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暴走する機械と彫像の遺跡

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暴走する機械と彫像の遺跡

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■第二幕:遺跡の調査

 右を見ても、左を見ても、上を見ても、下を見ても、前を見ても、後ろを見ても同じ状態だった。
 石壁という石壁には彫刻がなされており、彫像もそこかしこに在る。
 ある種の異様さを感じさせる光景は見る者の知的好奇心を刺激する。それは調査に来た人々も例外ではない。
「最深部にあるっていう彫像も気になるけど、ここの彫刻もすごいねえ」
「そうだな。話を聞いたときは仕掛け部屋でもあるかと思ったんだが、特にそういったものはないようだ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)の二人は壁画を見ながら遺跡の内部を進んでいく。
 歩を進めるにつれて壁面に彫られている絵は動物から人の姿へと変化する。
「これは……何かの戦いがあった事を示してるのかな?」
 清泉が興味を示したのはたくさんの人々が争っているような壁画だ。
「モーちゃんは絵を調べて。僕はこのあたりの文字を調べるから」
「分かった。しかしこれらは単に過去の歴史を描いているのか……?」
「それは僕の成果次第かな」
 清泉は文字の解読に挑むが欠損が激しく、文字としては認識できても単語や文章にはなりえないものばかりだった。
 だが成果が何もなかったわけではない。
「――ニルヴェイナ、じゃなくて『ニルヴァーナ』かな。それと『角持つ種』か。なんだろう、植物かな? にしては『襲う』って言葉が気になるけど……」
「『角』か。そこだけならこっちと関係がありそうだな」
 モーベットが壁画の一部を指示した。
 そこには角の生えた人が角の生えていない人たちと何かを口にしている姿が描かれている。絵が小さいこともあってかしっかりと見ていないと角があることには気づけそうにない。
「よく見つけたねえ。僕なら見逃してたかも」
「性格のせいか細かい部分まで気になるからな」
 うむ、とモーベットは良い仕事をしたとばかりに笑みを浮かべた。

                                   ■

 清泉とモーベットの二人とは別の彫刻を調べていた佐野 和輝(さの・かずき)ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)両名は一つの彫刻の前で悩んでいた。
「この彫刻、どこかで見たことが……はて、封印される前でしたでしょうかぁ〜?」
 賢狼の頭の上に座っているルナは右へ左へと身体を揺らしながら考え込んでいる。
 思い出そうとしているのだろうが、その様子はなんともファンシーで可愛らしい。
「ルナにばかり任せてはおけないな。俺も調べるとしようか」
 佐野は電子ゴーグルを使って周囲の様子を確かめる。特に異常は見当たらない。
(こちら和輝。定時連絡だ。何か分かったことなどあるか?)
(こちら北都。ニルヴァーナと関係があるっぽいのはわかったよ。他にもちょっと気になることがあるんだけど、こっちはまだ調べ途中。わかったら連絡するね)
(了解だ。こっちはこれから本格的な調査に入る)
 伝えることを伝え、テレパシーによる会話を終えた。
「さて何が見えるかな」
 佐野は目を瞑り彫刻に触れた。
 者に残された記憶を読み取ろうとしているのだ。しかし彼の脳裏に浮かぶのは変わらぬ遺跡内部の様子だけだ。
 だが途中でノイズが奔る。刹那、指先から身体が硬化していく感覚にとらわれる。
「くっ!?」
 目を見開き彫刻から手を離す。
 指先を動かし調子を確かめるが特に違和感はない。
「なんだったんだ今のは……」
 訝しんでいる佐野にルナが声をかける。
「和輝さん和輝さん。この子が怯えています」
 告げる彼女の隣にはいつから置いたのか、カボチャの姿があった。
 キヒイイイイイ、と声を上げている姿は一種のホラーだ。
「私もこれはいやな感じがしますよ〜。こっちはいい感じなんですけど〜」
 告げるルナの示す場所には角の生えた人が描かれていた。白で描かれている方は丸みがあるが黒で描かれている方は尖っている。
「確かに印象でもそんな感じだが……ん? 黒い方はなんか彫りが多いな」
 佐野の言うとおり、白の彫刻に比べて黒の彫刻は羽のような彫りがされている。
 さらに剣を持っている人と盾を持っている人が黒いのの前に立っているようだ。
「結局なんでしょうね〜」
「何だろうな」

                                   ■

「これは何でありますか?」
「絵よ。古王国時代のかしら。このあたりに描かれている人たちはパラミタ古代種族のようね。今では見られない特徴が描かれてるし」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は遺跡内の彫刻を見ながら歩いていた。
 葛城の質問にコルセアが答えるこの状況は、さながら観光客とガイドのようである。
「お宝はなさそうでありますね」
「あったとしてもすでに発掘済みでしょうね。ちなみに古代種族が描かれているということは当時の彼らに関係する遺跡の可能性があるわ」
「というと?」
「構造的に住居ではないでしょうし、おそらくは何かしらの戦いがあってその後に建てられたものでしょう。このあたりの絵は争っているように見えるし、後世に伝えるために残されたというのが妥当かしらね」
「なぜ戦いの後だと分かるでありますか?」
「こんな彫像がたくさん置いてある場所で戦う理由が見いだせないし、なにより彫像が戦いがあったにしては綺麗に現存しているからよ」
「なるほどであります。ちなみにこれは?」
 葛城が指さしたところには動物が描かれている。
「いまでは見られない種ね。四足歩行のようだから絶滅した動物の類じゃないかしら……」
 葛城はなるほど、と頷くと遺跡の奥へと向かう。
 その道中、葛城が手にしていた機晶スナイパーライフルが仄かに発光していた。それに気づいたコルセアは葛城の肩を掴むと足を止める。
「ちょっと待って! なにか嫌な予感がするわ」
「なにかあったでありますか?」
「それよそれ。なんか光ってるのよ」
「おおー……これは機晶石が光ってるみたいであります」
 危険を察知して二人は遺跡から出ることにした。
 遺跡から離れるにつれて発光は弱くなり、そして街の広場を過ぎたあたりで発光は終わった。
 遺跡の方へ戻ろうとしても特に変化はない。
「いったいなんだったかしら?」
「わからないけど。あの遺跡でコレを使うのは危なそうであります」
 二人は言うと調査を終えて街を散策した。