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リアクション
第7章 赤と黒 Story1
「だいぶ騒がしくなってきたみたいやね。まっ、こっちとしてはやりやすいんやけどな」
七枷 陣(ななかせ・じん)は宝石を持たない者の目になろうと先頭を進む。
「ボクたちにはまだ、気づいていないようだね」
簡易の休憩場やら物置などに隠れながら、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は周囲の警戒役を担う。
「ワタシは、目的に的を絞ればいいのかな?」
「そうやね、弥十郎さん。保護対象の周りに密集しているか、ディアボロスと取り巻き連中が囲った感じとかやろ」
「おっけー♪」
「あ…サンクチュアリ、使えそうかな?」
せめてボコールの進入から守れれば、などと思った五月葉 終夏(さつきば・おりが)が言う。
「強化前のエアロソウルがないと使えないね」
「そっかー…。うーん、仕方ないね」
顔にかけたゴーグルをいじろうとするスーの手を除け、残念そうな顔をする。
「エコーズリングがあれば、1人でも発動は可能だよ。能力が劣化したりするけどね」
「へぇ〜……」
「話はそこまでや。探知に集中してくれ」
「ごめ〜ん。ぅーん…どこにいるのかなぁ〜♪」
のほほんとした口調で言いつつも、大地の宝石に意識を集中させる。
「無駄に大きな冷蔵庫とかある反対側あたりかな…」
「まさか、あの中に全部プリンが入っているとかかのぅ?」
「どうでもええ、んな情報…いらん。リーズ、よだれたらすなってーの」
祓魔師の仕事を忘れかけ、冷蔵庫をガン見する彼女のもみ上げを引っ張る。
陣は先に進み、安全を確認してから仲間を手招きして呼ぶ。
「―…あれか?」
柱に括りつけられた紐で、ぎちぎちに縛られている少女のように見える者を物陰から見上げる。
10歳かそこらの年に見える子供が、手足をばたつかせてもがいている。
「心臓を奪ってベースに捧げるって話だったな」
「ねぇ、ベースってあれなの?」
リーズは陣の袖を引っ張り、黒い髪をした子供が横たわる祭壇を指差す。
なぜか、縛られている子供と同じような年、外見をしていた。
「ひょっとして2人で1人?それとも、まったく別なのかな」
同じ姿の子供を目にして、疑問に思った終夏は首を捻る。
「目で見たものが真実であってそうでない、…とカエルさんが言っていましたね。あ、どうも。和輝さんに言われてこっちにきました。また、劣り役のほうへ戻るかもしれませんが…」
結和はぺこりと頭を下げて挨拶をし、きっと同一であってそうでないのでしょう…と言う。
「だから動けないほうに、心臓がいるってことなんだね?」
「えぇ、おそらく…」
「動けないほうは、動けないまま…ってことになるのかな」
「さぁ、そこまでは…。ただ、今回はディアボロスもいることですし、それを回避するために赤い子供の救出が、最優先されたのだと思います」
「的を絞って確実に、保護するためでもありそうだね」
ただでさえ何するか分からない連中だ。
救出が遅れれば遅れるほど、子供の生命が危うくなるのだと理解する。
「(あいつ、なんか言っとるぞ)」
陣は口元に人差し指を当てて、静かにするんや!と仕草をする。
祭壇の前でディアボロスが、何やら嬉々とした笑みを浮かべて話し始めた。
「ようやく復活するんだねぇ。災厄の魔性がさ〜♪」
「プリンねーさん、それが例の?」
「あぁ、そうさ。鏡を使う幻魔さ、こいつは〜」
「鏡…」
災厄の再臨を待ち望んでいるのか、ボコールたちは喜びに口を歪ませた。
「ベースであるこいつに、心臓を与えれば好きなだけ暴れるだろうねぇ〜。まっ、世界中のプリンさせ冷やせれば、あとのことはどうでもいいんだけど」
「どのような能力があるので?」
「そいつぁ、動いてからのお楽しみだ。黒のテスカトリポカのほうはなぁ、破壊だとかでしか喜びを見つけられないやつなんだよ」
愛おしそうに黒のテスカトリポカの髪を撫でて楽しげに笑う。
「赤い髪のほうが、対となる存在なのか?」
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は縛られているほうと横たわっている子供を見比べる。
赤い髪の子供は未覚醒、黒い髪のほうは魔性として存在しているようだが、どう見ても動けないままだ。
「お父様、2人は風の宝石がなくとも見えますね」
「不可視化してなさそうだから、宝石使いでなくても確保は可能だろうけど。そこまでいくのが困難だな」
「まだ話していますわ。続きを聞きましょう」
小声で話してはいたが、気づかれてしまうだろうと感じて口を閉ざした。
「赤いほうが、こいつの心臓がほしいといった時が厄介か」
「まさか、まだ半分人間のようなやつでは?」
「そーなんだけど。覚醒するには、こいつも必要になるってこったね」
本能の支配されたら、黒のテスカトリポカの心臓を求めるだろうと言う。
「ただなぁ。こいつが覚醒しても、おもろくないんだよなー。破壊とか好むタイプじゃないからさぁ〜」
まだ抵抗を続ける子供をつまらなそうに見上げる。
「おっと日が天辺まできたかねぇ。さぁーて、じゃあさっさといただくかな」
ボコールたちを顎で使い、心臓を取れと指示する。
心臓のある部分へ手にかけようとした瞬間、突然紐が千切れ生贄の身体が落ちる。
