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第3次スーパーマスターNPC大戦!

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第3次スーパーマスターNPC大戦!

リアクション

「この変態戦士ども、これでもかってくらい蹴り入れて泣かせてやらなきゃ気が済まないわ!」
 勇ましく吼える――しかしそれでも尚美しい桜月 舞香(さくらづき・まいか)を、桜月 綾乃(さくらづき・あやの)は実況席近くで応援していた。
「まいちゃんと一緒に遊びに来てたら、こんな大変なことに……。
 豊美ちゃん、ショックな気持ちは私も良く分かるよ。相手はその……ちょっと直接見ちゃダメって感じだよね」
「はいー、あれはその、何と言うんでしょう……」
「うん、今の豊美ちゃんの気持ちもよく分かるっ」
 うんうん、と頷き合う綾乃と豊美ちゃん。清純な少女にとって、ロミスカの戦士たちの格好は直視に耐えず、また言葉にするのも躊躇われる。彼女達の近くでは、ベルクに伴われたフレンディスが、何故かサングラスをしながら視線を床へと落としている。
 あそこ迄照れる程では無いし、大切な人たちが戦場で闘っているのだから見守りたい、だがだからと言って目を見開く事は、二人には出来そうになかった。
「ここはまいちゃん達に頑張ってもらうしかないよね。
 私のお気に入りのぱんつで、まいちゃんが頑張ってくれるなら、私も応援する!
 ……で、でも、できればあんまりおおっぴらにして欲しくないんだけど……」
 心配する綾乃の言葉を耳にして、豊美ちゃんは今更ながら恥ずかしくなってくる。そう、アレクがぱんつを被れば、自分が普段どんなぱんつを被っているかが明らかになってしまうのだ。
(恥ずかしくなんてないです。アレクさんに必要だから渡したのであって、恥ずかしいことなんて何も無いんですー!)
 そう言い聞かせる事で恥ずかしさを無理やり押し込めて、豊美ちゃんは戦いを見守る。その隣で綾乃が両腕を天高く突き上げた。
頑張ってまいちゃん! 早く帰るために!
 綾乃のエールは祝福となり、舞香の身体へと降り注ぐ。それは彼女の中で迸るような高揚感へと変わってゆく。
 ――闘える。と舞香は思う。そして両の眼を見開いた。
「このトリニティ・スキャンティは鉄子な綾乃のお気に入りなんだから、変態どもには指一本触れさせないわよ!
 ――ぱんつがパワーの源ってことは、敵の頭のパンツを奪い取れば力が落ちるってことよね」
 共に前線に立つアレクから「Da」の声を受け取って、舞香は叫んだ。
「蹴り倒して頭のパンツ剥ぎ取ってやるわ!!」
 舞香が繰り出すのは、裸拳――それは服を脱いで裸に近づけば近づくほど攻撃力が増す格闘術だ。綾乃とパラミアンに遊びにきていた舞香は、特殊な素材と高い技術によって生み出された、水の中に入っても沈まない、錆びない、動きやすい鎧――水着アーマーを着用してた。これこそ裸拳を使うには完璧な武装だろう。
 お遊びで着た筈なのにまさかこんな風に役に立つとは思わなかったが――。
「遊びで着たアーマーに、遊びに行ったパラミアン。それでこんな目に遭うとは思わなかったわ。こんな悪趣味な世界もこの変態どもも、全員叩きのめしてさっさと帰るわよ!」
 対峙するロミスカ戦士の腹部へ光速の七連撃を喰らわせる。が、相手は倒れない。
 筋力、身体の大きさ。それらが舞香を上回っている為に、体重の軽い彼女では蹴りが効かないのだ。
「ッなんて強いの!? まるで鋼ね……でも――」
 舞香は飛び上がり、太腿で戦士の首を挟み込んだ。ギリギリと万力のように、骨ごと粉砕するかのように締め上げてゆく。
「これならどうかしら!?」
「良かったな。最高の気分で死ねて――」
 低い声に気がつけば、舞香が捕らえた戦士の腹部から、鈍色の刃が生えていた。
「アレク!」
 敵が倒れる前にジャンプして降りかけた瞬間、アレクが彼女の白い足を掴んで思いきり持ち上げた。
 しかし舞香は戸惑う事なく中空を舞い上がり、一カ所を目掛けてかなりの高度から落ちて行く。
「はあッ!!」
 ハイヒールの踵を、ぱんつの中心に減り込ませる様にして敵を打ち破った。
「ふふっ、脳天唐竹割よ」
 笑う舞香に片眉を上げて、アレクは刀の血を払いながら口を開く。
「状況が悪い」
「ええ、ぱんつを頭に被った全裸男なんて、最悪の状況よね」
「否、それはそうなんだけどな……。
 どうもこのロミスカではぱんつが力の源になる、だけではないらしいんだ」
 舞香が首を傾げると、アレクは戦士の一人を指差す。それはレースで縁取られた気品あるデザインのオフホワイトのぱんつを被った戦士だ。
「例えば、あいつ。妙に強いだろ」
「そうね、でも筋力もリーチも無い上、体幹もぶれてる……。
 私も不思議だったのよ」
 肉体を行使するケンセイらしい分析に、アレクは頷く。舞香の言う通りであれば該当のロミスカ戦士は、『大した事が無い奴』の部類に入るのだ。そう――通常であれば。
「普通ならあんな奴お話にならない。だがロミスカでは違う。
 ぱんつを被る事でそいつの能力の向上させる効果が有る。――で、問題はそのぱんつが、唯ぱんつなら何でも良いって訳じゃねえって所なんだ」
「何よそれ、どういうこと?」
「デザインの良さや、ぱんつを使用していた人物の能力が反映される他、ぱんつを頭に被っている時間が長ければ長い程、ぱんつ戦士としての能力が上がる――って上でハデスが……」
 説明しながら顔を上げたアレクの上にはドクター・ハデス(どくたー・はです)が、観客席から身を乗り出していた。
「今さっきぱんつを被ったばかりのお前達では、ロミスカの戦士と比べぱんつ戦士としての実力の差は大きい、そういう事なのだ――!」

