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4.サスペンスのはじまり ――Dの悲劇

「きゃぁあああああ!」
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の絹を割くような悲鳴が響く。
「どうした、リリア」
 駆け付けたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が見たものは――
「し、死んでる!?」
 温泉にぽっかり浮かぶ、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の死骸だった。
「これは、事件ね!」
「何?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言葉に夏侯 淵(かこう・えん)が訝しげに首を傾げる。
「あのダリルを殺すほどの相手は、身内しかいない。つまり――犯人はこの中にいる!」
「な、なんだってー!?」×全員
 その場にいた全員の声が響く。
 その全員の中には、当の本人、ダリルもまた含まれていた。
(……何だ、これは)
 ダリルは雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の不幸に巻き込まれ気絶しただけだった。
 それが何故、こんな騒ぎになっている。
「おい――」
「ルカにはアリバイがあるの。その時間は売店でチョコを買っていたのよ。ほら、証拠のレシート」
「わざわざ証拠を作っておくなんて、逆に怪しいんじゃねえか」
「そんな事言う淵の方が、ダリルの死角に入って殺れそうじゃない?」
「何ぃ!?」
「おい」
「そう言えば、昔メシエとダリルは一人の女性を巡って……まさか犯人は!」
「そういうエースこそ、ダリルから訓練で厳しい指摘を受けていたな」
「おい」
 ルカルカと淵、エースとダリルが犯人探しをして言い争う。
 ダリルの声など、誰も聞いてはくれない。
「おいこら!」
「はっ、ダリルが起きた」
「やっと気づいたか。いいか……」
「死者を操るなんて……冒涜だぞ!」
 ダリルの言葉に気付いたエースだが、生存にまでは思い至ってくれなかったようだ。
「紛らわしいから君はそこできちんと死体になっててくれ」
 メシエもダリルを温泉に付け直す。
「がぶっ……いや、だから俺はただ」
「ダリルがただ温泉で気絶してしまうなんてありえないわ!」
「俺は、雅羅に巻き込まれて」
「ダリルがただ温泉で巻き込まれて気絶してしまうなんてありえないわ!」
「若干、話を聞いてるよな」
 リリアの連呼にダリルが突っ込む。
「ルカは『一度くらいはダリルに勝ちたいな』と言うておったではないか」
「淵だって『大きくなったらダリルを踏んでやる』って言ってたじゃん」
「お前達……」
 明かされる驚愕の事実に頭を抑えるダリル。
 そんな苦悩を余所に、5人の探偵たちはそれぞれに決め台詞を放つ。
「謎は全て解けたわ!」
「祖父の名にかけて!」
「真実はいつも一つだ!」
「見た目は子供、頭脳は大人!……くううっ」
「ああ自分で言っちゃった。ええと……初歩だよ」
 5人の指先が、それぞれ別の人物を指す。
「犯人は……お前だ!」×5
「いい加減に……しろ!」
 びびびびちゅどーん!
「ふぎゃぁああああ!?」×5
 痺れを切らしたダリルの電撃攻撃。
 温泉に浸かっていた5人はなすすべなく感電。
 ぷかーりと死屍累々の5人が温泉に浮かんだ。
「全く……生死をネタにして遊ぶから、自業自得だ」
 5人を尻目に、一人立ち去るダリル。

 こうして、サスペンス温泉の悲劇は終わった――かに見えた。
 しかし、これはまだ序章に過ぎなかったのだ――