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リアクション
第8章 赤と黒 Story2
祭壇場に辿り着くと、ボコールに囲まれている赤い髪の子供、会議通りの女の姿をした魔性が視界に入った。
「どうしてこんなことに…」
明らかに不利な状況にしか見えず、眉間に皺を寄せる。
「グラキエス様。一見、劣勢のようですが…。逆転の手はありますよ」
物陰に隠れている陣たちに、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が目を向ける。
「そうか…辛いな」
黙って見ていなければならない彼らに気づき息をつく。
仲間を守りたいのに、手助けせずに機会を伺う。
それも状況によりけりなのだろうが、この場合は仕方ないのだろう。
「俺とフレイで時間を稼ぐ。呪いの耐性は、終夏のスーがやってくれているようだ。グラキエスたちはすぐ詠唱を始めてくれ」
今にも心臓を抜き取られそうな少女を前に、一刻の猶予もないと判断したベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が言う。
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)を抱えて、不可視化したボコールのポイントを知らせる。
彼の視線に合わせて裁きの章で魔法防御を下げたフレンディスは、すぐさま哀切の章を唱える。
「わ、私も、支援します」
結和は贖罪の章を唱えてフレンディスの祓魔術の距離を広げる。
「(協力、感謝いたします!)」
小さく頭を下げ、支援を受けた祓魔術でボコールの魔法を行使する能力を削ぐ。
取り込まれたエアリエルの強化を解除し、離脱させようとグラキエスはアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)のハンドベルに、大地と風の魔力を送る。
アウレウスはカラランと鳴らし続け、エルデネストの浄化の能力をもらう。
太壱と章が唱えた哀切の章の術を受け、エキノが咲かせた花びらを吸収する。
ハンドベルから暖かな光の風が、ウィオラの歌声に乗って祭壇側へ広がる。
大気の魔性の狂気を、透き通った歌声が沈める。
「ボコールからエアリエルが離れたみたい」
魔性を失った者が可視化した。
狂気から開放されたエアリエルの気配は、器から離れていくのをセシリアが確認する。
歌声が止まるとディアボロスは、“あの地球人と、魔鎧を倒せ”とボコールに命じる。
ヴェルディーとセシリアは、クローリスを扱う召喚者をアンバー色の光り壁で囲む。
石化の魔法から守ろうと懸命に祈り続ける。
「アウレウス、保護されるまでウィオラを歌わせよう」
「はい、主!」
赤い髪の子供の保護を確認するまで、風の歌声の術を続けようとハンドベルを鳴らす。
「(今回は解呪よりも、術のサポートがよさそうですね)」
グラキエスが望むならばとエルデネストも、ホーリーソウルの浄化の力をハンドベルへ送る。
「結構もっていかれるな…」
「タイチのお母さん、食べてください!」
ボコールたちの対処に続き、救助のサポートに駆けつけたのだから精神力が尽きてきそうかと感じ、樹へ苺ドロップを投げる。
「―…はぐっ!」
セシリアに投げよこされた苺ドロップを口でキャッチする。
“樹ちゃん、それだとまるで犬…。”と言いかけたが、後の仕置きを考えると恐ろしく、章は口を閉ざした。
「マスター、ボコールの数は?」
「フレイから見えないやつもいるが、何かはもう元ヒトに戻っているはずだ」
目で見えるやつは魔性を失った黒フードのやつだと教える。
「補助スキル剥がしの術が厄介だ、封じろ」
「はい、マスター」
フレンディスは神の審判で黒魔術を封じようとする。
だが、こちらを見上げている相手の表情は変わらず、効果があったのか分からない。
「ひっぺがしてやるよー♪」
ケラケラ笑いベルクのイナンナの加護を強制解除してしまう。
「なっ!?かかってないのか」
「このスキルは一定の確率ですから…。は…マスター、見てください。例の赤い髪の子供が!!」
「もうリミットかよ」
心臓を掴み出されているのか。
手足をばたつかせて悲鳴を上げている。
「早く救助しなくては」
「あぁ…。ん、何だありゃ。こんな時間に月がっ」
突然、黒い月が浮かび上がり、驚いたベルクが目を丸くする。
「きっとあれも黒魔術に違いありません!」
月にしてはやけに高度が低く、地上から50m程度離れている程度だ。
会議で説明されたディアボロスの魔術なのだと分かった。
黒い月は不気味に輝き、ベルクたちのほうまで広がる。
「マスター…苦しい……です」
フレンディスは呻くように言い、苦悶の表情を浮かべる。
「あれじゃ、近づけねぇぞ…っ」
風の歌声のおかげで、怒りの感情に支配されて狂化に落ちることはなかったが、闇系のダメージを受けてしまう。
「これ以上は危険だ。美羽さん、一瞬でもよいから気を逸らせてくれ」
