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葦原島、妖怪大戦争

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葦原島、妖怪大戦争

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第四章 鴉天狗と絡新婦



 洞窟内部では恭也達が絡新婦と激闘を繰り広げていた。

 さらに。

「っ、何、この臭い……!」
 突然辺りに漂った腐臭に、思わず顔をしかめる理沙。
 直後、洞窟の入り口からのろのろとこちらに向かってくる影。
「何やら問題が起きたようですので手伝いに来ましたよ、絡新婦様」
 現れたのは異形、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)であった。引き連れているのは体の一部を失った死体。彼は死者を操り僕としていた。

『得体の知れない奴の手は借りぬと言ったはずよ! 引っ込んでなさい!!』
 絡新婦は甲高い声でそう叫ぶと、手近に居た理沙へと巨大な足を振り下ろした。
「危なっ…」
 慌てて飛び退く理沙。振り下ろされた足は硬度があり、命中した箇所の岩盤が抉れ岩の欠片が弾けとんだ。
 さらに理沙の背後にはエッツェルの操る死体が迫っている。

「ゾンビは僕らが相手をします。皆さんはそちらの蜘蛛を!」
 明人が天のいかづちを放つ。稲妻に打たれたゾンビ達は一度倒れるが、焼け焦げた体で再び起き上がる。
「効いてないのか…?」
「きっと、術をかけている人物を倒せば動かなくなるはずです。ですが……」
 明人はゾンビ達の背後へと目をやる。死者達を操るエッツェルは瘴気のような風を纏っており、近づくだけでも危険であった。
「だったらこうするまでさ」
 明人は命のうねりを発動。迸る生命力がゾンビ達を包み込む。
 生きる者の傷を癒すその術は、しかし死者達にとっては逆の効果を発揮する。
「オオオオオオオ……」
 怨嗟か、それとも不死からの解放への喜びか。ゾンビ達は低い唸り声を上げると跡形も無く消滅する。
 それを見たソニアは光の分身を出現させる。光で出来た分身の体に触れたゾンビが蒸発し、さらにソニアのヒールを受けた死者達も一瞬の内に消えうせた。
「おやおや、私の人形達が。しかし死体はまだいくらでも転がっているのですよ、ふふふ。貴方達の足元にね」

 明人とソニアが足元へ目をやると、彼らが倒した大蜘蛛や蜘蛛妖怪の死体が小刻みに震えていた。
「絡新婦のおかげで死体のストックには困りませんねぇ。さて、いつまで戦えますかな? ふふふ…」
 愉快そうに笑うエッツェル。
 明人達の周囲をゾンビと化した大蜘蛛の群れが取り囲んだ。
「これは長期戦になりそうだな…ソニア、大丈夫か?」
「ええ、耐えて見せます。あちらで他の人たちも戦っているのです。私達も頑張りましょう」


 絡新婦を相手するのは詩穂、恭也、そして理沙とセレスティア。
「はあっ!」
 詩穂が光明剣クラウソナスで絡新婦へ切りかかる。絡新婦は見た目からは想像もつかないような俊敏さでそれを避け、さらに部屋に張り巡らされた蜘蛛の糸を伝い一気に天井まで上るとプレス攻撃を仕掛けてきた。
 巨大な敵への対応を心得ていた詩穂は早めに回避行動を取っていた。先程まで詩穂の居た地点に絡新婦が落下し、轟音と共に洞窟の壁や床が大きく揺れる。
 絡新婦の死角からセレスティアが切りかかる。しかし硬質な蜘蛛の足は刃を弾き、振り向いた絡新婦はセレスティアを捕らえようと蜘蛛の糸を吐き出した。
「硬いですわね…」
 吐き出された糸はセレスティアに避けられ、地面に根を張り蜘蛛の巣の一部となる。
「ついでにこの糸も邪魔ね。次々吐き出してくるからいくら切ってもきりが無い!」
 
