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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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第7章 おそーじさせましょ、おそーじしてあげましょ Story4

 リーズが拘束用の縄を買って戻っても、陣の機嫌は直らない。
「ごめんってば♪ほら、余計なのは何も買ってないよ?」
「あったりまえやろ!」
 カノジョの手から財布を取り戻し、ポケットに深くしまい込んだ。
「まぁまぁ。そろそろ、村の人が目を覚ましたかもしれませんから、民家へ戻ってみませんか?」
「はー…せやなぁ」
 怒り疲れたのか、歌菜にポンポンッと背を叩かれ、しぼんだ風船のようにへこむ。
 民家に戻ると呪いから開放された村人が、すっかり目を覚ましていた。
「疲れているところすみませんが。妙な集団の特徴や盗られた物について、詳しくお話聞かせてくださいっ」
「さっきタンスとかを見たんだけんどなぁ。貯金や、食べ物やら盗られてたんさー!うぅう…」
「お、お金ですか……。(んー、何に使うのかな…)」
「食べ物を盗るなんて許せないよっ」
「どっちも犯罪やんか!?」
「他人の家の勝手に入る時点で、後ろに手が回るだろ?」
 物取りで驚く前に、不法侵入でアウトだろと磁楠が嘆息した。
「羽純、そっちはどうだ?」
「いや、情報と呼べるものは何もなかったな」
 サイコメトリーで家の中を調べた羽純はかぶりを振る。
「―……他をあたるか。リーズ、さっきのやつはどうした?」
「んに?えぇーと、樽の中だよ。隙間の空気穴があるからだいじょーぶ♪にゃははは」
「マジ、やること手荒やな」
「漬物石だったかなー。おもそーなの、のっけておいたよ。おっこちないように、いっぱい重ねておいた!ささ、次行こー次ー♪」
 優しくする必要はないけど、自分のカノジョながらやり方がエスィ…と陣が心の中で呟いた。
「わ…私は、他の方のお手伝いに行きますね」
「ふむ、ついっていったほうがよいかな?」
「あわわ。は、はい。お願いします」
「(皆行っちゃうのかな?んー、他で待ち伏せしするにしても、1人なんだよね)」
 コレットは“単独じゃ厳しいよオヤブン”と、銃型HCで一輝にメッセージを送った。
「(姿を見えなくされたら探せないからな。了解っと)」
「(返事が来た!)」
 “他の人と一緒にいたほうがいいね、解呪もしてもらわなきゃだし”と短く文字を打ち込んで返す。
「あたしとオヤブンもいいかな?」
「もちろんだ。人手は多いほうがいいからね」
「オヤブンが空から見てくれてるんだけど。視覚でボコールの発見は、もう難しいと思うから。掃除させられている人を探してもらうことにしたよ」
「長屋の人たちの疲労を見るからに、解呪も急がなきゃいけないようだ」
「治療もかなり精神力使うと思うし。気配の探知はワタシがやるよ」
 弥十郎は笑顔でそう告げ、アークソウルに意識を集中させる。
「クリストファーたちは、川沿いを探しているみたい」
「おっけー、そこと合流しようか」
「オヤブンからメッセージまた…。んっと、橋のところに人?ふむふむ、あれかな。ああっ、橋から落っこちそう!」
「うぅ、んうー。(ロラが、宝石の力をかけてあげるよ)」
 救助しようと駆けていくコレットを加速させる。
「コケが拭き取れない、うぐぐ」
「やめて、落ちたら怪我しちゃうよっ」
 雑巾を手にしている長屋の人間の服を掴み、橋の手摺から引き離す。
「ミリィ、解呪を始めるよ」
「はい、お父様」
 地面に押さえつけられている住人の傍に屈み、身体を支配する呪いを消し去るべく、涼介と共に祈りを捧げる。
「アークソウルの光りが鈍い…。魔性を取り込んだやつが、近づいてくるよ」
「気配はいくつなの?」
「3つかな、斉民」
 さすがにヤバイかと感じ、祓魔銃の銃口を空に向けて明りを放ち応援要請をする。



「あれは、応援要請ということかな」
 氷雪比翼でホエールアヴァターラ・クラフトの傍を飛んでいるクリストファーが、照魔弾の明りを発見する。
「橋のほうへ来てってメッセージが来たよ」
 銃型HCに届いた一輝からの短文をクリスティーが読む。
「チッ、数が多いようだな」
