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リアクション

――四方を金網で囲まれたリングに所狭しと集まった十人の選手達が、身構えつつ相手の動きを見る。
 やがて選手達は相手と目が合うと、ゆっくりと動き出す。九条と荒神もそうだった。
 ゆっくりと近づくとロックアップで組み付く。力比べ、というよりもお互いの出方を試すような物で、すぐに九条がヘッドロックへと持ち込むよう。
 少し絞り上げ、荒神の頭部を締め上げるとそのまま投げ、グラウンドヘッドロックへと移行する。相手が行動できないようにねちっこく締め上げ、荒神の口から苦悶の声が僅かに漏れる。ギブアップ判定の無いこの試合ではエスケープが無い。締め上げた所で止めるレフェリーはいない。
 九条が更に絞り上げようとする。が、荒神も九条の頭に自身の足を絡めヘッドシザースへと持ち込む。そのまま締め上げられる前に、九条は体を跳ねあげ技から脱出する。
 九条と荒神、お互いが起き上がり再度九条が首投げからグラウンドヘッドロックへ。今度は即座に荒神がヘッドシザースを返し、そして九条も脱出。
 お互い距離を取り身構えると、観客席からムーブに対する拍手が沸き起こった。直後である。
「カップルは撲滅でありますぅぅぅぅッ!」
「んなぁッ!?」
 カーン、と良い音が鳴り響いた。起き上がった荒神の頭を、吹雪が【ゴング】で思いっきりぶん殴ったのである。
「あー! ちょっと何するのよ!」
 場外から我慢できずに綾が吹雪に文句を言う。が、
「やかましいであります!」
と吹雪が【ゴング】を綾に向かって投げつけた。【ゴング】は金網にぶつかり、少し撓ませる。
「ちっ、金網に救われたでありますか」
 吐き捨てる様に吹雪が呟く。その手には【ゴング】についている木槌が握られている。そのまま頭を押さえる荒神に追い打ちをかけようと吹雪がほくそ笑んだ。
「お前は欲が深すぎる」
 その吹雪の腕を、九条が捻り上げた。思わず驚き、吹雪は手から木槌を手放した。
「な、何をするでありますか! そ、そうか! 貴様もカップル派でありますな!?」
「……欲を捨てよ。そうすれば救われる」
 九条は腕を捻り上げたまま、吹雪の空いている片手を自身の頭に引っかける。そして身体を捻りながら振り抜く様にラリアットを叩きこんだ。
「んぐぁぁ!?」
 喉元に九条のラリアットを受けた吹雪が、受け身も取れず後頭部からリングに叩きつけられた。

『ウルトラヴァイオレット選手、吹雪選手に強烈なラリアット! けど珍しい形のラリアットですね』
『あれはペプシツイストという技。最近じゃあまり見かけない技だから珍しい』
『ウルトラヴァイオレット選手の技の引き出しの多さが見られそうです。しかしブラックジャガー選手を助けましたね』
『あれは助けた、というより邪魔されたのを排除しただけかと思われる』
『成程。さて開始早々激しくなりそうな模様。他の選手達も動き出しています』

「せぇッ!」
 陽太が掌底で優梨子を牽制する。二度三度と放つが、優梨子はそれを笑みを浮かべつつ身体を揺らして躱す。
「陽太、落ちついて! ペースを掴むのよ!」
 場外から環菜が叫び、合わせる様に掌底を放った。それを避けると同時に優梨子が一気に距離を詰めようとする。
「せぃッ!」
が、それに合わせる様に陽太は前蹴りを放った。
「あらあら」
 優梨子は踏み込むことを留まり、身構えて蹴りを受ける。ダメージはそこまで受けていないが、反動で陽太は距離を離した。
「陽太、今よ!」
「はぁッ!」
 環菜の合図と同時に、陽太が踏み込むように飛び、身体を回旋させてローリングソバットを放った。
「おっと」
 優梨子はソバットを受け、そのまま自ら転がる。そしてすぐに立ち上がり、
「お返しですわ」
と陽太の頭を狙いハイキックが放たれた。
「うわっと!?」
 それをギリギリで上体を反らす事で躱す。が、
「甘いですわよ?」
優梨子はハイキックの勢いを殺す事無く、そのまま身体を回旋させて首元に袈裟斬りチョップを放つ。
「ぐっ……!」
 叩き込まれた手刀の衝撃に、陽太が動きを止めて呻き声を漏らす。そのまま一気に優梨子が距離を詰めようとする。
「くぅッ!」
 苦し紛れに距離を取ろうと、陽太が掌底を放つ。だが優梨子はその腕を躱しつつ捕らえると、陽太の頭の後ろに空いた自分の手を回す。
「そぉれっ」
そしてそのまま首投げに移行した。背中から落とされ「ぐぅっ」と陽太の口から呻き声が漏れた。
「あら、首はもげませんでしたか。うっかりもげて頂ければそのままお持ち帰りしたのですが」
 何気に恐ろしい事を口走りながら、優梨子はそのまま陽太の首に腕を巻きつける。完全に決まり切ってはいないが、優梨子の腕が執拗に首を絞めつけようと力を入れてくる。

