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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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■撤退阻止戦線
「フハハハハハハッ!!」
 ――突如として響き渡る高笑い。……その声の主は、裏通りを形成するビルの屋上に立っていた。
「我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクター・ハデス(どくたー・はです)! クルスよ、ここで会ったが幾千年! 我らが実験に付き合ってもらおう! ヘスティア! ペルセポネ! アイトーン! 今よりクルスとの“超機晶合体”実験を行うぞ!」
 ビルの上よりそう告げるハデス。後方にはオリュンポスの構成員であるヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が控え、上空から機晶戦闘機 アイトーン(きしょうせんとうき・あいとーん)が《小型飛空艇ヴォルケーノ》による推進力をもって飛来してきた。
 ……ちなみにオリュンポスたちがなぜここにいるのか。彼らもまた、通り魔事件の噂をどこぞで聞きつけ、あろうことか複数による機晶合体の実験台にしようと目論んでいたためである。
「さぁ、これを使うのだ!」
 ハデスは手に持っていた機晶姫用変形合体パーツαを偽クルスに投げ渡すが……ビルの横風にさらされてか軌道がずれ、甲冑鎧のほうにくっついてしまった。
「しまった、なんたることだ! ……って、正常機能している……だと……。もしやクルスの横にいるデカブツも機晶姫だというのか!? だったらデカブツのほうでもいい、超機晶合体だ!」
 なんと、どうやら甲冑鎧も機晶姫であることが判明した。渡りに船とばかりに、すぐ合体命令を下すハデス。従順な構成員たちはそれぞれ、合体シークエンスに移っていく!
「かしこまりました、ご主人様――じゃなくてハデス博士。これより機晶合体を行います」
「わかりましたハデス先生っ! ――機晶変身っ!」
「任せておきなハデス! この俺様のスピードについてこれる奴なんざいねぇぜ!」
 三者三様の返事と共に、3機は機晶合体モードへと移る。ヘスティアは背中のウェポンコンテナから多数の重火器を展開し、空いたコンテナの隙間に体育座りで入り込んで省スペースを実現。機晶合体モード・“ウェポンユニットヘスティア”はそのまま甲冑鎧の背面へとドッキングされる!
 さらにそのウェポンユニットへ、アイトーンの機晶合体モード・“フライトユニットアイトーン”が一体化し、攻撃と移動を兼ね備えた強力なユニットへと姿を変えていく。そして、最後にペルセポネが《変身ブレスレット》から《パワードスーツ》を呼び出して身に纏うと、それがパージされて甲冑鎧への追加装甲“装甲ユニットペルセポネ”として装着される!
『超機晶合体! ゴッドオリュンポス!!』
「よし、成功だ! さすがはオリュンポスの……強いては俺の科学力! さぁ行けゴッドオリュンポスよ、サポートはこちらに任せよ!」
「―――」
 思わぬパワーアップであったが、それが撤退に繋がるのならば存分利用させてもらおうとすぐに判断する偽クルス。甲冑鎧のほうもまんざらではなさそうだ。
「その程度のパワーアップで……どうにかなると思うな!」
 モニカが動く。一気に距離を詰めるため、『ランスバレスト』で甲冑鎧へ先手を仕掛けていくが、ゴッドオリュンポスと化した甲冑鎧はウェポンユニットにて火器管制を担当しているヘスティアの協力を得ての《18連ミサイルユニット》による弾幕、フライトユニットと化したアイトーンによる高速移動、そしてペルセポネの装甲が発する『対電フィールド』などを駆使して応戦する。
 元より戦闘用に作られている機晶姫のようで、甲冑鎧の動きはまさに戦鬼の如し。しかしそれに追随し、同等の槍戟を繰り広げているモニカによって、甲冑鎧の動きを制することには成功しているようだ。
 これ幸いと隙を突いて、エースとメシエが『裁きの光』で偽クルスを弱らせようと行動に出る。さらに後方……高層ビルの屋上では葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が現場に到着し、主にオリュンポスの動きを邪魔してやろうと《試製二十三式対物ライフル》による狙撃態勢を組んでいた。
「ふ、待たせたな……時間が時間だけに夕日を背にしての登場はできなかったでありますが……!」
 トリガーに指をかけ、狙撃対象のハデスへと狙いを定める。発砲のタイミングに合わせて鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)に《四式中戦車》による突貫を敢行してもらう手はずになっているので、これならばオリュンポス一味を空の彼方まで吹き飛ばせること請け合いだろう。
 だが、エースとメシエの『裁きの光』、そして吹雪のライフル狙撃が同時に行われようとした――その時であった。

「な、にぃっ……!?」
「くっ……これは……!?」
 吹雪の狙撃が、対面上からの狙撃によって阻害される。そしてまた、エースたちもいつの間にか周囲に撒かれていた『痺れ粉』によって動きを封じられてしまった!