* * *

 専用通路と言ってもコロッセオの奥まった場所を駆け抜けているわけではなく、走りながら窓や通路の途切れという合間合間に下の戦況を見ることができた。
 契約者達は薄々気付き初めていた。下の様子が見える度、破名の注意がそちらに向いている事に。層が上がるのと比例してその頻度と長さが増えている事に。
 連れてこれないと預けてきた子供達が心配なのはわかるが、物事には優先度というものがある。戦闘経験の少なくない契約者達は注意散漫な破名に、いつ前を見て走ろと注意するか決めかねていた。
「三人居ます!」
 犬みみをピンと立てる真の声に契約者達は身構えた。先陣を切って、先手必勝と跳躍するルカルカに続くように石壁に張り付いた蔦を鷲掴んだエースはその手の中の植物にエバーグリーンの息吹を吹き込んだ。
「あー、もう、ぱんつの有る無しでここまで変わるぅ!」
「不死身かよこの変態ども!」
 攻撃を凌がれて背を晒してしまったルカルカのフォローにイアラが回った。石床を穿つ援護射撃にぱんつ戦士は「飛び道具とは卑怯な!」と怒りのボルテージを上げる。
「たく、厄介なことになったぜ」
「向こうはたったの三人。と考えるのは危険だろうな」
 奇襲に失敗し、メルトバスターの標準を直したイアラに蔦を操る手を翻したエースが唇を引き結ぶのだった。

