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葦原島、妖怪大戦争

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葦原島、妖怪大戦争

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第五章 鬼退治

「かべぇ〜」
「ぬ〜〜り〜〜か〜〜べ〜〜」
 山の一角で二人(?)の妖怪が抱き合っていた。
 ぬりかべ お父さん(ぬりかべ・おとうさん)は抱きしめた娘の頭を撫でる。

「感動の再開やな〜」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)も再開した親子を見て満足げである。
 ぬりかべお父さんは娘に山の状況を尋ねていた。話によると、暴れてる妖怪達のボスの一人が麓へと降りていったらしい。
「ならそいつをボコしにいきますか。いくぞ皆のものー」
 
 アキラ達は山を降り、妖怪のボスの下へと向かった。

「お、あれか?」
 麓に下りたアキラ達は民家の立ち並ぶ区画に鬼らしき影を目撃する。
 その時、彼らの行く手に化け猫達が姿を現した。中には小柄な鬼の姿も混ざっている。

「また人間かよ! これ以上大鬼の機嫌を損ねないでよね! とばっちり喰らうのは私らなんだからっ」
 そう言って化け猫の少女がアキラに飛びかかった。
「か〜〜べ〜〜」
 ぬりかべお父さんがアキラ達の前に立ちはだかった。大きな体で化け猫の攻撃を受け止める
「そっちがその気なら手加減はしないべ!」
 アキラとルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)はお父さんの影から弓やフラワシで攻撃を仕掛ける。
 横をすり抜けようとする輩はお父さんが気合を込めたパンチで殴り飛ばした。
「傷ついちゃったネ。治してあげるヨ」
 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)がお父さんの頭の上から降りて、時折その傷を手当てしていた。

 正面からでは敵わないと思った化け猫達が、大回りしてぬりかべの後ろに回り込もうとする。

「あははは……こんなとこにいたのさー?」
 化け猫達の前に深夜・イロウメンド(みや・いろうめんど)が姿を現した。
「げ、あんたは……」
 深夜の姿を目にし、化け猫の数匹がたじろいた。
「全く…驕りすぎさー。まあワタシもパートナーになったからわかったんだけどねー。人の強さを舐めちゃ駄目さー。ま、友達のよしみ、で教えてあげるかな。何に喧嘩を売ったのか、をさー。」
 深夜の背に影でできた翼が生える。更に、深夜の両脇にカラスとネコの使い魔が姿を現した
「さあ…君に不吉を届けにキタヨ?」
 その口元がまるで三日月の様な形に吊り上がった。
 それを見て後ずさる化け猫達。しかしすぐに、意を決したように襲い掛かってくる。
「私達も引くわけにはいかないのよ! んなことしたら大鬼になにされるか分からないじゃない! あいつ弱い奴にはとことん容赦ないんだから…!」
 化け猫は爪を立てて深夜へ飛びかかる。その間に神凪 深月(かんなぎ・みづき)が割り込み刀で爪を弾いた。慌てて後ろに飛び退った化け猫の胴を刃が掠める。
「妖怪も色々と大変そうじゃのう。しかし、いかなる理由があろうとも人を襲っていい理由にはならぬ」
 深月は刀をしまうと鬼神の力を覚醒させる。
「さあ、覚悟せい妖怪達。わらわの拳はちょいとばかり響くのじゃ」
 鬼の角を生やした深月が近くの化け猫達へと攻撃する。強力な拳の一撃に次々と吹っ飛ばされる化け猫達。そこに小鬼たちが加勢にやってくる。
「ほう、本物の鬼か。面白い、わらわと力比べと行こうではないか!」
 振り下ろされた棍棒を素手で受け止めると、その勢いのまま背後へと投げ飛ばす。別の小鬼が素手で殴りかかってくるが、こちらも両手で受け止め押し返す。バランスを崩した小鬼へと百獣拳を繰り出す深月。強烈な拳の連撃を耐えられるはずもなく、小鬼は地面に倒れた。

