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摩利支天の記憶

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摩利支天の記憶

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 3 


 像を手に入れた剣士はひたすら荒野をかけていった。
 既に日も暮れ、辺りにはアンデッドが彷徨い出しているが、それらを一刀両断にしながら走り続けていく。

 そして、さらにその後を追う者達がいた。セルマ・アリス(せるま・ありす)リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)だ。
 セルマの……いや竜胆達を含め皆の目的は、あくまで像を手に入れて、しほりを救出することだ。
 彼は剣士の姿を捉えると、数メートル先に降り立ち剣士の来るのを準備しながら待った。
 やがて剣士が近づいて来ると、セルマは静かに語りかけた。
「貴方が風太郎さんを攻撃したという謎の剣士ですね? 俺はセルマ・アリスといいます。貴方が守っているという摩利支天の像が必要なんです。渡してもらうことはできませんか?」
「断る」
 剣士が答えた。
 まあ、誰かに忠誠を誓ってそれを守っているならすんなり渡してくれるわけがない……とセルマは思う。
 だから、セルマは剣士と話がしたいと思っていた。
 
 一方リンゼイは辺に蔓延るアンデッドを一掃していた。
 セルマの意思を汲んでの行動だ。
 セルマが剣士と話をしたいのなら、他の者が手を出すのは無粋だろう。
 アンデッドに関しては容赦は一切必要なさそうだので全力で戦う事にする。
 まずは、【破邪滅殺の札】を手に【悪霊退散】を食らわせていく。
 アンデッドは札の力で次々に退散していく。
 また、アンデッドが手に持っている剣には変わった効果があるようなので、食らわないよう【殺気看破】で相手の殺気を感知して戦う。
 【彗星のアンクレット】で上昇させたスピードを活かして、アンデッドの攻撃は防御せず完全に回避していく。
 反撃には【マジックブラスト】や【機晶ビーム】などで直接相手に触れずに攻撃を仕掛け確実に倒していく。

 こうしてリンゼイが邪魔なアンデッドを倒してくれたおかげでセルマは心置きなく剣士と対峙する事ができた。
 まずは先手必勝だ。
 【ゴッドスピード】で一気に謎の剣士への距離を縮め、目の前で【スカージ】を使った。
「!」
 剣士のスキルが封じられる。
 スキル封じしてしまうと、今度は【プロボーク】で剣士を挑発した。
 挑発に乗って剣士が斬り掛かって来る。その攻撃を防ぎながら、戦闘の競り合いの中でセルマは剣士を一方向に誘導していった。それは【用意は整っております】で設置しておいた【落とし穴キット】製落とし穴の位置だった。
 罠にかかった剣士は落とし穴の中にハマった。その衝撃で像を手放してしまう。像は草の上に落ちて転がった。セルマは素早くそれを手にする。
 本来なら、折角烈士の相手だからきちんと戦ってみたかったけど、今はそんなことしてる場合ではないようにセルマには思われた。だから、このような手段をとった。
「像を渡せ」
 剣士が言う。
 セルマは首を振った。
「ダメです。この像には仲間の命がかかっているんです。アカシックっていう奴に仲間を人質にされて、この像と引き換えに返して貰う事になっているんです」
「その像は我にとっても大事な物。……いや、我が主にとって……。それを悪党に渡すわけにはいかぬ。返せ」
「それでは、謎の剣士さん、像を渡したくないなら一つ提案してみたいことがあります」
「なんだ?」
 セルマは言った。
「一緒にアカシックの元へ行きませんか?」
 剣士は驚いたような顔でセルマを見た。
「あなたとしては像を守りたいのだろうけど、こちらにも必要なんです。けれどその像をアカシックに渡してしまってその後像が無事であるかは分からないし……だからあなた自身にアカシックが像をどうするのかを見定めてもらいたい。勿論人質を無事に保護した後で」
 すると剣士はしばらく考えた後、答えた。
「悪いが、我は誰とも徒党を組む気はない。我にとっての仲間は唯一主殿のみだ」
 剣士は落とし穴から出て立ち去ろうとする。

