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日下部 社(くさかべ・やしろ) 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね) 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう) 天神山 葛葉(てんじんやま・くずは) 



芸能事務所846プロダクションの創立者兼社長兼プロデューサーである日下部社は、1日め、自分からアンベール男爵の部屋を訪ねた最後の人物だった。

「えらい、すんませんな。こんな時間に。ほんま、もうしわけない」

謝罪の言葉を口にしながらも、男爵にすすめられる前に自分から椅子に腰をおろす。
この、軽いノリの東洋人の少年に、アンベール男爵は席をたち、礼儀正しく頭をさげた。

「はじめまして。日下部社さん。今夜は私の招待に応じてくださって、感謝しています。
私がアンベールです。
ここマジェスティックでいくつかの会社を経営させてもらっています」

「すんませんなぁ。俺は、日下部社と言います。まぁ、でも、こうして直接お会いするのは初めてかもしれませんが、俺のことは、ご存知でっしゃろ。
だから、呼んでくれたちゅうわけで。ほんま、ありがたいわぁ。
あ、名刺でっか、あります。あります。
846プロダクションちゅう、しがない芸能事務所を経営させてもらってるんですわ。
が、しかし、やっぱり、男爵さんは俺のことも、うちの事務所もご存知じゃないんでしょうかね」

男爵に合わせて、慌てて立ち上がり、また、男爵のあとを追って名刺を渡して、差しだされた手に握手した社は、にっこり笑顔で問いかけてみた。

「失礼。
私はあなたとは今夜が初対面と思ってばかりおりましたが、カン違いでしたか。
今夜、あなたをご招待したいのは、たしか、そちらからのご希望にそってだったと思いましたが」

儀礼的な笑みを浮かべたまま、男爵は小さく首を傾げた。

「なるほど。そらぁ、もっともですわ。
男爵さんは社長、オーナーとは言われても、俺ごときはスケールが違いすぎますからな。
しまった。しまった。とんだ失礼を。
とりあえず、それはおいとくとして、まず、お互いに座りまへんか。立ち話もなんですからな、な」

男爵の屋敷、部屋であるにもかかわらず、社は彼に椅子をすすめて、自分も再び腰をおろす。

話はあるんや。ゆっくり座って相談したい話がな。

「おもしろい方だ」

苦笑した男爵に、社は頷く。

「そうでっしゃろ。
人生は笑い。おもろく生きんと損々。
笑ってもらえるアホは幸せ、笑えんアホははよ死んだほうがマシですわ」

「哲学ですね」

「いいえ。口からでまかせのヘリクツです。ほめていただいて、ワタクシ、いい気になって口がすべりました。
すんません」

ツカミはこんくらいでOKやろ。したら、本題や。

「男爵さん。実はですな。俺とあんたさんは同業者なんや。
あんたさん、マジェスティック芸能社の親会社のオ−ナーさんですよね」

「マジェスティック芸能社。
ああ。
そういうことですか。
これは、これは。
そう言えばそうですね。
私も芸能という難しい仕事とも直接かかわりがあったのですね。
いま現在、百はくだらぬ事業に手をだしておりまして、貧乏ヒマなしなのです。
芸能関係の仕事は人に任せっぱなしなので、すっかり失念しておりました」

「なんのなんの。超多忙な男爵さんからしたら、忘れてたて当然や。
同業者同士のつながりで、どっかでお見知りおきいただいてたかと、勝手に思っとった俺が、ずうずうしくてアホなだけですわ」

やな。マジェスティック芸能社は、あんさんにとってふれられたくない話題やろからな、失念されてたて当然や。

「そんでな。奇妙な偶然なんやけど、今回のあんたさんが真実を知りたがっとる事件な。
あれの舞台になった博物館、ハーブ園、動物園。
あれみんな、あんたさんのとこのマジェスティック芸能社さんのお得意さんやないですか。
イベントやらなんやらぎょうさんやってまんなぁ。
トークショーやらLIVEやら手をかえ人をかえ、1カ所につき、最低月に2、3回はお仕事されとるやないですか。
しかも、どんだけ太いパイプがあるんか知らんけど、一社独占やないですか。
3つの施設で、あんたさんのとこの事務所以外のタレント、芸人さんが営業したことはここ数年、1度もありまへん。
数年どころか、マジェの営業開始以来、ないんちやぃまっか」

「営業上手な優秀な部下たちを持って、私は幸せですよ」

「つまりですな。博物館、ハーブ園、動物園の3つは、マジェの中でもあんたのシマちゅうことですわな。
なのに、このシマであんたが関知せんことが起きた、と。
おんどりゃ、わしのシマでなにさらすねん。なにケツかっとんねん、とあんたさんは言いたいわけやないんですか」

「博物館。ハーブ園。動物園。
これらはマジェスティックの公共施設です。
基本的には、マジェの住民たちの血税で運営されているのです。
よく知られているように、テーマパークとはいえ、マジェには現実にそこに住んでいる住民たちがいて、私もふくめて住民には、マジェの役所に税金を払う義務があるのです。
払わなければ、最悪、ヤードに逮捕されるかもしれない。もちろん、追徴課税も払わなければならない」

悪党らしいシラのきりかたやな。こいつ、涼しい顔してんけど、腹ん中はマックロやで。

「これはパラミタの芸能業界の噂なんやけど。
あくまで噂やで。
マジェでは、パラミタの他んとこでは手にはいらんような、地球産のいろんなクスリが買えるらしいんやけど、クスリの出所はマジェの裏社会を牛耳っている偉いさんのとこらしいですわ。
美術品や植物や動物の腹の中にまぎれこませて、地球から定期的に商品を送ってもらってるんやて。
どれも公共施設で使うもんやら、大したチェックもなく堂々と輸入できますからなぁ、賢いもんや」

いつまでも話しとっても、ラチがあかんから、切り札をちらつかせてみる。
これでは証拠はあるのか! とかくいついてきたら、噂はホンモンやな。
今回の一連の事件もこいつの裏の顔がらみのトラブルっちゅうこった。
クスリがどうのは、俺は知らんけども、こんなおそろしいバックがついてる芸能事務所には、さっさと退散していただいて、846プロを売り込みにいかせてもらいますわ。

男爵が言葉を返す前に、社は意識を失って前のめりに床に倒れた。
社の背後にいつの間にか3人の人影があった。
斎藤ハツネ。大石鍬次郎。天神山葛葉。
真実の館での3日間の清掃係として男爵が雇ったものたちだ。

「愉快な社長さんは、他の客人にご迷惑にならないように、どこかでゆっくりしていてもらってください。
3日間がすんだら、元気にお帰りいただけるように」

「元気にか。わかったぜ。クックックッ」

大石に担がれ、意識を失ったまま社は隠し扉から部屋をでて行く。