 深夜の周りにも既に何体もの化け猫が倒れ伏していた。
 二匹の使い魔が化け猫を撹乱させ、深夜は光の閃刃を放つ。無数の光の刃が化け猫達の体を切り裂き、行動不能にした。
「殺したりはしないさー。でもこれで分かったよね? 人に危害を加えちゃいけないってことをさー」


「うぉー、あちらさんすげぇなぁ〜」
 深月たちの戦闘を眺め、感嘆の声を漏らすアキラ。
「アキラー手元がお留守じゃぞー。貴様もしっかり戦わんかいっ」
 ルシェイメアに小突かれたアキラが視線を前に戻す。
 深月や深夜の活躍もあって、立っている妖怪の数はかなり少なくなっていた。お父さんの影から矢を連射し、一匹の小鬼を倒す。
「数も減ったしちょっくら突撃するべ! 援護頼むぞー!」
「おい、アキラ?!」
 アキラがお父さんの影から飛び出し、残る小鬼たちへと突撃する。
「行くべ! 必殺『ドウケシノタマシイ』。なんでやねーんっ!!」
 アキラが小鬼へ光条兵器のハリセンを振り下ろす。力一杯振り下ろされたハリセンは小鬼の脳天に見事命中し、小鬼は昏倒してその場に倒れた。そこに別の鬼が棍棒を持って襲い掛かろうとする。
「アワワ、アキラ危ないヨ!」
「まったく、無茶をしおってっ!」
 ルシェイメアが焔のフラワシを召喚し、小鬼に攻撃させる。小鬼の服が燃え出し、慌てて火を消そうとする小鬼の横っ面にアキラがハリセンを叩き付けた。吹っ飛び地面を転がる小鬼。それにより火は消えたようだが、小鬼は気絶して地面に伸びていた。
「か〜〜べ〜〜」
 ぬりかべお父さんが突然前方に倒れこんだ。お父さんを攻撃していた小鬼たちはその巨体に押しつぶされ、小さな悲鳴を上げる。
「ちょっと痺れててネー」
 アリスが押しつぶされた小鬼たちへとしびれ粉を振りまく。そして鬼達が大人しくなったのを確認してから、アキラに声を掛けた。
「アキラー、お父さん起こすの手伝ってネ」
「お、りょうかーいっ」
 アキラは最後の一匹を気絶させた所だった。
 倒れたお父さんの下に駆け寄ると、ルシェイメアと協力してその巨体を持ち上げる。

「さて、それじゃ鬼のボスを探しにいくとしますか!」


 その頃、町のはずれでは大鬼とウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)が戦っていた。

「ぐはっ…!」
 鬼の怪力に吹っ飛ばされたウルスラグナが壁に叩きつけられる。
「…マジで強いな……」
 防戦一方のウルスラグナを見て、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は驚愕する。
 そこに駆け寄ってくる二つの人影。

「あなたが大鬼ですね。少しだけ、俺の話を聞いてくれませんか?」
 貴仁がそう尋ねるが、大鬼は手に持った棍棒を打ち鳴らすと、厳かに言う。
「弱き者の言葉など聞く気はない。我は鬼。鬼とは強者なり。我らに何かを望むというのなら、まずは貴様の力を示すが良い。御伽噺の如くこの鬼を討ち倒してみよ!」
 大鬼が棍棒を振り上げ貴仁へと迫る。横っ飛びに避ける貴仁。棍棒は誰も居ない地面へと叩きつけられ、その場に大きなクレーターを作った。
「やはりそうなりますか…できれば武力行使はしたくなかったんですが、ね」
 貴仁が雷霆ケラウノスを掲げる。杖の先から電撃が迸り、大鬼に直撃する。しかし大鬼は特に堪えた様子も無く、再び棍棒を振り上げる。
「はははは、私を忘れてもらっちゃ困りますなぁ!」
 ルイが大鬼へと掴みかかる。見上げる程の巨体を持つ大鬼より更に一回り大きい肉体で、大鬼目がけ拳を振るった。
 大鬼は空いたほうの手でルイの拳を受け止めると、自分よりも大きなルイを片手で投げ飛ばした。ルイは数メートルほど地面を転がりようやく止まる。
「ははは、まだまだぁ!」
 ルイは跳ね起き、再び大鬼へと突進する。

