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【夏の転入生】陽菜都の男性恐怖症克服大作戦!

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【夏の転入生】陽菜都の男性恐怖症克服大作戦!

リアクション


第二章

「なんか……色々騒がしかったけど。ちゃんと楽しめてる?」
「う、うん……えっと……」
「あ、私? うん、ヒラニプラの方から来ましたルカルカ・ルーだよ。お近づきの印にチョコバーあげるね。よろしく」
「ありがとう! いろんな人と会えるのは良かったんだけど……どうしても男の人は殴っちゃって……怖くないものなんだよね?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の話しやすそうな雰囲気に、陽菜都は、そもそもずっと不思議だったことをぶつけてみる。
「私? 恋人居るし軍隊は周りが男の人ばかりだし。別に怖くないよ」
「そっか」
「コレっていうトラウマっていうよりは、環境だったなら、無理に頑張らなくても慣れていけるんじゃないかな? 良くも悪くも共学なんだし」
「あはは……」
「うーん。ちょっと……どうでるかわかんないけど。メタモルキャンディっていうのがあって。この飴で性別が一時間だけ変わるんだよ」
「すごーい!!」
「陽菜都がなめたらどうなるか試してみる? 自分なら、男でも怖くないよね?」
 これまでのことを思い出すと思わず苦笑いが出てしまう陽菜都に、ルカルカがふと提案する。
「たしかに……!」
「ね。はいこれ」
「ありがと!」
 陽菜都がキャンディを口に入れる。
「……」
「……」
「……わーーーーーーーーーー!!!」
「! ……っと!」
 まじまじと自分を見ていた陽菜都だが、男になったと実感した途端、パニックになり倒れてしまう。
「ごめんごめん。ゆっくり慣れていこっか」
 咄嗟に支えたルカルカはぽふぽふと頭を撫でながら、呟いた。

「っていうこともあったわけだし。男の人への恐怖心を無くすっていうよりは、まずは拳を制御できるようになれば良いんじゃないかなって」
 パーティー開始時から男子生徒に対する拳を見つつ、ルカルカから状況を聞いた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、陽菜都のところに走ってくると、そう切り出した。
「陽菜都ってクラスはミンストレルなのに、いい拳してるし」
「私も役に立てるしね……なんか……ごめん」
 いい男を追いかけていたところを美羽に引きずってこられた愛美は、本来の目的を思い出したのかしゅんとして謝った。
「色々面白かったから大丈夫だよ!!」
「なら良かった!」
 陽菜都の言葉に速攻で復活すると、愛美は美羽と共に即席のステージを準備した。
「あ、マナと美羽だぁ〜」
 調理場からドーナツを運んできたマリエルは離れて座っていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と陽菜都の間にちょこんと座ると、ドーナツをほおばりながらステージを見上げる。
「あれが天宝陵万勇拳の奥義、壊人拳と無影脚だよ」  
「即興でできるものなんだね」
「二人とも、ちゃんと弟子入りしてやってるからねぇ。型は安定してるよね。足技はギリギリだけど。制服のミニスカのまんまだもん」
 ひとつひとつ技の説明をしてくれるコハクの言葉を聞きながら、陽菜都は食い入るように二人のやり取りを見守る。
 マリエルはクッキーにも手を伸ばしながら楽しそうに陽菜都に話しかける。
「興味が出てきたら、いつでも声かけてね!」
 拳舞が終わり、全力で拍手する陽菜都に美羽はそう声をかけると、コハクたちとともに素早くステージを片づけていった。
「ちなみに、真セレスティアーナ・アッパーもおすすめですわ」
「アッパー?」
 その様子を見ていたヨルディアは今こそと陽菜都に声をかけると、持っていたサンドバッグに強烈なアッパーを叩き込んだ。
「う、うわあ……」
 ほんわかした雰囲気のヨルディアから放たれた一撃に、陽菜都は思わずぽかんと口を開けた。
「男性嫌いを直すのもいいけど、男は狼みたいなものだから。まずは護身術を学ぶのもいいんじゃないかしら? アッパー的な」
「アッパー的な……」
「少しでも詳しく知りたくなったら、連絡してくださいね」
 密かに継承者を探していたヨルディアは陽菜都にアッパーのコツを伝授すると、宵一にバレないうちにとあっという間に立ち去るのだった。

