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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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第10章 おそーじさせましょ、おそーじしてあげましょ Story7

「ルカルカさんに、あいつらを追い払うの任せちゃったけど。大丈夫かなぁ…」
 後ろを振り返っては、無事に倒せただろうかと心配しそうにリーズが見る。
「すぐぶっ倒れるような柔な精神やないやろ。最初から、ずっと授業を受けてここまできたんやぞ」
「―…そうだよね」
「っと、人の心配するよりも、オレらが倒れんようにな」
 負ってくる気配を感じとった陣が足を止める。
「そろそろ、香りの効果がきれてしまいそうだね。アーリア、キミの素敵な香りをくれないか」
「またなのー、んもぅ。マイマスターのお願いなら仕方ないけどー」
 けだるそうに言いながらも、大切なマイマスターのエースのお願いを聞き入れる。
「あと、この魔道具にももらえると嬉しいんだけど。いいかな?」
「どんだけ力を使わせる気なの。あんまりそんなことされると、マイマスターと一緒にいる時間が減っちゃうじゃないのよ」
「取り込まれたのは、アーリアと同じ女の子だからね。手荒なことをしたくないんだよ」
「ふぅ〜ん…どっちが大切なのかしら?」
「それを言われると困っちゃうよ」
 シルキーと自分、どちらが大事か問われたエースは困り顔をする。
「やだ、そんな顔されると、協力しなきゃいけなくなっちゃうっ」
 彼の困った顔はあまりみたくない様子で、むぅっとしながらもアーリアは、自分の香りをフラワーハンドベルに与える。
「いい子だね、アーリア」
 ふわっとしたピンク色の髪を撫でてやり、にっこり微笑む。
「はわわ…、章使えるのってオイラと…えっとー」
「私だな」
 きょろきょろとハイリヒ・バイベルを使える者を探すクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)の頭に、ぽんっと磁楠が手を置いた。
「何だ、その顔は」
 目を丸くして見つめる少年を首を傾げて見下ろす。
「あ、ジュディもいたよね!」
「“も”ってなんじゃ、まったく」
 ばたばたしていて誰がいるか、把握しきれていないこともあるだろうと許してやる。
「歌菜ちゃんたちがおらんからな、オレが位置を教える。クマラさん、箒から降りたほうがええぞ」
 対象が増えるほど持続時間が減ってしまうが、サンタの箒では相手のスピードと術にやられてしまう可能性をみてのことだ。
 陣は祓魔術を行使する3人に時の宝石の力を与え、姿なき者のポイントを伝える。
「リーズ!ぼーっとしてないで援護っ」
「ほえ、挑発でってこと?」
「それはいい。相手がのらなかったら、おまえが的にされっからな」
 猫又を前にして挑発に反応するとは考えにくい。
 術者たちの詠唱時間を稼ぐように指示する。
「にゃはは、おっけー♪これを攻撃用に使うのって、初めてかも?なんちゃって」
 白き閃光の落雷を落とし、ジュディたちへの接近を邪魔をしてやる。
「その畜生がそんなに大事ってかぁ?」
「動物をバカにするなんて許さないよっ」
「畜生を畜生つって、なぁにがいけねーのかなぁー!?」
 ケラケラと可笑しそうに暴言を吐き、バイオポンプの猛毒の水をオメガへ向ける。
 守られてばかりで弱そうな相手へ標的を変更させたのだ。
「ああっ、オメガさん!!」
「ニクシーさん、水のバリアーをお願いしますわ」
「はい…」
 水の羽衣のような服を纏ったニクシーは小さな声で返事をしてオメガたちを包む。
「例の水の魔性か、話には聞いていたが…。まさか本当に、祓魔師側についていたなんてな」
「話…?あの火山から逃げたやつがいたんか」
 何人か逃してしまっていたらしく、そこで見られたことが伝わってしまっていたようだ。
「まぁいいさぁ。いつまで持つかわかんねぇーしな?」
 修復で精神力を削ってやればよいかと顔をニヤつかせた。
「げっ、最低!」
 不快そうに顔を顰めたリーズだったが、白の衝撃の能力の閃光を撃つ手を緩めず、術者から引き離そうとする。
「避けてもいいんだぜ?」
「(どこまでも汚いヤツッ)」
