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赤と青の鼓動、起動するは人型古代兵器

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赤と青の鼓動、起動するは人型古代兵器

リアクション



走るは剣帝、人馬一体


〜遺跡内部〜

 突入班の先鋒を務める清泉 北都(いずみ・ほくと)はガルディアと戦闘中のアーヴェントを発見し、接近しようとするが防衛機構の攻撃が激しく上手く近づけずにいた。
 壁や天井に出現した小型砲台は絶え間なくビームの雨を降らせている。それを躱し接近しようとしても、地上にいるクリミナが行く手を阻みアーヴェントに接近することができない。
「……くっ! これじゃ近づけないっ」
「そうですね、このままでは此方が持ちません。高機動とはいえこの攻撃の雨の中、無傷とはいきませんし」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)はモニターに映し出されているルドュテの損害状況を見ながら北都にそう言った。
 二人の目の前でアーヴェントがガルディアに押し込まれている。ガルディアの砲撃を回避し、接近しようとするアーヴェントであったが接近するたびに一撃を受け吹き飛ばされてしまう。
 このままでは負けてしまう事は誰が見ても明らかであった。
 静かな女性の声がクリーゼに告げる。
「当機の損傷率が上がっています……機体を捨てて逃亡することを推奨」
 クリーゼが肩で息をしながら返答する。その手には汗が滲んでいた。
「私が逃げたらどうなるんですか……あなたは?」
「ガルディアに接近し自爆。対象を破壊します」
 操縦桿を必死に操作しガルディアの攻撃を避けながらクリーゼが言う。
「ならなおさら降りることはできませんね。ここまで一緒に来たあなたを見捨てることはできません」
「私は機械です。人間ではありません。ただのAI、です。その行動を取る理由はなぜですか?」
 攻撃を受け、揺れる衝撃に耐えながらクリーゼは少し笑う。
「当たり前ですよ、あなたは戦闘に不慣れな私を補佐してここまで連れてきてくれました。大事な相棒の、エリィです」
「……相棒……エリィ……?」
 穏やかな笑顔を見せるクリーゼ。
「そうです。モニターに表示される名称では呼びにくいのでね。勝手につけさせて頂きました」
「…………理解不能です」
 ガルディアに押され続けるアーヴェントに対して、何かできないかと考えていた北斗が接近する機影に気づく。
「でもこのままじゃ……ん? 後方から急速に接近する機体……あれは」
「待たせたな! この場を切り抜けるのは我らに任せ、そちらはアーヴェントの救出を頼む!」
 その言葉を了承し、北都達はアーヴェント救出のタイミングを狙う。
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が駆る黒麒麟の背に紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の操る魂剛が跨り颯爽と現れた。
 その姿は騎馬武者。まさに人馬一体。剣帝が愛馬と共に戦場を駆け抜ける。
「ったく、救援を求めたなら大人しくしてるのが研究者って奴だろうに……」
 朝霧は前を見据えて言う。
「だが、その攻勢に出る心意気……気に入ったぁっ! 」
 黒麒麟を走らせながら朝霧は言葉を続ける。
「いいか、唯斗! 近づくまでは俺達の仕事だ、安心して背中に乗っていろよ、ライゼ! エナジーバーストで突撃後に嵐の儀式発動!」
 ライゼがその言葉に合わせて的確に端末を操作する。次々と文字が浮かんでは消え、設定完了を彼女に知らせた。
「エナジーバースト展開っ。片っ端からふっ飛ばしちゃうよー! いっけぇーー!」
 白い光が黒麒麟に収束し、そのままバリア上に周囲へと展開。白い軌跡を描きながら黒麒麟の速度は早く早く上がっていく。
 小型砲台のビームが黒麒麟を狙うが、到達する前に展開されたバリアによってかき消されていった。
「エナジーバースト展開終了まで、あと240秒だよ!」
「十分だ! 嵐の儀式発動! 一気に駆け抜けるぞ!」
 黒麒麟を中心に暴風ともいえる風が発生、小型砲台の動きを阻害する。
 馬上の魂剛が神武刀・布都御霊を抜き放つ。大型の太刀であるそれを天井に向かって掲げた。大太刀を水平に倒すと、両手で柄を握り円状に回転させる。
「今ならできるぞ! 我らの合わせ技が! 垂っ、足は任せたぁー!」
「おうっ!!」
「でえぇぇやぁぁぁぁぁぁーーっ!!」
 魂剛が円状に振り回す神武刀・布都御霊が嵐の儀式で発生した暴風を集め、彼らは一つの大きな竜巻となる。
 全てを破壊するように進む竜巻は小型砲台を吹き飛ばし、クリミナを薙ぎ倒して進む。進む。
 エクスが言う。
「これよりは我等の戦場である!  世界の剣、闇祓う者、明日への希望。 知れ、汝が相手が何であるかを!」
 巨大な竜巻はガルディアとアーヴェントの間に割って入り、ガルディアを空高く巻き上げる。天井近くまで上がったガルディアに狙いを定め、地を蹴って黒麒麟が跳んだ。
 神武刀・布都御霊を下手に構え、その形態を変化させる。見る間に大太刀は超大型の特大剣へとその姿を変貌させた。
「うおぉぉぉぉぉーーッ!!」
「うおぉぉぉぉぉーーッ!!」
 唯斗と垂、二人の咆哮が合わさり、人機一体となったその刃はガルディアを襲う。
 ガルディアに刃が触れ、その身を火花と共に斬り裂いた。
 地面に着地し、嵐が止んだ。
「我は剣。 唯、断つモノ。則ち、剣の理。 我等は全てを断つモノなり!」
 右半身を失ったガルディアは火花を散らしながら自身にマウントされたすべての武装をパージする。
 ブースターを吹かせ、遺跡の奥へと高速で去って行く。その速度は唯斗達でもすぐには追いつけない速度であった。
「我らは奴を追う! 北斗、アーヴェントとクリーゼは任せたぞ!」
 魂剛を乗せた黒麒麟がガルディアを追い遺跡の奥へと消えていく。

