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【ところで待っている間にテレビをつけたら女の人が服を脱がされて触手生物が襲って来るアニメがやっていたの。ぱんつに触手が入って女の人が悲鳴をあげていたのだけれどその後どうして女の人は喜んでいたのかしら、どういうことをしていたの? ねえねえお兄ちゃんも皆どうして黙ってるの?】 

 ティエンを背負ったまま歩くアレクの後ろから、戌アッシュがついていく。
 どうやら戌アッシュは壮太より上位の存在として、アレクを群れのリーダーだと認識してしまったらしい。
 戌らしく忠実な存在になったそいつを見ながら、義仲はぶつぶつ言っていた。
「あまり馴れ馴れしくしたら、容赦なく絶零斬を喰らわせてやる。
 これならば暑くても鮮度が落ちぬであろう?

 後は首を落として血抜きをしてやろう。
 なに、案ずる事はない。
 俺の剣ならば痛みを感じる間もなく美味しい肉の塊にしてやろうぞ……ふふふふふ……」
 相変わらず寝ぼけていた。

 気配を追っている陣が言うには、量産型アッシュの残兵は公園の方へ向かっているようだ。
「ここは粗方片付いたし、公園へ行くか。
 上手くいけば豊美ちゃんとも合流出来るだろう。
 準備はどうだ?」
 アレクに振り向かれて、唯斗はにやりと笑った。
 彼はあるスキルを使っていた。
 同じ想いを持つ者がその場に多ければ多いほど、効果を上げるそのスキルは、属にトランスシンパシーと呼ばれいる。
 そのトランスシンパシーで、唯斗はある『思い』を皆から集めていた。

 『アッシュうざい』

 そんな『思い』なら、きっと今夜は沢山集まるに違いない。この力で残りの量産型アッシュを完膚なきまでに叩きのめす事が出来るだろう。
 自分はそう思いながら、人の思いを揺り動かすワールドメーカーは、火に油を注ごうと先程からアレクの隣で余計な事ばかり言っている。
「ああ、ジゼルにアッシュの鳴き声が届いて夢に出てきたら可哀想だなぁ」とか
「アッシュを見てジゼルの視界を汚しちゃダメだよなぁ?」とか
 その度にアレクの無表情に妙な笑みが浮かぶので、楽しくて仕方が無かった。
 そんな風にして公園へ向かっていた時だった。

「お、アーレクさーんじゃねぇか!」

 アレクの前にハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)の身体が――
 彼をのっとった触手生物 ケンファが現れた。

     * * *

 触手生物がハイコドの身体をのっとって三ヶ月の時が経とうとしていた。
 人間として行動し続けたこの触手生物は、やがてケンファと名乗り、自我を持ち始める。
 ある日、何時ものように戯れにハイコドの記憶を見ていた時に、ケンファは思ったのだ。
 『このままだとハイコドの家族や友人に殺されるんじゃねぇか』と。
 すでに『エサ』で腹は満腹に膨れている。
 ――生きるために、この楽しい人間として生きるために。
 ハイコドの身体に居続ける事はケンファにとって得なのだろうか。

「美味いものを食べたくて、ハンバーガー美味いのよ」
 ケンファの翻弄するような言葉を聞きながら、アレクは正面に伸びて来た全ての触手を刀で落とし進む。
「おにーちゃんがんばってー!」
 尊に唆されてそう叫んでいる薫のエールを背中で受け取って、後ろから戻って来た触手を側宙のような動きで軽く避ける。
 攻撃が一点に集中したことで一本の線になった残りの触手を上から叩き落とし、踏みつけながら刀で触手を根元から断ち切ろうと斬り落としに行った。

「質問なんだけど」
「何?」
 唐突なそれに、アレクは律儀に返事をしてやった。
「家族が寄生されていたら、お前はどうする?」
「家族?」
 アレクは眉根を寄せている。
 豊美ちゃんは何処か勘違いして『天涯孤独』という答えに至ったのかもしれないが、アレクに本物の家族が独りも居ないのは紛れもない事実なのだ。
 家族と言われて思い浮かぶのは死んだ人間ばかりで、今生きているもので他にそう呼べるのは家でアレクの帰りを待っている彼女――義妹ジゼルだけだろう。
「妹に寄生する?
 有り得ないな」
 止めていた足をそのまま踏み込んで一瞬で触手の全てを切り落とすと、鳩尾に向かって蹴りを入れる。
 通り向こうに吹っ飛んで行くケンファに向かってアレクは答えた。
「手だろうが触手だろうが、俺は妹に爪先一本たりと近づけるつもりは無い。
 お兄ちゃんが居て、妹に触れられるとでも思ったか?
 
 バカが。願望は見通しが立ってから吐け」
 やはりアレクはケンファが今までに戦って来た人間の中で一番に強い。
 アレクのこの強さが、そして人間として存在できている奴等がケンファには妬ましかった。
 痛みに呻いて地面で悶えているケンファの足下を、酉アッシュの残りの一匹が駆けていた。
 その首を握りつぶす様に掴むと、ケンファは嫉妬を炎にして、雄鶏を焼き切り消えてゆく。
 量産型を一体でも倒したのは、話しを聞いてくれたアレクへの、お礼のつもりだったのかもしれない。