「あの者も強いな…。くっ、やはりま力を取り戻していない今では、あのような化け物は倒せぬか」
 ルイの攻防を見ていたウルスラグナが剣を杖代わりに立ち上がる。
 そして腰に帯びたもう一本の剣、『黄金の剣』を鞘ごと外すと、勇平へと投げ渡した。
「っ!?」
「剣を抜け、勇平。全ての戦力を持って相対すること。それが強き者と相対する際の礼儀である。人より遥か巨大な化け物の、その強大な力に、数で相手をするのは恥ではない」
 勇平の手は震えていた。何せ相手はウルスラグナを圧倒するほどの力を持った化け物である。自分に倒せるとは到底思えなかった。
 しかし、勇平は剣の柄を力強く握り締め、数回深呼吸をする。そして心を決め、鞘から剣を引き抜いた。黄金に輝く刀身が露になり、ウルスラグナは微笑む。
「よくやった、勇平。さあ、いくぞ!!」

 二人はそれぞれの剣を手に、大鬼へと駆ける。
「む…!」
 大鬼は両手でルイと取っ組み合っていた。勇平はなけなしの勇気を振り絞り、剣を振るう。

「総ての邪悪なる者は、我が身体に宿りし力とウルスラグナを怖れよ!」

 黄金の剣の一閃が大鬼の左足を深く切り裂いた。バランスを崩す大鬼。その機を逃さず、ルイが大鬼を押し込む。
「小童が…っ!」
 辛うじて踏みとどまった大鬼に、今度はウルスラグナが聖剣グランドクロスを手に斬り掛かった。

「我は最強にして、もっとも多くの勝利を得、悪魔と人間の敵意とを打ち砕く!」

 ウルスラグナの一閃で背中を大きく切り裂かれる大鬼。
 さらに、大鬼の右足へ貴仁が雷霆ケラウノスを突き出した。
「ぐぉぉっ!」
 足に電撃と共に激痛が走り、大鬼は堪らず呻く。
「今です!」
 貴仁が叫ぶ。
 ルイは取っ組み合っていた片手を振りほどき拳を握る。筋肉が盛り上がり、ルイの渾身の一撃が繰り出された。拳は見事大鬼の顔面へとめり込み、その巨体を遥か遠くへと吹っ飛ばす。
 大鬼の体は地面で二度跳ねると、民家の壁に激突してようやく静止した。衝撃により大きくへこんだ壁。大鬼は座り込んだ姿勢のまま、ピクリとも動かない。

「やった……のか?」
 呟く勇平。
 その時、突然、身じろぎ一つしなかった大鬼が声を上げて笑い出した。
「くっくっく…はっはっはっは!! 見事だ人間よ、よくぞ我を打ち倒した」
 顔を上げた大鬼はまるで憑き物が落ちたような顔をしていた。疲労の色はあるものの、その表情は笑顔である。

「さあ、鬼を倒したのだ。首が欲しければ持って行くが良い」
 大鬼がそう言ってあぐらをかく。直後、大鬼の眼前に大きな影が飛び出してきた。
「かべ〜、か〜べ〜〜〜!」
「どうか命までは取らないでくれ、って言ってるワ」
 両手を広げ大鬼を守るように立ちはだかるぬりかべお父さん。その頭上でアリスがお父さんの言葉を翻訳して勇平達に伝える。
「別に命を奪おうとは思っていませんよ。元々俺は和解する為にこちらに来たんですから」
 貴仁がそう言って座り込んだままの大鬼へと歩み寄る。
「話を聞いてくれますね? とりあえず、暴れている妖怪達を止めてもらいましょうか」
「それと、壊した町の復旧も手伝ってもらわないとな」
 勇平も大鬼の前へと進み出る。
「謝罪もいるだろう。此度の騒動で、多くの者が被害を被ったのだからな」
 ウルスラグナがそう言って勇平の隣に並んだ。大鬼はその場から動かず、ただ頷いた。

「敗者は勝者に従うのみ、だ。全て、言うとおりにしよう」
「はっはっは! 拳で語り合った後は爽やかに、ですな!」
 ルイの豪快な笑いがその場に響き渡った。