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女の嫉妬に巻き込まれたのが運の尽き、なのか?

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女の嫉妬に巻き込まれたのが運の尽き、なのか?

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 魔女ルルト・ロバの名においてアンバー・シグナスが命じる。
 汝人の形を禁じ、言を発せず、字を記す事も不可能とせよ――!



「そうだね。まさしく私の呪いだね」
 正確にはルルトの名前においてアンバー・シグナスが命じ実行された呪いであることをルルトは認めた。
 ウマ・ウマーイと従者たちから見えない位置で何故か皆その場にしゃがみながらの急遽会議が開かれていた。
「アンバーでも掛けられる呪いなんてあるのか?」
 そもそもヴァルキリーが魔女並の魔法が使えると言うのか。問う一世にルルトは頷く。
「あるよ、応地一世。アンバー・シグナスは本を抱えていたんでしょ? 」
「ああ」
「じゃぁ、簡単だよ。魔導書自体が媒体だからね、呪文さえ唱えればあっという間だよ」
「誰でもか?」
「まぁ、呪文は知っていないととかの条件はあるみたいだけど、誰でもかな」
「危険だな……元に戻れるのか?」
「戻れるよ。魔導書があればね。 ――っていうかあれだけ探してたのに見つからないわけだよ! 盗んだのかな、よっぽどの理由があったのかな」
 質屋巡りをしていたルルトはそれでもなんとか魔導書の所在がわかって安堵していた。
「じゃ、じゃぁ、アンバーさんを見つけないとですね」
 捨てて無ければ今も本人が持っているだろう。急がなくてはとリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は立ち上がった。足元で白い鳩にしか見えないアガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)が妙に考え深げ黄昏れていた。
「お、お師匠様どうかしたんですか? というか、な、何か喋ってください」
 いつも饒舌に語りかけてくるアガレスが先程からずっと無言になっていて、リースは不安を覚えていた。
 聞かれてリースを見上げていたアガレスはたっぷりと時間をかけて考え込んだ後、ふむ、と実に紳士的な振る舞いで渋く頷くと、リースの肩に飛び乗り、一点に向かって片翼を伸ばす。
「い、行けってことでいいですか?」
 呪いの言葉通り言葉を失ったらしいアガレス(白い鳩)にリースは緊張気味に頷いた。
 鳥の外見をしていたお師匠様が本当に鳥になってしまった事にまだ多少の、色んな意味での動揺が抜け切れていない。
「そうだね、動くなら早いに越したことはないよ」
「手分けして、発見次第皆に連絡ってことでいいよね?」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がそれぞれ連絡手段の最終確認をしていた。
「ナントカシタマエ」
 エースの肩の上でオウムに似ている特徴的な赤い尾羽根を持ったヨウムが独特の声で繰り返している。
「ナントカシタマエ」
 その上から目線の偉そうとも取れる絶対的強者の態度は間違いなくメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)であるのは疑いもないことだろう。
「ナントカシタマエ」
 なんてずっと繰り返す愛嬌は見せても、その眼はむしろ猛禽類の色を宿して脅しているようにも見えた。
「で、では私は空から探します」
「じゃぁ、俺はあっちの街路樹の多い道から捜すよ」
「残ったこっちの道がルカの担当ね」
 借りた写真(※写っているのはコハク)を再度確認し、捜索のためにそれぞれ方向に向かって別れた。
 空飛ぶ箒スパロウを使って上空から、
 人の心、草の心を使用して丹念な街路樹の聴き込み、
 果たして、捜索人アンバー・シグナスはほどなくして見つかった。
 彼女は噴水広場から差程離れていない場所に立っていた。第一発見者となったルカルカは連絡を回す。不安そうに広場を見つめていた彼女に気付かれないようにと近づいたが、気づかれてしまった。ルカルカと目が合った瞬間、彼女は脱兎のごとくその身を翻す。
