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茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす) 



「ルドルフ神父様。
私をお導きください」

「いいでしょう。
私は、母以外の女性の幸せを祈るものではありませんが、今回は男爵からの依頼もあり、この館で私のもとを訪れたすべての人の話をきくことにしています。
ですから、女性である、あなたの話にも耳を傾けましょう。
どうぞ、お座りください」

「ありがとうございます」

ルディの無礼な態度にもかかわらず、茅野瀬衿栖はていねいに頭をさげた。

この部屋にこようか迷ったけれど、すこしでも記憶を取り戻す役に立てば。

ソファーに腰かけて、神父とむかいあう。

「私は、茅野瀬衿栖。
人形師です」

衿栖がテーブルのうえにおいた4体の小さな操り人形が、全員、頷くように首を振る。

「リーズ。ブリストル。クローリー。エディンバラ。
この子たちが私の操る人形であり、愛する仲間たちです」

「ほう」

宗教者らしい黒のローブをまとったルディは無表情で衿栖を眺めている。

「それで、お話は」

「ええ。私、人形師であるのと同時にこのマジェスティックで、探偵さんの助手をつとめたりもしているんです」

「ふむ」

「ベーカー街に事務所をもってらっしゃるシャーロット・モリアーティさんをご存じでしょうか?
私、彼女の助手的なことをしていて、実際、コンビを組みのは彼女のパートナーのシェリルとのことほとんどなのですが」

「シャーロット。
シェリル。
どちらも女性ですか。
つまり、あなたには女性のお友達がたくさんいらっしゃる、と。
異性よりも同性に興味をお持ちのようですね」

やっぱり、噂通りこの神父さんは、なんかズレてるなぁ。
でも、私の記憶について情報を知ってるかもしれないし。
内心、ルディの受け答えにいささかあきれながらも、衿栖は話を続けた。

「あの、私、ある1日分の記憶を失ってしまっていて、それが、その、3件の殺人事件と関係しているような気がするのです。
その日だけ記憶がまるでないんです。
神父様は、この部屋で事件の関係者のかたたちからお話をきいておられるのでしょう。
それらのお話の中で、私、茅野瀬衿栖がでてくるものはありませんか。
私は、事件とどんな関係があるのでしょうか」

「ふうん。なるほど」

「なるほど、って、なにか思い当たることがあるんですか。
だったら、なんでもいいので教えてください。
私、自分がどうしてアンベール男爵から招待状をもらったのか、理由がわからないんです。
男爵にお聞きしても、それは、ご自分で探すべきだって言われました。
記憶を失ってから、マジェでは危ないめにたて続けにあって。
電車を待っていると後ろから押されて線路に落ちたり、歩いていると上から植木鉢が落ちてきたり、まるで、モリアーティ教授に狙われた時のホームズみたいなんです。
シャルもシェリルも、思い出さなくてもいいって。
あの2人が教えてくれないなんて、そんなのおかしいと思うんですけど、だったら、もう、自分で探すしかないじゃないですか。
ヒントがあれば、教えて欲しいんです。
なぜ、私がここにいるのか、失われた記憶はいったい、なんなのか」

「わかりました。これは、つまり」

ルディはさも納得した様子で、何度か首をたてに振ると、

「あなたの日頃の行いへの罪です。
人の秘密を平気で探る探偵業。
神がつくった人間に模した人形を自ら生みだし、それを思いのままに自在に操る傲慢。
そして、罪深き数多くの女友達との交流。
どれも許されぬことばかりでは、ありませんか」

「そ、そ、そうでしょうか」

「はい。当然です。
間違いありません。
悔い改めて、祈りなさい」

ダメだ。
この神父さん、ダメだわ。
けど、これだけ自信たっぷりなら、なにか根拠があるのかも。

「すいません。どうして、私の日頃の素行が罪に値するのかよくわかりません。
もし、そうなら、記憶喪失は、私への罰なんですか」

「もちろん。
罪と罰の自覚がないとは、ほんとうに嘆かわしい。
罪人よ。
あなたは、神を信じていますか」

はい。
ですけど、いいえ、です。
私の知ってる神様は、たぶん、神父さんの神様とは違うようですね。

「ええ。
お言葉ですが、どうやら神父様の神様は、私の神様とは」

「お黙りなさい。
あなたが神のなにを知っているというのですか」

急に、ルディが両手で机を叩き、立ち上がったので、衿栖も反射的に人形たちを抱きかかえて、立ってしまった。
そのまま、腰を折ってルディに頭を下げた。

「ごめんなさい。私が間違ってました。失礼します」

私にはムリ。こんなの付き合いきれないよ。

ルディと目を合わせないように注意しながら、衿栖はあわてて部屋をでた。