リアクション
<エピローグ>
合戦は終わった。
吹雪はやみ、雪兵たちは意気喪失した様子で地面にうずくまっている。
雪将軍が手を振り下ろす仕草をすると、百合園を囲んでいた分厚い雪の壁が光を放ちながら溶けていき、嘘か霞のように空に消え去った。
「さーむいっ!」
「もう限界ですわ」
さゆみとアデリーヌは猛スピードで百合園に駆け込んだ。
服を脱ぎ捨ててシャワールームに入ると、お湯を全開にして浴びる。冷え切った体は熱を貪欲に吸収していく。
さゆみがアデリーヌを後ろから抱きすくめた。
「ふう、寒かったね……」
「ですわね……。でも、こうしていれば温かい……」
アデリーヌは心の芯まで癒される感覚に、そっと目を閉じた。熱いココアで内部からも体を温めたいけれど、今はこうしているだけで十分だ。
合戦場では、敗北した雪将軍を契約者たちが取り囲んでいた。
ラズィーヤが腰に手を当てて雪将軍を睨み据える。
「さて……、覚悟はできてらっしゃいますわよね?」
「当然じゃ。さあ、斬れ!」
雪将軍は地面にどっかりとあぐらを掻いて膝を握った。敗将とはいえ誇りを失ったわけではない。
「駄目駄目、駄目だよーっ!」
ノーンが雪将軍と契約者たちのあいだに飛び出した。雪軍団は属性的に近しい存在。そのピンチを黙ってみているわけにはいかない。
「雪将軍さんたちは確かにみんなに迷惑かけたけど、誰も怪我してないよね!? もうこれで仲直りしよ? ね?」
「急になんですの?」
ラズィーヤが眉をひそめた。
「だってだって、殺しちゃうなんて可哀想だよ! 雪将軍さんも反省してるよね? もうしないよね?」
「……負けた以上は、同じことをするわけにはいかぬ。士道に反するゆえな」
雪将軍が返した。
「ほら! だからさ、もう許してあげなよ。ね、みんな?」
ノーンは両腕を広げて一生懸命説得した。
ベアトリーチェが静やかに進み出て、言葉を添える。
「この方たちは、ずっと地下深くに隠れていたのです。良からぬことを考えてしまうのも、一時の気の迷いとして仕方のないこと。厳罰に処するのは、あまりにむごいかと思いますが?」
正論、そして人情に訴えかける穏やかな言葉。
それは凍てついた場の雰囲気を緩やかに溶かした。
「まあ……、仕方ありませんわね。今度このようなことがあれば、情状酌量の余地はありませんけれど」
ラズィーヤもその取りなしを受け入れた。
「なんと……、わしらを許すというのか……」
雪将軍は信じられぬといったふうにつぶやいた。
ベアトリーチェは温和な笑みを浮かべて、雪将軍の方に向き直る。
「ヒラニプラ山脈には一年中雪の積もっている地域もあります。雪将軍さんたちはそこに移住なさってはいかがですか? そうすれば、地下に戻らなくて済みますし、ヒラニプラに住む人たちもいろいろと助かると思うのです」
「お主がそう勧めるのなら……あい分かった。わしらは従うまでじゃ」
雪将軍は巨大な腰を上げて立った。
雪兵たちの軍勢を引き連れ、大きな地響きと共に去っていく。
空には雲間が現れ、清浄な金色の光が下界を照らしていた。
春の息吹は、もうすぐそこだ。
今回もご参加ありがとうございました。天乃聖樹です。
たまにはこんな雪合戦もいいかな、と思いつつシナリオを作成。
蓋を開けてみたら予想以上にガチな戦闘アクションが多く、ガチガチの雪合戦となりました。
これは雪合戦じゃない……雪戦争だ!
最近、インフルエンザが猛威を振るっておりますので、お気を付け下さい。
くれぐれもこのシナリオみたいに極寒のシチュで雪合戦し続けたら駄目なんだからね!?
天乃はというと……とっくにインフルエンザにかかりました! 執筆期間中に!
それでは、雪合戦お疲れ様でした!