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第一章 一番ホール


「なあ、ゴルフってこんなのだったか?」
「俺も今思っていたところだ」
「オレの知ってるゴルフじゃない……」
 キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)の質問に、山葉 聡(やまは・さとし)仁科 耀助(にしな・ようすけ)は同意と困惑で答えた。
 ナンパ目的でやってきた三人。
 しかし、観客は男性が多く、場の空気は静寂を求め、声を掛けることもままならない。
 しょうがなく競技を見れば、彼らの想像とはかけ離れた光景が展開されている。
 クラブを持った選手、ゴルフバックを抱えたキャディーもいない。
 ティーグラウンドには入念に準備運動をする契約者の姿。彼らも格好こそはそれっぽいが、今から白球を打つようには見えない。
 その内の一人、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が三人に気付いて近寄ってきた。
「やっほー、キロスたちじゃない。君たちも参加しにきたの?」
「いや、オレたちは――」
「てやあぁー!」
 ナンパに来た、最後まで言い終わる前に、キロスの顔面へ小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の跳び蹴りが入った。彼女もまた、準備運動をしていた契約者の一人だ。
「な、何だっ!?」
「君は……」
「美羽?」
「私だけじゃないよ」
「み、美羽さん、そのスコートで跳び蹴りは色々とまずいです」
 サンバイザーにポロシャツ、超ミニなスコートの美羽にベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はハラハラおろおろ。女好きの彼らの視線が気になって仕方ないのだが、そんなことなど美羽は歯牙にもかけない。
「見えないようにしてるから大丈夫。それに、見えないから絶対領域って言うんだよ?」
「そういう問題じゃ……キロスさん大丈夫ですか? すいません、美羽さんがご迷惑をおかけしてしまって」
 ベアトリーチェは昏倒したキロスを助け起こすが、呻き声を上げるだけで目を覚ます気配がない。
「早く医務室に連れて行かないと」
「大丈夫、その必要はないよ。だって、私が今からボールにするんだから。こうすれば問題を起こす前に防げて一石二鳥だよ!」
『はい?』
 キロスをボールにとは、いったい何を言っているんだと聡と耀助。
「今回からルールが変わったみたい」
 二人に大会の補足説明を行うルカ。その間に美羽はキロスを引きずりティーグラウンドへ。
「優勝目指して頑張るもんね! ベア、ちゃんと見ててね!」
「ちょ、ちょっと、美羽さん……無茶は駄目です」
 それを追いかけるベアトリーチェは気苦労が絶えない。
「といった感じかな」
「なるほど……」
「ルカも投げるのが人間って聞いて戸惑っちゃったよ。二人はどう思う?」
「まあ、参加が契約者だしな。あまり下手な事にはならないだろ」
「そうだな、ありなんじゃない?」
 さっきみたいな契約者からの直接攻撃が無ければ、と付け加える二人。
「だよね、一応スポーツだし」
 それならとルカは、二人を競技に誘ってみる。
「飛び入り参加もOKみたいだから、ちょっちやってみない?」
 キロスがいなくなり、声を掛ける相手も中々見つからない聡と耀助は「ああ、いいぜ」と承諾。問題は、
「よし、俺がクラブをやる。耀助、お前がボールをやれ」
「そんなっ! オレがクラブをやりますよ。聡さんは天御柱の生徒会長だから空中機動もお手の物でしょ?」
「それはイコンの話だ。むしろ耀助の方が忍術使えば飛ぶんじゃないのか?」
「忍ぶことが主体の術に何を求めてるんですか」
 などと言い争いを始め、取っ組み合いになりかけたところでルカが仲裁に。
「あっちで貸出してくれるよ? ルカも今から借りに行くところだもん」
「人を貸出って……」
「これがドMというやつか……」
 ボール役を進んで受けるとは、酔狂な人もいるものだと思う二人。
 聡はルカにちょっと気になったことを聞いた。
「てか、こんなに騒いでいいのかよ?」
「投げる時は静かにしないといけないけど、それ以外は大丈夫だよ」
「なら、観客が静かだったのはなぜだ?」
「多分、下手に騒いでボールに選ばれないようにするためじゃないかな」
「なるほど……」
 選手に目を付けられないための静寂。キロスという実例があるので納得する。
「さっ、時間もないから選びに行こ行こ」
 ルカの先導で貸出場所へ歩く三人。
「どうせなら、一番負けた人が皆にジュースを御馳走ってのはどうかな?」
「俺は構わないぜ」
「オレもだ」
 和やかに進む会話。そして、
「それで、どのクラブを選ぶの?」
『ボールを選ぶんだよ!』
 こうして聡はくにおを、耀助はりきを、ルカはりゅういちを選んだ。