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煩悩×アイドル

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第2章 退治始め

「ははははは、この私を褒め称えなさいぃいいいー!」
「たぁあああああーっ!」
 KKY108メンバーアイドルの一人、ルーファの歌声が響き渡る。
 その歌声に動じることなく突っ込んでいくのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 後方からは彼女を支援するようにコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)が続く。
 歌声が、ルカルカに襲い掛かる。
 だがルカルカの足は止まらない。
 もしも、歌声が視覚化できたならその場にいた者には見えただろう。
 ルカルカの周囲に、歌声から彼女を守る結界が発生していると。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の作った小型精神結界発生装置が、彼女を歌声から守っているのだ。
 更に耳栓をして対策は万全。
 接近したルカルカにルーファが気を取られできた一瞬の隙。
 そこをついて、コードがルーファをそっと打つ。
 ゴーン!
「ナイス!」
 ルカルカの言葉に、コードは耳栓をしたまま無言で親指を立てる。
(装置の試験運用、調子はバッチリみたいだね!)
 ルカルカが満足気に頷くと、当のダリルからテレパシーで連絡が入る。
(ルカ。懸念していたこれら煩悩の根本発生源だが……)
(うんうん!)
 トラブルの大元を絶とうと考えていたルカルカは、表情を引き締める。
(108ヶ所、存在した)
(………)
(もう一度言うか?)
(えぇえーっ!)
(それぞれ各地に同時多発的に煩悩が展開している。ただそういう事象だと認識した)
(てことはつまり……ひとつずつ叩くしかない、ってこと)
(がんばれ)
 ダリルから伝わる珍しい精神論に、ルカルカは僅かばかりがくりと首を垂れる。
(あ、ところでダリル)
 しかし即座に気を取り直したルカルカは、ふと気になる質問をぶつけてみる。
(この小型精神結界発生装置の結界って……もしかして、耳栓があればそれで良かったんじゃ?)
(……)
(……じゃ、じゃあ次行くね!)
 黙り込むダリルの気配を感じ、ルカルカは慌てて次なるターゲットに向かう。

「美少年も美青年も美中年も、全て絡みなさいーっ!」
「うわっ」
 アイドルの歌声を真正面から聞いてしまったのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)
 しかもその内容が内容だった。
「あっ……く、め、メシエ……」
 まんまと煩悩の餌食にされたエースは“ヘタレいいとこの若様風誘い受け”としてメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)にしなだれかかる。
「おや、これはこれは」
 自分の胸元に触れるエースの頭を平然と撫でてそれに応じるメシエ。
 ちなみにメシエは歌声を聞いていない。
 顔を上げねだるように自分を見上げるエースの顔に、自分の顔を近づける。
「た、あぁあああああーっ!」
 エースとメシエの絡みを目を輝かせて見入っていたアイドルの上方から迫りくる脅威。
 脅威の名は、美羽。
 落下と共に、手に持ったそれをそっとアイドルの頭上に振り下ろす。
 ぴこん。
 とてもとても軽い音がした。
 そう、美羽が持っているのはコハクがTV局内で見つけてきたピコピコと鳴るハンマー。
 そしてその直後、荘厳な低音が響き渡る。
 ゴーン!
「ついでにあなたも……えいっ!」
 エースの後方に回り込んだコハクが、その頭をそっと叩く。
「はっ!?」
 こちらは音こそしなかったものの、その衝撃で正気を取り戻すエース。
「え、いや、これは、うわっ!?」
 自分の状況に気付き、慌ててメシエから飛びのく。
「あれ、俺は何を……」
「御馳走さま」
「え、えええーっ!?」
 焦るエースに、笑顔で更に混乱を招く言葉をかけるメシエ。
「あ、いや、こんなことしてる場合じゃなかった。お嬢さん達を助けないと!」
「きゃあっ!」
「あ、やぁっ!」
 取り乱しながら、エースは自らが持つ蔦を広く展開させ、煩悩に囚われたアイドルたちを拘束していく。