 北斗は静かになったその場所を進み、地に倒れているアーヴェントを助け起こす。
「クリーゼさん、大丈夫ですか?」
「ええ……なんとか。救援要請を聞いて来て下さった方のようですね。ありがとうございます。来ていただかなければどうなっていた事か……」
 クリーゼに北斗は尋ねてみることにした。なぜガルディアをあそこまで止めようと思ったのかと。
「救援要請を出したなら、なぜ待てなかったんですか?」
「それは……」
「研究であるあなたは戦闘には不慣れです。待ってから救援要請で来てくれた者に任せる方が最善ですよね」
 北斗の問いかけに黙るクリーゼにクナイがさらに問いかけると、やっとクリーゼは話し始めた。
「実はこのアーヴェントにはコピーエリーと表示の出るAIが搭載されています。呼びにくいですし、私はエリィと呼んでいますが」
 静かな女性の声が聞こえる。
「そうですね。私の正式名称はコピーエリーです。ですが、呼びにくいという事なので、エリィと呼んでくださって結構です」
 北斗に変わってクナイがエリィに尋ねるとエリィは淡々とした口調で答えた。
「私には最優先目標が設定されています。一つはガルディアの破壊。もう一つは遺跡最奥部への到達です」
「ガルディアの破壊は、わかるとしても遺跡の最奥部に到達? 最奥部には何が?」
「それはデータが存在しない為、わかりません」
「データが存在しない?」
「そうです。私には最奥部のデータが一切ありません。」
 クナイはそれを聞いて顎の下に手を当て、考える。
「となると……やはり行ってみるしかないようですね」
 北斗とクナイはアーヴェントを連れ、最奥部に向かう事にした。
 幸いアーヴェントの損傷は外部装甲をいくつか削り取られただけで、稼働に支障はない程度でありクリーゼに至っては軽い打ち身程度で済んでいる。
 これもエリィによる操縦補佐機能のおかげのようだ。
「前衛は僕達が努めます。クリーゼさん達は少し離れて付いて来てください」
 北斗の申し出をありがたく受け、クリーゼは感謝する。
「ありがとうございます。エリィに補佐されているとはいえ、戦闘は不慣れなものですから」
「救援要請を受けてここに来たんです。あなたは僕達が必ず守ります。だから安心していてください」
「はい」
 ルドュテの後ろを少し離れてアーヴェントが付いていく。二機は遺跡の奥へと進んでいった。

