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リアクション
序章
「状況を一文字で表すならば『混』であろうな」
ナクシャトラ闘技場特別席から見つめるその先には、逃げる観客と応戦する契約者、猛威を振るうDSペンギンと甘美な匂いを放つ像。
混沌、混乱、混戦――
金 鋭峰(じん・るいふぉん)の言葉はまさに的確であった。
「いったい何が原因だというのだ……」
「失礼します」
背後から掛けられた声に思考を中断。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。そこには敬礼する二人が立っている。
「ルカ君とダリル君か」
振り返った金が軽く手を挙げると二人は敬礼を解く。
「報告いたします」一歩前に出るダリル。「ナクシャトラ闘技場を襲っているDSペンギンですが、どうやら中継基地全体に侵攻している模様。相手の武装は口から出す光線兵器で、浴びたものをお菓子へと変化させるようです。どうやら知恵をつけたDSペンギンが機械を開発し、装着したものかと」
「ご苦労」
一言だけ労いを呟くと、もう一度情勢を見つめる。
「まったく、このような機会に奇怪なものを持ち込んだものだ」
「ぷっ、くすっ」
「何かおかしなところがあったかね?」
まさか真顔で駄洒落を挟んでくるとは予想外。
思わず噴出してしまったルカをダリルが小声で嗜める。
「ルカ、団長の前だぞ」
「失礼いたしました」
「まあよい。私達の仲だ、そう畏まるものではないだろう」
「痛み入ります」
礼を欠かないダリルに、金は告げる。
「このままでは基地の機能が失われてしまう。一刻も早く打破しなければならない。そして……いや、これはいい。私事だ」
最後、言いかけた言葉を飲み込み頭を振る。
それを見たルカは、
「ねえ、ダリル」
「なんだ?」
「団長って、甘いもの苦手だったよね?」
「そうだったな」
なるほど、納得がいく。
甘い匂いが漂う近辺。それも問題の一つなのだろう。
だがそこは指揮官。自分のことよりも先ずは混乱の解消。冷静に判断を下す。
「場内の人間には知らせたが、基地全体にはまだ情報が行き渡っていない。頼まれてくれるか?」
「そうなると団長のお傍を暫し離れることになります。お許し頂けますか?」
「私よりも市民の安全が最優先。許可を出そう」
「わかりました。それでは、ルカ達は市街地に向かいます。蓮華、スティンガー」
「は、はいっ!」
緊張し切った動作で現れる董 蓮華(ただす・れんげ)。その後ろからスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)がキビキビと歩いてくる。
「二人には私達が不在の間、親衛隊と共に団長の護衛任務を与える。心して任に就くように」
「こっ、光栄です! 一命に代えても団長はお守りします!」
ルカの指示に、蓮華が変な気負いを持たないよう気を使うスティンガー。
「お前が倒れたら団長に負担が掛かる。一命には代えるな」
「う、うん」
「スティンガー、蓮華のサポートを頼んだ」
「了解です」
ダリルもわかっているのか、スティンガーに支援を望む。
「それでは俺達は避難誘導に向かいます。ルカ、行くぞ」
「市民は必ず守って見せます」
「期待している」
再度敬礼し、退室するルカとダリル。
「さてと、団長の護衛だが蓮華、作戦はあるか?」
二人を見送り、スティンガーは蓮華に顔を向けるが、
「頑張らなきゃ、頑張らなきゃ……」
当の本人は一人呟くだけ。危惧していた事態が起こっている。
「どうしたものかね……」
頭を悩ませるスティンガーとは裏腹に、金は早期収束のために動き出す。
「私は闘技場の陣頭指揮を執る。君達は私に着いてきてくれ」
「了解しました……おい」
「えっ、あ、はいっ!」
声にビクッと反応する蓮華。こちらも何とかしなければ、任務どころではない。
「董君」
「は、はいっ!?」
唐突に金は名を呼ぶ。
「このような状況だ、無理に落ち着けとは言わない。ただ一つだけ言わせて貰う」
「……何でしょう?」
「気張るな」
「……はい?」
「頑張るな、ということだ」
その言葉は蓮華にとって以外だった。そして、意味がわからない。疑問符が脳内を巡る。
「それでは行くとしよう」
戦地へと赴く金。
スティンガーは呆然と立ち尽くす蓮華の隣に来ると、
「要は普段通りってことだ」
「それはどういう……」
「団長は俺達の実力を認めてくれてるってことさ。ありがたいね」
蓮華の肩を軽く叩き歩き出す。
「そろそろ行かないと、置いてかれるぜ?」
そこでようやく理解できた蓮華。
意味を反芻すると、全身に力が湧いてくる。
この衝動を全て金のために。
「金団長には手を出させません!」
叫びの勢いそのまま、蓮華はスティンガーを追い越す。
「頑張るなって言われたのに……ま、気負いは消えたみたいだし、いいか」
二人は金の後を追った。
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