 スピードを上げて回避することを読まれたのか、避ければオメガやジュディたちに飛沫が飛び散ってしまう。
 とっさに大地の宝石の力を引き出し、毒への抵抗力を上げる。
 アンバー色の光りに猛毒の力がぶつかり弾け散る。
「オメガ…、持続させると、あなたの力が…」
「いいえ。皆さん…大変な思いをしているんですの。わたくしだけ、じっとしているわけにはいきません。リーズさんを守ってください」
「あなたが、そう、望むのなら」
 精神力の負担を告げたが、譲らないオメガの信念に負けて言う通りにしてやる。
「女の子をいじめるなんてよくないにゃんっ」
 リーズとオメガを同時に潰そうとする悪鬼の塊りに、赤紫色の雨を降らせて器の魔法防御力を下げる。
「―…っ。ちと、遊びすぎたか」
「気づくのが遅いのぅ♪」
「追い出すだけでは済まさん、投獄してやろう」
 言い聞かせてやめる連中ではないと、シャンバラ大荒野の火山で学んだ2人は相手を逃走を許さず、哀切の章でSPを削ぎ尽くす。
「ふっふっふ。術が使えぬのなら、もはや抵抗もできぬじゃろう?」
「女性を物として扱うとは、まったく最低だな」
 エースはアーリアの香りを染み込ませたフラワーハンドベルを鳴らし、能力を使われてしまっているシルキーを落ち着かせる。
「さぁ、お嬢さん。キミはもう自由のみだよ?」
「まったく、女性には甘いね」
 あくまで女の姿をしているだけかもしれなのに、紳士に接するエースにメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は肩をすくめた。



「陣、シルキーの様子はどうだ?」
 風の宝石を使えないエースには魔性の姿が見えず、シルキーの状態を気にかけ陣に聞く。
「器から出て行ったみたいやね」
「無事に離れられたようで、よかった…」
「よーし、きつーく縛ったよ♪…あ、猫又さんまだ怯えちゃっているかな、陣くん」
「ぬこ娘か。んと、…あれ?」
 腕の中にあったふわふわとした感触がいつの間にやらなくなっていた。
「んなぁああ、おらんし!」
「やっぱ、怖がって逃げちゃったのかなぁ。それか、陣くんの服がきったなかったからとか?」
「ホンキで傷つくからやめてぇえ!縁の下なんか潜ったら、誰だってばっちくなるっつーの!!」
「歌菜ちゃんたちだ。おーい、ここだよー」
 合流しようとしているのか、きょろきょろと辺りを見回している歌菜の名を大きな声で呼ぶ。
「リーズちゃんたちも無事だったのね」
「へへーん、当たり前だよ♪」
「猫又さんは?」
 エアロソウルの能力なら見えるはずと、2本のしっぽを生やした三毛猫を探す。
「あーそれがね…。怖がってどっか逃げちゃったみたい」
「そ、そんなぁあ!?」
 せっかく救助できたと思った猫又の姿がどこにもなく、がっくりと膝をつく。
「師匠、何人か別れて探したほうがよいと思いますですよう!」
「んー、そうだねシシル」
「その前に、治療をしなければないらないのですよう。ルカルカさん、毒にかかってしまっていましたよね?」
「えぇ…」
「むむー…。どうしたら、こんな毒が発生するのでしょうかっ」
 どのスキルを使っても取り除ききれず、口元に片手を当てて悩んでしまう。
「ありがとう。治してくれようっていう気持ちだけ受け取っておくわね♪」
「力及ばずで、すみませんです…」
「まだ習い始めたばかりだっけ?それなら仕方ないわ」
 しょんぼりとするシシルを元気づけようと、金色の髪をふりふり振って“これから学んでいけばいいと思うの♪”と笑顔を向ける。
「ルカルカさん、スーちゃんが作った薬だよ。飲んで」
「何かな。……ん、おいしー!」
「解毒剤をドリンクにしてもらったんだ。肌のほうは、お花で作ったぬり薬を使って」
「うぅ、しみそう。…あれっ、全然痛くない?クローリスの力って不思議ね」
 おそるおそる毒の水を被った部分にぺたぺたとぬってみる。
「アタシは、スーちゃんだよー」
「そっか。ごめんごめーん、ありがとうスーちゃん」
 名前で呼ばれなかったことに怒った小さな少女の髪を撫でて謝る。
「香水作っておいたんだけど。よかったらどうぞ」
「ありがとう♪わー、いい香り」
「それ、まだ使うなよ」
「えへっ、ばれた?」
 手首にかけてみようとしたのをダリルに目撃されて止められた。



 ルカルカたちと別れた終夏は、“にゃーはこっちだにゃー!”と猫又の口調を真似て探す。
