天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

祭の準備とニルミナスの休日

リアクション公開中!

祭の準備とニルミナスの休日

リアクション


エピローグ

「『分からない』や『気になる』は小首を傾げる
 『了解』『理解』『肯定』はうなずく
 『拒否』『否定』は首を横に振る
 普段私達が何気なくしている身振りだけれど、これも定義すれば立派なジェスチャーになるわよね」
 喫茶ネコミナス。そこで軽めの夕食を摂っているミナホはマスターである奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)にジェスチャーのことについて夕食を食べながら相談していた。隣ではホナミも一緒に食事を摂っている。
「ありがとうございます沙夢さん。とても参考になります」
「……正直、簡単なモノしか浮かばなくて謝りたいくらいなんだけど」
「いえ、そんなことありませんよ。簡単で基本的な事こそ疎かにしてはいけないんです」
「そう? なら、遠慮なくお礼を受け取っておきましょうか」
 優しい笑顔でそう言う沙夢。
「弥狐さんは何か意見ありませんか?」
 沙夢に続き、ミナホはネコミナスの看板娘である雲入 弥狐(くもいり・みこ)に意見を求める。
「基本的には沙夢と一緒かなぁ……普段やってる身振り手振りも使えるよね。物の大きさとか、結構簡単なことだけど」
「そうですね。ジェスチャーを定義するうえで、普段やっている身振りを利用するのは悪く無い手です。あくまで異文化交流のコミュニケーションツールですから」
「……でも、そう考えるとあたしたちのやってる身振り手振りだけをジェスチャーに採用するのってなんだか……」
「……弥狐さんは優しいですね。ゴブリンやコボルト達にも一応ジェスチャー案を出してもらっています。最終的にできるものは私達の身振りや彼らの身振り、そして全く新しく考えられたジェスチャー。そうしてできると思いますよ」
「ほっ……なら良かった」
 息をつく弥狐。
「……やっぱりお二人が適任ですよね」
「? 村長? どうかしたのかしら?」
 いきなり考えこむような様子になるミナホに沙夢は声をかける。
「お二人にお願いがあります。もしも、私の身に何かあった時はホナミちゃんのことをお願いできないでしょうか?」
「それは……どういう意味なの?」
「そのままの意味です。もしも私がホナミちゃんのことを守れなくなった時、代わりに守って頂けないでしょうか?」
 そう言ってミナホは頭を下げる。隣で夕食を食べているホナミはどこか不安そうな顔でミナホを見つめていた。
「とりあえず顔を上げて村長。……悪いけど今ここで返事をするのはできないわ。でも、ちゃんと考えるから。……それでいいかしら?」
「……はい。すみません、いきなりこんな」
「村長、謝るのはいいから早く夕食食べてよ。出来たてが美味しいんだから」
 そう弥狐に進められるままミナホはホナミと一緒に夕食を摂り終えるのだった。



 夜。深夜に近い時間帯。ミナホの部屋では三人の女性が頭を合わせてジェスチャーを考える作業を行っていた。
 一人は当然部屋の主であるミナホ。
 一人は真面目で礼儀正しい苦労性のクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)
 そして最後の一人がレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)だ。
「お、おふたりとも今日はこの辺りで終わりになさいませんか? 明日も忙しいですし、無理は禁物ですよ」
 クレアの提案。それはこの場の空気が重く感じたからだ。ジェスチャーを考える作業。それを自分が前向きに取り組めば、雰囲気がいい方向に変わるんじゃないかと思っていた。けれど、今のこの雰囲気は違う。前向きというよりは前のめりだ。どこか引き下がれないような雰囲気にも感じる。
「そうですね。クレアさんの言うとおりです。レオーナさん今日のところはお開きにしましょう」
 ミナホはいつも通りだ。少なくとも表面上おかしな所は見受けられない。つまるところこの変な空気の原因は――。
「ねぇ、ミナホちゃん。変なことを聞いてもいいかな?」
 ――いつも変わらぬはずの暴走ユリが逆走していることだった。

「なんですかレオーナさん」
 いつもと違う様子のレオーナにミナホは特に変わらぬ様子で受け答えをする。
「村と森と自分と……ミナホちゃんは何を一番優先する?」
「村ですね。次に森です。自分は最後ですよ」
 端的に答えるミナホ。レオーナは想像していた通りの答えに一つ息をつく。ここまでは準備運動みたいなものだ。
「もし、それに自分の命がかかってたとしても?」
「そうですね……程度によりますよ」
「程度って?」
「もしも、私が死んだら村の借金がなくなると言われても私は死のうと思いません。私が死ねば村のおじいさんが助かると言われても多分私は、断るでしょう」
 けれどとミナホ。
「もしも森のゴブリンやコボルト達、そしてこの村に住む人達。その全ての命がかかっているなら私は――」
「――もう、いいよ。ミナホちゃん。ありがとう。変な質問に答えてくれて」
 その先は聞かなくても分かる。
「いえ、村長として何を優先すべきか再認識出来ました。ありがとうございますレオーナさん」
 そう言うミナホは気負いのない笑顔を浮かべている。


(……どうしたら良いのかな。正直、まだわからないよ)


 また一日が過ぎる。多くの人の思いが集まる祭の日は近かった。


担当マスターより

▼担当マスター

河上 誤停

▼マスターコメント

遅れてしまいましたがリアクション『祭りの準備とニルミナスの休日』をお送りさせていただきます。いかがでしたでしょうか。
今回で祭の準備は終了です。次回はついにミュージック・フェスティバル本番になります。ガイドにあった通り、今回準備が完了したと思われる祭の企画は次回のガイドで紹介させていただこうと思います。

祭りの準備の影でいろいろと動いていますが、一先ず祭です。この一年の集大成(その1)とも言えるシナリオになると思います。
今回のご参加ありがとうございました。