* * *

 ぱんつと己のプライド――そして命を賭けた闘いは第二試合に突入している。
「出(いで)よ、我がロミスカが誇る
 マスターぱんつ戦士達よッッ!!!
 皇帝アッシュの声に応えて、闘技場へ現れたのは第一試合で対峙したものとは比べ物にならない程の男達。
 頭上のぱんつを産まれた瞬間にも身につけていたかが如く見事に被りこなす様は、隙というものが存在していないかのようだった。
「やっぱりダメか……」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はそう言って砂の上にがくりと膝をつき、土下座のようなポーズで固まっていた。
 これまでどんな強敵とも果敢に闘ってきたミニスカートの格闘家、美羽。
 だが相手がぱんつを被った全裸マントの男では……、乙女として敵を直視する事すら難しい。
 それでも何とか闘えないものかと懸命に挑んでみたものの、結果は惨敗だ。
 後列の、更に後列に控えるしかない。
(せめて、闘ってる仲間の変態仮……じゃなくてアレク達を応援しよう!)
「頑張ってー! へん……じゃなかったアレク! やっちゃえー!!」
「ありがとー美羽ー。あれきゅんがんばるー」
 美羽の微妙過ぎる応援の台詞に血塗れの笑顔で応える楽しい闘争に若干壊れ気味なアレクを見ながらコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は額の汗を拭っている。普段は戦士としてかなりの強さを誇る彼も、今回は美羽と共に戦線を離脱していた。
 コハクは男だ。
 別に履くべきものを履いていないからと言って、その敵を直視出来ない訳じゃない。
(でも……ぱんつを被るなんて無理だあああぁ)
 美羽と共に無惨に地面に堕ちながら、落ち込む美羽を励ます。
「美羽、気にしないで。僕も闘えない、今はアレクたちを応援するしかないよ」
 そんな事を言っては、ひとつひとつ自分の胸にグサリグサリとダメージを受けている真面目なコハクは、純情過ぎる自分を恨んでいた。
 そんなコハクは気づかない。多くの女性はぱんつを被るくらいなら、純情な方がいいと言うだろうし、ぱんつを被れない事は純情の証しでは無いのだという事に――。



「壮太、もういい。退け」
 分身の中から簡単に本体を見抜いて手を引いて、アレクが壮太をなぎこ達の居る後方へ連れて行く。第一試合から壮太はアレクの傍に控えて敵の撹乱をしていたのだが、アレクの目には闘う壮太に限界が見えたのだ。
「ここで待ってろ」
 頭をぽんぽんと叩いて、アレクは踵を返し前線へ戻る。
「援護もそろそろ限界みたい、幾らパワーを与えても、皆――」
 怪我を負った契約者を回復させながら、なぎこは言い淀むのだった。

「ふふふ、マスターぱんつ戦士達は歴戦の勇者。
 そしてその勇者達には誉れ高き栄光の宝物、乙女の約束が与えられる。
 彼等に勝てるか!?」
 皇帝アッシュは唇を歪ませる。
 栄光の宝物――『乙女の約束』とは、『デザインの良さ』、『持ち主の能力』等により素晴らしく戦士の能力を向上させるぱんつにのみ与えられる、特別な渾名なのだ。
「見よ!!」
 戦士の一人――肉体のあらゆる部分が割れ、黒光りした男が叫ぶ。
「我が愛ぱんつは、今回の遠征にて手に入れた最高のぱんつよ!
 貴様達のひよっこぱんつではこの鋼の肉体、そして我がぱんつには敵うまい!!」
 誇り高く叫ぶ戦士を唖然として見たアレクの腕が、くいくいと後ろへ引かれる。眉を下げた佐々良 縁(ささら・よすが)がアレクを見上げていた。
「縁ちゃん? 何?」
「あれきゅん……あのね……」
 泣きそうな声で、思わず抱きしめてあげたくなるような顔で、縁は言った。
「あれ、私のぱんつ…………!」


「あ、ありのまま起こったことを今話すよぅ、わたしは久々にお外のパラミアンのお風呂の湯上りでまったりしてたらおぱんちぬが盗られてた。
 何言ってんだこいつって思ってると思うけんど私も何をされたか以下略、ていうかマジでどうなってんの……」
 ロミスカに飛ばされた後、魂消えかけたような顔で縁は友人のカガチらにそう言った。
「佐々良さん、落ち着いて。
 取り敢えずその……ぱんつの……特徴を教えてくれる?」
 顔を赤くし、目を斜め下に反らして後ろ頭をかく真に、縁は固まる。
「え……」
「だって、ものが分からないと、見つけても返せないし……
 ホントごめん!!」
「……うん……そだね……盗られたパンツ……う……その……白のレースです」
 言わないと分からないから仕方が無い。渋々、モジモジ、さめざめと答えた縁は思った。
 なんで今日はよりにもよって、わりと奮発してる系の穿いてきたんだろうと。
 そして矢張り、アレクに速攻でつっつかれた。
「縁ちゃんのぱんつ……案外可愛いんだな」
「う……」
「普段あんなに――姉御っていうのか? っぽいのに白いぱんつとか――」
「うう……」
「照れんなよ、余計可愛い」
「ううう……」
「……ぷ、ぎゃはははっはははは」
 涙を流さんばかりの勢いで笑い転げるアレクに、縁の方も泣きそうだ。
「うわああああん!」
 やけっぱちで飛び込んで行こうとした首根っこを捕まえて、アレクは笑いを抑えながら彼女の前に立つ。
「ごめんごめん、確かに被害者の方は笑えないな。
 おい。行くぞ、カガチ」
「あ? 応」
 自分の――ぱんつの――為に強敵へと挑んで行く男達の背中に、縁の乙女心はきゅんと締め付けられるようだった。
「縁ちゃんのぱんつ返せ返してくださいほんと八つ当たりで〆られるかと思ったらしおらしい縁ちゃんとかかえっておっかないんでお願いしますまじ」
 抜刀し勢い切り込んで行ったカガチが敵にこんなことを言っているとは知らなかったので――。

