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続2

 空大への帰り道で大鋸と合流した渚たちは、優梨子の研究室に招待されていた。
 そこは書庫の奥に位置した古い司書室を改装した場所のようで、やや狭いながらも空調が完備された涼やかな空間である。“干し研分室(臨時)”という看板からは、ちょっと異様な雰囲気が漂っていた。所狭しと並んだ保管キャビネットから、低いコンプレッサーの唸りが響いている。
「私が専攻している文化人類学でも、特にパラ実に由来するものに的を絞って研究を続けていますわ。その中でも今回は、最も力を注いでいる首狩族についての発表会が催されるのです」
「首狩族っ!?」
 その場で驚いたのは渚と三鬼だけで、優梨子はもちろん、大鋸や三二一もワクワクしているという風だ。
「地球でも昔、そう言った風習があった国が存在すると学んだことがあります」
「それなら話が早いですわね。出展するコンテンツをお見せしましょう」
 いくつかのキャビネットを開いてゴソゴソとやっていた優梨子が、ピンポン球サイズの茶色い玉の付いたネックレス風のオブジェクトを運んできた。
「これが“干し首”と呼ばれるものです」
 それをマジマジと見た渚の顔が、明らかに引きつっていく。
「革で作った工芸品ですか? どことなく猿の顔つきに似ていて不気味ですね」
「そうね、本物の皮から作られるものだから。お土産屋さんの民芸品とは、ちょっと違うでしょ」
「はい。凄く質感がリアルな気がします。これって、優梨子さんが作られたんですか? 手先が器用なんですねっ」
「うーんとそうね。確かに中の(読み:わた)臓物をくり抜くときにはちょっと気を遣っちゃうかも知れないわ」
「“綿”ですかあ……なんか、お人形さんを作る時みたいですねっ」
「ふふっ、こっちも見てみて。干し首がふたつあると“さくらんぼ”って言うの。可愛いでしょう。こっちの頭3つが串に刺さってるのが“だんご”よ。遠慮しないで触ってみて」
「え……えっと」
 ずいと腕を取られた渚の手のひらには、“さくらんぼ”がちょんと載せられていた。
 その手触りはこれまでに無い皮の感触であるに違いない。
「ひとつ作るだけでも、凄く時間が掛かってそうですね」
「そうね。ひとつ仕上げるだけでも数ヶ月はかかると思うの。元のサイズから鍋で煮て、乾燥機でよく乾かしたりしないと縮んでいかないから」
「元はどれぐらいのサイズなんですか」
 すると優梨子は渚の頬に両手を添えて、すこしアゴを上向きにするようにして包み込んだ。
「ちょうど、これぐらいの大きさかしら」
「あ、あのう、くすぐったいです」
 頬を朱に染めて渚が懇願するも、優梨子はいたって真面目な顔である。
「うん、この大きさ、とても手頃だわ。皮から綺麗に剥がれそうな(読み:つくり)骨格してるし……惜しいわ。せめて敵対する者同士であれば、或いは……」
「優梨子さんって、以外とお茶目なんですね」
「あら、私はいたって真面目ですわ。最近はめっきり干し首の素材が手に入らなくなって……ね」
 そう言って優梨子に額を優しく撫でられた渚は、見る間に青ざめていくのだった。