「――悪く思うでないぞ、こちらも仕事じゃからでのぉ」
 ……裏通りの影から姿を現したのは、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)であった。さらにはるか後方、吹雪とほぼ同じ距離の狙撃位置で銃を握っているのはイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)。吹雪の狙撃を邪魔した張本人である。
「同じ狙撃手……!」
 どうして気づけなかったのか。吹雪はすぐにスコープ越しに狙撃された地点を覗くと、確かにそこには吹雪と同じ狙撃手、イブの姿があった。
「……任務続行。攻撃の阻害、及び援護を優先」
「先にあっちを片付けないと、オリュンポスをどうにかできそうにないでありますな……」
 そちらが撃とうとするならば、すぐにそれを阻害する。お互いに銃口を向けられている極限の緊張が狙撃手同士に流れる。もっとも、片方は機晶姫のため機械的な動きが目立つのだが。
 ――その一方、裏通りでは刹那の乱入によって戦況が大きく傾きつつあった。『毒虫の群れ』を展開し、偽クルスたちに近づかせまいとする刹那。敵が動きを見せようものなら、イブが即座に狙撃せんとする。完全に動きを抑制する布陣を敷かれた中、刹那は偽クルスへと接触を図った。
「……人間、何の真似だ?」
「お主を手伝うよう、依頼されたのでの。……そちらとて、二人だけで現状を打破できるとは思うてもおるまい?」
 図星だったのだろう、偽クルスは不服な表情を浮かべつつも刹那からの協力を受け入れることとする。……オリュンポスと名乗る一味と、依頼で協力しに来たという契約者。偽クルスは思わぬ味方を得たことで、改めて撤退の指示を出す。
「今がチャンスだ、すぐにこの場から離れ――」
「――そうはさせないよ」
「何者だっ!?」
 だがその時、偽クルスたちの近くにある電柱の上から声が響く。思わずハデスが誰かを尋ねると……その影は月をバックに偽クルスたちへ『警告』を促す。
「こんばんは通り魔さん、今日は良いお月様だね。――君たちの行動はそのお月様が見ていたよ。そしても僕も見ている。少なくとも僕の目の前で『悪事を続けるための撤退』というのは見過ごせないね。……用意はいいかな通り魔さんがた、今日は君が僕にやられる番だよ」
 月をバックに『警告』をする、ヒーローと思わしきその影の正体は八雲であった。メシエからの『テレパシー』で犯人との遭遇を知ったクルスが、クルス→康之→某→他の一般調査側の流れで情報を伝えてくれたのだ。時期に、他の一般調査側のメンバーたちがここへ募ってくるだろう。
 そして特殊9課側でもいち早く現場へと駆けつけた牡丹とレナリィを筆頭に、他の候補生たちも集まりつつあった。ヒラニプラ中心におとり捜査を進めていたからこそ、総員集合が非常にスムーズに進んだ結果と言えよう。
(――っ! 敵が全員あっちに気が向いてるであります。今の内に……一気呵成の瓦解を狙うであります、二十二号!)
 そして吹雪は敵狙撃手の狙いが一瞬、八雲のほうに向けたのを見逃さなかった。すぐさま二十二号突貫の合図を送る。瞬間、吹雪の頬をイブの放った銃弾が掠めていく。
(すぐさまこっちに対応するとは……あと数センチ避けるのが遅かったらやばかったであります)
 死線をうまく乗り越えた吹雪。……そして裏通りでは、合図を受けた二十二号が《四式中戦車》による砲撃で壁をぶち抜いて現場に乱入していく!
「ぬぅ、これ以上は人が多すぎる! すぐに撤退するのじゃ!」
 この状況は非常にまずいと判断した刹那は、『痺れ粉』を付与した暗器で相手を牽制しつつ、懐から小型機雷を出して特殊9課たちへと放り投げる。それが合図とばかりにイブは小型機雷を素早く撃ち抜くと、機雷は爆破を起こして周囲の視界を一気に奪っていく!
「―――!?」
「何っ!? これ以上はエネルギーが持たない? すぐに解除しろ、この場から離れるのが最優先だ!」
 刹那に導かれるまま、爆破の隙に紛れてその場を離脱する偽クルスたち。超機晶合体していた甲冑鎧であったが、これ以上は活動エネルギーが持たないため、自ら緊急解除して急ぎ偽クルスと共に脱出していった。……当然、その場には合体解除されたヘスティア、アイトーンが残されることになる。ペルセポネは装甲をパージしたまま、つまりあられもない最小限面積ビキニアーマー姿でハデスの横にいる。
 小型機雷の爆破で目くらましさせられた中、戦車で現場に乱入した二十二号はオリュンポスメンバーへ容赦なくミサイルや砲撃の集中砲火を撃ちこむ。その多重爆破によって偽クルスたちの逃走をより素早く、そしてオリュンポスメンバーたちを無慈悲に吹き飛ばすことに成功したようだ。
「博士ーーーっ!!!」
「くそ、エネルギーさえ残っていればこんな……うわぁぁぁぁぁ!!」
 空の彼方へ吹き飛ばされるヘスティアとアイトーン。続けて戦車の砲撃はハデスとペルセポネを狙い撃つ。
「覚えておれぇぇぇぇぇっ……!!!」
「あぁぁぁぁぁれぇぇぇぇ!!!」
 仲良く空に飛ばされ、星となるオリュンポスメンバー。……そんなドタバタが収まる頃には、偽クルスたちはすっかりその場から姿を消していたのであった。