 洞窟内に張り巡らされた蜘蛛の糸は太く粘着性があり、時折彼女達の行動を阻害する。

「流石に全部焼き消すのはちょいとキツイな」
 恭也がパイロキネシスで炎を発生させ、邪魔な糸を焼き切る。その時、絡新婦の近くの糸に炎が燃え移り、絡新婦は耳障りな悲鳴を上げて後ろへ飛び退った。そして足の一本を振り下ろし炎を叩き消す。
「お、糸だけじゃなくて本体も炎が苦手なのか?」
 ニヤリと笑う恭也。そして絡新婦の近くに張った糸の数本に炎を発生させる。再び悲鳴をあげ炎から離れる絡新婦に接近し、機械剣カグツチを一振りする。刃は硬い足に弾かれるも、共に発生した炎が蜘蛛の頭を襲い顔の一部を焦がした。

『ウオォォォ!!』

 叫びと共にがむしゃらに足を振り下ろす絡新婦。
「っと危ねえ」
 恭也はぎりぎりのところで後ろにとび攻撃を食らわずに済んだ。
「足以外の部分なら攻撃が効きそうね。セレス、手伝って!」
「はい!」
 理沙が絡新婦へと接近する。気付いた絡新婦が糸を吐き出してくるが、それより先にセレスティアがゴッドスピードを理沙に付与。速度を上げた彼女に蜘蛛の糸は命中しない。
「行くわよ、煉獄斬っ!!」
 理沙は絡新婦の足を土台に飛び上がると、炎を纏った宝刀を力一杯振り下ろした。硬質化していない胴の部分を刃が切り裂き、傷口を炎が焼く。

 先程よりも大きな悲鳴を上げ、絡新婦が暴れ回る。絡新婦の上に着地した理沙は吹っ飛ばされそうになるが、詩穂が『空飛ぶ魔法↑↑』を唱えると、その体がふわりと宙に浮いた。
「ありがとっ!」
 理沙は絡新婦から離れた所へと着地する。
 絡新婦は未だ暴れ続けていた。するとその姿がみるみる萎んでいき、やがて先刻のような人型の姿になる。
「おのれぇ…人間風情がぁぁ……!」
 怨嗟の篭った目でこちらを睨みつけてくる絡新婦に、セレスティアが再び降伏を勧めた。
「どうか大人しくしてください。出来ることならあなたの命を奪いたくはありません」
 しかし絡新婦は突然大量の蜘蛛の糸を作り出し、自分と人間達との間に壁を作る。
 そしてそのまま洞窟の出口へ向け駆け出した。
「このっ、待ちなさいっ!!」
 邪魔な糸を焼き切り理沙が絡新婦の後を追う。
「私はまだ負けていない! 人間如きにこの私が負けるなんて在ってはならないのよ……こうなったら逃げ出した人間を捕まえて、今度こそ人質に……」

 その時、ゾンビ達を相手していた明人が焦った声で叫んだ。
「危ない、避けて!!」
 視線を上げたセレスティアたちは、ゾンビを操っていたエッツェルが水晶のような翼を生やしこちらへ向かってくるのを目撃する。
 咄嗟にエッツェルの進路から飛び退く一同。エッツェルが絡新婦の元に到着すると、突然洞窟内に猛吹雪が発生、光の乱反射により視界を奪われる。

「絡新婦、貴女はもう用済みです」
「な、何を言っているの……?」
 エッツェルの両肩から生えた触手が一つに纏まり、大顎へと変化する。
 一同は見た。吹き荒れる雪の向こうで、大きく口を開いたエッツェルの触腕が傷ついた絡新婦を一飲みにするその瞬間を。

「ご馳走様でした。さて、私は退散させていただくとしましょう。では、契約者の皆さん、またどこかで」
 絡新婦を捕食したエッツェルは翼をはためかせると、洞窟を飛び出し空の彼方へと飛び去っていった。それと同時に洞窟内の吹雪は止み、恭也達は視界を取り戻す。

