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リアクション
★第五話「突然始まるホラー」★
◆
「そしてもう1人呼んでるぜ。皆ご存じ、空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)だ!」
「こんにちは!」
カメラがたいむちゃんへ移動すると、さすがと言うべきか。先ほどまでとは比にならない歓声が上がる。
「きゃー、たいむちゃーん!」
理沙も大声を上げる。――中の人なんていない!
有名ではあったが、一応紹介文を読み上げた後、テレビに映った流れで、今度は理沙へとカメラが向く。
「ふふ。ウチのパートナーたちも紹介するわね。ピノと」
「チョコたんですわ」
続いてパートナーの紹介をチェルシーと2人でする。
「はじめまして、ピノ・クリスだよ。ピノねー、みんなとお友だちになれると思ってテレビに出たのー。みんな、ピノとお友だちになってねー! ヨロシクお願いしまーす♪」
ピノが丸い身体をまるめてお辞儀すると、会場の女性陣が「よろしく〜」「きゃー、可愛い」と手を振った。人懐っこいピノがそれに手を振り返すので、さらに声が上がる。
「えっと、チョコ・クリスでしゅ……あぅ。大きい子がいてコワイでしゅ〜。よ、よろちくお願いちましゅ」
チョコはピノとは違い、人見知りするらしく、周囲をおどおどと見上げている。だがそこがいい! これまた「可愛い」という声の嵐。
「ああよろしくな。……しんどくなったら言うんだぞ?」
怯えるチョコにそう声をかけつつ、紹介はまだ続く。
◆
「あんたも随分出世したわねぇ」
「ちょっとセレン! ……はあ」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の名が呼ばれ(編集で下に名前も出る)、セレンフィリティがずずいっとジヴォートに猫を差し出す。
やる気なさそうな顔の太った猫だ。見ている側のやる気まで失いそうなぬぼーっとした顔立ちをしているが、まあ特に何てことない普通の猫だ。
「この猫を知ってるかしら?」
「えっと?」
ジヴォートは頭の中にあるたくさんの動物の知識へ検索をかけ、その猫に該当する知識を引っ張り出す。結論。ただの猫。
「パラミタ・コネキネマって言うのよ? 知らないの?」
「う〜ん? 聞いたことないな」
真剣に悩むジヴォートに、にやにやと笑うセレンフィリティ。横でセレアナがふかぶかとため息をついている様子を見るに、からかっているのだろうと知れた(中には信じている共演者や見学者もいた)。
コネキネマ。
分からない子は右から読んでみよう。
(まったく。一体どういうつもりなのかしら。ただの猫をつれてきて)
「コネキネマは幸運を呼ぶ猫とも言われ、猫に触れた者には幸運をもたらす一方、その肉はかなりの美味とされ、古来からグルメの垂涎の的になってるの」
「へぇ」
「でもその肉を食した者は猫の呪いか必ず不幸になるとされてるわ」
「それは怖いな!」
楽しげに知識(嘘)を披露するパートナーと信じる司会者を、何とも言い難い目で見つめるセレアナ。
※ちゃんとテロップでそんな種族はいません、と表示してます。嘘いくない!
パートナーの考えが読めないのはいつものことだが、となんとなく猫を見つめる。そして議論に熱中しはじめたセレンフィリティに放置されて暇そうな猫をなんとなく撫で、
「(あ、可愛い)」
なんて思って少し頬をゆるめた。
「今可愛いとか思ったでしょ」
「そ、そんなことないわよ!」
\ツンデレ万歳!/(あ、心の声が)
「触ってみたら? 幸福がもらえるかもよ」
「お、おう……うわっ」
ジヴォートが触ろうとした瞬間飛んで来た猫パンチ。男に触られるのはだめらしい。セレンフィリティが笑う。
「あははは。良い顔ね。ほら、ずーっとしかめっ面してたらせっかくのいい男が大なしよ?」
目をぱちくりさせた後、ジヴォートもようやく肩に入っていた力を抜いた。
「そうだな。ありが……わっと……やっぱり俺だと駄目なのか」
お礼を言いながらもう一度、と挑戦したジヴォート。見事に猫パンチをくらい、会場の笑いを誘った。
緊張はほどけたようだ。
◆
『なぶら殿、なぶら殿!
勇者を目指してるのなら、それを周知させるべきなのだ!
地道なアピール活動は大事なのだよ?』
そう言われて、たしかにその通りだと思って流されたのが、きっとそもそもの間違いだったに違いない。
相田 なぶら(あいだ・なぶら)は、全身全霊で木之本 瑠璃(きのもと・るり)の言葉を否定しつつそう思った。
「確かに瑠璃の言うとおり、アピールも大事かもしれないけど、醜態晒して評価下がったら逆効果じゃないか?