「セラフ姉さん、ちょっと悪事にのってくれない?」
 少し離れたところから状況を見守っていたディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)は傍らのセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)に耳打ちする。
「ほぅ。ほぅほぅほぅ。それはやってみる価値があるわねぇ」
 二人は顔を見合わせるとニヤリと笑い、がしっと湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)の腕をつかんだ。
「な、なんだよ……」
 嫌な予感が全開になった凶司は思わず後ずさる。
「なにそれ、面白そう!」
 二人から『外見が問題なら、女装の凶司&男装のエクスをぶつけて反応を見てみる』大作戦を聞かされ渋る凶司の横でエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)は飛び跳ねんばかりの勢いで乗り気だった。
「失敗したら殴られるわけだよな……しかもなんだか拳法やらアッパーやらで、開始前より更に威力がパワーアップしてないか……?」
「あんたも生徒会役員でしょうが。黙って一肌……いや、一身体貸してやりなさい!!」
「へ〜ぇ、悩んでる女の子が身近にいるのに何もできないんだぁ、そんなので愛しのあの子に近づけるのかしらん……?」
「ぐぬぬ……」
「大丈夫よ、ミルザム様にいろいろならったから!」 
「そーゆーことじゃないだろ!」
「はいはい、ほら、早く!」
「ぅーっ、ちょっと胸が苦しいかなぁ……」
 ああだこうだと言っているうちにエクスは男装を完了しており、完全にディミーアとセラフの煽り宥め脅しに屈服した凶司は女装姿で陽菜都の元へ向かう。
「は、はじめまして……高等部……の、キョウコ、です……」
「はじめまして……遠山陽菜都、です」
 陽菜都はなぜかうずく右手を不思議に思いながら凶司……キョウコにぺこりと頭を下げる。
「と、隣座っても、大丈夫、でしょうか?」
 その震える右手的な意味で、という言葉を凶司は頑張って飲み込んだ。
「あ、はい!」
「はじめまして! ボクはエクス、高等部の先輩だよ。これからよろしく! ねえ、近づいてもいいかな? もっと近くで、陽菜都のことみてみたい」
「はじめまして、遠山陽菜都です、それはやめたほうが……ごめんなさいぃぃぃぃ!!」
 とことこと歩み寄ってくるエクスに思わず拳を突き出した陽菜都は、その勢いで思わず自然にキョウコにも蹴りをおみまいしてしまう。
「わーーーーー!! ごめんなさいごめんなさい!! あれ?」
 さくっと避けたエクスと、がっつり攻撃を受けた凶司を見て、陽菜都は違和感に首を傾げる。
 近くでは、ディミーアとセラフが全力で爆笑していた。
「ぁーっ! きっつかったぁ……やっぱり感覚的に分かっちゃうんだね。うん、こっちが正体。ボクは女の子だよ!」
「ひ、ひどいめにあった……ぇー、先ほどは失礼。アレはパートナーの凶行によるものですので、断じて趣味じゃありませんので」
 エクスと凶司は崩れてしまった変装から元に戻ると改めて陽菜都に挨拶をする。
「なんというか、すみませんでしたっ!」
 必死に謝る陽菜都に、いやいやと凶司が首を振ってみせる。
「いえ、元はと言えば試すようなことをしたこちらに非がありますから」
 そこまで言うと、恨めし気にディミーアとセラフをにらむ。
「改めて。蒼空学園、新生徒会広報の湯上です。こっちはパートナーのネフィリム姉妹」
 悪びれもせず、よろしくね〜などと楽しそうに手を振る姉妹に、凶司はがっくりと肩を落とした。
「分析すると……とりあえず色々な人に触れて慣れてみては? よければ陽菜都くん、広報で働いてみません?」
「嬉しいんですけど……被害が増えそうなので……」
「そうですか……まあ、あまり気にせず、気が向いたら生徒会に遊びに来てください」
 凶司はそう告げると、痛む身体を引きずりながら会場を後にするのだった。
 
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! ククク、陽菜都とやら! その鋭い鉄拳、気に入ったぞ! その拳、我ら秘密結社オリュンポスで、世界征服のために振るってみる気はないか?!  今なら、オリュンポスの幹部として迎え入れようではないか!」
 飛び込んできたドクター・ハデス(どくたー・はです)が、色々な何かを吹っ飛ばして早速オリュンポスへの勧誘を開始する。
「いや、え? 秘密結社? あれ? いや、あれ?」
 勢いに飲まれた陽菜都は目を白黒させながら口を開くも、疑問しか出てこない。
 まさかこんなに大勢がいる前で、大声で秘密結社に勧誘されるとは、普通に思ってもみなかったのだ。
「男を見ると殴りかかるほどの男嫌いか……。そうか、何か男によほどの恨みがあるのだな。いや、深くは聞くまい……」
「あ、いえ別に嫌いなわけでは……」
 勝手にふんふんと何かに納得している様子のハデスに、陽菜都はオロオロとフォローを入れるが、ハデスは止まらない。
「我らオリュンポスの仲間になった暁には、戦場で多くの男どもと戦うことができるぞ? そうすれば、お前の恨みも思う存分に晴らすことが出来よう! さあ、我らの仲間になるがいい!」
「きゃー!! 違うんです。違うんです。いろんな意味でごめんなさいーーーーーーっ!!!」
 その勢いのままガシっと肩に手を置かれた陽菜都は渾身の一撃をゼロ距離で放った。
「ぎゃーーーーー……あだっ!?」
 スパーーーーーーーンっ!!
「ちょっと、兄さんっ! なにしてるんですかっ! 転入生の陽菜都ちゃんが驚いてるじゃないですかっ!」
 綺麗に吹っ飛んだハデスが落下する直前、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)がハデスの頭をスリッパではたく。
 周囲にはとても良い音が響きわたった。
「あ、陽菜都ちゃん。あんまり男の人を殴っちゃダメですよ? これあげますから、今後は女の子らしく、これで叩くようにしてくださいね」
「は、はいっ。ありがとうございますっ!」
「アレはちゃんと私が回収していきますので気にしないでくださいね。楽しいパーティーを」
 咲耶はにっこり笑いかけると、ノビているハデスを再びスリッパではたきたたき起こすと、嵐のような勢いで去っていった。
「あれ? でも私今、肩掴まれるまで平気だった……かも?」
 勢いに飲まれれば、もしかしたらある程度の距離まで近づけるのかも、と陽菜都は自分の右手を見つめるのだった。