「にゃー、にゃぁー。にゃーはここにいるのにゃー」
「全然寄ってきませんですね、師匠」
「どこいっちゃったのかな…。エースさんたちのほうはどう?」
「こっちもさっぱりだな」
「オイラのほうもー」
 猫のゼノンと一緒に野良猫たちに聞いてもらったが、それらしい情報は集まらなかった。
「ねーねー。猫又見つかった?」
「1度救出したんだけど、ボコールが奪いにきてね。怖がって逃げちゃったみたいなんだ」
 パートナーたちと猫又探しをしている漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がエースを呼び止める。
「よくわかんないやつに追っかけられたら怖いもんね」
 捕まったら何されるのか分からない相手を前に、逃げてしまうのは仕方ないと頷く。
「さて、最近思ったことなんだけど…。俺、祓魔師の仕事では大人しくしておいた方が良くないか?」
「むーーっ」
「バカ者!猫の妖怪がどうなってもよいというのかっ」
 玉藻 前(たまもの・まえ)は仕置きをしてやろうと、尻尾でばしばしと樹月 刀真(きづき・とうま)を叩く。
「痛い…はい、頑張ります」
「全く、我らが祓い終わった後、お前はすぐに我らを労うんだ」
「イタタタッ!?はいっ、分かりましたから叩かないで!!」
「キミは誰かさんと同じ種類な気がするね」
「メシエ、それは禁句だ。やめてあげてくれ」
 騒がしそうにため息をつくメシエに、名前は言うなよと彼の口を手で押さえる。
「屋根のほうを探してみるとしよう」
 玉藻は地獄の天使の翼を九尾が浮かぶように乗せ、猫又を探してみる。
「うぅ…玉ちゃん。―…私、空を飛べないよ」
「離れて行動するのは危険だ!おーい、無視するなーっ」
「それほど離れているつもりはない」
「あ、はい。そうですね」
 キッと睨むパートナーに怯み、素直に謝ってしまう。
「私も連れて行って」
「うぐっ、く…苦しい」
 首にぎゅっと抱きつかれ、後ろへ倒れそうになる。
「は、離せ。分かったから…離してくれぇ……。俺を、窒息させる気かっ」
「―…むぅ、だって。玉ちゃん行っちゃったし」
「はいはい…まったく」
 しぶしぶ金剛力を使い、月夜を片腕で抱き上げた。
「にゃー」
 抱き上げられて嬉しそうに、刀真に抱きつく。
「ちゃんと本使えるようにしておけよ?」
「だいじょーぶ」
「(本当に、大丈夫か?)」
 にやにや笑顔で抱きついているパートナーを見て、まとめて呪いにかかったりしないよな…と不安になる。
「モップ持っているやつに、猫が追いかけられてるよ!」
「可視化しているのか。…玉藻っ」
「(あの三毛猫を狙っているようだな)」
 酸の雨で魔法防御力を下げてやろうとするが…。
「外したかっ」
 ―…相手の背を掠っただけだった。
 玉藻の存在に気づいたらしく不可視化してしまった。
「むむ、姿を消されたら見えないにゃん」
 応援を呼ぼうとクマラは祓魔銃を空に向かって撃った。
「あれは、助けてくれという合図か?」
 それを夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が目撃し、パートナーたちと光りが放たれた元へ急ぐ。
「妾のアークソウルの輝きが鈍い…。例の連中が近いということじゃな」
「猫さんをいじめるなんて、いけないんだよ!」
「ねぇ、連中がどんな猫を探しているのか知ってる?長屋の人に聞いてみたけど、猫又を探しているのかもって言ってたわ」
 甚五郎ほうへ駆け寄り、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がどんな姿なのか聞く。
「うーむ。猫又というからには、尾が2つあるんだろうな」
「あなたたちも、あの光りを見たのね?」
「そうだ。祓魔銃を使ったようだから、急ぎの応援要請の可能性が高い」
 ツインテールを揺らしながら駆ける美羽のほうへ振り返って言う。
「猫又のこと知らないと思うから教えておくね。猫の姿の時は、三毛の仔猫なの。人間の女の子の姿に化けることもあるけど、耳とかは隠せないわ」
「ほう…仔猫なんだな」
「そんなに小さないのね…」
 “仔猫”という単語に反応したセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はペンダントを強く握った。