「待ってください」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が逃げようとする剣士の前に立ちはだかった。
 彼女は謎の剣士の行動の真意を知りたかった。それで、詩穂は剣士に向って言った。
「あなたの守りたい主とはどなたですか?」
 しかし剣士は答えず、剣をこちらに向ける。
 理由が知りたければ勝負に勝てという事のなのか?
 やむをおえず詩穂は戦う事にする。
 しかし、既に剣士はイモータリティを使っているので、第1回戦のようなな無属性攻撃や力押しは第2回戦には通用しないだろう。
 元々各種属性防御がある上に無属性攻撃にも強くなった、ならばどうするか?

 弱点を作ればいい。

 詩穂はそう考えた。

 剣士は、「スカージ」を使ってきた。詩穂はあらかじめそれを予測し、光輝耐性を高め、『記憶術』でスキルを忘れないようにしておいた。そして、『紅蓮の走り手』で鎧だけを焼くように命じて「ファイアプロテクト」の壁を破り、炎熱に対する弱点を付与した。
 すると、鎧を指定したのに体全体が焼けている!?

「もしかして魔鎧?」

 詩穂は博識で看破した。
 それから、詩穂は、剣士の炎熱耐性が弱くなったところに同じ炎熱攻撃の『怒りの煙火』で魔法に対する防御力も下げた。
 しかし、剣士はなおも詩穂に戦いを挑んでくる。体中が燃えているにもかかわらずである。

「ちょっと待って!もう勝負はついてるよ!」
 詩穂は言っうと、謎の剣士に『キュアオール』を施した。魔鎧の傷がどんどん塞がっていく。
 謎の剣士には何か我々の知らない事情がありそうなので、戦いに勝って『貴賓への対応』で話を聞いてみることにした。
「魔鎧さんですよね? もしかして、あなたは誰かを守るため、これ以上詮索してほしくないがゆえに風太郎さんを脅しに現れたのではないですか? もしよればあなたの仕える主について聞かせてくれませんか?」
「いかにも、我は魔鎧だ。我はかつて政成とよばれた者であったが、その魂の一部を魔鎧に封じ込めた者でもある。そなたの眼力に免じて全てを教えてやろう」
 こうして、魔鎧は自分と、自分の主について語り始めた。

「我の主人は、その昔、甲賀の首領に操られて殺戮を強要されていた英霊『摩利支天』の分霊だった。恐ろしい強さを誇り、悪鬼のごとく殺戮を繰りかえしていた。我が主を支配していたのは当時の甲賀の首領シガタという男だ。シガタは信仰が歪められて狂った狂人で、我が主を使い本気でこの世を手中にする事を考えていた。我が主『摩利支天』は奴の力に逆らえずやむなくシガタの命にしたがっていたが、シガタが死んだ時に聖石の中に封印された。摩利支天の像に隠されている甲賀の秘術とは、その『摩利支天』を揺り起こし、操るための術。しかし、主は目覚める事を望んでいない。長い眠りの中で良心を取り戻し、今は殺戮を望んでいないのだ。しかし、その像を渡せば奴らは再び主を殺戮の道具として使うだろう。それを止めるために、我はその封印を解く鍵を知るあの風太郎という者を殺してしまいたかったのだ」
 事情を聞けば仕方のない事のように思える。
 詩穂は言った。
「あなたが忠誠を誓って守護している主の安全を保障します。ですから、その像を貸していただけませんか?」
 魔鎧はその言葉にしばし考え込む。
 そして言った。
「いいだろう。お主らと手を組む事はせぬが、お主らの大事な者のために像を貸す事をゆるそう。ただし、主の安寧は必ず守ると約束をしてくれ」

 こうして、一同は像を手に入れる事に成功した。