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ホテル奪還作戦

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ホテル奪還作戦

リアクション

 1章


 ホテルのあるフロアの廊下。そこでは、何かをごそごそと探るような音が響いている。
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がエイムズの身体を調べる音だった。
 紫月は静かにエイムズに近づき、彼の首に、持っていたハンカチを引っかけ、そのまま背負い投げの要領で彼の頭を硬い地面に叩き付けたのだ。
「ハンカチ一枚でもテロリスト撃退はできるんですよ〜。良い子は真似しちゃ駄目よ〜っと」
 紫月は既に事切れているエイムズの身体をまさぐる。目的は装備を奪うことである。
「トイレ行ってる間にこんなことになっているとは……。あーもうめんどくせー……っと、消音器とハンドガンですか。まともな武器が手に入りましたね」
 しばらくして、エイムズの装備品をほぼ全て奪取した紫月は、エイムズの死体をトイレの個室に隠した後、再びテロリスト狩りに動き出した。

   ■   ■   ■


 人質が捕らえられている、パーティ会場近くの物置。
 そこにリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)の2人はいた。
 パーティに呼ばれた客として会場にいた彼らは、テロリスト襲撃のどさくさに紛れて逃げ出しのだった。
「ふう。もう、何なのアイツら。……って、さっきからどうしたの? 黙りこくっちゃって」
「いえ……」
 狐樹廊は少しため息をつき、考えるようにして手を組む。
「いくら貸切とはいえ、何かと危険の絶えないパラミタである空京で、しかもまるでこうなることを見越していたかのように、非武装での参加を求められたという事実。人里離れた場所でもないのに完全武装した組織による制圧。これではまるで、パーティ開催側に黒幕がいた、といっているようなものではありませんか」
「うーん、考え過ぎだと思うけどね……。でも、黒幕がいないとも限らないし、調べるだけ調べ――」
 そこで狐樹廊はリカインの口を塞ぐ。何やら外から声が聞こえて来たからだ。物置のドアを少し開く。
「白衣の男と、機晶姫……それに金髪でドレスの少女がいますね。テロリストなのでしょうか」
 3人の会話を詳しく聞こうと、狐樹廊は息をひそめ、聞き耳をたてる。まず聞こえて来たのは白衣の男の声だった。
『招待客としてパーティに参加し、小型無線機で外部と連絡をとってテロリスト突入の手引きをする。そして会場の制圧には成功した。だが、人質の中に契約者達がいない。おそらく取り逃がしたのだろう。契約者達のことだ。おそらく、ホテルを巡回しているテロリストを襲い、武器を奪った上で人質を解放しにくるであろう。……となれば、パーティー会場の防衛戦力を増やしておく必要がある。そこでだ! ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)、君にはこのパーティ会場の護衛を行ってもらおう。先程テロリスト諸君と決めた、あのサインをしない者がいれば容赦なくぶっ放すといい』
『かしこまりました、ご主人様……じゃなかったハデス博士!』
『それから、ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)、君には会場の防備を固めてもらう。会場の入り口にトラップを仕掛けるのだ』
『了解です。テロリストの方々からC4を頂きました。それを使うとしましょうか』
 3人はしばらくして、それぞれの仕事に戻って行った。
 その様子の一部始終を見ていたリカインと狐樹廊は。
「どうしよう。なんかテロリスト達の警備事情についての重要な話を聞いちゃった気がするんだけど。あとあの3人の名前と。それにあのハデスって男、自分がテロリストを手引きしたって言ってたし。アレが黒幕?」
「分かりませんね……。彼のその背後にまた誰かがいるのかも……。彼を『黒幕』と決めつけるのはまだはやいです。もう少し調査を続けましょう」
「了解。『テロリストの警備状況』についても他の契約者達に知らせないといけないし、ひとまずここから離れましょうか」

