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第三章 三番ホール


「一時中断もありましたが、気を取り直して参りましょう。折り返し地点の三番ホールは丁度中間あたりに川が流れるパー4」
「川の手前に落とすか、奥に落とすか、勝負の分かれ目だね。はい、これ」
 ジャンボは泪にサンバイザーを渡す。
「あの、お尋ねしてもよろしいですか?」
「何?」
「もしかして、あのキャッチコピー……」
「もちろん、僕が考えたんだ」
 もう深くは突っ込まないと決めた泪だった。

―――――

 ティーグラウンドに向かう男がいた。
 長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)
 趣味でゴルフにやってきたのだが、何故かルールが変わっている。
 そこで帰るのかと思いきや、どこか懐かしく「アレに似ているな」と参加した男である。
「くまだにしたのがまずかったか……ここは最強と目されるこばやし辺りを――」
「広明さん」
 考察を続ける広明に、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は声をかけた。
「ん、九条か。来てたんだな。でもスコアボードには名前がなかったよな?」
 白いゴルフウェアに身を包んだ九条を見やり尋ねる。
「え、あのっ、そのっ」
「ああ、救護班か」
「そ、そうなんです。普通のゴルフだと思ったら、こんなルールになってて……」
 確かにこの大会は医師を募集していた。が、どう見てもそれは建前で、広明が参加するのできたというのが本音だろう。
「オレもこうなってるとは知らなかったからな」
 しかし、それに広明は気づかず大会参加を促す。
「ところで、九条は参加する気はないのか?」
「私は……」
 負傷退場者は今のところ先ほどの葛城吹雪以外は出ていないが、医者として怪我人を増殖させることに抵抗がある。しかし、それが広明の言葉となれば葛藤せざるを得ない。熟考したのち九条は返す。
「やっぱり、遠慮しておきます」
「そうか」
「でも、応援はしてます」
「おう、ありがとな。またいつか、普通のゴルフを教えてやるよ。それと、これからもっと怪我人が増えるかもしれん。その時は頼んだぞ」
「えっ……は、はいっ!」
 突然の言葉に一瞬返答に詰まるも、喜色満面で返す九条。
「それじゃ、オレは行ってくる」
「頑張ってください!」
 ティーグラウンドにたどり着いた広明は、ボール役のくまだを回し、投じた。
「おおぉぉぉ、せいっ!」
「わ、広明さん流石です! 結構飛びましたね!」
 喜びの声を上げるが、落下するにつれ、怪我をしないか心配になりあたふたしだす。
「あ、でも、このままじゃ怪我をして――」
「問題ないさ」
 だが、広明はいたって冷静。その理由はすぐにわかる。
 落下したはずのくまだは体を回転させ、フェアウェイを滑っていく。
「あいつは特徴があって、着地と同時に滑るんだ」
『人間魚雷』。体を横たえたまま腕を伸ばし、前方へ滑走する。
 擦り傷は免れないだろうが、受け身も取れているので打傷はほとんどないだろう。これが広明がくまだを選んだ理由だ。
「このコースだと川を越えればそれが有利になる」
 言った通り、グリーンに向かって滑り続けているくまだだが、
「ただ」広明は頬を掻く。「障害物に当たらないと止まらないのが難点だがな」
 勢いのまま通り越し、奥の木にぶつかってやっと止まった。
「……私、救護室にいってますね」
「……すまんな」
 九条の働きに期待する広明だった。
 その打球、もとい投球を見ていた神崎 荒神(かんざき・こうじん)は、
「意外と越えられるんだな」
 川越えに難色を示していたが、考えを改めた。
「アルベール、いけるか?」
「承知いたしました」
 ボール役のアルベール・ハールマン(あるべーる・はーるまん)は恭しく一礼。そのまま横になる。
 アルベールの足を抱え、荒神は勢いよく回転し放る。
「とぉう、りゃーーー!」
 空中で回転し、トスッと川の奥に着地。
「次、行くぞ」
「心得てございます」
 二投目、三投目と行い、アルベールはカップの中へ納まった。
 後続もそれに続き、難なくバーディーを奪っていく。
「しかし混戦だぜ。何か抜け出す手段は……」
「主様。わたくしに良い考えがございます」
 何やら状況に変化が起きそうな気配がしてきた。

―――――

1位タイ −1  完全魔動人形 ペトラ
         小鳥遊 美羽
         ルカルカ・ルー
         神崎 荒神
5位タイ ±0  山葉 聡
         仁科 耀助
7位   +1  長曽禰 広明
8位   +3  セレアナ・ミアキス

棄権       コルセア・レキシントン