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ぶーとれぐ 真実の館

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ぶーとれぐ 真実の館

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千返 かつみ(ちがえ・かつみ) エドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと) 千返 ナオ(ちがえ・なお) 南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ) 三船 敬一(みふね・けいいち) レギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると) 長曽禰 ジェライザ・ローズ(ながそね・じぇらいざろーず) 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)
 



真実の館にきて3日めの朝、千返かつみ、エドゥアルト・ヒルデブラント、千返ナオの3人は、レギーナの求めにおうじて、館を退去してロンドン動物園にやってきた。

この館に2日間いてみたけど、神父は役立たずだし、男爵に話をしてもラチはあかないしで、これ以上いても意味がないから、俺たちの力を借りたいって人のところへ行ってみるか。

かつみは、レギーナからのメールに返信して、パートナーのエドゥアルトとナオを連れてロンドン動物園まできたのだが、

「たしかに、3月の事件の日に、3人で動物園行ったけど、特になにも見てないって。
それに探偵さん、昨日、メールをもらった時に思ったんだが、俺のメアドや、俺たちが真実の館にいること、事件の日に動物園いたことをどうしてあんたが知ってるんだい」

待ち合わせの場所にやってきたかつみは、あいさつをすませるとさっそくレギーナに疑問をぶつけた。

とは言ったものの、この探偵さんをみると、勝手にいろいろ情報を持っていても、おかしくない気がする。
頭全部が包帯のぐるぐる巻きで、普通じゃなさすぎだ。
探偵ってのは、目立っちゃよくないんじゃないのか。
情報集みたいな地味さが必要な仕事は、隣にいるマッチョな男がやってくれるのか。
男のほうもガタイがよすぎて、これまた目立つよな。

「気を悪くされたのなら、もうしわけありません。
企業秘密なのでくわしくお話できませんが、情報の入手方法については、独自のソースがありまして」

そうだろうね。

合流した五人は、事件の関係者という理由で閉館中の動物園に入園し、レギーナを先頭に歩きだす。

「千返さん。事件の日、あなたたちがここで経験したことをあらためて、お話していただけますか」

「俺はなにも見てないよ。
ただ、一緒にいた、ナオが急に悲鳴をあげて、どっかに行っちまって、エドゥと2人で手分けして探したんだ。
みつけるまで、1時間ぐらいかかったかな。
こいつ、植込みの影に隠れて震えてた。
本人が言わないから、なにがあったのか、ムリには聞いてない。
後は、また3人で、適当に園内をみてから帰った。それだけだ」

最初に、かつみが話すと、あの日の出来事を思い出したらしく、ナオがかつみの手を強く握ってきた。

いつだって一緒いるから、心配するなよ。

かつみはナオの手を握り返す。

「俺は、あの日」

自信なさげにしゃべりかけたナオをさえぎり、横にいるロングの銀髪の男、エドゥアルトが話しはじめた。

「ナオ。私が先に話すね。あなたは言いたくなければ、言わなくてもいいんだよ。
今日、ここにきて思い出したんだ。
私はあの日、かつみと別れてナオを探していた時に、おかしなものをみた。
もしかしたら、ナオに悲鳴をあげさせたのは、あれかもしれないね」

突然、なにいってんだ。そんなの聞いてないぞ。

はじめて聞くエドゥアルトの話にかつみは驚き、共有する記憶をたしかめあうように、見つめあうエドゥアルトとナオを眺めた。

おいおい。俺だけ仲間はずれかよ。

「あなたがみたおかしなものは、人ではありませんね」

レギーナがバックからだした大判の本をエドゥアルトに渡した。

「あなたはあれについて知っているのか。あれはなんなんだい」

「大方の予想はついています。
あなた方以外にも、これまでここであれをみたという証言はいくつかありました。
私の推測ですが、あなたがたが真実の館に呼ばれたのは、これまでの目撃者の中で、もっともあれをはっきりとみた人物だと、思われたからではないでしょうか」

「みるにはみたが、ここは動物園だし、それほどおかしなものだとも思わなかったな。
でも、いまになって考えてみると、あれがここにいるのはおかしい。
ずっと昔に滅んでいるはずだ。
一族の記憶として、私もおぼえているだけで、実物をみたのは、あの時だけさ」

