天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

2023春のSSシナリオ

リアクション公開中!

2023春のSSシナリオ
2023春のSSシナリオ 2023春のSSシナリオ 2023春のSSシナリオ

リアクション

「ここは……どこだ?」
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は、呆然と周囲を見渡した。
 どーんと天井につく勢いで詰まれた約1メートル四方のが乱立している。実際ついているのもある。数え切れそうにないから数えないが、1000はくだらないだろう。
「この様子だと、奥の方もこうなっていそうだな」
 左右、正面、いずれも壁らしきものは見えない。もちろん背後もだ。どこまでもえんえんと詰まれた箱が続く。

 で、ここで何をしろと?


「とりあえず、脱出、かな?」
 目の前にある8個の箱を見て、そう決めた。これを動かさないと1歩も進めない。
 ここがどこにせよ、何の意図が働いているにせよ、動かなければいつまでも分からないままだ。
「なんか、発光してるなあ」
 ぴかぴかと、電飾もないのにダンボール箱がまたたいている。ちょうどアルクラントの顔の前にあるから目立つというか、いかにも「わたし! わたしよ! わたしを見て!」と自己主張してるみたいだ。ちょっと不気味なそれに押し切られるかたちで、思い切って手を伸ばす。えいやっと引っこ抜いてみると簡単に抜けて、意外と軽かった。が。
「――う゛っ!?」
 えづきそうなすっぱい悪臭がしていた。
発酵ということか?」
 あるいは吐こうということか。
 なんだこれ?
 抱えていられなくて脇に放り出す。手に臭いが移ってないか、クンクン嗅いでたしかめていたアルクラントの前で、上から落ちてきた箱についた紙がひらりと揺れた。
「発送伝票?」
 発行
か。

 ………………。


 1歩も進まないうちから疲れてきたが、アルクラントにはこの手のダジャレには耐性があった。
 箱が軽いことを幸いに、次々と持ち上げて脇へどけていく。最後の1箱の上に、またも紙が貼りつけられていた。

    きみは「はこ」の場所に閉じ込められた。
    脱出するに「はこ」の地図の通りに箱を移動させなければならない。
    持ち上げられるが1度下ろせば動かせない。
    押せば簡単に動くが引くことはできない。


「これは……つまり、箱を「運」ぶ役を回された、ってことか?」
 こんなことに巻き込まれた私は薄幸ですね、なんて言葉が浮かんでくるあたり、もうかなり毒されているのだろう。
「ふっ。この私にダジャレで勝負を挑むとは片腹痛い。よろしい、みごとこの難関をくぐり抜け、脱出してみせよう」
 (なぜか)落ちていた赤錆びたスコップを拾って、最後の箱を押して進む。直後、箱の下に隠されていた1ブロックサイズの水源にまっすぐ落ちた。



