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暴走せよ! 房姫&ハイナの仮装バトルロワイヤル

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暴走せよ! 房姫&ハイナの仮装バトルロワイヤル

リアクション


其の参


「マスター、ポチ。この度はご協力有難う御座います。私、精一杯お邪魔を致しますね。下層福
男さん達、お覚悟を、ですよ…!」

 耳と尻尾をピンと立て、ぐっと気合を入れたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)を見守りな
がら、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はささやかなため息を、ひとつ。
「なんつーか、相変わらずハイナの思考は色々アレだな……。あんま妙な知識披露されるとフレ
イが本気で信じるから止めてほしいんだが、ハイナ自身を信じてる以上、しゃーねぇか……」
 と、ぼやくのに、フレンディスの足元にぴったり従う忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)がすかさ
ずピクリと反応する。
「エロ吸血鬼は僕の足手まといにならないで下さいよ?」
「んだと?」
 男たちの間にパチパチと火花が散った。
「どうか致しましたか?」
 ぽやぽや尋ねたフレンディスに、ポチの助は尻尾をパタパタと振って、ベルクに対するのとは
別犬のように愛想がいい。
「ふふー、ご主人様。そしてハイナ校長先生。今回もこのハイテク忍犬の僕にお任せ下さい!」
 きっと任務を成功させて、ドッグフードを貰うんだ。――フレンディスに褒めてもらって、抱
っこされながら撫でられている未来の自分を思い描く。尻尾の振れ幅がいっそう大きくなった。
「マスター、ポチ。いよいよですよ……!」
 おだやかな目元に、鋭い光が宿った。第二関門を突破した参加者たちが近づいてくる気配がす
る。
「来やがったな。……覚悟しろよ」
 ポチの助に虐げられてたまりたまったストレスを、ここで発散させるつもりのベルクである。


     ×   ×   ×


「フハハ! 我らオリュンポスの優勝のときは近い! さあゆけ、ヘスティア・ウルカヌス!!

「かしこまりました、ご主人様……、じゃなかった、ハデス博士。この関門は私にお任せくださ
い」
 『悪のメイドロボの仮装』としてエントリーされたヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)
、背中の大型ウェポンコンテナからミサイルユニットを展開した。6連のポッド3基がものもの
しい音をたてながら開花する。
「撃ち合いに勝てばいいんですね!」
 雪玉を放り投げてくるおじゃま生徒たちに向け、【クロスファイア】を発動。一斉発射された
18発ものミサイルは、天高く射出され――。
 ヘスティアはハっと表情を強張らせてハデスを見た。
「あっ、標的をロックオンし忘れましたっ!」
「な、なにィ!?」
 なにを隠そうドジっ娘メイドのヘスティアだ。
 ミサイルたちは空中をクネクネと迷走し、一路、ヘスティアの元へと無事に帰ってきた。
「はわわっ……」
 鳴り響く爆音――。
 ハデスは爆撃を必死に避けながら、盛大に自爆したヘスティアを振り返った。
「……くっ、これも世界征服のためっ! お前の犠牲は無駄にはせんぞ!」
 胸のうちで熱く滾る野望にたきつけられるまま、その場を後にするのだった。

■脱落■ ヘスティア・ウルカヌス


     ×   ×   ×


「あいてっ」
 垂の後頭部に小ぶりの雪玉がコツン、とぶつかった。
「なんだこれ、石が入ってるじゃねーか! くうー、悪質だぜ……」
 行く手に点在する雪の小山の影には、無数のおじゃま生徒たちが潜んでいるのだろう。
「下手に飛び出しちゃ、格好の的だよなぁ」
 と、様子を見ているのは恭也。
「じゃあ、お先するぜ!」
 垂は【珍酒『黄泉返り』】をゴクリと呷った。かあっと、体が燃えるように熱くなり、寒さも
いっぺんに吹っ飛んだ。
 そうやって景気を付けて、
「眠りたいヤツだけ掛かってきな!」
 と、殺気を放つ。
 飛び来る雪玉を【歴戦の武術】で斬り落としながら駆け抜けた。
「くそぉ、負けてらんねぇー」
 恭也も続いた。自分には、カメラに収めた例の生写真を、同志たちに届けるという重大な使命
があるではないか。
 雪玉を、烈風のフラワシとショックウェーブで吹き飛ばす。雪に包まれていた手裏剣やら石つ
ぶてやらの物騒なモノたちが、バラバラと雪原に散った。
「一気に行くぜー!!」
 背中の22式マルチスラスターが唸りをあげる。爆発的な推進力で雪けむりを巻き起こしなが
ら進むのを、おじゃま生徒たちは為すすべなしに見送った。
「おじゃま忍者の方々、ご苦労さまでしたぁ」
 すれ違いざま、恭也は余裕で手を振りながらそう労ってやるのだった。


     ×   ×   ×


「セレアナ! 雪玉の準備はオッケー!?」
「ええ、万全よっ」
 雪玉を握りながらセレアナはセレンフィリティに頷いてみせた。
 セレンフィリティの【実践的錯覚】が、敵の感覚をグニャリと狂わせる。彼らの放つ雪玉はあ
らん方向へと飛んでいくばかりで、2人は一方的に攻撃し放題だ。おじゃま生徒や他の参加者を
狙いながら雪原をひた走る。
 その2人を狙う流れ玉が、長ラン&鉢巻という応援団姿のシオン・グラード(しおん・ぐらーど)
向かった。
「うわっと」
 とっさ、シオンは近場のおじゃま生徒をヴァイパーウィップで縛り上げ身代わりの盾にした。
 中に仕込まれていた赤ペンキが、生徒の顔を真っ赤に染める。
「うへー、中身がいちいち物騒だな」
 これは、なにがなんでも当たりたくない。幸い、身代わりにできるものは多い。自分以外の全
員がその対象なのだから。
 うまく盾を使いながら、千里走りの術で突き進み、雪で包んだ機晶爆弾を敵のド真ん中に放り
投げた。爆音とともに視界一面が白く染まる。モウモウと舞う粉雪の中を駆け抜けるシオンだが