「236ページにでています」

レギーナに渡された本、「シャンバラ幻獣、怪獣図鑑」を開いてエドゥアルトはナオとかつみにそれをみせた。

「古代超獣バルバロス。全身を鱗に覆われた巨大ネコだな、これは。すごい爪と牙だ」

かつみがつぶやくと、ナオはかつみの腕にしがみつく。

「こいつがいたんです。茂みのむこうから、俺たちをみてました。俺はこわくなって、ムチャクチャに走って」

「私がみた時は、従業員用の通路を何人かのスタッフにかこまれて、おとなしく歩いていたが。
かわった動物だとは思ったが、ナオのことで頭がいっぱいで、まさか過去に滅んだ超獣が目の前にいるとは、気づかなかった」

「つまり、この動物園は幻の超獣だか怪獣を飼っているってことか?
探偵さん、あんた、どうやってこれを」

かつみは感心してしまった。かつみからすれば、エドやナオが嘘をつくのは考えられない。
となると事実として、ここには過去に絶滅した怪獣がいる。

「客観的にお話しますと、噂通りにここに人間を食べてしまう動物が飼われているとしても、ここで消息不明になった人たちの人数、動物が人間を食べ、消化するのにかかるはずの時間から計算して、消えている人間の数のほうが多すぎるのです。
もし、ほんとうにここでの行方不明者たちの多くが動物に与えられているとしたら、ここの動物たちは、1日のほとんどを人間を食べるのと、消化することに費やさないといけないでしょうね。
調理方法によるかもしれませんが。

私は、人間を消す能力に特化した動物がここにいれば、どうだろうと考えました。
発想のヒントは、この動物園には秘密裏に怪物が飼育されているという噂です。
2つの噂を結び合わせれば、自然とここたえは浮かんできますよね」

全然、自然じゃないよ。

「はぁ」

かつみはあきれて、あんぐりと口をあけてたまま、一時停止してしまった。エドゥアルトも目を点にしている。
ナオはかつみにしがみついたままだ。

「俺たちの証言をもとにここで怪獣探しをして、いまから怪獣退治でもするつもりかい。
悪いがそれなら帰らせてもらう。
俺はともかくナオを危ないめにあわせたくないんだ」

「退治はしません。図鑑の説明を読んでいただければわかるのですが、バルバロスを殺すのはおそらく不可能です。
私の目的は、ここに超獣バルバロスがいるのを確認することです」

「あれを探すといっても、私もナオも偶然、見かけただけで、あれがここのどこにいるかはわからない。
スタッフに、居場所を聞いてもわからないだろうし」

エドゥアルトの正論にレギーナは頷く。

「そのためにもう1人。助っ人さんをお呼びしました。
いま、ここにはおられませんが、すこし前に動物園に到着したとのメールをいただきました。
たぶん、彼女は」

言葉を切り、レギーナは足をはやめた。
5人がついたのは、動物園のスタッフ用の建物だ。

「お邪魔します。私たち、事件の調査で入園させていただいている探偵です。
ここに知り合いがきているはずなのですが、勝手に食事をごちそうになってはいないでしょうか」

出入り口でのレギーナの説明で、あっさり話は通じて、5人は社員食堂のテーブルに、パン、スープ、肉、魚、野菜、フルーツ、お菓子と、たくさんの皿をずらりと並べ、1人でそれらを食べている、少女のところへ案内された。

「みなさん、こちらの彼女が地祇の南部 ヒラニィさんです。
彼女は動物とお話しができる能力をお持ちだそうで、千返さんたちと同じく真実の館に逗留されていたところをお願いして、ここまできていただきました。
いまは、お食事中のようですね」

紹介されてもレギーナのほうをむきもせず、一心不乱に食べ続けるヒラニィの姿に、かつみは見覚えがあった。

この子、真実の館でも食堂でみかけたよな。
朝、昼、晩に限らず、いつでも食堂にいて、1人でなんか食べてた気がする。
みためは小さな、子どもみたいな女の子なのに、あんなに食べて、どこに入るんだろう。

レギーナ。三船。かつみ。エドゥアルト。ナオ。
5人に注目されていても、ヒラニィはハイペースで食べ続け、テーブルのうえの皿をすべて空にしてから、はじめて気づいたように目をぱちくりとさせ、5人をみた。

