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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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■噂を調査せよ 〜学園外編〜
 ――クルスが通り魔事件の犯人ではないか? 蒼空学園を端に発したその噂は学園の外にも広がっていた。
 元より、目撃者が学園外の人間であることから、通り魔事件の噂は学園外から持ち込まれたもの、といっても過言ではない。
 当然のことながら、クルスを知る契約者の一部がその噂を耳にするわけであり……。
「――どうだった?」
「うーん、結構尾ひれはひれついちゃってる感じだねぇ。でも、現場の一つは聞けたと思うよ」
 佐々木 八雲(ささき・やくも)が、噂を聞きにいっていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)を出迎える。この二人……特に八雲のほうだが、連続通り魔事件の噂を聞き、八雲のヒーローとしての勘と血が騒いだのか、兄弟揃って独自調査を行っていた。
 しかし、情報量が圧倒的に足りないため自らの足で通り魔事件に関する様々な噂をかき集める必要があった。それを率先として行ったのは弟の弥十郎。弥十郎の持つ『コールドリーディング』技術によって、的確かつ優しい聞き役に徹し、地道に噂や情報を集めていた。
 その甲斐もあってか、通り魔事件が実際に起こった現場のいくつかを知ることができたようだ。そしてそれによると、ここ最近はヒラニプラ中心で事件が発生していることも判明する。
「目立つ共通点はそれくらいかなぁ。あとはたまに被害者が連れ去られてるらしいけど、どういった理由で連れ去っているかまではわからないみたい」
「そうか……」
 だが、ヒラニプラ中心が最近の事件現場というのならば、打つ手はないわけでもない。と、弥十郎は説明する。
 噂だけでは確証は得られなかったものの、どうやら攫われた人の特徴として機械系の恰好をしていた人が多かった、とのこと。なら、次に犯人が事件を起こしそうな場所や攫いそうな格好を『行動予測』し、その場所を張りこもうというのが弥十郎の作戦であった。
「……というより、『メンタルアサルト』で囮になるよう噂を流そうかなぁって思うんだけど」
「何?」
 噂を流して、犯人を釣る。それもまた弥十郎の考えた作戦の一つであった。……だが、八雲は少し訝しげな表情を浮かべる。
「うまくいくかどうかはわからないが……まぁ、やらないよりはマシか。噂流しのほうは頼む、僕は張り込みのほうに回るとしよう」
 八雲の言葉に頷く弥十郎。当面の方針が決まったところで、もう少し情報を集めるべく噂を聞きに移動を開始する……と、二人の前方に見知った契約者が行動しているのが見えた。


「この前、また通り魔事件が起こったらしいですわよ奥さん」
「あらあら、それは大変ですわねぇ」
「私たちも襲われたら大変ですわよ、本当」
 ――ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。
 商店街名物、おばty――奥さんたちによる井戸端会議の様子である。井戸端ネットワークというものは実に複雑かつ見事なほどに噂を聞きつけ、情報を収束、そして拡散していく一種の情報バンクともいえよう。
 そしてそれに注目し、情報を集めようとする契約者の姿があった。清泉 北都(いずみ・ほくと)モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)の二人である。
 ただ、現在二人は共に行動しておらず、井戸端会議に近づこうとする北都の姿はおおよそ歴戦をこなした契約者とは思えないようなラフな格好をし、普通の観光客のような一般人にカモフラージュしている。そして、北都と同じくラフな格好をしているモーベットは、北都からやや離れた位置で『イナンナの加護』を使いながら周囲を警戒していた。……この時間に襲われることはないだろうが、念のためという奴である。
「通り魔事件の話ですか? 最近起こってるらしいですけど……怖いですよねぇ」
 北都が井戸端会議に接触。……どうやら、契約者とは全く思われていないようだ。
「怖いわよねぇ。でも安心して、襲われた人たちって深夜がほとんどらしいのよ」
「そうそう。それになんかたまに攫われたりするみたいなのよ」
「油臭い人が攫われるって聞いたわ」
「そういえば犯人は二人組らしいわよ」
「あら本当? 確か犯人は蒼空学園の生徒だって噂ですわよ」
「あらやだこわい」
 ……一つの話題に対し、圧倒的な情報量が一気になだれ込んでくる。北都は思わずたじたじになりながらも必死に必要な情報を記憶していく。質問を織り交ぜながら聞き込みをしようと思ったが、これなら勝手に必要な情報は集まりそうだ。
(襲撃時間は深夜かぁ……だとしたら、蒼空学園の生徒からアリバイを聞くのは難しそうかなぁ)
 もし事件の起こった時間が授業中の時間ならば、知り合いの蒼空学園の契約者からアリバイを聞けたのだろうが、さすがにそれは無理そうであった。
 ――ある程度の情報を(一方的に与えられた感じではあるが)集め終わった頃合いと見てか、モーベットが北斗を迎えに行く。奥様パワーに押され気味だったのか、北都はモーベットに気付くとすぐに駆け寄ってきた。
「ここにいたのか、心配したぞ。最近は事件が起こっていてこの近辺も危ないと聞く。あまりうろうろするんじゃないぞ」
 どうやら、北都と同じく観光客として振る舞っており、さらに北都の従兄……という設定のようだ。
「……と、話に付き合っていただいたようで。感謝いたします、それで……これからこの近辺を観光するにあたって、事件が少し気になって不安なので、もしよかったらその事件のことに関して気が付いたこととかあれば――」
「あらあら、観光なの? いいわねぇ、私も温泉とか行きたいわぁ」
「事件で気になったこと? そうねぇ、犯人は二人組で深夜に襲われるとからしいわよ」
「だから深夜に出歩かなければ大丈夫じゃないかしら」
「そういえば奥さん聞きました? 今世間を騒がしてるスキャンダルのことなんですけど……」
 モーベットが憂い顔で魅了しつつ、おばty――奥様方にお礼の言葉を伝えたのち、通り魔事件の噂に関することを聞こうとしたが……これまた圧倒的な井戸端会議パワーで矢継ぎ早に色々と声をかけられ、魅了できたかどうか判別がつかないままその場を離れることにした。
 ――と、ちょうど離れた所で北都たちは弥十郎たちと出会う。話をするうちに目的が一緒であることを知った両組は、お互いに持っている情報を交換し合って共有したのち、再びそれぞれで情報を集めたりすることにしたのであった。