『優梨子選手のスリーパーが陽太選手を襲う! そのまま眠りに誘うのか!?』
『いや、あの締め上げ方はそんな生易しいものじゃない。完全に決まり切ってないけど、決まったら危ない』

「ふふ、一目見た時からこうしたいと思っていたのですよ?」
 笑みを浮かべつつ、陽太の耳元で優梨子が言う。
「――陽太?」
 その光景に、環菜の額に青筋が走る。陽太は反論しようとするが、言葉にできず手を横に振って意志を見せる。
「良いと思いません? こうやって絞めて千切るというのも……それとも引っこ抜く方がお好みですか?」
 そう言って本当に引っこ抜こうとするように、優梨子が締めたままの腕を引き上げる。
 陽太は耐える様に苦悶の表情を浮かべつつ、ゆっくりと姿勢を戻し立ち上がる。そして、
「せぇやぁッ!」
背負い投げの要領で優梨子を前方へと投げる。技が解け、背中から優梨子が叩き落とされる。
「陽太! 動ける!?」
「え、ええ……何とか……」
 首元を押さえつつも笑みを浮かべる陽太に、環菜がほっと息を吐いた。
「うらやまじゃなくて贅沢禁止ぃッ!」
 突如、叫びながら貴仁が陽太に張り手に近い掌底を放つ。そして続け様に地獄突きを放った。
 突然の攻撃を受け、陽太は苦しげに喉元を押さえると貴仁は更に抱え上げる様に組み付いた。
「モテない者の為に! このけしからんイチャイチャカッポーを沈める!」
 貴仁はそう叫ぶと、肩に担ぐ様に陽太を抱え上げた。そのまま垂直に落とせばエメラルドフロウジョンになる体勢である。が、
「そしてチャコが跳ぶぅッ!」
二人にトップロープから茶子がムーンサルトで降りかかってきた。
「ちょ、いきなりなんだぁ!?」
 陽太を抱えた貴仁が躱せるわけも無く、ダイレクトに茶子の身体を浴びてダウン。そのまま貴仁は起き上がろうとうつ伏せになるが、背中に茶子が飛び乗った。
「ふっふっふ、ここからはチャコの時間だよ! えーっと、確かこうやって……キャメルクラッチぃッ!」
 貴仁の顎に手を引っ掛ける様にクラッチを決めると、そのまま茶子が上体を反らして締め上げた。

『乱入に次ぐ乱入! 最後に制したのは茶子選手! ムーンサルトからキャメルクラッチでネクロホーミガ選手を締め上げる!』
『けどやっぱり極まりが浅い。まあ、パンフから学んでいるようだから無理もない』
『おっと、そうこうしている間に別の方で動きが見られました! シャナ選手、エレーン選手をダウンさせると金網に手をかけました!』

 エレーンを倒した佐那が金網に手をかけ、ちらりと横目でダウンしたエレーンを見ると、腹を押さえて蹲っている。
 それを見て満足げに頷くと、佐那がロープを足場にして上ろうとする。セカンドロープに立ち、不安定な状態を金網を掴むことで支えている状態である。
「そう慌てなくてもいいんじゃないの……っと!」
 その後ろ、復活したエレーンは佐那に向かって走る。そして佐那の背中に膝を当てる様にして飛びつくと、体重をかけてリングへと落ちる。耐え切れず佐那が金網を手放し、衝撃がエレーンの膝を通して突き刺さる。
 エレーンのコードブレイカーを食らった佐那は体を跳ねあがらせると、吹き飛ばされたようにダウンする。
「ったく……こんなの付き合ってられないわよ……」
 うんざりしたようにエレーンが呟くと、まだダメージが残っているのか顔を歪ませつつロープに手をかけた。
「あらあら、まだ慌てる時間じゃないですぅ」
 背中から、エレーナの身体に腕が回されクラッチが極まる。振り向くと、そこには笑顔のルーシェリアが居た。
「それっ」
 抵抗する間も与えず、ルーシェリアがエレーナを持ち上げ後方にジャーマンで放り投げる。途中クラッチを外し、投げっぱなしでエレーナがリングに叩きつけられた。
 起き上がれないエレーナを見て、今度はルーシェリアがロープに足をかけようとした。
「……さ、させませんっ☆」
 だが起き上がった佐那がルーシェリアにスピアータックルで飛びつく。
「あうっ!」
 ダイレクトに佐那のスピアーを食らい倒れるルーシェリア。ルーシェリアを倒し、横に体を流した佐那はダメージが深いせいか起き上がれず、そのままダウンした。

『上らせません上らせません! 金網を巡る攻防は二転三転! 遂には全員がダウンしました!』
『個人的にはルーシェリア選手には頑張ってもらいたい。是非とも頑張って権利を私に……!』
『えー、実況は公平に行ってください……さて、まだまだ試合は始まったばかり! 果たして誰が権利を手にするのでしょうか!』