「もぐもぐもぐも…。
ん? お、おう。
わかっておるぞ。バルバロスじゃろう。
んむ、任せろ!
わしにかかればどんな動物だろうが赤裸々に暴いてやろうっ!
それはもう、大胆かつ緻密に…かと思えばざっくばらんになっ!
では別に腹は減ってはおらぬが、とりあえず、いまと同じ分量を追加じゃ」

「すいません。ヒラニィさん。
お食事中にお邪魔してもうしわけないのですが、先に、動物たちにバルバロスの居場所をたずねてはもらえないでしょうか」

「なんだと、レギーナ、なにを寝ぼけておる。
わしは、任せろ! と言ったじゃろう。
そんなものは、ここにくるまでの道すがらとっくに聞いてきたわ。
おまえらがくるのが遅いから、腹も減っておらぬのに、こうして時間つぶしをしていたのだぞ。
バルバロスはな。
管理事務所の地下におるそうだ。
動物たちには、なにをするかわからない危険なやつということで、恐れられておるぞ。
評判がどうであれ、直接、話せば、人も動物も心の底から悪い奴はおらん」

「ありがとうございます。管理事務所の地下ですね。わかりました」

レギーナが礼を言うと、ヒラニィを残して5人は管理事務所へむかおうとした。が、

「お取込み中のところ、ごめんね。
私は長曽禰ジェライザ・ローズ。医師をさせてもらっている。
突然でなんだけど、スタッフから教えてもらったんだが、きみらは、今回の一連の事件を調査している探偵さんだよね。
もし、きみたちの中に真実の館に自由に出入りできる人がいたら、力を貸して欲しいんだ。
残念だから、私は招待状をもらってなくて、一人の女の子を周囲に彼女と気づかれないように、館内にいるある人のところまで届けてくれないか」

白衣の女医、長曽禰はていねいな口調で5人に話しかけてきた。長曽禰の横には、金髪のショート・カットの少年、柚木貴瀬がいる。

「あのね、いきなりなんだけど、たぶん、きみらが調査してるのは、バルバロスだよね。
僕も昨日、あれがここにいるのを見つけてさ。
今日、スタッフの人たちにお願いして、あれを公に公開してもらうように頼んだところなんだ。
もともとは良くない理由でここで飼われてたんたんだろうけど、あいつに罪はないよね。
普通に生息してても、人間でもなんでも食べちゃうんだしさ。
空京大学にも協力してもらって、話はうまくまとまりそなんうだよ。
だから、バルバロスの件にかんしては、この路線で解決にしないか。
動物で秘密で飼っていた不死身の超獣が起こした事故とか、バルバロスを盗みにきた連中が返り討ちにあったとかね。
せっかく幻の超獣でしょ。
動物園において、みんなにみてもらった方が楽しいよ。
マジェの子どもたちも喜ぶんじゃないの。
ここは残酷なものが好まれる19世紀のイギリスでしょ。
ね。いいだろ」

「私も敬一も真実の館には招待されていないので、長曽禰さんにご協力できませんが、超獣の件は、バルバロス自体に罪はないのは、たしかなので、存在をおおやけにするのに、異議はありません。
みなさんは、どう思われますか」

長曽禰と貴瀬の申し出にこたえ、レギーナは、かつみたちの意見も求めた。

「バルバロスは俺はみてないから、別に意見はないよ。エドゥとナオは」

「私は、特にあれに興味はないけど、今後、人に迷惑を与えない状態で、飼育、研究されるのは、いいと思うよ」

「俺はもう怪獣はみたくないです。でも、ああいうの好きな人もいるかもしれない。
真実の館に行きたくて困ってる人がいるなら、俺らでなにかしてあげられるなら、助けてあげてもいいかな、って」

ナオに意見に、かつみとエドは迷いもせずに首をタテに振る。

「ナオが人に親切にしたいなら、俺も同じ」

「私も。しかし、危険な話ではないよね」

長曽禰は、かつみたち3人に頭をさげた。

「ありがとう。
大丈夫だよ。館までいけば、あっちにいる仲間たちがサポートしてくれる。
彼女は、いま、ここの事務所にいる。
さっそく、連れて行ってほしい。
時間の余裕はあまりないんだ。
彼女の名前はキャロル。
博物館の館長をしていたデュヴィーン男爵の娘だよ」