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リアクション
ここは牧場の空に浮かぶポータラカUFOの一台。
窓から外を眺めながらラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)は「わー」と楽しそうな声をあげた。
窓の外ではアキラが「空も飛べる自転車」の籠に銀色のポータラカ人を乗せて飛び回っている。
これで背景に満月があれば最高だろう、という風景に彼女は「いいないいなー」と歓声をあげた。
「ラグエルもアレやってみたいなー」
その後ろからポータラカ人が自分の喉をチョップしながら近づいてきた。
「タ〜ノ〜シ〜イ〜?」
「うん!」
「ソ〜レ〜ハ〜ヨ〜カ〜ッ〜ッタ〜」
今回の事件の犯人であるポータラカ人は、大きな黒い眼を綻ばせて笑みを浮かべた。
なぜラグエルがここにいるのかというと……。
「わー、UFOだー」
牧場の裏にふらり、とやってきた彼女は停泊していた一台のポータラカUFOを見つけたのであった。
そして、そばにいた銀色の宇宙人(ポータラカ人)に無邪気にも声をかけたのである。
「宇宙人さん、ラグエルもUFO乗せて!」
ノリのいいポータラカ人は二つ返事で彼女をUFOに招き入れたのであった。
その一方、
「ラグエルちゃーん!ラグエルちゃーん!」
リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は唐突にいなくなったラグエルを探し回っていた。
「おかしいなぁ……さっきまで牛舎の方にいたはずなのに……」
空京にあるデパートの紙袋を抱えて途方にくれるリース。
そんな彼女の元に「おーい」と声が掛かった。
ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)である。
彼女からラグエルが行方不明になったと連絡を受けた彼は、急遽イルスンミーンから駆けつけたのであった。
「見つかったか、リース?」
「ううん。いったい、どこいっちゃったんだろう」
「ラグエルのことだから、そう遠くには行ってないはずなんだがな……」
そう考え込んでいると、ふとどこからか「えぇ〜!!」という大きな声が牛舎から聞こえてきた。
2人は声のする方へ向かう。
そこにはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が牧場のスタッフを相手に押し問答をしていた。
「家畜が連れていかれたって!!?」
「は、はい……」
「それじゃあ、牛乳は!?」
「えっと……申し訳ないのですが……」
あまりの「全開」っぷりにスタッフは冷や汗を流す。
しかしミルディアはそんなスタッフに見向きもせず、空に浮かぶUFOをきっ、と睨みあげた。
「せっかく休み使ってヴァイシャリーから来たっていうのに……ポータラカ人許すまじ!」
「あぁ、そこのお嬢さん」
空に向かって「うがー」と吼えるミルディアに、ナディムはなるべく穏やかに話しかけた。
「なに?」
「忙しいトコすまないが、ちょっと迷子を探してるんだ。コレくらいの背丈でピンク髪の小さい女の子見なかった?」
「迷子……?ううん、見てないわ。それよりもあのポータラカ人!」
ミルディアはびし、と人差し指をみょんみょんと浮かぶUFOの群れに突き差した。
「アレをなんとかしないと牧場の人たちや動物達に迷惑よ。それに何より、あたしが牛乳を買えない!こらー、牛さん返せー!」
彼女はもう一度、UFOに向かって突撃するのであった。
「ふむ……こっちとしてはUFOよりラグエルの方が……」
呟くとナディムは彼女と同じように空をちらり、と見上げた。
その瞬間、
「ん!?」
ピンク色の物体が彼の目に写った……ような気がした。もう一度彼は『ホークアイ』でUFOをじ、と凝視する。
今度ははっきりと視認できた。
「ラグエル!?」
彼は急いでリースの元へ直行する。
「リース!ラグエルを見つけたぜ!あのUFOの中だ!」
「ええっ!?」
離れた所で聞き込みをしていたリースはナディムの言葉に驚愕すると、急いで上空を漂うUFOの元へ向かうのであった。
「あ、リースとナディムだ!」
ポータラカUFOの窓から楽しげに地上を見下ろしていたラグエルは、こちらに走り寄ってくる2人を見つけると大きく両の手を振った。