「――という夢を見たんだ」
 榊 朝斗(さかき・あさと)が朝食の席で、昨夜見た夢を話す。
「その水源かなり深くてね、アルクラントさん、まっすぐ落ちていったんだよ。すごくリアルな夢だったなぁ。なんだか気になって…」
「彼、死んじゃったんですか?」
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は興味津々だ。フォークを動かす手を止めて、ちょっと前のめりになっている。それをルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)がたしなめた。
「夢よ、アイビス。それより、さっさと食べてしまって。朝斗もよ。そんなに気になるならあとで連絡とってみたら? 今は早く食べて、とりかからないと。今日は忙しくなるわ」
「あ、うん。そうだね」
 今日、朝斗はバイト先のロシアンカフェのアルバイト募集ポスター撮りの予定が入っていた。なんだかいろんな裏の思惑を想像してしまってあまり乗り気になれないのだが、店長命令だからしかたない。
「アイビス、そこの塩をとって――」
 そのとき、ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
「ちわー。ヤマイヌ印の宅急便ですがー」
「宅急便? アイビス何か頼んだ?」
「いいえ。ルシェン、何か届く予定ありましたか?」
 ルシェンも首を振る。本当に心当たりはなさそうだ。
「僕が出るよ」
 宅配の人から受け取った荷物は、まるで引越しのときにでも使うようなダンボール箱(大)だった。
「かなり大きいですね」
 アイビスがしげしげと見下ろす。
 好奇心に負けたのか、朝斗が受け取りのサインをしてる間に、結局2人も玄関へ出てきていた。
「開けていいのかしら?」
 念のため、そっと持ち上げてみる。見た目のわりにはずい分軽い。かさばる物ということか?
「朝斗、中身は何になってます?」
「ええと……書かれてないなぁ。送り主は……リーラさん?」
 そのとき。
「やほー! 3人ともいるー?」
 表から見てたんじゃないかと疑いたくなるくらい思いっきり不自然なタイミングで、リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が現れた。
「リーラさん?」
 驚く朝斗のポケットで携帯が鳴る。発信名は柊 真司(ひいらぎ・しんじ)だ。
 出ると、真司はかなりあせった、切羽詰まった口調で開口一番こう言った。
『すまん、リーラのやつを止められなかった。もしまだそっちに着いてないなら居留守を使え! 玄関は決して開けるな! ばれたら裏口から逃げろ! ちなみに俺は逃げた!』
 ――もう手遅れです、真司さん。
「あー、無事間にあったわね〜。指定してたけど、ちゃんと届くか心配してたのよ〜」
 携帯の向こうの真司の胃が痛くなるような思いも知らず――というか、丸きり無視してリーラは箱を前にしたルシェンとアイビスに近寄る。
「リーラさん、これ何です?」
「今日撮影会するって言ってたでしょ〜? だからこれ、私からのプレゼント〜。衣装よ〜」
 衣装という言葉を聞いて、ルシェンの目がキラリと光った。
 このリーラのことだから、きっとまともな衣装ではないに決まってる。
 そうでしょ? 目で問うルシェンに、リーラもまた視線で応えた。決まっているわ〜、と。
「いや、あの、リーラさん。せっかくだけど、今日のはカフェのアルバイト募集の撮影だから、着るのはカフェの制服――」
「何言ってるの、朝斗! せっかくリーラさんが用意してくれたのよ!? あの箱にどれだけのお金と労力がかかっていると思うの!? その厚意を突き返すつもり!?」
 ルシェンはすぐさまがぶり寄った。
 携帯が宙に飛び、壁へと押しつけられた朝斗をすさまじい目力が襲う!
「え…? でも、あの――」
「もちろんカフェのポスターは撮るわ! でもそれだけにしなくてもいいでしょう!?」
 着ましょうね! あの箱の中身全部!
「わ、分かった! 分かったからちょっと離れてっ」
 怖いよルシェン!
「あ、言い忘れてたけど、ルシェンとアイビスの分もあるから〜」
 リーラの言葉に、ピタッとルシェンの動きが止まる。
「……え゛っ?」
「それだけ私の努力を分かってくれてるルシェンだから、当然着てくれるわよね〜?」
 ……ね?



 ダンボール箱(大)のなかには、同じような大きさの箱が8つ入っていた。そのどれもに、1〜8の数字が書かれた紙が貼りつけられている。
「3人で8個?」
「本当は、真司を入れて4人で8個だったのよ。でも、ここへ来る途中でいつの間にかいなくなってたのよ〜」
 さすがパートナーというべきか、感心する逃げっぷりだ。
 リーラは真相残念そうに、ほうっとため息をつく。
「ま、あっちはあとでシメるとして。ほらほら朝斗。早く選ばないと、残り物から選ぶことになるわよぉ」
「えっ?」
 振り返ると、ルシェンとアイビスはすでに箱を品定めしていた。
「1と8にしようかしら? 花柄の6も捨てがたいけど」
「あ、じゃあ私、6と7にします」
「朝斗は?」
 結局残りの4つからだ。まあどれも同じ大きさで、重さも似たり寄ったりだから、選ぶ基準としたら箱の柄しかないんだけど。
「…………じゃあ3と、5で…」
 頭上のリーラとルシェンの視線に圧される格好で、手近にあった箱2つを選択する。
「さあ、何が出てくるかしら ♪ 」
 朝斗もいるのだし、よくよく考えてみたら、中身は(おそらく)女性用の服だ。それこそ菜っぱ隊コスプレとかでない限り――いや、菜っぱ隊でもルシェンなら案外平気かも――大抵はイケる。
 結構楽しそうに、ルシェンは箱を開けた。
  1番 県立真更高等学校女子制服
  8番 女子スクール水着