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の放った我は射す光の閃刃によって千切られたのだった。
落ちてくる子供の身体を、ロラに宝石で加速をかけてもらった小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がキャッチする。
「こんの、祓魔師風情が。覚悟はできてんだろうなっ」
「ないわよ、そんなもの。この子は渡さないんだから!」
渡すものかとぎゅっと抱きしめる。
「ロラ、神籬だけお願い」
加速もかけたままなのだから、精神力が尽きてしまわないように守りの境界線のみを敷くように言う。
「ぁ、あの…涼介さん」
「言わなくても分かっているよ」
魔道具から白魔術の気を引き出し、白の障壁で美羽を囲む。
「あ〜、そんなとこにいたのかー。いいところだったのに、邪魔するなんてムカツクなぁ♪」
笑いながら言いいつも、最高に腹立たしいのだろう。
ディアボロスは涼介たちに、殺意にも似た敵意を向けた。
「スーちゃん、香りをお願い!!」
かなり不機嫌な相手は、すぐに呪いを使ってくるだろうと想定し、甘く涼やかな香りを撒かせる。
スーはパラソルを広げてふわふわと宙を舞い、白い花びらを撒き続ける。
「ちょーっと遅かったなぁー。生贄を奪った小娘が、そのうち眠ってしまうというのに♪ずーっと、ず〜っとね」
「何を…。睡眠の魔法なんて使ってないじゃないの」
「美羽さん、呪いの宣告です…!早く、その子を連れて、皆さんのところへっ」
「えっ!?うん、…ぁっ。眠くないのに、…急に眠気が……」
子供を抱えたまま膝をつき、眠気に負けるものかと強く抱きしめる。
「へへ、返してもらうぞ。さっさと離しな、小娘がっ」
美羽の手から引ったくり、小柄な身体を蹴り飛ばす。
「やだ……返して、…殺さないで」
必死に手を伸ばすが、ボコールまでは届かなかった。
「どうしよう、陣くん。心臓取られちゃうよっ」
「黙っとけリーズ」
「ふむ、小僧なりに考えがあるようだな」
さらに仲間が犠牲になっているところを見れば、真っ先に駆けつけて敵を殴りいきそうだと思ったが…。
仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)は静かに陣の言葉を待つ。
ここでしくじれば、囮をしている歌菜たちに申し訳ないどころでは済まされない。
陣は怒りを堪えて救出の隙を伺う。
「おい、そこのやろう。魔術の壁を使うんじゃねぇ。じゃねーと、この小娘を痛めつけるぞ?」
ボコールは美羽のツインテールを掴み、彼女の顔にロッドを向けてにやつく。
「お父様、いけませんわ!」
「―…くっ、人命に変えられない」
「そんな、お父様っ」
ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は白の障壁を止めてしまった彼に声を上げた。
「ミリィ…私が詠唱中、回復魔法を頼む」
「ぁ……はい!」
何のための頼みかすぐに理解し、敵の魔法攻撃に合わせて唱える。
「全てを癒す光よ…」
エレメンタルケイジに触れた涼介は詠唱に集中を始めた。
風の刃で切られようが、ミリィのグレーターヒールでひたすら耐えた。
「傷付き苦しむものに再び立つ活力を…!」
祈りの言葉を美羽へ届け、宣告の呪いを解除しようと試みる。
彼らは離れている相手に届くものかと、ケラケラ笑いながら眺めていが、その笑顔も続かなかった。
美羽が目を覚ましたのだ。
「なんでそんなところから解呪がっ」
「教える義務はないな」
会話でボコールの気を引き付けながら、仲間を救出してほしいと斉民に一瞬目を向ける。
炎の翼の飛行にエターナルソウルの効力を加え、美羽を抱えて離れる。
「助けるの遅くなってごめんね。確実に助けられる隙をみなきゃだから」
「ううん、私のことはいい。あの子を助けてあげて!心臓を取られちゃうわ」
「そうしてあげたいけど、あれをなんとかしなきゃね…」
ディアボロスが見張っているせいで、斉民も迂闊に手を出せないとかぶりを振る。
「(聞こえているか…、斉民)」
「(ぇ、あ…テレパシーね)」
「(やっと返答がきたか)」
誰に送っても返事がなく、ようやく斉民から言葉が返ってきた。
「(ちょっと、救出に手間取ってね。それで返事返せなかったのかも。ねぇ、こっちに誰か来れない?)」
「(了解。エンドロア辺りに声をかける)」
簡単にそれだけ言うと、今度はグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)にテレパシーを繋げた。
「(こちら和輝。赤い髪の子供の救出へ向かえるか?)」
「(あぁ、いつでもいける)」
強制憑依させられた魔性を、器から離脱させていたグラキエスが即答で返す。
「(場所はメールで送る。後、ディアボロスの注意を引き着けてもらうのがメインになる)」
「(分かった…)」
「主、どうなさいました?」
「応援要請がきた、救出が困難らしい。ディアボロスと赤い子供を引き離すことが、主行動だとなると思う」
救出するほうをメインに考えていたが、それも止むを得ない状況のようだ。
グラキエスは仲間に救出状況を説明し、祭壇場へ駆けていった。
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