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リアクション
拠点作りその2
「ただいまであります」
そう言ってトラックから降りてきたのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。街道の先の街へ拠点作りに必要な材料を買いに行ってきて、今帰ってきたところだった。
「それにしても、最初村長に頼まれた買い出しリストを見た時はこれがひとつの街で揃うのかと心配したけど、想像以上の品揃えの街だったわね」
今回の買い出しについてそう感想を漏らすのはコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)だ。彼女はパワードスーツを繰り、買いだした荷物を建設現場に出しながらそう言う。
「この村が発展しなかった理由にはその辺りも関係しているかもしれないでありますな」
交易で成り立っているという街道の先の街。面積的な広さはさほどではないだろうが商品の品ぞろえやインフラ関係は都市並ではないだろうかと吹雪は思う。
「この村があんな街になることはあるのかしら」
この村があれほどの発展をするのにどれくらいの時間がかかるのかとコルセアは思う。
「ないと思うのであります」
そんなコルセアのつぶやきに吹雪はそう言う。
「……そうね。この村にはこの村のいいところがあるものね」
買い出しに行く前。吹雪とコルセアはミナホから決まったこの村の方向性を聞いていた。
「あの街のようにこのニルミナスがなることはないでありますが、負けないくらい……それ以上に素晴らしい所にするのであります」
そう言って吹雪は締め、二人は拠点作りの手伝いに回った。
「ふむ、二階は全て入浴施設か。こうなってくると温泉に入りたくなるな」
宿の設計図を見て夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はそう言う。
「それは分かるのぉ。あれはいいものじゃ」
宿に温泉という組み合わせに共感を得たのか草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は言う。
「近くに温泉でもないかな」
「難しいんじゃないかの。この辺りには火山はないぞ」
甚五郎の言葉に羽純はそう返す。別に温泉が火山地帯にしかないわけじゃないが、この辺りに温泉ができるような地理的条件はなかったと羽純は覚えている。
「ん? 温泉ならあるぞ?」
二人の会話を聞きつけたのかそう言ってきたのはローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)だ。
「森と鍾乳洞の間あたりにだが確かに温泉が湧いてる」
間違いないとローグは言う。
「ふむ……よく分からんが湧いてるのなら引いてくるだけだな。少しばかり遠いがやりがいはある」
「温泉か……仕事帰りの温泉は気持ちよさそうじゃのぉ」
理由はどうあれ温泉が湧いてることに二人は喜ぶ。
「源泉の方はかなり熱めだから引いてきたらちょうどいい感じになるかもな」
二人にローグはそう言う。
「しかし、どうして温泉が湧いてるのかの?」
「さぁな。前村長に聞けばわかるかも知れないが……あの親父が話す気がしねぇ」
はっはっはと笑ってごまかされるオチしかローグは思い浮かばない。
「ところでおぬしは何をやっているんだ?」
と、拠点作りには参加していない様子のローグに甚五郎は聞く。
「村長と観光客向けの宿について話し合いをな」
村の方向性が決まりいろいろ話し合いが進んだとローグは言う。とりあえず宿は大きなものを作るのではなく中くらいのものを村の規模に合わせて複数作っていくことになったことを伝える。
「あとは、あいつの付き合いだな」
そう言ってローグが指さした先にはユーノ・フェルクレーフ(ゆーの・ふぇるくれーふ)の姿があった。
「差し入れです。うちの畑で作ったものなので素材の味は保証出来ませんけど」
そう言ってユーノは村人に野菜でできた料理を渡している。
「いやー結構美味しいですよ。それに味付けは完璧です」
村人の言葉にユーノはありがとうございますと丁寧に言う。
「だてに家で料理係を担当していませんから」
そしてそう少しだけ誇らしげに言った。
「さてと……ここが話の温泉ですか」
温泉の湧く場所に来た阿部 勇(あべ・いさむ)はそうつぶやく。勇はルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)と一緒にここで作業をすることを甚五郎に頼まれていた。温泉を引く通路を甚五郎と羽純が担当するから、源泉の調査などをルルゥと一緒に頼まれていた。
「勢いが少し弱いですね……ボーリングをして少し勢いが強い所を引き当てたほうがよさそうだ。
源泉の様子を確認して勇はそう言う。そして機晶技術などを利用してボーリングをする準備に取り掛かった。
「ルルゥは何か気づきましたか?」
準備をしながら勇は温泉の成分調査を行なっているルルゥにそう聞く。
「うん。勇お兄ちゃん。これ温泉じゃないかも」
「……は?」
思わずといった形で勇は聞き返す。
「普通だったら含まれてる温泉の成分が見当たらないんだよ」
ルルゥの説明に勇は少し考えこむ。
「……効能的にはどうなんですか?」
「そっちは大体温泉と同じ効果が望めるかなぁ」
「なら問題ないでしょう。あの二人が楽しみにしていたことですし」
二人には内緒にしておいたほうがためかもしれないと勇はルルゥに口止めをする。
「うん。勇にーちゃんがそう言うなら」
そう言って黙っていると言うルルゥ。
(まぁ、バレた時はバレた時でしょう)
それまでは二人に純粋に温泉を楽しんで貰いたいと勇は思った。
「あん? ここは喫茶店作んのか」
設計図片手に作業をしていた瀬島 壮太(せじま・そうた)は。自分がこれから手がける仕事を確認してそう言う。
「ミナホ……さんが悩んでたみたいだが」
いつの間にか決まったのかと壮太は言う。
「前村長の提案らしいですよ」
そう壮太の疑問に返すのは一緒に喫茶店作りに携わることになっていた白峰 澄香(しらみね・すみか)だ。
「ふーん。あのおっさんがねぇ」
いろいろと思う所はあるが、決まったのなら決まったでさっさと作るだけだと壮太は割り切る。
「そういやお前らはなんでこの仕事引き受けたんだ?」
作業を進める中、ふと気になった壮太は澄香と、そのパートナーで一緒に行動をしているキールメス・テオライネ(きーるめす・ておらいね)にそう聞く。
「力仕事は得意だからな」
そう言うのはキールメスだ。未来人でありメカメカしい容姿をしているキールメスは確かに力仕事に向いていそうな容姿だ。
「それにこう見えて手先も器用だからこういった仕事はお手のものなんだ」
そう言ってキールメスはまた仕事に戻る。仕事に黙々と従事する姿はなんか渋い。
「それに、私たちは村に世話になってますからねぇ。……恩返しも兼ねて頑張らないと」
いつの間にか住み着くような形でこの村で過ごすことが多くなった澄香とそのパートナーたち。宿がないときなど無償で泊めてくれた村人たちへの恩返し的な側面は大きい。今回の拠点作りの中で内装に関して澄香の活躍は大きい。
「そっちはどうなんですか? どうしてこの村の依頼を?」
「俺はもともとこういう何かを作る依頼は好きなんだよ」
澄香の質問に壮太はそう答える。
「それにミナホ……さんには借りがあるというか……」
実際はこっちが思っているだけで大したことではないし、その借りも返したような気がするのだがとも壮太は思う。
「まぁ、なにか困ったときは呼んでくれって言ったしな。それが理由って言ったら理由だ」
そう答えてから壮太はまた仕事にとりかかる。そして宿ができたら一番目の客になろうと思った。
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