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祭の準備とニルミナスの休日

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祭の準備とニルミナスの休日

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ニルミナス

「こういう機会を作っていただきありがとうございます。前村長」
 ウエルカムホーム。そこにある機密性の高い部屋。そこに前村長と机をはさみ対峙する形で座る非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は頭を下げる。
「礼を言う必要はありませんよ。私も必要だと思ったからこうしてこの席についているのです。ただ、答えられない質問は答えられませんよ」
「それで十分です。……それじゃボクたち一人ずつ順番に質問させていただきます」
 近遠の言葉に前村長が頷き、問答が始まる。

「粛清の魔女が使うあの契約者に関わるもの以外を消す力は、滅びの魔女の返済の力の応用なのですか?」
 近遠の質問。
「粛正の魔女、つまり滅びの魔女の力ですが、あれは端的に説明するなら有を無へと傾ける力です。その方向性であればあらゆることを可能とします……技術があればという制限がつきますが。物質等何かを消すというのは滅びの魔女のもっとも得意とすることですよ」

「そんな力なら、あれを有効利用すればいろいろな便利じゃないですか? 例えば重力や抵抗を消した様に、障害物と慣性も消せば、理論上、光速での三次元な動きも可能な筈……速度限界も消せるなら、その上さえも」
「速度限界はおそらく消せないでしょう。あれは理を超える力ではないのです。前者に関してはイエスです。あくまで理論上の話ですが」

「村長とミナとかいう魔女が、何となく似ていましたわ。というより顔だけは瓜二つでしたの。何か理由あるんですの?」
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の質問。
「ミナホとあの魔女は姪と叔母の関係ですよ。ミナホの母であるミナスがミナと双子でしたから似ているのはその辺りの事情でしょう」

「正直、でたらめすぎる力ですけれど、魔女の力の源はなんですの? 突然変異的に現れて、反作用としてもう一方が生まれたりしたんですの? それとも恵の儀式とかいうシステムと一緒に考案されて、そうなってしまったんですの?」
「その辺りは私にも分かっていません。ただ言えるのはミナスやミナの前にも繁栄の魔女と滅びの魔女、正確には衰退の魔女と呼ばれる存在はいたようです。私は魔女の力が契約者には効かないことにその辺りを解く鍵があると思っていますが……」

「じゃあ、繁栄の力は何処から借りているんですの? 衰退の力はどこへ返されているんですの?」
「それも分かりません。ただ、儀式の対象となる村や街の規模に借りられる繁栄の力、正確には借りても破産しない力の量は影響されますからその辺りにヒントが有るのかもしれません」

「アルディリスに残っている遺跡病は、衰退の力による呪いなのであるか?」
 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)の質問。
「そうですね。『破産』してしまえばああなります。ただ、勘違いしてもらって困るのはあれは魔女の意志とは無関係に行われます。遺跡病は衰退の力による結果ですが、そこに魔女の意志は介在していません」

「もし、ニルミナスが繁栄の力を借りすぎてしまった時、それを止める方法はないのであるか?」
「1つだけあります。それが何かというのは答えられませんが。原理を言うなら、その方法は衰退の力を破産しない程度に返すということです。それは恵みの儀式の中に組み込まれているシステムの一つです」


「衰退の力は契約者の力が関わる物や命を対象に出来るのであるか?」
「端的に言うならできますよ。通常の1000分の1程度の効果しかでませんから、魔女が自らの意思で契約者にその力を振るうことはないでしょうが」


「滅びの魔女の災禍は、借り受けた繁栄の力の返済であり、繁栄の魔女の立会いの下でしか、行われない事になっているとの事でございますがアルディリスの滅亡で、返済は完了しているのでございますか?」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)の質問。
「返済はされていませんよ。だから『破産』しました。あの遺跡都市に残っていた衰退の力はすべて遺跡病としてあの都市を殺し続けています。ですので儀式として返すべき衰退の力はあの都市には残っていません」

「滅びの魔女がミナさんというのは分かるのでございます。ですが、今その対となる繁栄の魔女はいないのでございますか?」
「今の繁栄の魔女はミナホですよ。母であるミナスが死んだ時に引き継ぎました」

「そもそも衰退の力の返済というのはどういった形で行われるのですか?」
「あなたたちも見たでしょう。あの滅びの魔女が力を使うことそれ自体が返済です」
「? 衰退の力は借りた繁栄の力の分しかつかえないのではないのでございますか? アルディリスの返済が残っていないのであれば、粛正の魔女はどこから力を……」
「さて……それは既に説明するまでもありませんね。湯るりなす開業の経緯を思い出せば分かるのではないでしょうか」

「もう一度質問いいですか? かつてアルディリスで、ミナスとミナはどんな待遇はを受けていたんですか? ミナスを連れ出した契約者は誰か分かりますか?」
 近遠。
「ミナスは都市の象徴として存在していました。力を振るう時以外は自由もなく何も知らない街人たちに崇められる毎日。ミナは……ずっと地下に閉じ込められ……いえ、これ以上は彼女自身に聞いてください。ミナスを連れだした契約者ですが、私はよく知りません。ただ、善意から連れだしたのは確かのようです」