「……あれ?」
 と、首を傾げた。
 なんだか、さっきからあまり攻撃をされていないような気がする。飛んでくるのは流れ玉ばか
りで、しっかり自分に狙いを定めた物は、皆無。
「ま、まさか」
 悲しい予感がする。
 普段から何かにつけ影が薄いといわれるシオンなのだ。この大会に参加したのも、一番福さえ
ゲットすれば、もう影が薄いなんて言われなくなるに違いないと踏んだからなワケで……。
「まさか、敵にすら、存在を気づかれていないとか……?」
 認めたくない。シオンはふるふると頭を振った。きっと、長ランの下に着ている朧の衣のせい
だ。
「そうだ、そうだよな。きっとそう、うん……」
 と、無理矢理納得して、なぜか攻撃が飛んでこない広い雪原に、ひとり足跡を残していくシオ
ンであった。


     ×   ×   ×


「あっ、危ないであります!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はすかさず【空蝉の術】を用いて、
パートナーのイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)を身代わりにした。
「ぐふぅ!」
 彼のなめらかに丸い頭頂部に、手裏剣がぷすりと突き刺さった。そんなことはおかまいなし、
吹雪は、
「セーフであります」
 と、笑顔で安堵する。

「な、仲間を盾にするなんて……」
 フレンディスは目の前の光景に少なからずの衝撃を受けた。
「敵さん、なにがなんでもここを突破するつもりだな」
「ご主人様、ご注意を! あ、エロ吸血鬼は率先して僕たちの盾になってくださいね?」
「…………」
 ベルクは何かを諦めたような遠い目をしている。
「強敵ですね! しかし、こちらだって、容赦は致しません……!」
 ぐっと気合を入れて、特製の雪玉を放った。吹雪はもう一度、イングラハムでこれを防ぐ。破
裂した雪玉から、なにかがパフンと霧散した。なかに仕込まれていた【しびれ粉】だ。
「が、がわわわわ」
「むっ、これを食らうわけにはいかないであります」
 しびれるパートナーを放り捨て、吹雪も雪玉で応戦する。ズッシリ重そうな雪玉を、フレンデ
ィスたちに向かっていくつも投げつけた。
 着地したものから順に、どおん、どおん、と大爆発を起こしてゆく。
「爆弾仕込んでやがるのかっ……、フレイ、危ねぇっ」
 ベルクはとっさにフレンディスを腕のなかに庇った。
「あっ、エロ吸血鬼! ドサクサに紛れてご主人様になんてことを!」
「んなこと言ってる場合か!」
「…………」
 言い争いをするベルクの腕の中で、フレンディスはひとり赤面していた。戦闘モードが解けて
、いつものぽやぽや者に戻ってしまっている。
「えっ!?」
 それに気がついて、ベルクの顔も赤くなる。根はヘタレな彼なのだ。

「……いまのうちであります」
 吹雪はもういっちょ、特大のを放る。ひときわ大きな爆発は天然の煙幕となって吹雪たちの姿
を隠した。
「あ、消えましたよ! って、いつまでくっついてるんですか、エロ吸血鬼!」
 ベルクはフレンディスから、ぱっ、と手を離した。なんだか妙にギクシャクしている。
「に、逃げられてしまいましたっ! つ、次こそは絶対に逃がしは致しませぬ」
「お、おう。そうだなっ」
「…………エロ吸血鬼め…………」
 乱闘に乗じて、絶対ベルクを懲らしめてやろうと心に誓うポチの助なのだった――。


     ×   ×   ×


「ふふふ……。ガ・チンコ雪合戦で俺に勝てるかな?」
 変熊仮面が不敵に笑った、そのとき。

「――それはちと、区切る位置が不適切ですな」

 という声がして、変熊仮面はあたりを見回す。
「だ、誰だ! 俺様に突っ込むヤツは! ……ハっ」
 目を見開くその先に立つ、ふたつの影。
 ティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)と、ゲイル・フォード(げいる・ふぉーど)だ。
「チャッチャと片付けてマイハウスでヌクヌクするデース!」
「お覚悟」
 2人は他のおじゃま生徒と同様黒いクマを目の下に作って、眠気のなかには悲壮感とともに殺
気を漂わせている。

「むっ、俺様以上のイケメン!? ……許さんっ!」
 変熊はどうやらゲイルをライバル認定したようだ。
 【神速】で一気にゲイルの背後を取り、【黒縄地獄】で敵の急所を狙う。
 急所とは、すなわち、オシリである。
 両手の人差し指を固く合わせ、
「そいっ!!」
 という掛け声とともに敵の急所へと突き立てる――。
 が、しかし。
「あふうんっ」
 指を何か硬いモノで弾かれてしまった。ティファニーの槍撃だ。
「Oh、オソロシイ男デース……!」
「あ、危ないところでしたな……」
 ゲイルは自らの後ろを押さえている。
「く、くそっ。この必殺の一撃を弾くとは……!」
「コチトラ眠気で死にそうネ。イチゲキで葬ってサシアゲマース」
 構える槍の穂先が、ギラリと光る。
「この俺様がおんにゃのこに追い詰められている、だと……? ぎゃああああ……んんっ!!」
 絶叫が響きわたった。しかし、フルヴォッコにされながらも、まんざらでもないような笑みを
浮かべている。どこまでも底の知れない漢なのであった。――

■脱落■ 変熊仮面