「何だったの、あれ……」
 呆然とした様子の理沙。
「……とりあえず、あれと全面対決しなくて済んだのは喜ぶべきかね」
 苦い声で恭也が呟いた。
「……と、とりあえず山を降りましょう! 助け出した人達が無事避難できたかも気になりますし!」
 詩穂がそう言って出口へと向かう。他の皆もその後に続き洞窟の外へ出る。




 絡新婦の巣で激しい戦闘が行われていた、その同時刻。

 ウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)ファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)は妖怪の足跡を頼りに攫われた人々を探していた。
 ウィルが足跡を調べるために屈み込む。すると木の陰から現れた何者かが彼に襲い掛かった。
「うわっ!」
 咄嗟に頭を庇い伏せたウィルの頭上を何かが掠めていく。跳ね起きたウィルは目の前で牙をむく大型の犬を目にし驚きの声を上げた。
「犬!? どうしてこんな山奥に」
「こやつも妖怪じゃろう。犬…というよりは、狼に近いかもしれんな」
 そう言って杖を構えるファラ。その目前で、木や茂みの影から何匹もの狼が姿を現す。

 突然、ウィル達と狼の群れの間に、氷の壁が顕現する。

「……大丈夫……ですか……?」
 菊花 みのり(きくばな・みのり)がウィル達の背後に姿を現した。
「……君達の……探し場所……は、あちら……です…。ここはワタシに……任せて、行って下さい……」
 みのりは左手の方を指差す。そして心配するウィル達に大丈夫だと念を押し、二人を先へと進ませた。
 狼達が氷の壁を迂回し彼らを追おうとするが、その行く手にみのりが立ちはだかる。

「行かせて、あげてと……頼まれた……ので……邪魔をするなら……ワタシが」
 みのりが魔銃オルトロスを構える。
 狼達がみのりへと飛びかかった。

「みのりには傷一つつけさせはしないわ」
 死と復活の槍を手にアルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)がみのりを庇う用に前に出た。そして槍を振るい飛びかかってきた狼の一匹を叩き落す。
「悪いな。手加減する気はねぇぞ」
 グレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)もまたみのりの前に立ち、七輝剣を振るい狼達を斬り伏せていく。
 みのりはオルトロスを狼の足を狙って撃っていた。冷気を纏った銃弾は狼の足に命中すると、傷口の周囲の皮膚までも凍らせる。足を凍らされた狼は犬のような鳴き声を上げ逃げ出した。

 そうして殆どの狼が倒れ、もしくは逃げた頃。
「グルルル…」
 低い唸り声と共に、一際大きな白い狼が姿を現した。
「この子達のリーダーかしら。襲ってくるなら容赦はしないわよ」
 そう言って死と復活の槍を構えるアルマー。狼は姿勢を低くすると、大きく跳躍する。その狙いはアルマーではなく、その後ろに居るみのりだった。
「下がってっ!」
 みのりを後方へ押しやり、自分も一歩後退したアルマーが槍で狼の牙を受け止める。狼は槍を食いちぎろうと顎に力を入れるが、やがて噛み砕けないと理解すると後ろに飛び退き、みのり達から距離を取った。

 再び飛びかかろうとする狼に、今度はグレンが先に攻撃を仕掛けた。
「お前、みのりに手を出そうとしたな?」
 グレンは七輝剣で狼に斬りかかる。爆炎を纏った刃を続けざまに繰り出し、皮膚を切り裂かれ焼かれた狼が悲鳴を上げて後ずさる。
 しかし狼は逃げ出すようなことはせず、逆にグレンへ噛み付こうと口を開いた。
 その牙が彼の肩に届く刹那、みのりの放った銃弾が狼の眉間を撃ち抜き、その巨体が力を失いどうと倒れる。

「ありがとなみのり。そっちは怪我ないか?」
「大丈、夫……怪我は……してない……」
「さっきはちょっと焦ったけどね。大丈夫、みのりも私も無傷よ」
 それを聞いて安心した様子のグレン。


