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街道整備

「うーん……とりあえず問題はなさそうかな」
 街道の整備に問題がないか確認していた清泉 北都(いずみ・ほくと)はそう呟く。
「昶は何か気づいたことある?」
「動物たちも何かに怯えてる様子はないし、野盗とかが暗躍してるって事はなさそうだぜ、でも、この匂いは……」
 狼の姿で街道を歩き北都と同じように確認していた白銀 昶(しろがね・あきら)もそう返す。少し気になる事はあるが、急いで対処しないといけないような異常はない。
「そっちはどう?街道に休憩用の小屋を作りたいって話だけど」
 街道をもっと使いやすいようにしたいと来ていた大岡 永谷(おおおか・とと)だが、ここまで北都の確認作業を手伝ってくれていた。
「このあたりがちょうど中間地点なんだよな? できればこのあたりに作りたいんだが、何か良いところを知らないか?」
「んー……確か村の水源の湖があったかなぁ」
 永谷の質問にそこはどうと北都は返す。
「そこはいいな。早速見に……って、あれ? そこ、壊れてないか?」
 話している途中で街道と森を区切っている木の杭が壊れていることに永谷は気付く。
「……本当だ」
 どうして壊れたのか。北都は木の杭の状態を確認した後サイコメトリを使い調べる。
「これは……ユニコーン?」
 読み取った情報から街道を壊したのがユニコーンだと分かる。
「あー、この森じゃ嗅ぎなれない匂いだと思ったらユニコーンだったのか」
 自分の感じていた違和感に得心がいったのか昶はそういう。
「? この森にはユニコーンがいるのか? そういう情報はもらってないんだが」
 この森は初めてのととがそう疑問の声をあげる。
「いなかったはずだけど……本当にどうしてだろう」
 ユニコーンがここにいる理由と、ユニコーンが街道を壊した理由。それが北都には分からなかった。
「……ちょうどさっき話してた湖の所にいるみたいだな。行ってみるか?」
 匂いから判断しそう言った昶に二人は頷いた。

「本当にいた。けど……」
 湖についた北都は水を飲んでいるユニコーンを前にそうもらす。
「なんだか疲れてるみたいだな」
 北都の思っていることを永谷が代弁するように言う。永谷の言う通りユニコーンの衰弱は見て明らかであり、所々怪我をしているのも見えた。
「ねぇ、昶。もしかしてユニコーンが街道を壊したのって……」
「わざとではないだろうな。どうしてここにいるかは分からないが、この森の環境になれてないんだろう」
 不慣れな環境の中でユニコーンは意図せず街道を壊してしまったのだろうと昶は言う。
「うーん……なんとか保護できないかなぁ」
 街道のためにもユニコーン自身のためにもと北都は思う。
「野生のユニコーンを捕まえるのは大変だからな。人手や用意なしだと難しいだろうな」
「だよねぇ……」
 今は諦めるしかないのだろう、と北都は自分を納得させる。
「あのユニコーンをどうにかしないと小屋を作るのは難しそうだな」
 わざとではないにしても壊される可能性は高いと永谷は考える。
「仕方ない。設計図だけ作って村長に提出しよう」
 今回はとりあえずそれで一段落させるしかなさそうだと永谷は思う。あのユニコーンへの対処が終わった後に作るなり作ってもらうのが賢明だろう。
「しかし、本当になんでユニコーンがいるんだろうな」
 永谷のため息まじりの疑問に答えられるものはいなかった。


「これででここの凸凹修復完了っと」
 街道の修復作業をひとまず終えてセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は呟く。
「蹄跡みたいな凹凸が多いわね。暴れ馬でも紛れ込んだのかしら」
 同じように修復作業に当たっていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はそう言う。
「うーん、だとしたらそっちの方から対処した方がいいのかしら?」
 そう言いながらもセレンは平にする作業は続けていく。
「相変わらず仕事はきっちりこなすのよね」
 精力的に手を動かすセレンにセレアナは言う。
「できるお姉さんはやることはやるのよ」
 ふふんと得意げにセレンは言う。
「それにこの街道はできる前から関わってきたしね」
 実際の所、セレンとセレアナのこの街道における成果は大きい。盗賊対策や災害対策など、そういった面で大きな成果を上げていた。普段は目立たないが何かあった時にセレンやセレアナの仕事は役立っていた。件の野盗事件でもセレンたちの調査結果の存在は大きかった。
「♪〜」
と、鼻歌を浮かべて仕事を続けるセレン。
「でもセレンが鼻歌まじりで仕事してるのは珍しいわね」
 この間の鍾乳洞の調査でもそうだったかとセレアナは思い出す。軽い調子ながら仕事はきちんとこなすセレンにしては珍しい。
「あれ? あたし鼻歌なんて歌ってた?」
 自分で気付いてなかったのかそう言うセレンにセレアナは頷く。
「んー……まぁさっきも言ったけどこの街道には思い入れあるし」
 それにと続け、
「なんか森にしても鍾乳洞にしてもニルミナスの近くって落ち着くのよね」
そう言った。
「つまり……休暇気分ってこと?」
「あ、それに近いかも。でも仕事はきちんとこなすわよ」
 セレンの言葉にそれは心配してないわよとセレアナ。
「っと、そうだったわ。ここの警備について村の人と話すんだった」
 思い出したとセレンは言う。
「いろいろレクチャーするんだったわね。……でも今の警備ってボランティアの人しかいないのよね」
 大丈夫なのかとセレアナは思う。
「まぁそのあたりも話し合わないとね」
 そう締めて二人は村の方へと向かった。