した。

「……いた!」
 『捜索』を持ち、『召喚者の知識』を使用しているオデットにはすぐに偽装している小鳥が分かった。姿を偽るがゆえの魔力の歪み、気配、違和感。集中し、持てる力以上の力を発揮している今のオデットには初級レベルの的当て。

「……ふぅ」
 呼吸を整え、龍牙の大弓を空に向かって構える。誤って本物の小鳥が殺されるような事があったらと犯人の悪意を感じ、自然と龍牙の大弓を構える手にも力が入る。
 キリキリと弦を限界まで引き絞る。

 そして、
「はぁぁ」
 一つ深呼吸をして心を落ち着け、『神威の矢』を放つ。小鳥を契約書に戻すための一撃。
「……行け!」
 オデットは龍牙の大弓を構えたまま放った矢を真剣な目で追う。
 放たれた矢は、光と見紛うほどのスピードで空気を切り裂きながら天を突っ走り、鋭い弧を描く。
 一瞬天頂に達した次の瞬間。
 矢は偽装を解き放ち、ひらりと悪意詰まった紙切れが降って来る。
「……終わった。他のみんなに連絡しないと」
 オデットは紙片をキャッチするなり書かれてあった文章を確認して皆に知らせた。
「……あとはこれを処分するだけ」
 連絡を終えたオデットは『稲妻の札』で紙片を消し炭にして術者の悪意を挫いた。
「一体、何枚あるんだろう。これもまた犯人の思惑ね」
 オデットは契約書について考えていた。契約書を小鳥に偽装するだけでなく、分割までして捜索者を手間取らせる。そうしている間にグィネヴィアから精気を吸い尽くす考えなのだろう。
「……いくつに分割されていても関係無い。私や他の人達がいる。すぐにグィネヴィアを救ってみせる」
 オデットのグィネヴィアを救うという意志、他の仲間達に対する信頼は固く強かった。
「……いた!」
 オデットはすぐに二羽目を発見した。
「……ふぅ」
 再び呼吸を整え、オデットは弓使いとして小鳥に姿を変えた悪意を次々と射落とし、葬り去っていった。