「逃さないわ」
 ダークヴァルキリーの羽の瞬間的加速力を借りてルカルカはアンバーの前に先回りした。その隣には連絡を受けてスパロウで急行してきたリースが降り立つ。
「おっと、駄目だよ」
 やっぱり逃げようとしたアンバーの先を遮るようにエースが現れる。
 あっという間に囲まれたアンバーは魔導書を胸に掻き抱きました。
「わ、私は悪くないわ――ッ!」
 すわ呪うのかと身構えた面々に向かってヴァルキリーの少女は激しく絶叫した。突然のキレっぷりに呆然とする面々に向かってアンバーは片腕を体の横で大きく広げる。
「全部お姉ちゃんが悪いんのよ。一世と最初に出会って最初に契約したのは私なのに! 先に好きになったのも私なのに、なんでなんであとからぽっとでのお姉ちゃんに一世を盗られないといけないのッ」
 不公平だ!
 目の色を変えて逆毛も立てて、アンバーはまるで威嚇する猫だ。
「だからってやって良いことと悪いことがあるわ」
 そんな彼女をルカルカは真正面から見つめた。
「今ならまだ間に合うの」
「そうです。わ、私遠くに逃げてるものかと思ったんですけど、ぜ、全然違いました。ほ、本当は後悔してるんですよね? だ、だからこんな近くに居たんですよね?」
 リースが口添える。逃げおおせることも出来たのに、それをしなかった。否、出来なかった。逃げれないまま自分の手からすり抜けて酷くなっていく騒動を眺めていた。図星を指されてアンバーは下唇を噛んだ。
 それを見てとりルカルカは寛容に自分の両腕を体の側面に緩やかに広げる。
「命以外の事は、大抵取り返しがきくの。衝動的なのって誰にでもある。人間だもの。誰も貴女を本当にはせめられやしないわ。大丈夫、許してくれるよ」
 一通りの説明は聞いていた。勿論三人の関係も聞き及んでいる。
 事情を知っていて説得に当たっているのか。それがアンバーの気に触った。
「――知った様な、口で」
 暴挙に出ようとした少女に逸早く反応したのはヨウム(メシエ)と白い鳩(アガレス)の二羽だった。
 魔導書を抱く腕に力を入れたアンバーに向かって、羽ばたくと同時に空を滑る。
「メシエ!」
「お、お師匠様、駄目です!」
 腕を伸ばしたエースの手が間一髪ヨウム(メシエ)の脚を掴んだ。そして勢いのまま重心を崩したエース共に前のめりに倒れこんだ。その横で突然の事に、お師匠様が少女を襲おうとした図に動揺したリースが天のいかずちを放ち、運悪くも見事命中して白い鳩(アガレス)はあえなく地に落とされた。
「逃げないでッ!」
 アンバーの両肩を掴んだルカルカが大声を張った。
 その激しさにアンバーが硬直する。
「いつつ、女性相手に何するんだ。メシエ君は大きいんだから。その図体で襲いかかったら猛禽類のそれと同じだよ」
 ヨウム(メシエ)にエースは言うも、そう言われることも予測済みだったのかヨウム(メシエ)は「エース、ナントカシタマエ」と言葉を繰り返す。
 パートナーに急かされて、溜息を吐いた。立ち上がって埃を払ったエースはアンバーを見た。
「君は、嫉妬に駆られたからと言ってそんな魔導書に頼る程、弱くないだろ?」
 アンバーがハッとする。
 硬直が解けた好機を逃さずルカルカが乙女の両手を取った。
「言葉を重ねるわ。大丈夫。貴女は大丈夫よ。全てがまだ間に合うの」
 ストン、と少女の足元に魔導書が落ちる。
 両手を胸の前で握ったリースがアンバーに力強く頷いた。
「ゆ、勇気を持ってください。わ、私もアンバーさんが決して弱い人だとは思いません」
 だって、恋をしたのでしょう? なら、失恋も乗り越えられるはずだ。
 胸を張って前に進めれる。
「悲しい時は泣いていいの。失恋は悲しいの。だから、泣いていいのよ」
 我慢しないで。
 ルカルカの言葉のあたたかみに、包む手の温もりに、そして自分を見守るリースとエースの眼差しに、アンバーの目にみるみる涙が溜まり、滂沱と溢れ流れ落ちた。
「ご、ごめ……お姉、ちゃ、ひっく、ごめん、なさい……」
 乙女の贖罪の言葉は嗚咽に掻き消えた。
 地球人たちがドラマを繰り広げている足元でヨウム(メシエ)が魔導書の回収を完了した。結構前から到着してたが、空気を読んで待機していたルルトの元に魔導書を運んだ。
「よかった。これで呪いを解くことができる。ありがとう、親切なオウムさん」
 感謝されて、ヨウムは複雑そうだった。