 ソーマの宝石も鈍い輝きを示し、魔性を強制憑依させている者を感知する。
「橋はあれだね、いくつもないはずだから。そこにいるのが、そうかも」
 北都はじっと目を凝らしてコレットたちの姿を見つける。
「ソーマさん、気配のポイントは?」
 川沿いを進んでいたリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が足を止める。
「姿を消しているみたいだ、リオン。コレットたちを狙っているのかもな、こっちに寄ってきていない。落としてやれ」
「やりますよ、北都。先にお願いします!」
「(こんなことに、悪用されるなんて望んでないよね。器から出てきて…)」
 リオンとパートナーの箒に乗り、指先の向こうに存在する相手から目を離さず、小さな声音で詠唱する。
 酸の雨を被り、シルキーの能力が弱まったと感じた相手が、彼らの存在に気づく。
「道具に何しやがる、ガキーッ!!」
「へぇ、大事そうなわりには、扱い方が雑だな?」
 箒を急上昇させ呪術をかわしたソーマがケラッと笑う。
「いつまで避けられっかなー」
「(うぁ!?むちゃくちゃ撃ってきやがるっ)」
 3つの気配のうち1つが、2人にターゲットを変更して呪術を放つ。
 女の姿をした薄気味悪い灰色の塊りが彼らに迫る。
「―…っ、何だコノ嫌な匂いは」
 突然、漂ってきた花の香りに、シルキーを取り込んだ者は顔を顰めた。
「ちくしょう、クローリスか」
 クリスティーの膝にいる少女の姿をした花の魔性を、忌々しげに睨む。
「てめぇから先にぶっ倒して、ソイツとバイバイさせてやるぜ」
 魔法でモップを出現させクリスティーを襲う。
「リオン、器のほうに祓魔術を使って」
「分かっているんですけど、狙いづらいです…っ」
 気配のポントである指先を目印にしているが、照準があちこち変わってしまっている。
 向こうはこっちの存在を忘れたわけじゃないらしく、わざとらしくふらふらと動き回るようだ。
「(今…何かが触れたような。…は、敵の攻撃を受けてしまった!?)」
 乾いた布のようなものが手首にあたった感じがし、まさか…と表情に僅かな焦りの色を見せた。
「くぅっ、急に体力が…」
 岸にたどりついたホエールアヴァターラ・クラフトから、よろよろと力なく降りる。
「クリスティーくん!」
「ボクとしたことが」
 コレットたちのほうも襲撃を受け、助けに来れる状況じゃない。
 “なら、こっちが行かなきゃ。そろそろ香水も使い切る頃のはず。”
 クローリスを抱き寄せて相手から離れようと、息を切らせながら懸命に橋の方へ駆けていく。
「今、そっちに行く」
「来ないでっ」
 “今近づいたら、2人共やられてしまう!”というふうに声を上げた。
「石になっちまいなー♪…ぐぁっ!?」
 ペトリファイを放った瞬間、一瞬の油断を狙われリオンの祓魔術を受けてしまう。
「こんの……、ガキがぁっ」
 彼を見上げて悔しげに言い、草むらに倒れる。
「あうあう。クリスティーくんが、いしになっちゃうのらぁあー」
「怪我はなさそうだね?よかった…」
 ぽろぽろと涙を流す少女に、にっこりと笑顔を向けたクリスティーは、石となり動かなくなってしまった。
 術者からの精神力の供給が途絶え、花の魔性はポンッと帰還してしまう。
「すまないね。今はそのまま…、我慢しててくれるかな」
 石化したパートナーに声をかけ、後できっと助けてあげるから…と肩に軽く手をあてて離れる。
「アルジェントくん、他に気配は感じるか?」
「―…2つほどな。下がっていろ、クリスティーが石化されたってことは、次はお前だ」
 呪の抵抗力を与えるクローリスを使役する者を、真っ先に狙ってくるはず。
 となれば当然、クリストファーも狙われる。
「北都、リオン。命中させなくてもいい、クリストファーのほうに行かせるな」
 橋のほうにいる仲間と合流させようと、2人に祓魔術で退かせるように言う。
「分かった!」
「あぁあっ、猫さんが」
 声を上げたリオンの視線の先には、じたばた暴れながら浮かぶ猫の姿があった。
 何も知らない者が見れば、浮かんでいるように見えるのだが、不可視化したヒトだった者に捕まっているようだ。
「おいおい、ソレじゃなくね?」
「んぁ?じゃあ、いらねーなコイツは」
 目当ての動物とは違ったらしく、ぶち模様の猫を放り捨てる。
「もふもふ猫さんになんてことをっ」
「リオン、怒りたいのは分かるよ。でも、今は我慢して」