 その頃、みのりに言われた方角へと進んだウィルは天狗達と対峙する一団を視界に捕らえていた。よく見れば天狗の一匹は人間の子供を捕まえている。

 その時、視界の端に機械の翼を生やした人影が映った。

「天空落としであります!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は子供を捕まえている天狗に背後から奇襲を仕掛けた。まるでプロレス技を仕掛けるかのように天狗の両腕を拘束し地面へ叩き落とす。
「またこんな役回りなのである〜」
 地表ではイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が待機しており、天狗が地面に叩きつけられた直後、空から降ってきた人質の子供を蛸の様な足を伸ばして何とかキャッチ。

「小癪な真似を……」
 鴉天狗が懐から大きな団扇を取り出す。

「こうなれば力ずくで捕らえるまでのこと。さあ、人間達よ、武器を取りなさい」
「待って! 私は、真なる“良き”共生について貴女と話し合いたい。どうか武器を収めてくれませんか?」
 ルカルカの言葉に、鴉天狗は失笑する。
「何を甘いことを……今さら和解の話など、聞く耳を持つとお思いですか?」
「あなた方が人間との良き共生を考えて隠れ住んでいたことには感謝しています。しかし……」
「人間の為ではありません。これは私達自身の為です。さあ、これ以上の問答は無意味です。話をしたいというのなら、まずは力を示しなさい」

 鴉天狗が団扇を一振りすると、周囲に突風が巻き起こった。他の天狗とは桁違いの強烈な風である。

「アゾート、その人たちを連れて先に逃げて! 香菜とキロスも、お願い!」
 アゾート、香菜、キロスが助けた人々と共に急ぎその場を離れる。

「加勢します!!」
 ウィルとファラが戦闘に加わった。ルカルカは『空飛ぶ魔法↑↑』を味方全員にかける。
 宙に浮かんだ一同は天狗達と戦闘を開始した。
 
 ウィルがブーストソードを手に天狗の一匹へ突進する。天狗は手に持った団扇を振るい、向かってくるウィルへと風の刃を放った。ウィルは体を捻ってそれをかわすと一気に距離を詰める。
「はあっ!」
 音速を超えて振り下ろされた一撃が天狗の体を斜めに切り裂いた。
「ウィル、後ろじゃ!」
 ファラの鋭い叫びにウィルは振り向く。いつの間にか目前まで迫っていた天狗が高下駄を履いた足で強烈な蹴りを繰り出してきた。軌道を見切ってうまく受け流し、再び剣を振るう。
「ありがとう、ファラ」
「こう数が多いと面倒じゃのう。背中は私が守ってやろう。貴公は確実に数を減らしていけ」
「分かりました。行きます!」
 ウィルが再び天狗へと突撃する。その後ろにファラが続き、ウィルの隙を狙おうとするものには容赦なく魔法を放った。

「皆で空中戦とは、盛り上がるでありますな〜」
 吹雪は逃げたアゾート達を追う天狗を相手していた。残像で敵を惑わし後ろに回りこんでは天空落としを仕掛ける。背後から両腕両足を拘束された天狗が悲鳴を上げながら落下していき、受身も取れずに地面に叩きつけられた。
 天狗の攻撃は高速で移動して避けたり、イングラハムを身代わりにして防ぐ。
「空蝉の術であります」
「痛いのである〜」
 無傷の吹雪とは対称に、イングラハムは既に全身ボロボロであった。
 アゾートや香菜達が最後の天狗を倒すのを見届けると、吹雪は天狗の長を倒すためにルカルカ達の所へ向かう。

 向かいながらイングラハムのサングラス型通信機を勝手に拝借し、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)へと連絡を取る。
「吹雪、どうかした?」
 コルセアは山の麓にトラックを止め、そこで負傷者の手当てをしていた。ヘッドフォン型に変形させた通信機で会話をしながら、手元では負傷した兵士の傷口に包帯を巻いていく。
「攫われた人たちが今山を降りているであります。追いかけてた天狗は全部倒したでありますが、怪我人もいるみたいなのでできれば手当てして欲しいでありますー」
「了解よ。どの辺りから降りてくるか分かる?」
 吹雪が太陽の位置から大体の方角を教える。コルセアは治療を終えて前線へ戻ろうとしていた兵士を呼び止めると、伝達を頼んだ。
「麓で兵士の人達が待機しててくれるみたい。私も急いでそっちに向かうわ」
「助かるであります。自分は天狗のボスを倒してから降りるであります」