「やってみる、涼介。ベアトリーチェ、哀切の章を使うよ」
「分かりました、美羽さん」
玩具を見つけた顔をして、ベルクたちを見上げてるディアボロス目掛けて光りの嵐を放つ。
「遊んでいるのに、邪魔しないでくれる?」
祓魔術を行使する2人を睨み、黒魔術をかけてアンデット化させてしまう。
「その状態で、月の攻撃くらったらどうなるかなー♪」
「やりたければ、やればいいじゃない」
臆することも戦意も失わず、ディアボロスから目を離さず見据える。
「じゃー、そーするよ」
にやりと笑い黒い月を輝かせて、魔術の力で潰しにかかる。
涼介の白魔術で緩和しているものの、回復魔法をかけられない彼女たちにとっては苦しい状況だ。
だが、虚構の魔性の注意が、僅かに逸れたのを見逃さない者がいた。
赤い髪の子供救出のため、物陰から静かに迫る。
ヴァルキリーの飛行能力に、エターナルソウルの力を乗せた少女がボコールに接近する。
悲鳴を上げる子供へ手を伸ばし、ヒトをやめた者の手から奪い取る。
彼らがそれに気づかないはずもなく、少女を墜落させようと石化の魔法を放つ。
ヘドロの塊りのようなものがアンバー色の壁に張り付き、彼女に届く前に消滅してしまう。
黒フードたちが生贄を奪われたと声を上げようとするが、祓魔術の力で阻止された。
「2人共、ナイスフォロー♪」
「たまっていたストが、スカッと飛んでいった気がするのぅ♪」
スペルブックを抱えたジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)が満面の笑顔を見せた。
「救出が最優先だからな。後は彼らに任せるとしよう」
「あ、その、わ…私はそろそろ歌菜さんたちが気になるので…」
「うむ。サンクスなのじゃ」
アイデア術の効果も切れてしまうだろうと思い、ジュディは戻っていく結和とロラを見送った。
「おげ、もう追いかけてきてるみたいや」
風で取れたフードの向こうは笑顔だったが、腹の底ではぐちゃぐちゃにしてやりたいと怒っているのだろう。
ディアボロスが神籬の結界を踏み越え、神速のスピードで追いかけてくる。
「どこまでも追いかけてきそうだわ」
「取り戻されたら、今度こそ心臓取られちゃうよ!」
振り帰らずとも、アークソウルの探知で迫ってくる感覚が弥十郎へ伝わってくる。
「―……っ、何…雨?」
雨雲がなかった空から、突然雨が降り出したことに何事かと思い、ディアボロスは空を見上げた。
「間に合ったようですわ」
口元に手を当てて微笑み、二丁拳銃モードのリトルフロイラインに虚構の魔性を撃たせる。
「ふふーん全然だもんね」
「あら、そうですか?」
中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)とてまともに相手をするつもりはなく、彼らを逃がすための時間稼ぎにすぎない。
「さっきのって、陣さんたちのアイデア術だよね」
「えぇ。エコーズリングを使ったようです」
「てことは、ルカルカさんもいるのかな。やっぱりだね♪」
後ろを振り返ると見慣れた金髪の女の子を目にした。
先発者の後から侵入したらしく、ゴッドスピードでここまで駆けてきたようだ。
「せっかく歌ちゃんたちが囮やってくれるからね。数が減ってからのほうがいいかなーって」
いちいち足止めくらうより、後から進入して余力を残しておこうという判断だった。
「しっかし、呪いの耐性はどうすっかなぁ…」
「フフッ♪その辺はぬかりないわよ」
終夏の姿を見つけて脱出に協力してもらおうと頼んだようだ。
「呪いにかかると面倒やからね、いてくれるとありがたい!」
ホーリーソウルは念のため持っているが、脱出中にかかるのはごめんだ。
スーの香りを浴びて呪術の耐性をもらう。
「いつもより能力をたくさん引き出してるから、耐久は厳しいかな…」
「その相手にアレを引き離さなきゃやね」
状態異常はマジ簡便やな…と黒い月を見上げる。
「強制憑依させられた魔性は、こっちに入ってこようとしはしないみたいだけど。問題はふりきれるかよね」
ゴーグルの向こうに見える魔性を睨み、どうやってまいてやろうかとルカルカ・ルー(るかるか・るー)が考える。
「くっ、さすがに祓魔銃だけではびくともせんか」
「心のよりどころを先に、消してあげようか」
ディアボロスは順にディスペルをかけ、補助通常スキルを砕く。
「また強制解除か」
走るスピードさえも元に戻ってしまい、魔性の接近を許してしまう。
「七枷殿たちは先に行くのだ。遠慮はいらぬ、さぁ!」
「すげーカッコイイ感じだけどな。もういねーぞ、淵」
夏侯 淵(かこう・えん)の肩を、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)がつっつく。
「ううむ、想定外なこともあるのだ」
予定とは違うが、それも致し方なかろうと素直に納得した。
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