ただでさえ瑠璃、普段がら考えなしなんだからTVなんて出て大丈夫なの?」
「大丈夫、録画編集するらしいから多少不味い事行っても問題ないのだ!」
そう言う問題なのか? と思いつつもスタジオに来てしまったなぶらと瑠璃。さていよいよ彼らの出番がやってきて、カメラが向いた時。瑠璃が張りきってなぶらの紹介をしてくれた。
「なぶら殿は普段から、自分の活躍シーンを抜粋した保存版VHS作りに勤しんでいるのだ」
「え、なんでそれ知って……じゃなくて!」
瑠璃の口を閉じようとするが、1秒ほど遅かった。
「あと如何わしい本コレクションが、ベットの下にあるように見せかけて上数冊はカモフラージュで箪笥の下の隠し床の下にダンボール箱2〜3箱分のロ●ータ物が隠されている、とか言っても編集でピー音流れるからなんの問題も無いのだ!
だから存分に醜態をさらしてもいいのだ、なぶら殿!」
「ちょ、お前何言ってんの!? そんな事してないしそんなの隠してないから!」
なぶらが慌てて立ち上がり否定するが、すでに一部からなぶらへ送られる視線は冷たかったり、生ぬるかったりするものへと変化していた。
「編集で隠れてもここで周りに聞かれてるからいみないだろーー!」
青年の叫び声が、ただただ空しくスタジオに響く。トラウマにならないことを願うばかりである。
※すでに手遅れという情報あり。
「違う。違うんだ」
「え、えーっと……ま、まあガンバレ?」
「……ありがとう」
◆
「箱(ライブハウス)とは結構違うんだよね」
「へぇ〜。そうなんだ」
観客席にいた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と仁科 響(にしな・ひびき)は、拍手をしながらそんな会話をした。
「でもそれにしても驚いたな。世の中には似たような人が三人いるっていうけど、ほんとだねぇ。ジヴォート君にそっくり」
「え? あれ、ジヴォート君だよ」
「またまたぁ」
戸惑った声を上げる響に、弥十郎は「ジヴォート君が司会なんてするわけないじゃない」とさらりと流す。どうやら名前のところは聞き逃したらしい。
これ以上言っても無駄だと悟った響はそれ以上は言わず、目があったジヴォートに軽く会釈する。ジヴォートもわずかに目を細めてそれに答えた。
「つまんないし」
「ばっかみたい!」
観客席が。いや、スタジオがざわつく。見れば観客の2〜3人が大声で騒いでいた。そこにははっきりとした悪意があり、どこかわざとらしさもあり、弥十郎と響はかすかに首をかしげた。
「う〜ん。折角面白いテレビ番組なのに」
「どうするの?」
「ちょっと【メンタルアサルト】で何とかするから、あとよろしく」
立ち上がった弥十郎が動物たちの柵へと近づくのを見て、響は何をするか察し、後ろを振り返った。後ろに座っていた彼女たちは、実は響のファンだった。たまたま見学に来て響を見かけ、後ろに座ったらしい。
「一つ頼みがあるんだけど」
「は、はいぃっ?」
「あそことあそこで騒いでる人いるよね。あの子達をつまみ出したいんだけど、手伝ってくれない?
場所はちがうけど、同じステージに立つものとしてさ」
真剣な響の顔を見て、ファンもこくりと頷いた。
「わっとっとっ」
弥十郎がこけ(るふりをし)て、動物たちを囲っていた柵の一部を壊して動物を開放。一度動物たちを落ち着かせるため、と観客には外に出るよう指示が飛んだ。
それに対しても声を荒げようとしていた彼らは、
「しょうがないよね」
「一度外に行こう」
「ほら、君たちも」
と、ファンたちに押されて外へと追いやられる。響はファンたちに礼を言ってから、近くにいたスタッフと何やら話をし始めた。
すぐに撮影は再開されることとなったが、スタジオに足を踏み入れようとした彼らの前に現れた飛都が静かに問う。
「悪いけれど、中には関係者と招待客しか入れない。招待状を見せてもらえるだろうか」
響からの通報で調べた結果。招待客リストに乗っていないと判明した。彼らはびくりと身体を震わせ、走り出した。
だが。
「まったく。できれば穏便に行きたかったのに」
「しょうがねえだろ。こんなことに協力する輩なんだからよ」
「…………」
「手加減しなさいよ」
正面からやってきたリカインたちが逃げ道をふさぐ。その際、頭に乗ったシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)に声をかけていたが、傍目に見ていると髪の毛に話しかけているようだ。
返事の代わりにムーンが触手をうねらせた。しかしながらムーンにとっての触手は、リカインの髪の部分に見えるのである。
さて。想像して見て欲しい。髪の毛が動いてそれが足に絡みつき、さらにはギフト用ブレードやミニツインドリルが現れた瞬間を。
「あーあ。素直に捕まっとけばよかったのに」
アストライトが呆れた顔で、「ひぃっ」とひきつり顔の妨害犯たちを見た。恐怖からさらに暴れる彼らだが、完全にそれは逆効果で。
「ぎゃー!」
悲鳴が響き渡った。
合掌(ちゃんと生きたまま、治安当局に引き渡しました)。
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