〜遺跡内部・大広間〜

 ガルディアを追って来た突入班は大きな広間へと到達する。
 そこは円状の広間で天井は高く、等間隔で柱が並んでいる。奥へと続く通路の入り口にイコンが立ちはだかっていた。
 神剣勇者エクス・カリバーンは腰に手を当て仁王立ちの状態で突入班を睨む。
「フハハハハハッ! ようこそ契約者諸君! ここから先は我ら悪の秘密結社オリュンポスが接収した! 進むのは諦めて大人しく引きさが――おおぉぉっ!?」
 神剣勇者エクス・カリバーンをビームの乱射が襲った。咄嗟に聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)が回避行動を取り、難を逃れる。が、急な回避による加速で機体は揺られ、コクピット内でドクター・ハデス(どくたー・はです)は後頭部を強打する。鈍い音が響いた。
 頭をさすりながらハデスは前面モニターにむかって叫ぶ。
「おいッ! 口上の途中で攻撃するヤツがどこにいるというのだッッ! こういうものは、ちゃんと最後まで聞いてだな――ぐぁっ!?」
「くそ、また攻撃してきたかッ! だが……そうそう何度もやられるものか!」
 背面のブースターを吹かし、エクス・カリバーンはその身を屈ませて低姿勢で突進する。
 急加速により距離は一気に詰り、ビームアサルトライフルを構えたアイオーンへと肉薄。右腕を振り抜いてその腹部を狙った。
 回避できないと判断したのか、ビームアサルトラフルを盾にアイオーンはその一撃を防ぐ。重いハンマーのような衝撃が機体全体を震わせた。ビームアサルトライフルが半分からぐにゃりと曲がって使い物にならなくなる。
「っ! 予測よりも機動性があるようですね……。ですがっ!」
 当初の予定では、距離を取りながら射撃兵装でダメージを与え近接兵装で止めというものであったが、接近されてしまった以上、そのプランはもう使えない。
 しかしシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は額から汗を一筋流れさせながらも慌てず冷静に対処する。
 アイオーンは空いてる方の手で新式ビームサーベルを抜くと、すくい上げるように下方からエクス・カリバーンを斬り上げた。
 身を引き、直撃を避けたものの完全に不意を突かれたその攻撃にエクス・カリバーンは胸部を大きく斬り裂かれてしまう。
 距離を取ったエクス・カリバーンは胸部から火花を散らせながら両腕を大きく広げた。
「このままではこちらが不利だ。足止めするつもりが、目の前のこいつら以外突破を許してしまうとは!
 止むを得ん……カリバーンよ、神剣形態への変形を許可する! 一気に敵を殲滅せよ!」
「システム同調開始! シンクロ率120%! いくぞ、必殺、カリバーン・ストラッシュッ!!」
 エクス・カリバーンはエメラルド色の光に包まれ、そのままアイオーンに向かって突進する。
 光の中でエクス・カリバーンはその身を一振りの巨大な剣へと変えた。鋭いその刃がアイオーンへと迫る。
 それを紙一重で躱し、すれ違い様に数撃打ち込むが目立った効果はない。
「もうーしぶといよぉっ! このひと! さっきの一撃だって軽くないはずなのにぃっ!」
 外部の情報が表示されるモニターを眺めながらミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が機体の衝撃に体を揺らしながら叫ぶ。
 彼女の手元には外部の情報が事細かに表示されていた。外気温から付近の構造物の材質、強度、敵の行動範囲予測まで。
 先刻の胸部への一撃、あれで完全にこちらが有利に運べるはずであった……しかし現状は効果的なダメージを胸部への一撃以外与えられていない。
 新式ビームサーベルの強度も半分を下回っており、このまま打ち合えばいずれ破壊されてしまうだろう。
 シフが装着している魔鎧四瑞 霊亀(しずい・れいき)。彼女がシフに話し掛けた。
「相手の周囲に展開されているのはエナジーバーストによるバリアかしら。小さいダメージでいくら突破しようとしても無駄のようね」
「なら、やる事は一つです。大火力による一点集中。一撃で決めます」
「そうね、それが一番効果的だわ。装甲の脆い所……破損した胸部を狙って」
 ミネシアがその言葉を聞いて情報を収集。周囲の情報からビームの収束率、減衰、起動の誤差などを瞬時に解析していく。
 それをシフのモニターへ送り、狙うべきポイント発射角度、充填率等を表示させた。
 シフの前に狙撃用の照準器がせりだす。それを除くとこちらに真っ直ぐに向かってくるエクス・カリバーンの姿が見えた。
 アイオーンはバスターライフルを構え、それをエクスカリバーンに向かって発射する。一筋の光が真っ直ぐに伸び、命中。
 黒煙を吹き、爆発しながら出口へと飛んでいくエクスカリバーン。お決まりのようなセリフが聞こえてくる。
「フハハハハハハッ! なかなかやるではないか! 今日の所はここまでにしておいてやろうっ! だが、次に勝利を掴むのは我々だという事を忘れるな! フゥハハハハハーーッ!」
 それを聞きながら霊亀はぽつりと一言。
「……ああいうタイプの敵って、すっと勝てないのよね」
「それ言ったらかわいそうだよー」
「あら、でも事実よね。負け続けで修理費とかいったいどうしてるのか気になる所だわ」
「うーん、スポンサーでもいるのかな……芸能人みたいに」
「……無くはないわねー」

 あることないこといいながら彼女らは先に進んだ突入班の後を追った。