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祭壇に現れし魔獣 ~ガルディア・アフター~

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祭壇に現れし魔獣 ~ガルディア・アフター~

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過去と贖罪

〜宿・ガルディアの部屋〜

 夜の闇に覆われ、暗くなった村の宿の一室。
 そこに黒い髪の青年――ガルディアがベッドに腰かけている。
 彼は目を閉じ、深呼吸をすると側らにあった刀に手を伸ばしてそれを掴んだ。
 柄をしっかりと握り一気に引き抜こうとするが……手が震え、刀を抜くことはできなかった。
 無言のまま……彼は八つ当たりでもするかのように刀を放り投げる。
「物に当たるのはよくないな、ガルディア」
「…………っ」
 ガルディアは放っておいて欲しいという表情を浮かべ、声を掛けた男性神崎 荒神(かんざき・こうじん)を無視する。
 その様子を見て軽く溜め息をつくと荒神はガルディアの隣に腰掛けた。ベッドが軋み、振動をガルディアに伝えるが荒神の方を彼は見向きもしなかった。
 しばしの沈黙が部屋を支配する。
 どちらが声かけるわけでもなく、ただ時間が進んでいった。
 不意に荒神が口を開く。それは誰かに向けられたものでなく、物語の語り部の様に彼はある旅人の歴史を語る。
「ある所に、それはもう若くて、無鉄砲で……自信家な旅人がいた。旅人は旅の途中で、ある研究所に囚われた不当に扱われる少年少女達の話を聞いたんだ。彼は当然無視する事なんてできなかった。俺が助けないと……ってな」
 何も言わないガルディアの横で、荒神は天井を仰ぐように見る。遠い昔を見るような目で。
「勇んで乗り込んだ結果、彼は簡単に囚われの身となった。そして、助けるはずだった……少年少女達を目の前で一人、また一人と殺された。彼に見せつけ、お前のせいでこうなったのだと言い聞かせるかの様に。無残に殺されたその亡骸の前で、彼もまた辛い拷問を受けた。とても彼は後悔したよ、自分が軽率な行動さえ取らなければ、あの子達はまだ生きていられたんじゃないか……ってな」
 ガルディアに見える様に彼が服の一部をめくりあげると、そこには古い傷跡がいくつもあった。
「今の技術なら、傷跡なんて簡単に消せる。だが、俺はそうしない。何故だかわかるか?」
「……いや」
「あの子達の事を、自分の犯してしまった罪を――忘れない為の戒めだからさ。俺が俺であることの証であるようにも思えるな」
「証……」
 荒神はガルディアの肩を軽くぽんっと叩くと、立ち上がってドアの方に歩き出す。
「過去は、ただ過去でしかない。起きてしまった事はどう足掻いても、悔やんでも……変えようがない」
 ガルディアはただ無言で荒神に目を合わせず、床板を見詰めている。
「お前はこのまま、過去に引きずられて沈むか? それとも過去を受け入れ成長するか? 選ぶのはお前自身だ」
 そう言うと、荒神は部屋を後にする。木製の扉が音を立てずに静かに閉まった。
 残されたガルディアは再び刀を握る。その眼には強い意志の光が宿っていた。
「俺は……っ!!」

〜村・集会所に至る道〜

 凱 鼬瓏(がい・ゆうろん)は村の重役達が集まる集会所へと向かっていた。
 村に昔から生贄の習慣があり、血筋の巫女もそれを了承しているならば本来口を出す問題でもない。それはこの村の一種の秩序であり法なのだから。
 巫女一人の命で村が救われるのならば……無駄死にではない。尊い犠牲とも取れる。
 しかし、救援要請があったのなら村の中でも意見が割れているという事。なら救援要請を無視することはできない、彼はそう考えながら集会所へと急ぐ。

 集会所の扉を開け中に入ると、座っていた重役達が何事かと凱の方を一斉に見た。
 さして動揺した様子も見せず、淡々と彼は話しを始めた。
「今、魔獣の討伐に様々な者が向かっている事は皆様も承知の事と思います」
 一番奥に座る重役の前に酒のつまみの入った小袋を置き、彼はその場に座った。
「本来であれば、村の秩序を乱すとして早急に手を出すなと言いたい所と思いますが、今一度待っては貰えないでしょうか?」
 ひげを生やした初老の男性が小袋の底にある光る物を手で確かめる。顔を上げ、凱を見た。
 男性が何か言う前に凱が言葉を発した。
「どうせ、失敗しても死ぬのは彼らだけです。皆様には何の害も御座いません」
 重役達は沈黙によって肯定の意を示し、凱は深く頭を下げた。

長という事

〜村・村長の自宅〜

 二人の人物が村の広場に座り、会話している。
 赤髪のポニーテールの少女――レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が腕を組み、文句を言いながら足をばたつかせていた。
「まったく……誰に聞いても同じことしか言わないのっておかしいよっ」
 隣を歩く顔の整った黒い長髪の人物――カムイ・マギ(かむい・まぎ)は村長の家の方を眺めていた。
「レキ、きっと口止めの様な物を皆さんされているのでしょう。話したくても話せないのですよ」
 そう言いながらカムイは先程話を聞いた老人の苦い顔を思いだしていた。
 もっとも、レキはそれに気づかなかったようだが。
(あの様子では……何か隠しているのは確かですね。村人が言えないとなると怪しいのは……)
「でもさー。こっそり言うぐらい、いいと思うんだけどな」
「それは無理な話ですよ、村人にはここでの生活があります。それを少しでも危うくする様な事はなかなかできるものではないでしょう。村人全員に口止めができるような人物は……恐らく彼しかいないかと」
 レキがカムイの方を向き、その答えを口にする。
「村長さん、って事?」
「はい。彼の家に何かあるかもしれません、今は当然、留守のようですからちょっとお邪魔させてもらいましょうか」

