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第0章

 音もなく音もなく。
 ただ世界がピンク色に包まれる。

「止みませんね」
「止まねぇな」
「ああ」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)はすぐ隣で自分と同じ様に窓から外を眺めている二人組に声をかけた。
 彼らの帽子にピンク色の雪が僅かに積もっている所を見ると、自分たちと同じく雪からの避難組なのだろう。
 天音の見立て通り、二人組……ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)コアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)は本来この店に用事はなかった。
 商店街での買い物中、雪を避けるためにふとこの店に立ち寄った。
 しかしいつまでたっても止む様子がないため、帰るタイミングを失っていた。
「仕方ない。こうなったら雪の中帰るか……ん?」
 ローグが覚悟を決めかけた時、外から聞こえる謎の声。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「何だ、ありゃ」
 声の主はブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)
 雪の様子を見に行こうとしたのだろう。
 単身外に出た彼は、何故か突如として身を捩って笑い始めた。
「な、なんだこれくすぐったいぞ!」
 全身に雪がくっつくのも厭わず、転げまわっている。
 次第にそれだけでは足りなくなったのか、ついに服に手を!
「何なんだ、あいつは? まぁいいか」
「ついにおかしくなったか」
 家の中、安全地帯から無責任なことを言い合うローグとコアトル。
 そんな中、動いた人間がひとり。
「ブルーズ、どうしたんだ?」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ、ゆ、雪が、触った所がくすぐったい……っ」
「雪が……」
 パートナーの異変に気付き、雪で服がぬれるのにも構わず外に飛び出した天音。
 そんな彼が見たのは、一面にピンク色の雪が降り積もる、昨日までの日常とは乖離した別世界。
「ピンク色の雪……ピンク……そうだ」
 天音は立ち上がる。
「雪にはなるべく触れない方がいい」
 そう、中にいるローグとコアトルに申し伝えて。
「雪には触れない方がいい……か」
 天音の言葉に、ローグはあらためて窓の外を見る。
 雪は、止まない。
 ひたすらしんしんと降り続けている。
「……帰れねぇな」
「ああ」
 ローグとコアトルは窓の前に並んだまま、ひたすら外の光景を眺め続けた。
 雪が舞い、衣服が飛び交い人の裸体が晒される非日常的な光景を。

 そして天音は行く。
 ピンク色の雪の謎を探るために。
「うひゃひゃひゃひゃ、ちょ、ちょっと、助けてくれえっ!」
 ブルーズは笑い転げながら慌てて追いかけた。