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リアクション
第二章 吹雪を越えて
「故郷を思い出す寒さね…この雪崩も『雪の女王』のしわざなのかしら…悪い偶然と思いたいけど」
イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)はジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)と共にイコンフィーニクス・NX/Fに乗り込みながら、白い空を見上げた。
「吹雪が重いわね…まるでロシアの冬空だわ」
飛行形態を取るフィーニクス・NX、その翼にまとわりつくような吹雪に、ジヴァもまた思い出しているようだった。
「…とにかく、今は原因を考えている暇はないわ。ジヴァ、救援に向かうわよ」
「了解」
二人はインファントを切り離して先行させながら、その白い嵐を突っ切って行った。
「そんな! 雪崩が起きているのにまだ、山に人が残っているなんて…は、早く助けに行かなくちゃ!!」
それが事態を知った際の、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の第一声だった。
町で聞いた、雪崩の発生の一方と、薬草採取隊の人達が山に残ってるという話。
直ぐに助けに行こうとしたリースの耳に、更に驚愕の話が聞こえてきたのは、その時だった。
曰く。
「ルルナちゃん、薬草採取隊の人達を追いかけて山の中に入って行ったんじゃないかしら?」
と。
「薬草採取隊の人達だけじゃなくて、小さな女の子まで山にいるなんて…雪崩に巻き込まれる前には、早く助けに行かないと…」
更に焦るリースは自分のパートナー達を見つめた。
「……隆元さん」
「小娘と居ると厄介事には事欠かぬな」
「……お師匠様」
「何、偉大なる我輩に任せておけば、万事上手くいくのじゃ!」
「……ケルピーさん」
「うっしゃー! 迷子のがきんちょ見っけて、俺様が町のヒーローになってやんぜー!!」
桐条 隆元(きりじょう・たかもと)、アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)、ケルピー・アハイシュケ(けるぴー・あはいしゅけ)からの頼もしい返事に、青い瞳がじわりと滲んだ。
「皆の者! 大英雄(←自称☆)である我輩を信じて付いてくるのじゃ!」
「迷子のがきんちょ、探してやんぜ!」
それに気づかぬフリのアガレスは超小型飛空艇アペシュ(アガレス専用の高速飛行を可能とした超小型飛空艇だよ!)に乗り込み発進し。
気づかぬケルピーは、鼻歌まじりにアガレスを追っていき。
気づいたのか気づかなかったのは、隆元はいつの間にかいなくなっており。
「ルルナちゃんが薬草採取隊の人達について行ったのなら……」
そして、それを堪え、パートナー達を見送ったリース。
「薬草採取隊の人達が山道のどんなルートを通って何所まで行こうとしていたのかが分かれば、薬草採取隊の人達やルルナちゃんを見つけ易くなるよね。……すみません、どなたかご存じの方、いらっしゃいませんか?」
張った声に、真っ青な顔をした薬草店のおかみさんが手を上げ。
「多分、このルートを使ったはずだよ……これが正式な途、だからって」
「正式な……? いえ、分かりました、ありがとうございます。お師匠様達や他の人にも連絡して、絶対見つけて、無事に連れ帰ってきますから!」
地図で確認し、リースはおかみさんの震える手を一度、強く握った。
「やれやれ地祇使いの荒い事だ」
そんなリースの願いを正しく受け取ったのは、隆元だった。
防寒具をバッチリ整え、【用意は整っております】で先行した隆元は一度リース達がいるだろう下界を見下ろしてから、その視線を頭上へと移した。
このまま山が吹雪き続けていては、薬草採取隊やルルナだけでない……探しに向かったリース達もまた2次災害に遭うかもしれないのだ。
勿論、本人には素直に告げる事はしないが。
「そちらにも事情があろうが、それはこちらとて同じ事。人命優先にて、すまぬな」
誰にともなく告げてから隆元は【天候操作】で、山頂付近の雲を払う。
その力により、雪雲は少しずつ散らされていくのだった。
「ぬ……あれは!」
吹雪が弱まるに従いクリアになっていく視界に、低空飛行でルルナ達を探していたアガレスは声を上げた。
風に煽られながら上がった救援信号らしきもの、その下に固まる人間を目にし。
「あー、残念な事に我輩鳩の姿故、人一人助け起こす事も出来ぬでな」
アガレスは大英雄らしく堂々とした態度で、【光術】で自らをらいとあっぷしたのであった。
「冬山で遭難したら、時間だけが勝負よ。……時は金なりってよく言ったものだわ」
行きましょ、と直ぐに行動に移っていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
教導団の冬季戦闘訓練を受けている最中に雪崩発生と薬草採集隊が遭難したとの一報を受けた、二人の行動は早かった。
いつもと違い山岳戦闘の装備に、救援物資を持ち救助に向かった二人は、【光術】に気付き駆け付けた。
その眼前、正に後僅かで雪崩に飲み込まれようとする、要救助者の姿が在った。
「ルルナ無事ね、良かったぁ」