「うぅ…っ」
 ぶんぶんかぶりを振り、リオンは怒りの感情を抑え込む。
「ありゃ、クローリスじゃねぇの」
「おー、沈めておくか♪」
「やらせませんよ」
「チィッ、祓魔術か。鬱陶しいやつめ!」
 不快そうにフードの奥から悪意の眼差しをリオンに向け、竹箒を手にして地獄の天使の翼で突破しようとする。
 だが、リオンの光りの網が、それを許さない。
「通れるものならどうぞ。ただし、通行料としてSPを失うことになりますけどね」
 パートナーのセリフに北都は、“やっぱり少し怒ってるのかな?”と言いそうになったが、それを口にしたら彼の怒りに火をつけそうだったから言わないでおいた。
 クリストファーのほうは彼らのおかげで、無事にコレットたちと合流した。
「お待たせ。香水はどれくらい残っているかな?」
「ううん、もうないよ」
「そうか…。…じゃあ、頼むよクローリスくん」
 渡した香水を使い切ってしまったことを確認したクリストファーは、抱えているクローリスの髪を撫でて微笑みかける。
「えぇー、めんどう。こうすいつくってあげたのに、まだうちをつかうき?」
「ここで倒れるわけにはいかないからね、お願いだよ」
「む〜〜っ。たいくつだから、やってあげなくもないけどねー。はぁ、もう〜」
 相変わらずムスッとした態度で言いつつ、主である彼の頼みを断りきれず、橋の手摺に花を咲かせて舞い散らせる。
「てめーらは後回しだ。ソイツからアウトさせてやる」
「やっぱり俺から狙う気か」
「罪に惑わされし魔の子らよ、その手にせし罪は偽りの力。せめてあたしたちの声が聞こえるまでは、その手を休め罪を見続けなさい」
 コレットは祓魔術の光りを球体に変化させクリストファーを包み、魔法で作り出したモップで襲いかかる相手を目掛けて、球体を霧状に破裂させて退かせる。
「くそ忌々しいやつらめ。そんなに葬ってほしけりゃ、やってやんよ!」
「石化の魔法!?…ぁうっ」
 逃れようとした時、何かに掴まれ引っ張られ、ギリギリのところでかわす。
 後ろを見ると結和の姿があった。
 どうやらロラのかけた加速で、助けてくれたらしい。
「だ、大丈夫でしたか。器のほうに、祓魔術をかけましょう、コレットさん。私が、裁きの章を使います。コレットさんは、哀切の章を…。いきますよ…」
 声のボリュームを下げ、傍のコレットだけに聞こえるように告げた結和は、裁きの章を唱えながらロラの加速で相手の術を避ける。
「(…やはり、邪魔をした私を、倒しにかかってきましたか)」
 酸の雨を淡い霧状に変化させて敵の接近を阻止する。
 それに合わせて彼女を包み込んだ祓魔術の光を破裂させ、標的に術を命中させる。
 シルキーを拘束する力が弱まったのか、相手の褐色の肌が血色の悪い白色へと変わった。
 しかし、まだ抵抗を諦めない彼は、聞き取れない声音でぶつぶつと呟く。
 彼の紡いだワードの影響か、シルキーは発狂し憑依しようとする
「お父様、シルキーの気配がボコールに近づいていますわ!」
「何か術を使って、正気を失わせているのか?どっちにしろ、これ以上の強制憑依は命に関わるはずだ」
 たとえ敵であっても、死なせたくはない。
 涼介はエレメンタルリングをはめた手で、ミリィが示す先の者…シルキーを掴み、器から引きずりだす。
「―……白魔術か。とっくに滅んだ術式だと思ったんだがなっ」
 相性の悪い力の存在が、まだあったとは…と鬱陶しげに涼介を睨んだ。
「(正しくは、そのオーラの気なのだけど。ふむ…白魔術のことを知っているとは)」
 あちら側はどこまで把握しているのだろうか。
 向こうからすれば、こちらは敵対者。
 当然、何らかの手段で調べていた可能性はある。
 となれば魔性と人が共存する都からだろうか。
 平和に暮らすことが目的であっても、一枚岩ではないかもしれない。
 だが、そんなことをすればクオリアが気づきそうだ。
 いったい、どうやって情報を得ているのだろう、ボコールの連中が容易く入れるとは考えにくい。
 ならば、黒魔術を教えた者のが聞き集めているのか…。
 情報収集元についての謎は多い、尋問で吐かせるしかないだろう。
 あらかたこちらが片付いた頃合を見て、弥十郎たちが北都たちのほうへ向かっていた。
 “私たちはしばらく、この者たちの監視をしていようか。”
 涼介は道の途中にあった雑貨屋で購入した縄で、橋の上に突っ伏す黒フードの者を拘束した。