 そしてまた、別な所では別な契約者がクルスの無実を証明するべく行動を起こしていた。
「マスター、ミリアリアさんから請け負った今回の任務ですが……無実とは思いますが万が一ということもあります故、いち早く真偽をはっきりさせましょう」
「おう、そうだな。……ま、真偽を確かめようにもポチが戻ってこないことにはどうにもできないんだがな」
 ミリアリアからの依頼を受け、クルスの無実を明らかにしようと行動しているフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)。本来ならば忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)もいるのだが、現在ポチの助はフレンディスの命を受け、情報集めに奔走しているためこの場にはいない。
 ただ、実際のところフレンディスは「他の方も動いていますでしょうし、私たちはそれに準じた視点から動いていきましょう」という思いもあるため、これまた独自的な動きをするつもりでいるようだ。
「……にしてもあいつら、また面倒そうな事件に巻き込まれてるんだな。とりあえず、フレイが気になるのもわからないでもないし、調べれるだけ調べてみようぜ」
 ポチの助が情報を持ってくるまでの間、ベルクはフレンディスへそう話しかける。フレンディスも思いは同じなのだろう、頷いて答えていった。

 ――さて、その頃。
「ご主人様……この超優秀なハイテク忍犬たる僕に任せれば、噂話だろうとなんだろうと僕の科学力で調べ上げてみせます!」
 胸に炎を宿し、ご主人様であるフレンディスの役に立って褒められたり撫でられたりご褒美(ドッグフードとか骨とか)をもらうべく獣人形態になり、所持している端末や技能、さらには各種ネットやデータベースを駆使して通り魔事件に関する情報をとにかく調べ通していく。
 ……しかし見る限り、ネット上では噂が尾ひれはひれどころか異常進化したかのような発展具合を遂げており、ここから情報を探し出すのは難しそうであった。
 しかし、そこで立ち止まるポチの助ではない。全てはご主人様からの寵愛やご褒美を受けるため、膨大な情報をまとめ上げるべく『ナゾ究明』で真相に迫っていく……!
「――ふむふむ……この情報がこっちの噂と繋がって……あ、ということは……!?」
 あらゆる角度から噂を検証し、情報同士のピースを組み合わせる。そこから、ポチの助はある一つの事実にたどり着くことに成功した。
 すぐさま手に入れた様々な情報を持って、自らの主のもとへと戻るポチの助。そして主人のフレンディスへそのことを伝えていくと、フレンディスとベルクはそれぞれ立ち上がる。
「……それが本当だとすると、ミリアリアさんに伝える必要がありそうですね」
「ああ、その周辺も色々と調べる必要がありそうだ。でかしたぞ、ワン公!」
 情報の真偽を確かめるため、三人(?)は急いで現場である裏通り……ではなく、とある場所へと向かうこととなった。
 そしてその道中、ポチの助はベルクに褒められたことを不服だったという……。