   ■   ■   ■

「君たち、そのコードをコンセントプラグから外すんだ。大丈夫、人質としてパーティ会場に戻れば、殺しはしないから」
 テロリストの1人、トム・オラーノは、目の前にあるベッドの上に座る少年1人と少女2人に向かって叫ぶ。
 トムが、目の前にいる少年達に近づく事が出来ないのには理由があった。
 少年達がいる部屋の床は、水浸しになっていた。そして壁にあるコンセントプラグに電源コードが繋がれており、コードの先は水たまりに沈んでいる。
(水に触れたら感電して、下手すりゃ死ぬってヤツか。『水は電気を通しやすい』っていう性質を使った、アニメや映画でよくあるトラップだな。この子らが仕掛けたんだろうが、コードが見えてしまってる。これじゃぁトラップとしての機能は無いが……)
 トラップとしての機能は無いが、近づく事ができない。そして、無闇に殺すなという命令が出ているので、撃ち殺すことも出来ない。だからといって放っておくこともできない。
 結局、トムがとった行動は、少年達に罠を解除するように説得することだった。
「ほら、はやく。殺したりしないから、大丈夫」
 トムは子をあやすように言うが、少年達の反応は見られない。
 そうしていると、少女の一人、時見 のるん(ときみ・のるん)が顔を出した。
「じゃあ、先にこのホテルから出してくれる? あんなところに閉じ込められるのは嫌だもん」
「それは出来ない。でも何も危害は加えないから」
「嫌だ〜。あんなとこ行きたくない〜」
 トムはわがままな子供だな、と思う。見た目も小学生くらいなので話が通じないのは仕方ないか、と適当に判断し、横にいる高校生くらいの少年と少女に声をかけてみる。
「なぁ、君たちなら話が分かるだろう。おとなしく会場へ戻ってくれないか?」
 すると、少年、アレン・オルブライト(あれん・おるぶらいと)が口を開いた。
「本当に殺したりしない、という保証はどこにもないでしょう。それに……」
 アレンの言葉に続けて、橙 小花(ちぇん・しゃおふぁ)も口を開く。
「それに、貴方様の来る少し前にいらっしゃったテロリストの方が、ホテルからの脱出に協力して下さっています。今は上の人間に掛け合ってみるとかでいらっしゃいませんが……」
 それを聞いて、トムは苛立つ。
(このフロアの巡回を担当しているのは俺一人だ。そんな協力者がいるはずない。わがままだし嘘は吐くし……。もういいか。面倒くさい)
 トムは天井に向かってアサルトライフルを撃つ。ドガガガガガガッッ!! という甲高い音が部屋に響き渡る。
「出鱈目なことは言うな。別に『殺すな』と言われているわけではないんだ。今すぐに殺してもいいんだぞ? 分かったらコードを抜いてこっちへ来るんだ」
 今の脅しが効いたらしく、のるんはビクビクしながらコードに手を伸ばそうとする。
 その時、かこん、と何処からか音が響いた。
 部屋にいた四人は反射的に音がした方向――天井を見る。
 次の瞬間、ガシュッ、と小さな音がしたかと思うと、トムの頭から鮮血が噴き出した。そしてそのまま糸が切れたようにその場に倒れ込み、動かなくなった。
 何が起きたのか、状況が掴めないのるん達に、男の声が聞こえてくる。
「頭が狙いにくい時は、今のように上を向かせればいいんですよ。頭ががら空きになります。あとは落ち着いて狙えばいいのです」
 言いながら現れたのは、紫月だった。トムの命を奪った、消音器付きのハンドガンを握っている。
「上を向かせるって……そんなの一瞬じゃないですか。よほど訓練していないと出来ませんよ」
 少し呆れ気味に言いながら紫月の後を付いて来たのは、{SNM9998926#卜部 泪}だった。
 のるん達は突然現れた紫月を訝しんでいたが、空京の看板アナウンサーの顔を見た瞬間、警戒心を解いた。
 紫月はのるんたちに向かって言う。
「さて、大丈夫ですか? 君たち。とりあえず、しばらくここで休んで、落ち着いたら卜部さんと一緒にどこかに隠れていて下さい。俺は引き続きテロリスト殲滅に動くので。じゃあ卜部さん、そういうことで。あとは任せます」
「はいはい。気をつけて下さいね」
 紫月はトムの身体を調べ、必要なものを奪い取り、テロリストを殲滅するために部屋を飛び出して行った。

   ■   ■   ■

 ハデスに命令された、会場の入り口にトラップを仕掛ける、という仕事を終わらせたミネルヴァは、自分の成すべき事は終わったので、さっさとホテルから立ち去ろうとしていた。
「スキルが使えれば【インビジブルトラップ】でも仕掛けたのですが……。まぁ過ぎたことですし。さっさと帰りま……」
 ホテルの外に出ようとしたところで、ミネルヴァの声が思わず詰まる。
 ホテルの外は、既に国軍や空京警察の特殊部隊が取り囲んでいたのだ。
「……これでは出れませんわ……。人質だと言って逃げたところで、あとでハデスさんとの繋がりがバレて捕まるのがオチですし……。仕方ないですわね。何か脱出法でも探しに行きましょうか」