 一太刀目は避けられた。
「随分飛ぶなぁ」
 横薙ぎを飛び上がり避けた戦士を見て、カガチはぼやく。『マスターぱんつ戦士』、その称号を皇帝から与えられるだけはある。
 着地する足で闘技場を囲む壁を蹴りこちらへ特攻する身体へ向かって、カガチは疾風の如く突きを繰り出す。
 刀と剣が搗ち合うと、火花が散った。
「やるな御主!」
 言いながらマスターぱんつ戦士が後ろへ引いた瞬間だった。
「がッ!?」
「バーカ」
 マスターぱんつの後ろ頭を、アレクが蹴ったのだ。
 敵は、二人同時に相手にしている事を忘れていたらしい。前につんのめるようにたたらを踏んでいるぱんつ戦士の額に向かって上段から素早く――反対側に持ち替えた刀で峰打ちすると、昏倒したぱんつ戦士から『乙女の約束』こと、縁のぱんつを取り戻したのであった。
「カガっちゃん! あれきゅん!」
 二人の元へ駆け寄ってきた縁は、白いぱんつへと手を伸ばす。
 が、その手がぱんつを掴む事は無かった。何故ならアレクが縁のぱんつを己の頭上高くへと持ち上げたからだ。
「俺もカガチも頑張った。縁ちゃん、ご褒美を下さい」
「……へ……?」
 ぽかんとした顔で見つめてくる縁を、アレクは見下ろしている。相変わらずの無表情だが、目元は妙に歪んでいた。
「無いの? じゃあ一回くらい嗅いだり舐めたりしても構わないよなあ?」
「ひいいいいやめてええええええええええええ!!!」

 そんな第二試合の途中、カガチと共闘していたアレクのスピードに頭上に居る事が耐えられず一度退いたポチ助は実況席に座るご主人の元へと走った。席まで行っては場外になってしまうから下からフレンディスを見上げていると、フレンディスは笑顔で出迎える。
「ポチ! よく頑張りましたね」
 しかしポチの助は尻尾すら振らずにいる。
 ご主人様は気づかなかった。いや、彼女以外の他の観戦者もまた気づいていないだろう僅かな違和感を、アレクの頭上にいたポチの助は感じていたのである。
 それはアレクの上にいて、一度も感じたことのない『ブレ』だった。先程の闘いで常に安定した体幹から頭上に物を載せたままでも戦えるアレクの体がブレていたのだ。
(あれは…もしかして…)
 押し黙り考え続けているポチの助を、アレクが呼ぶ声がする。駆け寄り抱き上げられた瞬間、ポチの助の犬耳は本当に小さな呟きを拾っていた。
「俺たち、ぱんつ被ったまま死ぬかもな」
「ッ!?」
 見上げた顔は、薄く笑っていた。

* * *

 一際大きくコロッセオが揺らいだ。観客たちの興奮ぶりも異様である。そこかしこで「殺れ! 殺ってしまえ!」と唾混じりのやじが飛び交って耳が痛い。
 気になり、ちらりと横目で窓から見た戦況は、とてもじゃないが芳しいものではなかった。
 戦場の契約者達は強敵の出現に劣勢を強いられている。
 囲まれ、他に注意を向けられない程追い詰められている。
 戦える者達が身動きできない内にとサポート組に向かって屈強な男達の魔手が伸びた。
「逃げろッ」
「クロフォードさん!」
 飛びつくように窓の縁を掴んだ破名と気配を察知した真の叫びが重なった。
 警戒を怠った破名の左肩に投げ放たれた槍が突き刺さる。