 それから数分後、レキとカムイが村長の家を捜索すると簡単に地下への入り口が見つかった。
 扉には鍵が掛かっていたが簡素な鍵の為、カムイのピッキングで容易く扉は開く。
 中に侵入した二人は書棚に納められた一冊の本に注目していた。
「これって……歌、だよね?」
「そうですね……巫女がよく歌っていたという歌でしょうか」
「祭壇に向かった人達に教えてあげないと!」
 レキは素早く銃型HCを操作すると、他の契約者達に情報を送信した。
「これで魔獣を倒す手助けができればいいんだけど……」
 他にも情報がないか二人は他の資料にも目を通し始めるのであった。

立ちはだかる凶刃

〜祭壇付近〜

 祭壇より少し離れた高低差のある丘に囲まれた場所に一人の女性がいる。
 後続の契約者達への伝言を済ませ、相棒に合流しようとしたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)であったが、高所からの襲撃を受け進むに進めない状況であった。
 初弾は反応が遅れたものの比較的軽傷ですんだ。
 その後からの攻撃は反応し身を隠す、もしくは移動することで回避に努めていたが、その攻撃には違和感があった。
 この場を抜けようと祭壇に向かう進路を取ろうとすれば攻撃は激しくなり、この場に留まるか後退しようとすれば攻撃の手は収まっていく。
(どういう事……祭壇に近づいてもらっては困るという事なの?)

 セレアナよりも高所の丘に身を伏せ、スナイパーライフルのスコープを覗いているイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)
 足場がいいとはいえない場所ではあったが、固定具付き脚部装甲のおかげで正確な射撃が可能であった。
(コノママ貴女様ニハコノ場所ニイテモライマス……先ヘハ行カセマセン)
 スナイパーライフルの銃口がセレアナの方に向けられる。
 乾いた銃声が響き、セレアナの近くにある石が粉々に弾け飛んだ。
「……っ!」
 身を隠しながら攻撃された方向を注意深く探るセレアナ。
(動くなって事ね……かといって、このままじっとしてるわけにはいかないわ)
 銃口から白い煙を微かに立ち昇らせているスナイパーライフルに次弾を装填するイブ。
(マダ時間ヲ稼ガセテモライマス……)

〜祭壇入口〜

 古びた石柱の立ち並ぶ、屋根のない祭壇が荒野にぽつんとある。
 砂をかぶり、所々がひび割れ、神聖な雰囲気は微塵も無い。
 祭壇というよりは遺跡のように見えてしまう。そんな場所。
 その前に風でロングコートをはためかせる女性が一人。ロングコートの中はビキニ一枚という目のやり場に困る格好をしている。
 彼女はセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。祭壇に向かうメンバーの中で一番早く動けた彼女は、危険がないか様子を見る為に祭壇に先行したのであった。
「これのどこが祭壇よ……。お宝のありそうな遺跡にしか見えないわ。もしくは、ベタなRPGの舞台かしらね……ま、嫌いじゃないけど」
 彼女は双銃【シュヴァルツ】【ヴァイス】を祭壇の入り口に向け発砲。銃声が荒野に響き、入り口付近の床に穴を開けた。
 暗闇から何かが飛び出し、彼女に襲いかかる。小さな影辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は暗記を空中からセレンに向かって投げ付けた。
「見切られておったとは。わらわもまだまだじゃの」
 空中から飛来する暗記を器用に撃ち落とし、なおも発砲。銃弾は刹那の服を掠め、後ろへと抜ける。
 遠距離戦が不利と判断した刹那はブーストソードを構えると、疾風突きをセレンの脇腹目掛け放った。
 行動を予測していたセレンは辛うじてそれを回避。直後の回し蹴りを引き付けて防御し少し後ろへと跳ぶ。
「なかなかに面倒な戦い方してくれるわね……ならっ」
 彼女は手に持った融合機晶石【フリージングブルー】を胸に当て、それを体内に取り込む。彼女の周りに冷気の渦が発生し、冷たい風が周囲に吹き荒れた。
 冷気を纏った彼女は再び刹那に向けて発砲――する前にバク転で上方からの攻撃を回避。即座に上方に狙いを変え、連続で発砲。
 上方から攻撃を仕掛けた女王・蜂(くいーん・びー)は直撃こそなかったものの、冷気を纏った弾丸による凍傷を受け地面へと降下する。戦闘を継続する事はできそうになかった。
「主を守るは……我が使命でございます。このような傷……」
 再び動こうとする蜂を制止し、刹那はセレンとの戦いに戻った。
(わたくしは……主の役に立てていない。何か支援だけでもできないでしょうか)
 蜂は身を動かそうとするものの、凍傷で傷ついた身体は上手く動かず、地面の上でもがくのみしかできなかった。
 セレンはゴッドスピードで自身の速度を加速させ、通常では予測不可能な場所から刹那を狙い撃った。
 銃弾をすれすれで躱し辛うじて直撃は避けているものの、冷気によるダメージを考慮すると明らかに刹那の方が旗色が悪い。
「誰に頼まれたか知らないけど、生贄なんてものをあんたは許せるのっ!」
「無意味な質問じゃな。そのような事、思慮する必要性もない」
 刹那は空中で遠くにこちらに向かってくる契約者の一団を発見する。その数は多い。
(この状況で抑えられる数ではないようじゃな。頃合いか……)
 毒虫の群れを放ち、セレンがそれを躱した一瞬の隙をついて、蜂と共に刹那はその身を眩ませた。
「あーもうっ、逃げ足の速い! はぁ――――まあ、いいわ。危険は排除できたみたいだし」
 祭壇の石段に腰掛け、彼女は他の契約者の到着を待った。