「あらまぁ」
 特に問題はなさそう、と思ったルシェンの前に、リーラがペンを差し出す。
「水着の胸の白ゼッケンのとこに、名前入れてね〜」
 そして横では、箱から引っ張り出した衣装を見て、アイビスが固まっていた。
  6番 セーラー服
  7番 2020ろくりんピック  公式ユニフォーム(西)

「………」
 そっと箱にしまい、ふたを閉め、立ち上がる。
「あ、洗濯機が止まったみたいですね。干さなくちゃ」
 がっし、とリーラの手が肩を掴んで止めた。
「逃がさないわよ〜?」
「だってブルマじゃないですかぁーっ!!」
 しかも上だってぴっちぴちだし!!
「それが?」
 じわじわと、リーラの手が竜頭化していく。
「いたっ、いたたっ。な、何をされようと、ブルマは着ませんからね!!」
「あらそぉ〜? じゃ、奥の手」
 リーラはひらりと1枚の写真を取り出した。
「そっ、それはっっ!!」
「この前、山へ地元民たちを救出に行ったときの写真よ〜」
 写っていたのは、こたつに入って猫化したルシェンとアイビスのアップ写真だった。
 ただの事故。しかも巻き込まれ事故で結果的にそうなってしまったのだが、せまいこたつの一辺にルシェンと2人で入っている。のぼせて蒸気し、とろんとした目。暑いとはだけられた胸元。密着した体に意味あり気にかぶさったこたつふとん。
 見ようによっては――というか、どう見ても――リッパな百合写真です。
 ――ひいいいいいいいいいっ。

「な、何撮ってるんですかーーーーっ!」
「私に抜かりはないわ〜」
 ビシっとVサイン。キメ! って、これ、ばら撒かれるとルシェンも大ダメージくらうんじゃ…。
「そういうことだから。覚悟を決めて、履きなさい、アイビス」
 ルシェンが後ろから羽交い絞め、
「さあさあ、お着替えしましょうね〜」
 リーラがズボンを引きずり下ろした。
「ちょっと待ってーーーーーっ!」
 朝斗の前なんですけどーーーーっっっ!
 しかし幸いにも朝斗は自分のことに必死で、アイビスたちの方はちらとも見ていなかった。
 3番の箱に入っていたのは、見るからに天学のパイロットスーツだった。
(あ、よかった)
 ほっとするも、引っ張り出してみれば女子用。アイビスに負けず劣らず1分丈パンツにニーハイブーツ。
 しかしこちらはまだいい。
  5番 ゴスロリ服

 黒と白と緋色の、レースフリフリ。ご丁寧にヘッドドレスからペーパータトゥーといった小物、靴までワンセットで入っている。
(――フッ)
「ああ、今日もいい天気だ。こんな日はどこかへ出かけたくなるなぁ」
 そう、今日だけと言わず、2日でも3日でも4日でも。ほとぼりが冷めるまで。
「朝見た夢も気になるし。アルクラントさんとこへでもちょっと出かけて(かくまってもらって)くるかな」
 そんなことをつぶやきながら、何気なく玄関へ向かおうとする。背後では、アイビスの悲鳴がしている。
(アイビスごめん。もうちょっとだけ2人の注意を引きつけてて――)
「どこ行こうっていうの〜? あさにゃん」
 当然リーラに通じるはずはなかった。
「デスヨネ〜〜〜〜」
「さあさあ3人とも。お楽しみ、メイクアップのお時間よぉ〜」
 観念して正座した3人の前、ルシェン部屋から持ってきたメイクセットをずらりと並べる。
 リーラは輝いていた。
 これ以上ないくらい、途方もなく。
 そしてリーラ主導の下、3人の撮影会は始まったのである。


 ところで逃亡成功者の真司さん。残ったのは2番:ニルヴァーナ創世学園女子制服と4番:天学女子制服でしたが、これについてはどう思われますか?