 そう言って吹雪は通信を切った。
 その前方ではルカルカとコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)が鴉天狗と戦っていた。近くではウィル達が他の天狗を相手している。

 鴉天狗が大きく団扇を振るう。するとその周囲で風が渦を巻き始め、やがて勢いを増した風は鴉天狗を中心に巨大な竜巻を形成した。
「離れろ!」
 コードが叫び、二人はポイントシフトで小天狗達を倒し終えたウィルの元へと移動する。
「わわっと」
 逃げ遅れた吹雪とイングラハムが竜巻に巻き込まれ空高く吹き上げられる。
 さらに、竜巻の中から鴉天狗が風の弾丸を放ってきた。ルカルカが常闇の帳を張ってそれを打ち消す。圧縮された空気はかなりの破壊力をもっており、目標を外した風の弾丸は地面に当たり大きく土を抉っていた。
「これでは防戦一方だな。何か隙が出来れば……」
 そうコードが呟いた時だった。

 上空から竜巻の中心を吹雪が落下してきた。そして落下のスピードで鴉天狗の所まで一気に距離を詰めると、その体にしがみついて共に落下しようとする。
「くっ……!」
 すぐさま吹雪を振りほどいた鴉天狗、しかしそちらに気を取られたせいか、周囲で吹き荒れていた風が弱まった。
「今よっ!!」
 ルカルカとコードが再びポイントシフトを発動。鴉天狗の目の前に移動する。
 コードが雷光のフラワシを召喚、電撃を放出させる。そして感電して動きの鈍った鴉天狗へと、ルカルカが怪力の拳を繰り出した。
 両腕で体を庇った鴉天狗が吹っ飛ばされ、地面へ墜落する。

 砂煙が晴れると、そこには膝をついた鴉天狗の姿が。片腕はだらりと下がっており、動かないようだった。
「くっ……」
 折れた腕を押さえ立ち上がろうとする鴉天狗、その背後から、ウィルが首筋に剣を突きつけた。

「そこまでです。もう勝負はつきました。大人しく投降してください」
 驚く鴉天狗。
 そして何故か、少しだけ誇らしげな表情を浮かべた。 
「……人間も、強くなったものですね……」
 両膝を突き、落ち着いた声で告げる。



「参りました。あなた方の勝利です」




 山の奥深く、化け狐の長を一人の人間が訪ねていた。
「和解は無理、ですか…」
 思案顔の鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)
「我らが交渉した所で結果は同じ。あやつらもそれなりの覚悟を持って行動しておる。今更何を言われようが止まらぬだろうな」
 九尾は続ける。
「和解とは異なるかもしれぬが…『鬼』達は力の有る者を好む。特に彼らの長である大鬼はそれが顕著でな。もし奴を打ち負かすことが出来れば、喜んで勝者の命に従うじゃろう」

 貴仁は山を降りる。大鬼は占領した村に居座り、そこで部下に指示を出しているらしい
 やがてそれらしき村を見つけ、中に入ろうとしたときだった。民家の脇から、突然大きな音を立てて巨体が吹っ飛んできた。
 民家の壁にぶつかった巨体は側頭部から大きな角が生えていた。
「失礼、あなたが大鬼ですか?」
 話しかけられたルイ・フリード(るい・ふりーど)は焦った声をあげた。
「痛たた…違います違います! 私は一応人間です! 大鬼はあっちですよ」
 そういって先程吹っ飛んできた方角を指差すルイ。

 視線を向けた先には、人よりも大きな棍棒を担いだ、見上げるような巨体がそこに立っていた。


「また人間か…。何匹増えようが同じこと。まとめて滅ぼしてくれるわ!!!」