「エライのにとっつかまったなー。大丈夫だったか?」
「あ、はい。スリッパ……いただいちゃいました……」
 心配そうに歩み寄ってくるシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)に陽菜都は咄嗟にそう返す。
「突然声かけて悪かったな。オレはシリウス、百合園で教師目指してる。話聞いて様子見にきたんだ」
「面白い学校ですよね」
「まあ、凄い勢いで他校生まじってるけどな。オレもそんなわけで百合園だし」
「あ、そうですよね。皆さんに集まっていただいて嬉しいです」
「意外と男も来てんだな。怖いもの知らずっつーかなんつーか。いつ頃からダメになったんだ?」
「よく覚えてないんですけど、物心ついたときには既に手が……」
「何か男性に恐怖を覚えるようなことがあって……とかなら無理はしない方がいい。こじらせるぞ」
「うーん?」
 陽菜都は記憶をたどろうと首を捻るが、なかなかコレという原因が見つけられずにいた。
「逆にただ気持ち悪いとか……もう気にすんな! 学園中殴りまくって、ウマの合うヤツを探しちまえ」
「わあ」
「一人見つかれば解決の糸口は近いと思うぜ。案外とソイツがお前のパートナーだったりするかもしれないしな?」
 悪戯っぽく笑ってヒラヒラと手を振るシリウスの言葉の意味に気づいた途端、陽菜都の顔は真っ赤になった。

(男性恐怖症だって言うけれど、僕を見て陽菜都さんはどう反応してくる? 男性としてみて殴ってくるか、もしくは女の子と見間違えられるか……殴られるのは嫌だけど、殴られないというのも別の意味で嫌だなぁ……)
 そんなことを考えながら、榊 朝斗(さかき・あさと)は一人で所在なさげに佇む陽菜都の元へと近づくと声をかけた。
「はじめまして。僕は榊朝斗っていうんだ。よろしくね」
「遠山陽菜都です。よろしくお願いします」
(普通だ!!)
 朝斗は非常に微妙な想いを押さえながら笑顔で話を続けた。
「いろんなお菓子並んでたみたいだけど……ちゃんと食べられた?」
「にゃ〜にゃ〜! (朝斗、殴られてない!)」
「やはり大丈夫みたいですね」
 少し会話していると、ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が近づいてくる。
 ちびあさはアイビスの手からぴょんと朝斗の頭に飛び乗った。
「にゃにゃにゃーにゃにゃにゃー(男の子には見えないし、19歳にも見えないもんね)」
「つまり、見た目からの影響が大きいということですね」
 頷き合う3人を見て、陽菜都が不思議そうな顔をする。
「いや、僕こう見えても男だからさ」
「「……わーーーーーーーっ!!」」
 朝斗のカミングアウトの直後、陽菜都と朝斗が同時に叫ぶなり、陽菜都の手から繰り出された拳を朝斗がギリギリで躱し、距離を取った。
「ごめんなさいっ!!」
「いや、僕こそ驚かせてごめん。ここから近づかないから安心して」
「にゃーにゃっにゃー(朝斗自爆ー)」
「男性が苦手というのは分かるけど、そもそもどうして殴る様になっちゃったのかそこが知りたいわね。もしかしたら男性恐怖症を直す切欠になるかもしれないから」
「そうなんですよね。でもどうしてもコレっていうのが思いつかなくて」
「まあでも、本気で殴っていい時があるわよ。不埒な目で見てくる輩とかね。思いっきり殴り倒しちゃってOKだから」
 それだけ言うと、アイビスは色んな意味でうなだれている朝斗を励ましながら人ごみの中に消えていった。