「安心するのはまだ早いですよ」
ほっとする小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の固い声が掛けられる。
そう、一分一秒でも時間が欲しいのだ。
美羽は小型飛空艇アルバトロス、ベアトリーチェは4人乗りの空飛ぶ箒シーニュで来ている。
「あたしは大丈夫、この二人を先に……足を痛めてるの」
乗って、という美羽にルルナは首を振って、ケガ人を指し示したが。
膝まで雪に埋まった子供を放置しておくなんて、美羽には到底出来なかった。
「仕方ねぇ、特別に俺様の背中に……ふぐぁっ!?」
「あぁもう、気持ちは分かるけど、大人しく乗りなさい!」
ドヤ顔で決めようとしたケルピーを突き飛ばし、美羽はさっさとルルナをシートに乗せ。
「お馬さんはこちらの男性をお願いしますね」
「あー…俺様ムサイ男を背中に乗せて喜ぶ趣味とかねぇんだわ……つか乗せんな」
ベアトリーチェに「ふん」と返したケルピーだったが、
「ほらほら、そういう事、言わないの!」
めっ、とセレンフィリティに可愛く叱られ、
「お馬さん、おじさん達の事、お願いね」
ルルナに泣きそうな顔でお願いされ、
「……しっ、仕方ねぇな。まぁあの戦艦ぐらいまでなら、我慢してやらねぇ事も、ねぇ」
「ありがと、いい子ね♪」
ちょっとだけ妥協したケルピーの頭をセレンフィリティが撫でた。
「……本気で余裕はないのよ、早く移動しましょう」
そんなやり取りにちょっとだけ不機嫌そうなセレアナに促され、ケルピーは非常に不承不承、おっさんをその背に乗せたのであった。
「…ちっ。NX、モードをH形態に固定!」
更に、30倍速まで加速し舞い降りたフィーニクス・NX/Fによって、状況は好転した。
フィーニクス・NX/H、人間形態へと変化させたジヴァとイーリャは、残った薬草採取隊員達を回収するのだった。
「ケガ人はこっちへ運んで!」
「快適とは言えませんが、そこは我慢して下され!」
『伊勢』では既に、コルセアと吹雪が準備を整えていた。
「大丈夫ですか!?」
【秘めたる可能性】で【応急手当】を使用したセレアナは、直ぐに治療に当たった。
「ルルナ、良く頑張ったわね」
迎えた蓮見 朱里(はすみ・しゅり)にアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)も「よくやった」と頭を撫でてやり。
「こういう時は動いちゃダメなのよ。バラバラになったら探しにくいの。山岳警備の人とか絶対、気づいて……助けにきてくれるから」
【命のうねり】で回復させながら聞けば、迫る雪崩を前に怯える大人達をルルナが説得したらしい。
「で、これからどうするんだ?」
「上に行く……薬草を採りに行ってくる」
「言う程、簡単ではありませんよ」
一息ついたのを見計らい、静かに問いかけたのは赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)だった。
「うん」
「雪崩は去った場所とはいえ、いつ崩れないとも分かりません」
「……うん」
「余計な事……麓の事など心配していて登れるほど、甘くありませんよ」
「…………うん」
「それでも、行きますか……例え薬草を手に入れても、帰る家がなくなっては、元も子もありませんよ」
居場所を失くして集った子供達がようやく得た、再びの居場所。
それを失うのは不安だろう心配だろう、どんなにか怖いだろう。
ギュッ、と唇を噛みしめて俯く幼い顔に、元来やさしい性質の霜月の宗は痛む、けれど。
覚悟がなければおそらく、辿りつけない。
「心配、だけど……」
キッ、ルルナは顔を上げて霜月を見上げた。
薄く水の膜の張った瞳はしかし、涙を零してはいなかった。
「でも……信じてるから……」
助けてくれたイコン、そして視線を下げれば見える、たくさんの機影。
「だからあたしはあたしに出来る事をしに行くわ」
「分かりました。ならルルナさんは必ず、自分が送り届けましょう」
その覚悟に霜月が、誓いを口にし。
「勿論、あたし達も行くからね! 雪の女王には一言、言ってやりたい事があるしね」
美羽は小さな身体を後ろから抱きしめた。
心強い、けど、これ以上助けて貰っていいのか、瞬間迷うルルナに。
「相変わらずムチャしおって、どーせマトモな準備もしとらんのやろ?」
「お久しぶり、前に言われたでしょ、一人じゃないって事。だから助けに来たわよ」
上條 優夏(かみじょう・ゆうか)がフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が、笑ってくれて。
「雪崩?、そんなんイコン乗りの奴に任せとけばええ」
「ふふっそうね、雪崩は私達が止めるわ、だから安心して」
「ついでに下……まぁ比較的安全な所に下ろしてやろう」
イーリャとジヴァが頼もしく請け負ってくれて。
だから。
「おじさん達の事、よろしくお願いします」
「了解、託されたわ。だけど約束よ?、無茶だけはしないで」
「危険だと思ったら引くのもまた、勇気でありますよ」
非常食やら防寒具やらをセレンフィリティや吹雪から渡され。
ルルナは「ありがとう」という代わりにただ、一つ大きく頷くのであった。
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