「微妙に効きにくいことですが……ミナホさんの歳は? 魔女であるならいくらでも誤魔化しが効くと思いますが……」
「私の娘ですから流石に私より年上にはなりませんよ。その上で言うと私はまだ三十代です」
 そう言う前村長だが、その姿は初老の男性にしか見えない。
「……私に起きたパートナー死亡のペナルティの一つですよ……ミナスは私のパートナーでしたから」
 寂しそうな様子で言う前村長。
「そういうわけでミナホが言っている歳に嘘はないですよ」

「最後です。……アルディリスが滅んでから今までミナは何を思って生きてきたんでしょうか」
「一つ言うならミナはずっとアルディリスの奥底で長い時を眠っていたそうです。その胸のうちで何を思っていたのか……それは彼女に直接聞くしか無いでしょうね」


「……前村長、ありがとうございました」
 全ての問答を終え近遠はまた頭を下げる。
「いえ、役に立てたなら幸いですが……その情報をもとにあなたたちがどう動くか楽しみにしておりますよ」
 はっはっはとどこか寂しげに笑う前村長を背に近遠たちは部屋を去るのだった。





(和輝が知っている情報と私とアニスが知った情報。二つをまとめれば細部ははっきりしませんが概要は見えてきましたね)
 この村で起こっている事象を整理しながらスフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)はそう思う。
(しかし、この村を流れる機晶エネルギーはどこからきているのでしょうか。遺跡都市から流れてきているのは確かですが……)
 それ自体におかしいところは何もない。おかしいのはそのたどった先にはあるはずのものがないという点だ。
(機晶石の反応がないのに機晶エネルギーだけが流れてくる。それも小さいとはいえ村一つのエネルギーを賄う量の)
 どう考えても普通ではない。
「……和輝に要相談ですね」
 そう言って情報の整理と解析を続けるスフィアだった。


「お疲れ様です前村長。随分と興味深い話をしていましたね」
 佐野 和輝(さの・かずき)は近遠たちが去った後の部屋に入ってきてそう言う。
「……聞いていたのですが?」
「いえ、特に聞いてはいません。ここのセキュリティは悪く無いですよ。ただ、どういう話をしたかは想像がつきます。それがおそらく魔女のもとで手に入れた情報を超えていないということも」
「……まぁ、そうでしょうね。…………ところで、その後ろに付いているアニスさんはなんですか?」
 和輝の後ろには抱きつくようにアニス・パラス(あにす・ぱらす)の姿がある。
「ただのご機嫌取りなので気にしないでください」
「……そうですか。それで、私に何のようですか?」

「魔女ですが、少し予想より幼い感じを受けましたね」
「まぁ、そうかもしれませんね。あれは壊れていてそれでいて純粋です。表現の仕方として幼いというのはかなり近い。
「おかげで行動を予測するのはかなり大変そうです」
 何をするか予想できない。そういう輩だ。
「それとここからが本題ですが……俺が向こうで『お遊戯』のお守りをしていた時森で話されたことアニスたちから聞きましたよ。俺の情報と合わせるとあなたはまだ話していないことがあるでしょう?」
「ふむ……大体のことは話したと思いますが……何かあなたが気になることがありますか?」
「ありますよ。……たとえば、あなたがどこのだれなのかとか。大魔女ミナスと結婚して子供を生む。そんな普通の男がいるんでしょうか」
「………………」
「ここで黙るということは偶然会った言う訳じゃないみたいですね」
「……そんな嘘だけはつけませんから」
「基本的に、私は中立ですよ。だから強引に詮索はしません」
 でもと和輝。
「こちらも命を対価としているので、調べていく過程で『余計な事』も知りえてしまうのは、覚悟してください」
 

 たとえば俺みたいな人間には絶対知られたくない情報とかを



「……確かにあのことだけはあなたには伝えたくありませんよ。そういう意味で私はあなたを信頼していますから」
 いなくなった和輝の背に声をかけるように前村長は続ける。
「本当に必要であればどんな非情な手段も取れる……そういう人だと」
 願わくば、和輝のもとにあの情報がいかないことを。願わくば自分の見立てが外れていることを。前村長はそう願うのだった。



「うーん……結局『あなた』は誰なの?」
 和輝の背中にくっつきながらアニスはそう問いかける。問いかけた相手は和輝ではない。それどころが姿あるものじゃない。
「え? ただの土地神? んー……でもそれにしては他の『皆』よりずっとこっちに近いような……」
 それにとアニス。
「『リリィ』って村長のことだよね? 村長と何か関係あったりしないの?」
 以前『皆』に聞いた言葉をアニスは聞く。
「……え? リリィってのは名前じゃなくて愛称?……って、あれ?」
「? どうかしたのかアニス」
「……いなくなっちゃった」
 自分の中から話していた相手がいなくなったことを感じるアニス。
「よっぽど話したくないのか話せない理由があるのか。アニスが『皆』にフラれるのは珍しいな」
「うーん……今はまだその時じゃないってことかな―……残念」
 ため息を付きながら更に強く和輝に抱きつくアニスだった。