「リースー!ナディムー!ラグエルここだよーv」
子供らしい笑顔できゃっきゃ、と声をあげるラグエル。
しかしその声は窓に遮られ、手を大きく振っている姿も地上からはその表情まで見て取ることができない。
故に、
「ラ、ラグエルちゃん、助けを呼んでるみたいです……」
リースはラグエルが宇宙人(ポータラカ人)にさらわれたと思い、必死に彼女が乗るUFOへ猛ダッシュを続けるのであった。
しかし、彼女は読書が趣味のインドア派である。すぐに息が切れてしまった。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
先にUFOに向かって駆け寄っていたミルディアははぁはぁ、と荒い呼吸を続けるリースに駆け寄る。
彼女が『ヒール』で体を癒やすと、リースは「す、すみませ……せん」とたどたどしく言葉を繋げる。
「あ、あの……わ、私のパートナーがあのUFOにつ、……捕まってる……みたいで……」
「なんですって!」
そう言ってミルディアはリースの肩を担ぐと、「もう許せない」という表情を呑気に「ウ〜チュ〜ウ〜ジ〜ン〜ダ〜ゾ〜」と声をあげるUFOに向けた。
「宇宙人ごっことか言ってたけど、人の嫌がることはやっちゃダメでしょ!」
「ら、ラグエルちゃーん!私、絶対にラグエルちゃんを助けるまで諦めないですー!」
こうして2人は協力して宇宙人(ポータラカ人)に立ち向かうのであった。
その一方、ラグエルの乗るUFOを見失わないよう『ホークアイ』を凝らしながら走り続けるナディムは首を傾げた。
(……なんかラグエルのやつ、心なしかすげぇ楽しそうに見えるな。気のせいか?)
そんな心配を他所に、
「リースー!ナーディームー!やっほーv」
「ヤ〜ッ〜ホ〜」
UFOの中ではラグエルとポータラカ人が、実に平和そうに手を振るのであった。
「ワ〜レ〜ワ〜レ〜ワ〜ウ〜チュ〜ウ〜ジ〜ン〜ダ〜」
ポータラカ人達はなおも宇宙人ごっこを続けている。
キャトルミューティレーション(物理)で逃げ惑う牛を捕まえようとしたところで、
「いい加減にしなさい!」
ポータラカUFOのマジックハンドをリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)のソード・オブ・リリアの刃が両断した。
「あなた達の動物への暴挙、真面目に働く酪農家の人達にはまさしく許されざるテロ行為に等しいわ。というか!」
彼女はソードの切っ先をUFOに向けた。
「ポータラカなのに、光浴びさせてふよんふよんって浮き上がらせてUFOに収納、じゃなくて、何よそのふざけたマジックハンドは!!」
熱くUFOに抗議するリリア。
そんな彼女を尻目にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は牧場のスタッフ達と共にゆっくりと馬を引き連れて行くのであった。
別のところでは彼の『牧神の猟犬』とリリアの『賢狼』が牛や羊を建物へ誘導している。
避難は順調に進みつつあった。
「すみません、ご協力感謝します」
スタッフの一人がエースに頭を下げた。
「いえいえ。でも実際、これやられると牧場主・畑主には大打撃だからね。僕も園芸をしている以上、無視はできないよ」
彼の園芸もこのように踏みにじられてしまうのを想像すると、やはりやるせない心地になってしまうであろう。
しかも、相手は完全な愉快犯である。
「何より手塩にかけて育てて来た牛や馬や羊、それと畑の植物達をおもちゃにされたら怒るよ。僕だってそうだ」
ミステリーサークルを作るために折り曲げられた小麦畑を見ながら、彼は後で『エバーグリーン』をしなくちゃと考えるのであった。
「ほーら、どうどう。もう少しで安全なところに着くからね」
「エース!馬系動物は足が折れたら生きていけないんだからくれぐれも注意してよね。あ、もちろん牛さんや羊さんにも下手な傷つけたら処分されちゃうんだから!」
ポータラカUFOの接近を防ぎながら賢狼に指示を出すリリスは、暴れる馬を抑えるエースに声をかけた。
「判ってるよリリア。それにしても、本当にリリアは動物が好きなんだな」
「当たり前よ」
リリアはふふん、と胸を張る。
その時、
「あら?」
彼女は遠くから何かが近づいてくるのを見て取ったのであった。